五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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エピソード投票で二乃回が一位になって私も鼻が高いよ…。


私とある女子

 お母さん、私達中学生になったよ。

 でもね、五人一緒なんて無理だよ。

 私達はもう一緒ではいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『私とある女子』

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!一花!?」

「あ、あんなにあった髪が!」

「なくなってる!」

「何か台詞だけ抜き取ったら私が禿げたみたいな言い方やめてくれない?これねー、部活の時に邪魔だから切ったんだよね」

「わー、似合ってますね!」

「ありがとー。あの子の読みはズバリ的中したなぁ」

「?」

「こっちの話」

「私も切ろっかな。二乃は?」

「ま、まぁ。前髪くらいなら」

 

 アシンメトリーのショートヘア。

 随分な変わり様を遂げた一花に皆んな驚く。私だって驚いてる。けれど、私達には目下解決すべき問題があるわけで。

 

「ほらほら、お喋りはそれくらいにして。もうすぐ追試でしょ、勉強するよ!」

「四葉だって追試じゃん」

「追試といえば、この学校、追々試まで不合格だったら一発退学なんだってさ」

「あ、あくまで噂ですよね?」

「もうだめ、私今回の英語のせいで退学になっちゃうかも」

「三玖、私が教えてあげる!」

 

 分かりやすく纏めたノートを渡す。

 他にも、要点を纏めたプリントだったり色々と。風子ちゃんとの約束通り、私は将来の為に勉強を頑張るんだ。

 この前のテストで(姉妹の中で)一番になれたし、目標には近付いてる……はず。

 風子ちゃんも今頃勉強してるのかなぁ。

 もしそうだとしたら、ゲームだとかを遊んでる暇なんてないな。

 

「四葉、これもうやらないの?」

「うん!ゲームは卒業したんだ」

「じゃあこれ借りちゃおっかな……」

 

 三玖は歴史ゲームのパッケージを手に取ってそう呟いた。

 テストの返却日。

 三玖は私よりも高い点数を取っていた。

 

「歴史のテスト、初めてこんな点数取っちゃった!四葉に借りたゲームのおかげ!」

「そ………そっか、良かったね」

 

 いけない、何を嫉妬してる?

 三玖は三玖で、私は私だ。

 三玖が良い点を取ったなら、私はもっと良い点を取れば良いだけのこと。

 もっと頑張らないと。

 

──五月が理科で私より良い点数だった

 

 関係ない。

 そんなことはどうでも良い。

 たくさん勉強して、うんと賢くなって、とびきりお給料のもらえる会社に入って…

 

──私の点数は上がるどころか落ちていた

 

 会社に入って………それからは?

 お母さんはもういない。

 家族はもう既に裕福で、私が教えてあげなくとも姉妹は良い点数を取っていく。

 頑張ってどうなる?

 頑張った先に何がある?

 意味のない徒労。

 自問するも答えは出ず、泣きたくなるような結果のみが己を焦がした。

 

──私は答案を隠した。こんな点数を見られたら落ちこぼれだと思われてしまう。駄目だ見るな。駄目な私を見るな見るな見るな見るな見るな見るな。

 

 私は何のために勉強してるのだろう。

 特別じゃなくていい?

 大切なのは五人でいること?

 五人でいることがなんで大切なの?

 姉妹がいるから、私はこんなにも惨めな思いをしているというのに。

 五人が一緒のままだとあの中に埋もれて気付かれなくなってしまう。

 五人に違いが出てくると私が落ちこぼれていることがバレてしまう。

──私は姉妹の汚点と化している。

 

(虚構をつくろう。偶像をつくろう!中野四葉はこれより今までの中野四葉ではなくなる!足手纏いな四葉を捨て去ってやる。お前はもう要らない、用済みだ消えろ。

私は必要とされる人間になるんだ。神様が私達に能力を振り分けたのなら、私は勉強の代わりに他の何かができるはずだ。

例えば運動!部活に入ろう。たくさん掛け持ちしよう!そうすれば皆んなの顔も見なくて済む!私が惨めにならずに済むんだ!劣等感に苛まれることもなくなるんだ!落ちこぼれずに済むんだ!

