五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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最終回までには「女体化上杉君が天涯孤独になって中野家に預けられる話」に総合評価で勝ちたいな……。
無理かな……。
あれの更新止めてる理由の一割くらいがそれが理由だよ…。


偶然のない夏休み

 絵具をぶち撒けたような空から、日光がかんかんと降り注ぐ。

 季節は夏。

 噴き出した汗を拭いつつ、私、中野二乃は──姉妹達と雑談に興じていた。

 

「あっつー」

「夏ねぇ。夏といえば、海よね」

「山だね」

「は?信じられない」

「信じられないのはこっちですよ。夏休みといえば受験勉強です」

「うっ……考えたくもないわ」

 

 照りつける日差しが眩しい。

 それに辟易としていると、ふと三玖が思ってもみないことを口にした。

 

「私……大学行かないよ。笑わないで聞いて欲しいんだけど、……お料理の学校に行きたいんだ」

「あ、あんた正気?」

「それは、また……」

 

 三玖はどうやら夏の暑さに頭をやられてしまったらしい。風子が聞いたらなんて言うことかしら。

 と。

 教室の外から、その風子が私を指差して呼んでいる。

 嫌な予感がした。

「大事な話がある」──そう聞いた瞬間、私は、中野二乃は、言葉に含まれた感情に気付いてしまった。

 風子の口は思いの外饒舌だ。

 綴る言葉こそ少ないけれど、少し話しただけでそいつが何を考えているか分かる程度には、言葉以上のものを伝えている。

 最初の方は、駆り立てられる激情に身を任せていたからか、そいつが何を考えているかなんて思っていなかったけれど。

 

(…………これは………駄目かしら………)

 

 緊張でガチガチに固められてはいるけれど、その本質は決して良いようなものでないように思う。

 声のトーンは昏く聞こえた。

 それでも尚、自分が風子の全てを未だ測りしれていなくって、きっと告白前に緊張しているだけだと思いたいのは、そこに、一縷の希望を抱きたかったからか。

 私がフラれるなんてことあるわけがない、という思考ゆえだ。

 

「この間の告白の返事だけど」

「ッ」

「ごめん。二乃とは──」

 

 きっとその先を聞いてしまえば、後には戻れないと感じて。

 跳ね上がった心臓から伝わった恐怖は、咄嗟に口へと伝播した。

 「やめて!」

 風子は肩を震わせた。

「分かったから──分かったから、それ以上は、もうやめて」

 

 俯いたのは、ぐちゃぐちゃになった顔を見られたくなかったから。逃げるようにその場から立ち去った。

 蝉の声が煩かった。

 

 そのまま、夏休みになっても、風子とは話せずじまいだった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 あーしまったーやっちまったぁなー!!

 二乃めっちゃ傷ついてたじゃん!!

 うわっ!もう少し言い方とか振り方とかあったんじゃないのか私っ!もう少しこう良い感じに終わる感じの何かさぁ!

 つーか振り方ってなんだよ!?恋愛初心者にんな高度なテクニックできるわけねえだろボケェ!

 

(そうだ、いっそのこと本を買おう!)

 

 カバでも分かる恋愛本!

 この本を読んで恋愛についてもう一度改めて考えてみよう。家族の皆んなにはバレたくないから布団の中に隠そうっと。

 

「今朝お姉ちゃんの布団からこんな本を見つけました。まさかこっそり恋愛本を買ってたなんてねー」

 バレた。

「………いや………それは……」

「夏休みに入ってからずっと引きこもってたから心配してたんだよ?早速、五月さん達に会いに行こう!」

「それは………まあ受験勉強もあるしいずれ行かなきゃいけないけども………」

「来週の日曜はどう?五月さん達誘って海に行こうよ」

「ケーキ屋のバイト入ってる」

「もう!」

 

 つーか誘ったとして、来てくれるのか。

 特に二乃。

 あんな……あんな顔して、見てるこっちが心臓を締め付けられる気分だった。

 皆んなが皆んな、三玖みたいに納得してくれるわけじゃない。ああいう風に傷つく子だっているんだ。

 きついな……。

 でも彼女とは、ケーキ屋のバイトでどうせ会うんだ。その時に色々と話そう。

 

『店を少しだけ休みにしようと思う』

 

 嘘ぉーっ!?

