五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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秘密の痕

『へー、お引っ越ししてたんだ。だから海にいなかったんだね』

「ええ、まさからいはちゃん達が来るとは思っておらず……お伝えしないままにしてしまいすみませんでした」

「らいはちゃん!?私もお話ししたーい」

「そういや妹ちゃんもう中学生だっけ?おめでとう」

『わー、ありがとう!』

 

 私は内心冷や汗をかいていました。

 危機一髪。

 海に行っていれば危うく上杉さんと鉢合わせするところでした。今の彼女達と上杉さんが出会ってしまったら、どうなるのか予想できませんから……。

 えーと確か、一花と二乃と三玖と四葉が上杉さんのことが好きなんでしたっけ。

 改めて考えてみると、とんでもないタラシっぷりです。上杉さんには悪いですが、ここは距離を取るしかありません!

 

『え?代わって欲しいの?うん、いいよ』

「?」

『あー、もしもし、私だけど』

「う、上杉さん!?」

 

 なぜ、あなたが……!

 

『その……あんた達に、その、まあ、提案があるんだけれども……』

「提案?」

『えー……その……嫌なら、まあ、断ってくれてかまわないんだけど………』

「何よ」

 

 

 

 

 

 

『プールでも行かない?』

「──あ、あなたから誘ってくるんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、プールに行くことになってしまいました。いえ、何もあの人と一緒にいることが嫌だという訳ではありません、が、今あの人と一緒にいることは私達姉妹にとって必ずしも良い結果には繋がらないのです。

 ぶっちゃけた話が、上杉さんが姉妹の平穏を壊してしまう怖れがあるのです!いつぞやの修学旅行の時のように!

 個々の恋は姉妹として応援したいところですが、今は自粛!会うのを控えるべきなんです!

 

「入れ墨、タトゥーの方は入場をお断りさせていただいています……」

「二乃、やっ」

「てない!やってないわよ!」

「二乃やってそうだよね」

「若気の至りで恋人の名前入れちゃったりとかね」

「あんたら私をどう思ってんのよ!」

「そうです!そんなことしたら不良です」

 

 プールに入ると、目についたのがご飯屋さん。……遊ぶ前に栄養補給するのは大事ですよね、ええ。

 四人を先に見送って、人数分のご飯を買っておくことにします。これは決して私の趣味嗜好の問題ではありません、必要なことだからやっているだけであって…。

 って誰に説明しているんでしょうか。

 

「焼きそば五人分お待ちっ」

「ありがとうございます」

「五月、あんたその領域まで来たか……」

「!う、上杉さん!来てたのですか!

違いますよ、これは皆んなで食べる分なんです!断じて!」

「そう?……そういえばあの子達は……」

 

 !いけません。

 他のもので気を引かなければ!

「う、上杉さん。この水着はどうですか?あなたが急に言うものだから慌てて買ってきたんです。前のものは少々収まりきらなかったので……」

「えっ、……いいんじゃない。いい」

「…………」

「…………」

「別にプールじゃなくても良かったんだけどね」

「皆んな喜んでましたよ。今年は夏らしいことをしてませんでしたから」

「それは良かった……」

「…………………」

「…………………」

 

 あれ?

 私と上杉さんってこんなに共通の話題ってないもんでしたっけ。

 引き留めるどころの話じゃない!

 だ、だめです!今は私がしっかりしないと!見ていてくださいお母さん!私が姉妹の秩序を守ってみせます!

 ハッ!あれは一花!