──ようやくまともになれるんだ!!)

 

「中野さんのおかげで助かりました!」

「今度はぜひソフト部の助っ人もやってくださいよ」

『陸上部の皆さん、インターハイ出場おめでとうございます!』

 

 なれてる。

 なれてるんだ!

 私は必要とされる人になれている!

 皆んなが私を必要とする。部活に出れば皆んなが私を受け入れてくれる!

 中野家では得られなかった高揚。愉悦!

 必要とされる人間になるにあたり、弱い自分を見せないよう手っ取り早く敬語を使うことにした。信用を稼ぐためだ。私は変わったのだから今までと同じような振る舞いをするのはおかしい。

 他の凄い人間になる。

 この味は、思いのほか化けた。

 

「でも、本当に凄いですね、その身体能力。同じ姉妹でもあの子なんか酷いレベルの運動音痴なのに」

「姉妹でこんなに違うんですね……」

 

 ……違う。

 私は姉妹とは違うんだ。

 一緒じゃないんだ。

 もう、一緒じゃなくていいんだ。

 私は私のままでいていいんだ!

 

「四葉!」

「……………なんだ三玖か。なに?」

「最近ずっと練習ばかりだけど、平気?」

「平気って何が?」

「勉強だよ。ちゃんとできてる?……良かったら私が教えてあげようか?」

「私とはもう皆んなとは違うから。一緒にしないで」

 

 三玖、わかって。

 私をそこに戻さないで。

 そこは息が詰まるの。

 私の有りの侭に動けなくなるの。

 本気で心配してくれるような姉妹といるより、ただ利用されているだけだとしても赤の他人と薄っぺらい話をする方が、よっぽど楽だから。

 そこでは上っ面だけでも、私を褒めてくれる人がいるのだから。私は中身のない称賛で優越感を得る。

 お母さん、見てる?

 私、皆んなにほめられてる。

 いろんな人に必要とされてる。

 姉妹の誰でもなく、私だからなんだよ。

 

 私が姉妹で一番なんだ!

 特別なんだ!

 

「追々試不合格。中野四葉さん、あなたを落第とします」

 

 え?

 

「再三警告をしたはずなのに、あなたは多重入部をやめようとしませんでした。荷物をまとめなさい」

 

 なんで?

 

「本当に残念ですわ」

 

 私はとくべつなのに?

 

「まさかあなた部活動だけで満足なされていたの?」

 

 けれど。

 何も言い返せない。

 

「四葉君、この結果を受けて内々で話をつけさせていただいた。特例として転校という形で済ませることができそうだ」

「………転校……」

「私の知り合いが理事を務める男女共学の学校だ。夏休み明けから君はそこに通うことになる」

「…………私だけ…………」

「………えーっと、ああ、うん、引っ越しの必要がないのは幸いだね。ほらっ、家では姉妹で一緒になれるよ?だからその、元気出してというか……」

 

 私は特別なはずなのに……。

 私がいる意味を作ろうとして必死にやってきたはずなのに、

 私はなんで一人なの?

 私はどうしたらいいの?

 私はどうしたら特別になれる?

 私は……………、

 

 ……どこに進んでいいのかわからない。

 

「待って。四葉が転校するのなら、私達もついて行くわ」

「──え?」

「な、何を言っているんだね君達は!ウチの試験は通過した筈だろう!」

「ええ、合格できたわ。カンニングしたおかげで」

「ごめんなさーい」

「そ、それは本当か!」

 

 皆んなはカンニングペーパーを取り出して言った。……五月だけはプルプルと紙を取り出していたけれど。

 分からない。

 なんで、こんな、私なんかのために。

 私は────

 

「四葉、あんたがどう考えてるか知らないけれど、私はあんただけいなくなるなんて絶対に嫌よ」

「どこに行くにしても皆んな一緒」

「それがお母さんの教えですから」

「四葉、どんなことも私達皆んなで五等分だから。──困難も五人でなら乗り越えられるよ」

 

