五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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シスターズウォー 四回戦

 修学旅行、一日目。

 私はフー子に告白した。

 彼女は告白に答えなかった。肯定も否定も口にせず、返答を先延ばしにしてその場から逃げるように立ち去った。彼女は私を避けているのは明らかだった。

 けれどその逃避は、何だか私を見て湧き上がった感情ではないように思えた。何というか──自分自身、表現が難しいのだが──私越しに、私ではない何かを見ているような。

 

(フー子は私を避けているのではなく、恋愛そのものから逃げている?)

 

 だとすれば納得だ。

 納得はするが、それで済ませる訳にはいかない。これは私の恋愛だから、私とフー子が幸せにならなければ意味がない。

 フー子は私の側で笑っていて欲しい。

 

 修学旅行、二日目。

 目を合わせてくれない。気まずい。

 物凄く避けられている気がする。辛い。

 ………なんでこんなことに。フー子が恋愛に拒否反応を持っているとは知っていたけれど、ここまでとは!

 正直言って、流石に辛い!

 一人でこの鬱屈した感情を抱えているままでいるのも何なので、誰かに話を聞いてもらうことにした。………腹を割って話せる姉妹といえば。

 

「という訳なんだよね、二乃」

「………、まあそれはいいけれど、なんで私に相談してくるのかしら」

「二乃、フー子にもう告白を済ませたんでしょう?だったら私のこの気持ちを分かってくれるはずだって思って」

「はぁ?私達って一応、ライバルでしょ」

「確かにそうだけど、でも、その前に私達は姉妹でしょ?フー子が私達の誰を選んだとしても、いや、選ばなかったとしても、私達はそれでも仲良し五姉妹のままでいたいし……」

「…………はぁ」

 

 溜息をつかれた。

 そんなにおかしなことを言ったろうか?

 

「おかしいわよ、ったく。……ていうか、修学旅行中に答えを貰えるのならまだ良い方じゃないの。私も期限付けるべきだったかしら」

「でも、必ずしも私の望む答えとは限らないよ?……一花も、二乃も、私なんかより断然魅力的だし」

「それはどうも……ま、まあ私が可愛いなんて分かりきったことだけど!…それでも私はあんたのことをライバルだと思ってるわよ」

「え?……」

 

「だって、五つ子よ?あんたも────」

 

 

 

 

 

 三日目。

 

 

 

 

 目が覚めると、フー子はすでに今日の支度を済ませているようだった。

 フー子と目が合う。彼女は半ば緊張した面持ちで何かを言おうとした。

 

「………ええっと、その、三玖」

「フー子、行こう?」

「あ、………うん」

 

 フー子の手を引っ張って、ホテルの外のバスへと乗り込む。行き先は、フー子とジャンケンして決めた映画村だ。

 役者さんのお芝居を見終わると、お昼過ぎまで見て回れるらしい。……どこへ行こう。そう、これはデートなのだから、フー子を楽しませられるような所でないと!

 

「戦国武将の着付け体験いかがですかー」

「!フー子、あれ行こうっ」

「え、えぇ?コスプレ?ちょっと恥ずかしいな」

「郷に入っては郷に従え、だよ」

「ん、ん〜…それもそっか」

 

 手慣れた店員さんの手腕により、私達は瞬く間に着物姿に着替えさせられた。

 フー子は少し照れ臭そうに店から出る。

 照れ臭いのは私も同様で、ちょっと顔を紅くしながらおずおずと出た。……この靴歩きにくいな。

 

「変………じゃ、ない?」

「っ………、まあ、似合ってる、と思う」

「!そっか。……フー子のそれもすごく似合ってるよ」

「あ、ありがと」

 

 なんか店員さんがすごくノリノリで、あれよあれよと言う間にすごいの着付けさせられたけど、あれは何だったんだろう。

 ………、な、なんか、むず痒い。

 微妙な空気に耐えられなくなったのか、フー子は「そういえば」と口火を切った。

 

「い、五月に教えてもらったんだけど、和服を美しく着こなすコツって姿勢にあるんだってね」

「!…………」

「顎を引いて、背筋をピンとする……だったかな?それを意識すれば、とても見栄えがするって……」

「待って」

「えっ」

「今は、他の女の子の名前出さないで」

「………ご、ごめん」

 

