五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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「──ねえ、もしかして、四葉が六年前の女の子だったりしない?」

──上杉風子がそれを聞いたのは、ちょっとした好奇心からだった。
──なんとなく。
──本当になんとなくだが、四葉が、あの時の女の子のような気がした。
──根拠はない。六年前に出会った女の子が四葉とダブって見えたからそう言っただけで、そこに大した意味はなかった。
──強いて言うなら、あんなに無邪気に接してくれそうなのは四葉のような気がするからだった。
 けれど。

──なんの気なしに聞いたその一言が、ある少女の恋の続きを紡ぎ出した。



ちっぽけな恋の行方

 

 

 

「──ええ、はい、そうですよ」

 

 困惑は後からやってきた。

 あれ、おかしいな、何かおかしなことを言ったかな。という違和感。

 困惑は焦慮へと変わる。

 バレてしまった。隠し通してきた秘密がこんなことで……!

 

「そ──そうです。今のは、間違いです。私は、ええ、零奈ではありませんから」

「──零奈?」

「あっ……」

 

 しまった、と思う頃にはもう遅い。

 彼女は答えを得たり、といったような表情を浮かべた。

 上杉ちゃんの答えは半分正解で、半分間違いではある。彼女にとっての零奈とは、五月であり、私であり、ともすれば一花でもあるのだから。

 だからまだ取り返しはつく。この役目を私じゃない誰かに押し付けることは、まだ可能ではある。

 けれど。

 ここで嘘や誤魔化しをできるほど、私の頭は上等ではなかった。

 

「なら私は謝らないといけない。ごめん。四葉、私のために色々と動いてくれていたんだね。嘘を吐いたり演技したりってのはたぶんあまり得意じゃないでしょう。それなのに、自分の都合を度外視してまで私を立ち直らせてくれた。なのに私は今の今まで四葉だと気付けなかった。

──四葉は、最初から、誰かのために沢山のことをしてくれる優しい人だったのに」

 

 かぶりを振った。そういう風に言われるのは嫌だった。

 私の行動は全てエゴイズムに依るもの。

 善意などではない。

 この身勝手な行いを優しいなどと言われてしまったら、私は、罪悪感に耐えられなくなってしまうのではないか?

 そう、これは誰かのためじゃない。

 

「誰かのためじゃなくて──

 ──君、だから……」

 

 口を突いて出た本心に、我ながら驚いていた。今の言葉は紛れもない本心。純然たる気持ちを、そのまま言葉にしたもの。

 だからこそ戸惑う。

 私は風子ちゃんのために行動していた、とでも言うつもりなのか?

 どうやら私は、あまりに、彼女のことが好きすぎたようだ。

 

「私のため、って──どういう」

「好きだから………」

 

 思い返せば、半ば自棄になっていたのかもしれない。こんな──こんな、くだらない告白を風子ちゃんにしたのだろう。

 不意に、あんなことを言われたから?

 五月に発破をかけられたから?

 たぶん違う。

 風子ちゃんが綺麗すぎたからだ。

──たしか、あの時もそんな取るに足らない理由だった気がする。リビングで告白したのは、自分の気持ちを抑えられなかったから。

 

「上杉ちゃん」

 

 この後に、嘘、と付け加えれば、まだ引き返せるのではないだろうか?

 あの時と同じように。

 まだ間に合う。まだ──。

────けれど、

 私はあの時とは違う。

 

「風子ちゃん」

 

 私のこれがどれだけ浅ましく、くだらない思いだとしても、恋には違わなかった。

 間違いなく恋だった。

 この恋はきっと誰にも邪魔できない。

──私でさえも──。

 ちっぽけな私の恋は、ちっぽけな私だけのものだから。

 

「──好きだよ、ずっと。」

 

 

 

 

 

 風子ちゃんはゆっくりと首を振る。

 私の恋は報われなかった。

 

 

 

 

 

──これは過去への決別ではない。

──前に進むための一歩だ。

(………ああ………)

 

 

 

「──私の恋、終わったんだ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 退学届。

 何度も何度も考えて、悩んで。でもこれを出す以外の選択肢は浮かばなくって。

 やっぱり私はこれしかない、と、職員室に届出を持って行っていた。

 

「確かに承った。教師として君の活躍を願っている。……しかし、古い考えかもしれんが、高校は卒業しておいた方が良いんじゃないか?君がどんな道に進もうとな」

「いやぁ、勉強はもう勘弁です。私の成績は先生もご存知でしょう」

「………まぁ……うん………」

「お世話になりました」

 

 最後にサインだけ頼まれた。

 ……書くのこれで二回目だ。

 一番最初に書いたサインは、三玖宛てのものだっけな。………フー子ちゃんは未だ誰のものにもなっていない。

 ならば私が──と言えるほど、私の神経は図太くないけれど。せめて、あの子達の邪魔だけはしてはいけない。

 五つ子にとって私は不要だ。

 声をかけられた。

 テニス部の友達だった。

 

「夏休みなのに学校来てたんだ!」

「うん(退学届を出しにだけど)。皆んなは部活?」

「そ。もう三年だけど、私は大会が残ってるから。これで最後だから、悔いなく終わらせたいんだ」

「……偉いね」

「い、いやぁ。一花ちゃんに比べたら。私なんて屁みたいなもんですよ。この間、コマーシャル出てたでしょ?こんな有名人と同じ学校に通ってるなんて誇らしいよ」

(──誇らしい、か……)

 

 私の本性が見栄っ張りの嘘つきだと知ったら、この子はどう思うのかな。

 がっかりするだろうな。

 ともあれ、これで、フー子ちゃんと会うこともないだろう。良かった。私のつまらない部分ばかり見せてしまって、もう、合わせる顔がない。

 顔を上げると、三玖が、少し高い塀の上に腰掛けていた。

 

「──有名人だって。おかしいね」

「…………三玖」

「…………」

「……………?」

「降りれない……」

「えっ」

 

 な、何でそんな高い所登ったの!?