 

『バイク事故で入院することになってね。夏の間は経営は無理そうだ』

「お、お大事にしてください」

『ありがとう。今は向かいの糞パン屋が見舞いに来てくれてるよ』

「それもう普通に仲良いよね」

 

 幸と見るべきか、不幸と見るべきか。

 これでまたチャンスは減ってしまった。

 店長さんの怪我は仕方ないけど、二乃と会うチャンスが減ったのはちょっと困った事態になった。

 

(友達ってこんな感じで疎遠になってくものなのかな……)

 

 何かしなければという焦燥はある。けど何をすればいいか分からない疑惑もある。

 八方塞がりだった。

「じゃあ五月さん達の家に行こう!」

 そうでもなかったわ。

 らいはに腕を引かれて家に向かう。……チャイム押したけど反応無し。

 

「あれー、お留守だ。せっかくお姉ちゃんのバイトもなくなったのに」

「ああ……なんか会わなくてよかったような残念なような」

「じゃあ行こっか、お姉ちゃん」

「……ほんとに行くの?」

 

 

 

「海だーっ!」

 

 絢爛な景色と裏腹に、私の気持ちは沈みきっていた。

 泳げないんだよこっちは。

 海どころかプールにさえここ数年間は行ってない。……や、何時ぞやの旅館の時は釣りしに海に行ったか。

 なので水着も中学生の頃に水泳の授業で使った奴しか持ってないわけで、流石にもう着られる大きさではなくなっていた。

 わざわざ新しい水着を買わなくちゃならないなんて……。

 

(そういえば湖に落ちたり、海に突き落とされたり、突然雨が降ったり、水に関する受難多いなぁ私)

 

 などとしみじみ思っていると、前田君と武田君と遭遇した。知り合いだぁ。

「違う」

「!?」

「二人で来たの?」

「俺達だけじゃねえ、クラスの奴達も来てるっすよ」

「君にもメールしてたはずだけど」

「あー…ごめん、携帯しばらく見てない」

(あれー…?何で五月さん達と会えないんだろ。ここに来てる筈なのに)

 

「上杉さんこういう誘い来るタイプじゃないと思ってたー」

「ねー。水着可愛いー。遊ぼー」

「えっ、ちょ……」

「上杉さんの妹さんだってー、似てるー。焼きそば食う?」

「食うー!」

 

 らいはの馴染みっぷりがすごい。

 訳の分からないまま連れ回されて、海の家行ったりしたり、唐突に日焼け止め貸してくれた。

 あれ?

 なんか、楽しい?

 

「ねね、スイカ割りしよーよ」

「布ある?」

「私まだやるとは………んっ……」

「……上杉さんが目隠しするとなんか犯罪感あるよね」

「はいじゃあ歩いて!そこ!右!」

「いや左!」

「どっち!?え、えーと、この辺!?……や、やあーっ!」

「いってぇええ!!」

 

 日が暮れると、着替えてベンチで涼む。

 一日中遊んで疲れちゃった。らいはも、私の膝の上で眠りこけているし。

 

「いってぇ……。上杉さん、流石にちょっと力入れすぎじゃないっすか?」

「ご、ごめん。力ないから思いっきりやらないとダメだと思って」

「まだメソメソ言ってるの?男らしくないなぁ。ま、あの時は笑ったけど。

 上杉さんも楽しそうで良かったよ」

「え………そう、見えた?」

「?うん。違った?」

「いや……」

 

 楽しい、は、楽しいけど……。

 まだパズルの最後のピースが抜けているような物足りなさを感じる。

 そのピースが何なのかは、もう分かっているけれど。

 

「この後花火をするそうだが、上杉さん、君はどうする?」

「あー…また今度にするよ。らいはも疲れちゃったし、帰るね。皆んなによろしく伝えておいて」

「おや意外だね。上杉さんがクラスに馴染もうとするなんて」

「いや元からこうでしょ」

「それはない」

 

 ………そんなに?