 ああ、我儘言っちゃった。

 でもごめんね、今日は、今日だけは。私だけ見ていて欲しいの。

 映画村の古風な街並みを巡る。お土産屋を回ったり、写真を撮ったり。

 フー子が隣にいるだけで、最初の緊張が喜悦へと変わっていく。ふとしたことで笑って、喋って。

 不安なんてどこかに行って、私達は二人で笑い合っていた。

京都の池の中から出たり引っ込んだりする蛇(私もよく知らない)を見て、興奮しながらフー子の肩を叩いた。

 

「フー子、写真撮って!引っ込んじゃう!」

「はいはい。カメラは……わっ!?」

「きゃっ!?」

 

 何かに押されたように、フー子はバランスを崩して私の方へと倒れ込む。そして私がフー子を支え切れる筈もなく、二人仲良く池の中に落ちた。……浅くてよかった。

 

「……ぷっ」

「あははっ!」

 

 びしょ濡れだ。二人して。

 一人でウジウジ悩んでいたのが、なんか馬鹿みたいだ。

 とはいえ、借り物の着物だから返しに行かなくちゃ。……着物って濡れたらまずいんじゃないのかな。お金とか請求されるんじゃ……。ま、まあ、濡れちゃったものは仕方ないよね!

 

「せっかく着替えたのに!」

「ごめんってー。おかしいなぁ、私も押された気がするんだけど。……じゃあ先に着替えちゃおうか」

「うん……………って」

 

 いつの間にか普通に話せてる。

 色々あったのに不思議だ。フー子といると細かいことなんて忘れてしまいそう。

 例えば、そう。

 下着まで水に濡れちゃってることとか。

 

(どうしよう……本当にどうしよう!あ、タイツがあるしこれなら……って、無理!係の人〜〜!)

 

 私の天の祈りが通じたのか、すっ、とカーテンの隙間から紙袋が差し出される。

 これ、下着屋さんの紙袋だ……。

 『お困りでしたらお使いください』

 誰だろう?係の人かな?ありがたく使わせてもら………おっ……

 ………これはまた随分と……。

 随分と攻めた下着ですこと……。

 

 

 

 

 

 

「……………」

「……………」

「ど、どうしたの三玖」

「ふ、フー子こそ……」

 

 ……ま、まずい。

 座ろう。座らなければ!

 

「ふう……こうして振り返ってみると、目まぐるしくて、あっという間の三日間だったね」

「そうだね」

「フー子と回れたのは、二日だけだったけれど。でも、いいんだ。最後にフー子と過ごせたってだけで」

「三玖………………、何それ?」

「えっ」

 

 私の作ったパン!

 何でこんなところに……!?中身もちゃんと入ってるし!新幹線に置き忘れたんじゃなかったっけ……!?

 

「お腹空いたし、一個貰うね」

「あ!そ、それは、もう……」

 

 私の制止なんて聞いてないって勢いで、口の中に全て放り込んだ。内心ドキドキしながら、フー子の様子を伺う。

 飲み込むと、彼女はひとこと、美味しいと言ってくれた。

 

「って、私味音痴らしくてね。正直あんま自信はないんだ。もしかしたらこのパンは美味しくないのかもしれない。だから、大した感想も言えないのだけど、

 ……三玖の努力、それだけは味わえた。

 頑張ったね、三玖」

 

 ……うんっ。

 そう、だよ。

 私はそれを言って欲しかった。

 

「私、頑張ったんだよ」

「……ふふ。お母さんが昔、焼いてくれたんだよね。六歳の頃、死ぬまでパンを毎日。なんか今、それを思い出した」

「!フー子のお母さん……?」

「小さな個人喫茶でも出す、人気手作りパンでね。私もお父さんも大好きで……それであの時に、私は……あんなことを……

 ああ、いや、何でもない。ごめんね、私の話なんかどうでもいいか」

「ううん、もっと教えてほしい!」

 

 こんなに一緒にいるのに、そんなこと全然知らなかった。

 ずっと自分のことばかりで、知ろうともしなかった。

 もっと知りたい、フー子のこと全部!