 ようやく、気付いた。

 お母さんが言っていたのはこういうことだったんだ。

 もう誰が一番だなんて考えるのもやめてしまおう。私は皆んなのために生きる。

 それが私の最適解だったんだ。

 

「い……いいのか、中野君!君の娘全員が転校ということはその分だけお金もかかるし、引っ越しも……」

「──娘達の不始末に関しては、申し訳ありません。私の不徳の致すところです」

「なら………!」

「けれど、娘達が悩んだ末に決めた決断ならば、もはや止める理由はありません。

──私にも少し、根性見せなきゃいけない時が来たようです」

 

 新しい学校に来た私達は、もう色々と注目の的だった。五つ子で転校生なのだから仕方ないといえば仕方ないけれど。

 なんだか余分に疲れたからか、その日に食べる食堂のご飯はとりわけ美味しいと感じた。

 

「ここの食堂美味しいです!」

「ねー。レベル高いよね」

「前の学校にはこんなのなかった」

「試験とかもなんか緩そうだし、そんなに必死に勉強しなくてもよさそうね。転校して正解だったわ」

「…………」

 

 二乃の気遣いに感謝する。言葉に出すとはぐらかされるだろうから言わないけど。

 視線を戻す。すると、さっきまでは無かった紙が落ちていたことに気付いた。

 100点のテスト。

 誰のだろう?

 

「あー、さっきの女の子かな…。ほら、向こうの角に座ってる、綺麗な子」

「届けてくるよ」

「100点ってまさか……。よ、四葉。どうかお気をつけて。恐らく勉強中だと思いますよ」

「え?食堂で?」

(物好きな人もいるんだなぁ)

 

 ………、んっ?

 うわっ風子ちゃんだ!

 凄い!まさか同じ高校になるなんて!

 五年前とは雰囲気まるで違うけど、嬉しいな……!うん、答案用紙の名前もバッチリだし!

 

「風、………え?」

 

 ご飯中にまで勉強、100点のテスト。

 もしかしてあれからずっと頑張り続けていたの?……それに比べて、私は。

 でも五年前の約束だし、もう時効だし、言っちゃっても………、

 駄目だ。

 恥ずかしくて言えないよ。

 

「うーえすーぎさーん」

「………!?」

「あはは。やっとこっち見た」

「私の名前、なんで?」

 

 そうだよね。

 私のことなんか覚えてないよね。

 私は知ってるよ、君のこと。

 ずっと前から。

 

(まさか風子ちゃんが私達の家庭教師になるなんて!運命の巡り合わせというのは分からないものですなぁ。勉強は苦手だけど風子ちゃんとなら大歓迎だよ!)

 

「だから、何度言ったら分かるかね。ライスはLじゃなくてR!あんた虱食べることになるのよ!?」

「あわわっ」

「……え?何?なんで怒られてんのにニコニコしてんの」

「えへへ、家庭教師の日でもないのに上杉さんが宿題見てくれるのが嬉しくって」

 

 もしこのまま勉強を頑張れたのなら、言ってもいいのかな。

 風子ちゃんに私のことを……。

 

「み、三玖。なんか上杉さんを見る目がおかしいように感じるけど、まさか……」

「ないない」

 

 ふーん?

 成程。

 本当に?

 

「三玖はそう言ってたけど、一花さんどう思いますか」

「んー好きでしょうね間違いなく」

「やっぱり!」

「まさか三玖が恋を、ましてや女の子にときめくとは思わなかったけどね。んー、でも仮にフー子ちゃんが男の子だとしても私は恋愛対象外かな。いい奴だけど、ちょっと子供っぽいし」

 

 一花と忘れてるか……。そうだよね。

 そっかそっか。

 ふーん。

 ……本当に???

 

(なんだか寂しい気もするけど、皆んなが上杉ちゃんの素敵なところに気がついてくれて良かった良かった)

 

「教えてください、あなたが勉強するその理由を」

「!」

 

 まさか私のことを覚えてたなんて!

