五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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屋上の告白

「あっ」

「げっ」

五つ子と学校の前でバッタリ出くわした。見たこともない外国の車だったから思わずジロジロと見ちゃったけど、その中にまさか例の五つ子がいるとは思わないじゃん?

 

「皆んな、一昨日のテストの復習は当然したよね」

「………あー」

「…………問一」

「……………」

「厳島の戦いで毛利元就が破った武将」

「……………」

復習してないのか…。

この五人は極度の勉強嫌いらしい。

ついでに言うと私の事も。

なんだか距離取られてるし。

 

「あれ?三玖、さっきの問題の答え正解してる……当てずっぽうで書ける名前じゃない筈だけど……」

じゃあ何で答えなかったの?

!机の中に手紙が入ってる。学校で手紙といえば内容は想像できる。まさかこれって……

 

「ラブレター?うわっ、学業から最もかけ離れた愚かな行為をする奴がこの学校にいるとは思わなかった」

もっとも、こういう呼び出しの手紙を貰ったのは一度や二度じゃない。でもその度に断って、段々声もかけられなくなった。お陰で勉強に集中できる。

勉強で忙しいからって言って振ってるけど、適当に理由を言ってあしらってるだけ、みたいな事を言う輩もいる。本当に勉強で忙しいからね。

 

「えっ……差出人、三玖?」

『昼休みに屋上に来て。フー子に伝えたい事がある。どうしてもこの気持ちが抑えられないの』

抑えろ。

あんたの人生のピークは学生時代になるよ。

つーか、これイタズラ?イジメ?でも行かなきゃそれはそれで面倒そうだしなぁ…

 

「良かった、手紙見てくれたんだ」

程度の低いイタズラじゃないのか……

「誰にも聞かれたくなかったから」

あれっ。

雰囲気やばくない?

「ずっと言いたかったの。す……す……」

えっ、マジで?

 

 

 

「陶晴賢」

 

 

「陶晴賢……」

「うん、陶晴賢。よしっ」

「えっ」

「言えた。スッキリ」

 

???

 

「何のこと?」

「問題の答えだけど」

 

………あぁ〜…

 

いや待てよ。

 

「何故このタイミングでっ……!」

「あっ」

「あー!ご、ごめん」

肩を強く掴んで携帯が溢れた。

画面には風林火山の文字。武田菱?

「見た?」

「え、うん……」

「……だ、誰にも言わないで。武将、好きなの」

 

曰く、四葉から借りたゲームをしてみたところ、武将に強い興味を抱いたらしい。だけど変な趣味だと思われるため、周囲の人にはそれを内緒にしているとの事。

まぁ、確かに、変な奴だけど。

「変じゃない!自分が好きになったものを信じなよ」

打算でも何でも知るか。この子を悲しませるような事はしないしさせない。勉強教えるチャンスだし。

 

「私は武将にも詳しくってね。あー、そういえば前回の日本史は満点だったなあ」

まあ全教科満点なんだけど。

「この学校の学年一位は私。三玖の知らない武将の話もしてあげられるよ」

「……それって、私より詳しいってこと?」

「えっ。ま、まあ。そうだね」

 

日本史の情熱の火が着いたらしい。

マシンガン歴史トーク。日本史の事になると三玖ってこんなに喋るんだ。

武将は、三玖と日本史を繋ぐ唯一の接点。

それをわざわざ見逃す私じゃないよ。

 

「次の家庭教師の内容は日本史を中心にするよ。三玖、受けてくれる?」

「………、そこまで言うなら。いいよ」

勝った!

場さえ整えばどうにでもなる!

昼休みに勉強出来なかったのは痛いけど、一人説得できたのは大きい!

 

「これ、友好の証。飲んでみて」

「え?抹茶ソーダ……えぇ〜…」

変な名前のジュースだなあ……。あんまり美味しそうには見えないけど。

「大丈夫だって」

 

「鼻水なんて入ってないよ。なんちゃって」

「えっ」

「えっ?」

 

…………。

 

え?鼻水?