 そして……、

 

「私のことも、全部知って欲しい」

 

 言うと、私は席から立って目の前の建物を指差した。

 

「あれ!お奉行所として時代劇にも使われてる名スポット。今日はあそこを見られただけで満足!Dコースほどじゃないけど、ここにも私の好きなものがたくさんある」

「三玖はそうだろうね。知ってる」

 

 他にも、まだまだ、沢山。

 

「さっき渡った大きな橋も好き」

「またドラマ?」

「うん、それとね」

 

 私の好きなものは沢山ある。

 

「あれも、あれも。……これも好き」

 

 だけど、私が一番好きなものは。

 こんなにも近くにあるんだ。

 私はフー子を指差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き」

 

「……うん。知ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 誰からの情報だったろうか。

 フー子ちゃんと三玖の選んだコースが、Dコース……映画村だと分かった。

 分かったところで、だ。

 それが分かったところで、私は、そこへ行って何をするのだろう。

 

『もう私の前で嘘つかないでよ!!』

 

 フー子ちゃんがあんにも、あんなにも傷ついた顔で怒ったのは初めてだった。

 意地を張ってるのとは違う、他に感情のぶつけ方を知らないような……いわば虚勢だ。思うに、私に裏切られたのが、悲しかったのだと思う。

 ともすれば、あの顔をしていたのは三玖の方だったかもしれない。

 私は二人を裏切っている。

 ……その埋め合わせは、しなくては。

 

「なに?そんな理由でDコースに行きたいっていうの?悪いけど、あんたの事情なんて知らないから。私は私の好きなように行動させてもらうわよ」

「……、うん、分かったよ、二乃」

 

 二乃はそうだよね……。

 

「四葉と五月ちゃんはどうする?」

「………。私もDコースに行きたい」

「で、では私も!」

 

 なんだかやけに真剣な顔をした四葉に疑問符を抱きつつ、私達は、バスに乗り込んで映画村へと向かった。

 二人は仲良く行動しているみたい。

 これは、私達が出る幕はなかったかな。

 

「フー子、写真撮って!引っ込んじゃう!」

「はいはい。カメラは……わっ!?」

「きゃっ!?」

 

「えっ、何が起きたのですか?」

「三玖と上杉ちゃんが池に落ちたみたい…あんなに濡れて、昨日の私達みたいだ。下着どうするんだろ」

「!!」

「こ、このままじゃ二人がノーパンデートになっちゃう!」

「ここって売ってるんでしょうか?」

「ふんどし……!?」

「こ、このままじゃ二人がふんどしデートになっちゃう!」

 

 やばい。三玖を応援するって決めたばっかりなのに、よりにもよってこんな……!

 

「あ、あの、変な話ですが、私、何かあるといけないと思って、下着を一セット持ってきています」

「本当に変な話だ!」

「なぜ……」

 

 取り敢えず手はそれしかないので、五月ちゃんに下着の袋を三玖とフー子ちゃんが着替えてるカーテンの前に置いておく。

 なんか変な声がしたけど、あれは何だったんだろう。

 二人が良い感じに和風のベンチに座ったので、立ち入り禁止の札を置いておく。これであの二人を邪魔する人は誰もいなくなる筈だ。

 

「あれ、二乃?何でここに?」

「…………。風子と三玖にちょっかい出してやろうと思ったんだけど、そんな気分でもなくなったわ。あの二人の結末を見届けてからでも遅くないかなって」

 

 そうか……。

 二乃はフー子ちゃんに告白したから、今の三玖の気持ちが痛いほど分かるんだ。

 だから三玖が自分にダブって見えて、フー子ちゃんに手を出せずにいたんだ。この修学旅行で、二乃はフー子ちゃんに全然アタックできていなかったのはそういうわけなんだ。

 

「まあ、待ってたらそのうち向こうから言ってくるわよ。私と付き合ってくださいってね」

(すごい自信だ……)

「……あ!三玖のパン拾ったのにホテルに忘れてきちゃった!このタイミングでパンがあったら最高に良い話になるのに!」

「大丈夫だよ、私が持ってきてるから」

 

 二人に気付かれないよう、気配を殺して三玖の隣に紙袋を置く。何時ぞやの死体の演技がこんな所で役に立つなんてね。

 