 どうしよう、私も言うべきかな。

 ……でも私だけ特別なんてよくないよ。

 

「この中で昔、私に会ったことがあるよって人ー?」

「………!」

「……?」

「………………」

「??」

 

 今の私は姉妹皆んなのおかげでここにいる。だからこれは邪魔だ。不要なもの。

 あの思い出もこの想いも消そう。

 消して、しまおう。

 

「あの茂みの音は四葉だったのですね」

「これ、学校の用意だよ。……それで大変なところごめんだけど、カバンの代わりに上杉さんに会ってきてほしいんだ。

 私は五年前…風子ちゃんに会ったの。

 私が京都の子で五月が零奈ってやつだ」

「は……?何言ってるんですあなた……」

 

 この後色々説明して協力してもらった。

 五月は変装は苦手だと言っていたけれど私からすればそんなもの要らない。

 誰かの真似をしなくたって、昔の五月のままでいいんだから。

 風子ちゃんは気付けない。

 気付ける要素もない。

 あの時と同じように、一花と私を間違えたように、誤解をするだけ。

 苦しいけれど、これでいい。

 ごめんなさい上杉ちゃん。

 私だけが特別であっちゃいけない。

 上杉ちゃんが誰を好きになったとしても全力で応援できるように。

 

「本当にこのままでいいのですか?」

「……これまで上杉ちゃんと向き合ってきたのは三玖達だもん。今更私の出る幕はないよ。つらい役を任せちゃってごめんね」

 

 寂れた公園のブランコに腰掛ける。

 落ち込んだ時にはよくここに来る。私のくだらない気持ちもどこかへ飛ばしてくれそうな気がするから。

 鎖が軋む。

 いつの間にかもう、雁字搦めになって、身動き一つとれなくなってしまったから。

 だからせめて、言わせて欲しい。

 誰も聞こえない声で、

 誰にも届かない場所で、

 私はそっと愛を口ずさむ。

 きっと、君ともう一度会って、運命なんてものを感じてしまわなければこんな想いもせずにすんだのだろう。君とまた出会った日から教科書でいっぱいの鞄は羽根のように感じられ、学校へと向かう時の景色でさえも瑞々しく美しいものへと変貌した。

 君といられれば、いつだってどこだって夢の中のように心地よかった。

 

「上杉ちゃん」

 

──愛されたい。

──私を隙間なく満たして欲しい。

 

「風子ちゃん」

 

──それが叶わぬのならば、いっそ、この想いごと消えてしまえ。こんなちっぽけな切々の感情など、蓋にして閉まって見ないフリをしておけば、訳の分からないままに忘れられるのだろうから。

 でも、なぁ。

 なんだかんだ言っても、辛いなぁ。

 

 

 

 

 

「好きだったよ、ずっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二乃、ちょっといい?」

「………何よ、フーちゃん」

「大事な話があるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

「お父さん見てこれ!」

「………………よくやった!」

「陸上部に誘われたんだけど断ったんだ。でも勉強に集中したいから仕方ないよね」

「………………これからも励みたまえ!」

(なんか冷たいなー)

(やばい、褒めるべきなのかこれ。いやでもこんな満面の笑みだしなぁ)

 

「中野君が五人もの子供を引き取ったと聞いた時は耳を疑ったが。まさかうちの学校に来てくれるとはね」

「手厚いご配慮に感謝します」

「ほう、それは初耳ですな!中野院長、ぜひ進学の際はうちの高校をご一考くださいませ」

「残念ながら武田君、うちは中高一貫さ。無論、その分だけ厳しくはしているが君の選んだ子供達だ。良い成績を修めてくれるに違いなかろう」

「………………ソウデスネ…………」

 




授業には興味なくても、三玖のように抵抗感のないゲームから知識を得るってケースわりと多いんですよね。
なので皆んな三国無双シリーズかFGOやりながらドクターストーンとハガレンと宇宙兄弟とはたらく細胞とキングダムとドラゴン桜とドリフターズ読もうぜ!
あれ…お勧めしたい漫画多すぎるな…。
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