 

………あー、何か、日本史に関連するジョークとかそういう、あー……。

 

……理解は出来たけど正解はできない。

 

「………もしかして」

「…………」

 

「この逸話知らないの?」

「…………」

 

「そっか。頭良いって言ってたけどこんなもんなんだ」

 

……………。

 

「やっぱり教わることはなさそう……。バイバイ」

 

 

 

 

 

許さない……。

 

「!?な、なんだあれ」

「あんなに本読むの!?」

うず高く積まれた本を見て周囲がどよめいているけれど、関係ない。ええ、意地でも勉強教えてやろうじゃないの。まずは……これ全部覚えてやる!

 

 

 

翌日。

「三玖!あんたの好きな戦国クイズ、今度こそ全部答えるから!」

「武田信玄の風林火山。その風の意味する事は?」

「えっ、簡単……」

「『疾きこと風の如く』でした」

あっ。

逃げた。でももう逃がさない。私からも、勉強からも。

 

「三玖!私はあれから図書室にある戦国関連の本全てに目を通した!今なら、あんたとも対等に会話できる自信がある!」

私から逃げながらも、三玖は話を聞いてくれたようだった。

「……戦国しりとり。龍造寺隆信」

「ぶ………ふでもいい?」

「いいよ」

 

「福島正則!」

「龍造寺政家」

「江戸重通!」

「……ハァ、長曾我部元親」

「か……金森長近」

「ハァ、ハッ……河尻秀隆」

「またか……片倉小十郎!」

「ハッ、上杉け……景勝」

「ハッ、ハッ、津田信澄!」

「み、三好……ながよし……」

「しまづ……とよひさ……」

「………真田幸村」

「ら!?ら……ら……あぁっ、もうダメ…」

 

ばたんきゅー。

二人とも芝生の中に倒れ込んだ。

ははは。私のスピードと張り合えるなんて。やるじゃん。クラスで一番の成績だよ。下から数えてだけど……

のど、かわいたな。……ちょっとおどかしてやれ。

 

「ひゃっ!?」

あはは。ちょっと意地悪だったかな。

「これ。好きなんでしょ?110円は手痛い出費だけど……もちろん鼻水は入ってない」

「!」

「石田三成が大谷吉継の鼻水の入ったお茶を飲んだエピソードでしょ。まあ、最後は四葉に携帯で調べてもらったんだけど」

「……四葉?言ったの?私が武将好きって」

「言ってないけど、姉妹にも秘密にする必要あるの?誇っていいと思うけど」

「姉妹だから言えないんだよ」

 

「五人の中で、私が一番落ちこぼれだから」

自嘲気味に言ったその言葉で気がついた。私はこの子のこと全然理解してなかった。

何やってんだ、私。勝手に分かった気になって浮かれてんじゃん。

自分の趣味に自信がないんじゃなくて、自分に自信がないんだ。この子はあの時の私と同じだ。

 

「私程度にできること、他の四人にもできるに決まってる。五つ子だもん」

「…………」

「だからフー子も私なんか諦めて……」

「できないよ。私は五人の家庭教師なんだから。それに、三玖の言葉を聞いて自信がついたんだ」

「え?」

「三玖にできることは他の四人にもできる。という事は、他の四人にできることは三玖にもできる、って訳でしょ」

「!そ、それは……そんな考え方したこともなかったけど……」

「これね、この前のテスト結果。正解した問題が一つも被ってないんだよ。確かにまだ、平均20点の問題児かもしれない。けど、皆んながバラバラってことは、さ。皆んなが100点取れる力があるって事だと思う。私はそれを信じてる」

 

「まだ自分が信じられないのなら、私を信じてみてほしい。私が絶対、三玖達を赤点回避させてみせる!」

「……なんでそこまで、必死に」

「必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ。ってね」

「あ……」

織田信長の台詞だ。

彼も一国の主に過ぎない田舎者だったが、必死に生きて下剋上を果たした。

全員赤点候補?面白いじゃないの。全員を無事卒業させてみせようじゃない。

 

「……ホント、五つ子を過信しすぎ。フー子ったら、もう……そこまで言うんだったら……」

 

 

「責任、取ってよね」

「うん。任せて」

 




三玖のやったゲームって戦国BASARA系なんでしょうか。髭のおじさんって言ってたから違うような気もするけど。でもその場合、中々マニアックなゲームやってる気が……。四葉、お前はどこでそれを買ったんだ。

三玖が一番変装が得意って設定ありますけど、これは『五つ子にできることは自分にもできる』というのを無意識のうちに体現しているんじゃないかないですかね。
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