(三玖を騙そうとして、フー子ちゃんにあんな思いをさせて。こんなことで償いになるとは思わないけど、せめて、せめてこのくらいの手助けは許してほしい──)

「私のことも全部知ってほしい」

「!………」

 

 この、流れは。

 三玖はもう、心を決めたんだ。

 ごめんね。

 三玖、ごめんね。

 ずっと邪魔してごめん。

 フー子ちゃん、嘘ついてばかりでごめんなさい。だけど、あのことは……。

 

 

 

『今日、すっごく面白い子に会ったんだ』

『それから一緒にこのお守り買ってさ。その子、今も大広間にいるんだって』

 

──初めは好奇心だった。

 

『あ!来てくれたんだ。ね、一人で退屈してところだからさ、何かしよっ』

『じゃ、じゃあ……』

 

──思い出になるはずだった。

 

『なんだ、三玖と一花か。ネタがバレてる二人じゃんか、脅かして損した』

『…………えっ?』

 

──思い出は、思わぬ形で再び現れた。

──あの時の子が君だなんて。

 

『私たち六年前に会ってるんだよ』

 

──ほんの少しの、わずかな間だったけれど。きっとあの時間があったから、君のことを好きになったんだ。

──そうだろうか?

──きっと、世界が終わったとしても、何度生まれ変わったとしても、私は、何度でも君を好きになる。

──他の何を否定されようと、この想いだけは誤魔化せない。

 

 

 

「好き」

「うん。知ってるよ」

 

 

 

 この想いだけは嘘じゃないんだよ。

 

 

 

 

 

 ふと。

 ふと、何の気なしに、横を見た。

 

「──四葉?」

 

 四葉が、ぽろぽろと、自分のことのように、大粒の滴を溢していた。

 

「……あれ?お、おかしいな……」

「四葉、涙……なんで……」

「ご、ごめんね。なんか、私も、もらい泣きしちゃったみたいで」

「…………」

 

「あんたも、だったの?」

「……………ちがう、ちがうよ……」

 

 ああ、やっぱり、馬鹿だ私は。

 妹の恋心に気付けないなんて。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

「好き」

「うん、知ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けど、ごめんね」

「ッ」

「三玖とは付き合えない」

 

 

 

 心に穴が空いたような気持ちだった。けれど、その答えにどこか納得していた。

 私じゃ駄目だったんだ……。

 泣きたくなるような顔を無理矢理押し殺して、微笑を浮かべた。

 これ以上、失恋している私を見られるのも癪だし、皆んなには出てきてもらおう。

 

「いるんでしょ?」

「えっ!?」

「ええっ!?な、なぜここに!?」

「三玖、気付いてたの……?」

「やっぱり」

 

 途中で一花の声が聞こえた時からおかしいとは思ってたけど、ね。……ああっ。フー子が恥ずかしくなったのか、逃げた。

 

「三玖、その、………いいの?」

「良いんだよ。私の恋は、これで終わり」

 

「四葉、パンをありがとう」

「いや、私はそんな……」

「……五月、その、ありがと……」

「すみません……」

「二乃」

「いいわよ。感謝されるようなことは……本当に何一つやってないわね……」

「一………」

 

 言いかけて、抱きつかれた。

 縋るように、泣きながら。

 

「ごめん、ごめんね……三玖……私……」

「いいよ。……恋ってこんなにも辛いんだね。結局、私じゃ……私じゃ駄目だった」

「三玖………」

「……この恋に後悔はないけど、私じゃ、最初から勝ち目はなかったんだ」

「──そんなこと、ない」

 

 怒ったような声を絞り出したのは、二乃だった。

 

「励ますわけじゃない、けど──あんたが選ばれなかったのは、あんただからじゃなくて、その──ああもう、上手くいえないけれど!少なくとも、あんたは物凄く魅力的な女の子だった!」

「二乃……」

「だって、私の、妹よ。五つ子よ!?」

 

 

 

 

 

「───あんたも可愛いに決まってんじゃない!!」

 

 

 

 

 




全国の三玖ファンごめん……。
この小説は三玖ルートじゃないんだ……。
本当にすまない……。

この時の三玖って、結局あの下着を着けたのか、それとも履いてないのか分からないのが良いところだと思うの。
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