 脚をプルプルさせながらなんとか地面に降り立った三玖は、なんかお婆ちゃんみたいだった。

 

「はぁ……はぁ……、学校には、はぁ、話せた?」

「ほ、本当に大丈夫?……うん。応援してくれるってさ。もうこれで戻れない。

 私にはこの道しかない。覚悟が決まった気がするよ」

「そうかな?一花なら何でも器用にこなせる気がするけど」

「私もそう思ってたんだけどなー。仕事と学業の両立ができる程、現実は甘くなかったよ」

 

「──本当に?」

(嘘だ──)

 

 私は嘘つきだ。

 知っていたけど、どうやらその嘘つきっぷりは、筋金入りだったみたい。自分の気持ちを誤魔化さなければ、ロクにステージに立てないほど。

 こんな惨めな思いをするくらいなら、最初からフー子ちゃんを取り合うなんてことしなければよかった。外野で、妹達が女の子取り合ってるのを見て面白がってた方がよっぽど楽だった。

 何でそうしなかったんだろ。

──それほどまでに、好きだったからか。

 

「お仕事が忙しくなったのは知ってる。この先大きな仕事があるのも分かった。

──でも学校辞めなきゃいけない?期末試験の時みたいに、仕事と勉強を両立することってできたりしない?

──それとも、他に要因があるの?私といることが辛いとか」

「!ち、……違うよ。……辛いのは三玖といるからじゃない。フー子ちゃんと一緒にいると自分が許せなくなるから。

 一緒に卒業したいよ……」

「それなら……!」

 

 ここまでだ。

 本音を噛み殺せ。

 中野家の五つ子は、私がいない方がよっぽど上手くいくのだから。

「なんちゃって。へへ」

 私では分不相応だったのだ。二乃あたりが長女の役割を代わってくれるなら、喜んで代わってほしいものだ。

 世界を歪な笑顔で塗り固めろ。

 たとえ誰に会ったとしても。

 フー子ちゃんに会ったとしても……

 え、なんでここにいるの。

 

「ぜはぁーっ、ぜはぁーっ、や、はぁ……やぁー、偶然〜〜」

「………フー子ちゃん、何でここに」

「きゅっ、はぁ、ひっ、きゅはっ」

「と、とりあえず水飲んで!」

「ぷはっ………ありがと」

 

 き、気が狂う!

 何かペース持ってかれてるし!フー子ちゃんは、もう、私の気も知らないで!

 

「一花、休学だよ」

「………っ」

「出席日数と一定の学力を示せれば、また復学して卒業までできるみたい。この手段を選んで!五人で卒業したいという気持ちがあるなら!」

 

 その申し出は嬉しかった。

 が、それを受けるわけにもいかない。

 

「意外だなぁ。君は後押ししてくれると思ったのに。……一定の学力?これからずっと撮影と稽古だよ?ただでさえお馬鹿なんだから、授業も出ないでそれは無理」

「そうだね。けど、私がいれば話は別!」

「……どういうこと」

「また一花が個人的に私を雇うの!一花の時間に合わせて私が一対一で教える!学力は絶対に落とさせない!」

 

 ──試して、みようか。

 ここで私の意にそぐわないならば──。

 

「フー子ちゃんは優しいね……

──何でそこまでしてくれるの?私がパートナーだから、かな?」

「………それは私が……」

「?」

「………ビジネスだから。生徒一人分の給料が貰えなくなったので、どこかで補う必要ができたの」

「そう。ごめんね。そのビジネスには乗れないや」

 

 少なくとも、林間学校の時のフー子ちゃんは私を無条件で応援してくれた。

 ならば。

 今更そんな説得では引き下がれないよ。

 フラフラと歩いた。

 考えることが億劫になって、身体を世界に投げ出した結果として歩いているような不恰好な姿。

 辿り着いた先は、私がいつもコーヒーを買いに通っている店だった。チェーン店とはいえ、もうここにも来ることはないのかもと思うと、名残惜しくなって、お気に入りのフラペチーノを一杯注文した。

 いつもは甘ったるいと感じるのだが、それさえも感じることはなかった。

 漫然と、ストローに口を運ぶ。

 そうして頭を空にしていると、思い返すのはフー子ちゃんのことばかり。

 

「にが……」

 

──彼女のことを考えると、有り得ない味がやって来る。

 今は七月。

 花火は、きっともう一緒に見られない。

 

 




今季のアニメももう終わりか……。
プリコネ・かぐや様・はめふら最高だったな……。
波よ聞いてくれ見るべきだったかな……。

来季?
炎炎とハイキューとリゼロ!!
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