 

「う、上杉さん!皆んなはあっちです!」

「ちょっ、プールサイドで押さないでよ」

「ああっ四葉まで!すみませんやっぱ隠れて!早く!もっと身をかがめて!」

「な、何?何!?」

 

 上杉さんを茂みに押し込むのに夢中だった私は気付いていなかった。

 背後に立った死神の正体に。

 隔絶された恐怖に。

 世の理に後ろ脚で泥をかけるような暴虐の果てを見たようだった。

 それはまさしく、

 世界を塗り潰すほどの、

 恐ろしいまでの、

 闇。

 

「あの──……」

「二人で何してんの?」

 

 終わった。

 全てが終わってしまった。

 一花と四葉がそこにいた。

 どうしましょうお母さん助けて。このままじゃ修学旅行の二の舞に……

 

「フー子ちゃん久しぶり!二乃も三玖も会いたがってたよ」

「さぁ、皆んなで遊びましょー!」

「あれっ?」

 

 なんだか雰囲気が穏やかですね……。

 姉妹同士の恋の戦いが始まるのかと思いきや、意外と落ち着いたものです。

 

「え、えーと、一花?大丈夫なのですか?その……上杉さんと色々とあったのに」

「ああ、うん。私はもういいの。誰かを応援することも恋愛をすることも、もういいんだ。今の私じゃ、何をやったって空回りするだけだろうからね」

「そ、……そうなのですか」

「うん。二乃や三玖がここに来たのも、踏ん切りをつけるためじゃないかな。いつまでも失恋したままだと未来には進めないって悟ったみたいだし」

「………えっ」

 

 二乃って失恋してたのですか!?

 三玖はそりゃ告白の現場を目の当たりにしたから分かりますけど、二乃も!?

 嘘でしょう!?

 ……いつの間に!

 ていうかそれを何で私に教えてくれないんですか!私一人だけ仲間外れはずるいです!……まあ、それならそれで良かった。

 いや二乃の気持ちを考えたら良くはないんですけど、少なくとも前を向いて歩けているのなら何よりです。

 なんだ……。早とちりしていたみたいで恥ずかしいです。

 テヘヘ。

 

「フー子!」

「フーちゃん!」

「「会いたかった!」」

「んぎゃっ!?」

(あれぇ!?話が違う!)

 

 二乃と三玖が上杉さんに飛びついています!……何故!?失恋したのではなかったのですか!?

 

「えっ、……えっ!?なんか二人とも態度が……えっ!?あれっ!?」

「私達はもう自分の気持ちに嘘つかないって決めたのよ」

「私達を振ってくれたんだもん。これくらい、いいでしょ?」

 

 ええっ、そういう方向に振り切ったのですか!?……後ろ向きに前向きというか何というか。

 ……これって結局駄目なのでは!?

 助けてくださいお母さん!

 この場合どうしたら良いんですか!

 

「……ハッ。気付いたらいつの間にかご飯を食べてスライダーに登ってました」

「意外と高いわねー」

「フー子、日焼け止め塗ってほしいな」

「!私が!私が塗ります!」

「えっ」

「次、私も塗ってー」

 

 それにしても高いですね…。

 現実逃避をしてたので忘れてましてが、このウォータースライダーは中々……角度も高さもすごいものです。

 ……やっぱりやめません?

 

「平気だって。ジェットコースターだってやってみたら楽しかったじゃん。怖かったら手を握っててあげるよ」

「約束ですよ!本当に手を握っててくださいね!フリじゃないですから!」

「結構並んでるなぁ」

「フーちゃん、店長の話聞いた?今度お見舞いに行こうよ」

「だね。私も行こうと思ってたとこ」

(……戦々恐々としていたプールですが、その会話内容は平和そのものですね。このまま何事もなければ良いのですが)

 

「お次の方お待たせしました!こちらのボートは二人乗りです。これから先は二人一組でお並びください」

 

 戦争勃発!

 決め手はぐっちょっぱ!

 グーを出したのは二乃と四葉!

 チョキを出したのは一花と三玖!

 パーを出したのは……私と上杉さん。

 ま、まあ結果的には良かったんじゃないでしょうか!