 

「上杉さん、この数日でいったい何があったのかは何となく察するがね、老婆心で言わせてもらうと……今は気まずい相手とも会っておくべきさ。

 一緒に話していれば、その内わだかまりも消える。君と僕もそうだったろう?そうやって親友になったのだからね」

「うん……うん?親友?」

 

 武田君の意見は──要約すると、二乃とちゃんと顔を合わせておけ、ということ。

 そうしなければいけないことは、私が一番よくわかってる。

 数年ぶりに海に来て、武田君や前田君、クラスの連中と盛り上がれて楽しかった。

 それも事実だけど、どこか足りないと感じてしまったんだ。

 

「あー、もう。あの子達もいたらもっと楽しかったんだろうな……」

 

 夏の陽気に当てられたせいだ。

 帰りのバスの中で、携帯でも開いてみるか、なんていう突拍子もないことを考えたのは。

 二乃からのメールが一通、届いていた。

 

『風子、明日会える?』

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 私達は引っ越しの必要に迫られていた。

 解約申入書。

 このボロアパートはもう住むことができなくなっているようで、この家を退去して新しい家を探すしかないのだ。

 引っ越しの猶予も半年あるし、まあ大丈夫かな……と、思ったけど、丁度受験シーズンと被るのよね。

 早いかもしれないけど夏休みのうちに済ませておきたいわ。

 

「取り壊し……少し寂しいな」

「少しの間だったけどこの家にも思い出が詰まってるもんね」

「あ、補償とかあるのかしら」

「落差!」

「一花に伝えてきます」

「フー子にも伝えておかないと。メール…でもフー子携帯見るかな」

「それは……まあ……うん……」

「い、一応ね?」

 

 とりあえず、送れるだけ送ってみよう。

 風子、かぁ。

 今はちょっと会い辛いわね……。

 まあどうせケーキ屋のバイトで会うのだけれど。

 

『すまん、店を休みにしようと思う』

 

 うそっ!?

 ……い、いいえ。取り乱しては駄目。そもそも会ったところでどんな話をするっていうのよ。

 ………どうせお互い気まずいだけだわ。

 今日は引っ越しの日。

 生憎にもクラスで海に行く日と予定が被ってしまったけれど、まあどうせ風子も来ないだろうし、今回は見送ろう。

 車が止まる。

 まさかまたここに戻って来るとは。

 私達が前に住んでいた高層マンション。たった半年とはいえ、もう懐かしい。

 次の家が見つかるまでの繋ぎ……のつもりだけど、皆んなここに戻る気でいる。

 

「フー子ちゃん家庭教師に戻ったんだしもういいじゃん」

「二乃は強情だなぁ」

「だって………、もういいわ」

「わー、綺麗なままだ!」

 

 久方ぶりのベッドの感触は、想像していた以上に柔らかかった。

 ここにきて疲れがやってきたのか、呆としながら考え事が浮かんでは消える。

 考えるのはいつも風子の顔だ。

 私があいつのことを好きだったのは紛れもない事実だけど、振られた今はなんだかもうよく分かんなくなってる。

 どんな感情だ、これ。

 

(この部屋でピアス開けたり開けなかったりしたのよね……。で、あの階段で五月と喧嘩したり、あのテーブルで勉強して…)

 

 思えば。

 風子はいつも、私達と一緒にいた。

 それが勉強でも遊びでも旅行でも、常に彼女は私達と一緒にいてくれた。

 その度に、あの子の良いところが段々と見えていって。

 だから今寂しいんだ。

 風子と会えていないから──。

 

「私、あいつのこと好きなんだ」

 

 この気持ちに名前をつけるとしたら、それはきっと愛だ。

 友愛、恋愛、それらが全部ごちゃ混ぜになっているかのような──。勿論、今でもあの子と付き合いたいって気持ちはあるけれど、打算抜きに、ただ六人で集まって騒ぎたいような気持ちもある。

 

(恋愛感情を抜きにしたとしても、私はあいつのことが好きだ。友達として、パートナーとして、バイトの先輩として。彼女のそのどれもが愛おしいんだ)

 

 ああ、なんか──面映いな。

 こんがらがった思考を整理するために料理でもしようか、とリビングに出ると、三玖が何やら「フー子も久々に呼んであげよう」と携帯を操作していた。

 あら、いいわね。

 

「い、いけません!」

「え?」

「彼女も受験を控えて一人の時間が必要なのでしょう、ですからあまり迷惑にならないようにしなければいけませんし今はソーシャルディスタンスですし心の距離ああいや物理的な距離を開けることによってこの平穏と均衡は保たれるのですこのことから専門家もそう言ってますし、

 ──せめて夏休みの間は会うのを控えましょう!!」

「何それ電話しよ」

「わぁぁぁあああああ!!!!」

 

 ?繋がらない。

 前にもこんなこと会ったわね……。仕方がない、代わりにメールを送っておこう。

「フー子、会いたいな……」

「ちょ、ちょっと二乃、いい?」

「?」

 

 袖を引っ張る四葉に連れられて、自室にこそこそとやって来る。……え、なに?