 問題は……スライダーがどうも、予想以上に高いというだけで。

 

「どうする?やめとく?」

「や、やめるなんて!まるで私がスライダー怖がってるみたいじゃないですか!」

「違うのかよ」

「この高さに躊躇しているだけです!それだけですが、まあ、一旦日焼け止めを塗るので少々時間いただきます」

「はいはい」

 

 まったくもう。

 あなたと乗りたいだなんて、皆んなどうかしていますよ。

 

「……だよね。ほんっと、二乃も三玖もどうかしてる」

「え!いえ、今のは言葉の綾でして。二人を否定している訳では」

「分かってる。こんな私を選ぶだなんてどうかしてる、って意味だよ。……でもこのままじゃいられないんだよね」

「?」

「あの二人に、『見る目がなかった』とか『こんな女にマジになってた』とか、そんな不名誉な称号を与えるわけにはいかないからね。恋愛が怖いとか言ってらんない。

──元々、必要とされる人間になりたかったんだ。いっそのこと、誰もが惚れるような女になってやる」

 

 上杉さんの、その突拍子もない発言に、暫しの間私は口を開けていた。

 

「………な、なによ。流石に飛躍しすぎた発想だとは思うけど」

「──いえ。真面目に考えてくれているようで一安心です」

「もっと本を読んで早急に自分の気持ちを見つけ出さなければ……」

「頭でっかちなのは相変わらずですね」

 

 なんとなく、わかります。

 私も姉妹の気持ちを知ろうと、色々と調べていましたから。でも、結局はこの世はそんな定型で収まりきらないものばかりで分からないことだらけで。

 いえ、分からないからこそ人は答えを求めて探求するのかもしれませんね。

 

「今日のようにあなたの思うがままにしたらいいのではないでしょうか。

 あれこれ考えるより、やってみて分かることもあると思いますよ」

「…………ありがと」

 

 上杉さんは、遽に笑った。

 

「次のお二人どうぞー。こちらに座っていただいて、後ろの人の足の間に、前の人を挟む形で……」

「………えっ」

 どっちも地獄!

「ま、前、やっぱ後ろで!ですがもう少し心の準備と日焼け止めの時間を……」

「はいはい。手、握ったげようか?」

「!子、子供扱いしないでくださいっ!こんなのへっちゃらです!」

「はいはい」

 

 ああ……、

 上杉さんの頭が、私のお腹の辺りに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「枕みたい」

 

 私はもはや本能的に脚で上杉さんを締め上げていた。彼女は意識を失いながらウォータースライダーを流れ落ちていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首いってぇ……。この間の前田君のスイカ割りの分が回ってきたのか……?」

「何のこと?」

「あ、四葉。水着のあとがついてる」

「わー本当だ!」

「フー子も真っ赤だよ」

「おぉ……」

「?ねぇ、その右手の痕、なに?」

「あれ、なんだこれ」

「そこだけ日焼けしてないわ」

「………ハッ!」

 

 わ、私は何も知りません!

 これ以上火種を増やすのはごめんです!

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「四葉、あんた風子のこと好きでしょ」

「──なんのこと?」

「いいわよ、隠さなくて。知ってるから。

 修学旅行最終日の時の、あの時のあんたの涙って……そういうことでしょう」

「…………」

「あんた、いいの?このままで」

「──いいんだよ。私の気持ちなんて、隠し通したままで……」

「そ。それならずっと隠してるがいいわ。できるものならね」

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「三玖、変わったね」

「うん。もう弱気になってらんないよ。胸の突っかかりが取れたような気分。

──告白してからは何だか、景色が違って見える」

 

(違う景色、か──)

 

(例えば私がどんな形であれ告白さえしていれば、その景色を見ることができたろうか?一体どんな気分なのだろう?)

(私のような人間であっても、そんな爽やかな気分になれるというの?)

 

(私もその景色を見てみたかった。

──けれどそれはもう叶わない)

 

 

 

(────私は学校を辞める)




最近友達に進められるがままに再開したけど、あれ?FGO面白くね?つーかFateシリーズめっちゃ面白くね……?
友達の解説聞きながら観るバビロニアが面白いのなんの。
UBW、ZERO、DEEN版一気見しちまったよ!
HF三章楽しみだぜェーッ!
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