「ええと……その、上杉ちゃんをここに呼んじゃって良いの?その、彼女とは……」

「ええそうよ。あいつが私を振って、そして私は振られた、そんな仲。

 けれど、死ぬほど辛かったけど、でも恋人になれなかったとてあいつは大切な人間ということに変わりはないし──そもそもあいつがいない日常なんて、つまらないでしょう?」

「それは……そう、だけど………」

「だから四葉」

「え?」

「あんたも、素直になりなさい」

 

 その日の夜。

 私が送ったメールに返信が来た。

 

『大丈夫』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風子を呼び出したのは、人通りの少ない広場だった。

 ここには私と風子の二人っきり。

 緊張した面持ちでやって来た彼女を、苦笑しながら出迎える。

 

「先に断っておくけど、これ、別に告白とかじゃないから。いやある意味告白だけど決意表明っていうか」

「ええと……」

 

 風子は困ったように顔をかく。

 そりゃそうだ。

 いきなり呼び出されて変なこと言われてるんだから、そりゃあ困惑する。

 

「ともかく!あんたは聞いてくれるだけでいいの。返事してくれるだけで、いい」

「う、うん。分かった」

 

 言うと、手紙を取り出す。

 たぶん自分一人じゃうまく言えないと思うから、言いたかったことを昨晩のうちに書き留めていた。

 懐かしい思い出が、たくさん。

 

 

 

「初めて会った時、睡眠薬使ってごめん。あんたからしたら理不尽以外の何物でもなかったわよね。ごめんなさい」

『君ってこんなことするキャラじゃないっしょ?ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよねー』

 

 

 

「最初の方、皆んなの勉強の邪魔ばかりしてごめんなさい。嫌だったわよね」

『なんでも五人しかいない部員の一人が骨折しちゃったみたいで、このままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきただろうにあーかわいそう』

 

 

 

「他にも酷いことたくさん言ったわ」

『え?え?こういうダサい服の子と仲良くするっていうの?』

 

 

 

「適当に赤点取って、あんたに家庭教師を辞めさせようとしたこともあったわ」

『赤点を取ればクビね。……ふふっ、いいこと聞いちゃった♩』

 

 

 

「あんたが頑張って作ってくれた問題集を破いたのも……ほんと、馬鹿だった。挙げ句の果てには家出するし。ごめん」

『こんな紙切れに何を騙されてるのよ。こんなもの渡して、いい加減なのよ!それで教えてるつもりなら大間違いだわ!』

 

 

 

「風子がかな子ちゃんとしてやって来てくれた時、私、また睡眠薬を盛ってしまったわ。逃げてばかりでごめんなさい」

『バイバイ』

 

 

 

「きつく当たってばかりでごめんなさい」

 

「意地張ってばかりでごめんなさい」

 

「迷惑かけてばかりでごめんなさい」

 

 

 

「──いつもありがとう、風子」

 

 きっと今後の人生において、風子と恋愛はできないかもしれない。

 でもそれでいい。

 恋愛抜きにしたって、風子とはずっと一緒にいたい。友達としてでもいい。風子と仲良くしていたい。

 だって──私は。

こんなにも風子のことが好きなんだから。

 

「こちらこそ、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ああ、こんなことも言ったっけな

 

『家庭教師じゃなくて友達だったらなったげるよ。ばいばーい♡』

 

──今、たった一人の、かけがえのない、一番の親友に会えた気がする──

 

 

 




二乃とは友達エンドです。
同性になったことで話す機会が増え、恋人にはなれなかったけれどお互い尊敬し合える友人にはなれました。

ツンデレツンカットや……!!
ごめん……!!!
番外編で書くかもしれんけど読みたい……!?
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