五等分の花嫁 -上杉風子の場合-   作:悠魔

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なッ
ジャンプの連載陣が軒並み終了になってくよォ〜!?


十二巻
I'm finished making sense. Done pleading ignorance. That whole defense. may day


 

「うえーん」

「よしよし。四葉はよく頑張りましたよー」

 

 風子に告白し、ものの見事に失恋した四葉は五月に泣きついていた。彼女の性格上人に弱みを見せることは殆どないのだが、五月には以前情けない自分の姿を晒した経緯がある。四葉は五月に対してはありのままの弱い自分でいられたのだ。

 無論、他の姉妹に心を開いていないというわけではないが、四葉が弱い自分を見せられるという意味では五月が最適だったのだ。

 

「それにしても。上杉さんが四葉を振ったということは、ほかに誰か好きな人がいるということなのでしょうか」

「ええ……?見てればなんとなく分からない?」

「えっ」

 

 四葉のあっけんからんとした物言いに五月は動揺する。マジか?色恋沙汰には疎い五月だ、風子が好きな相手など分かるべくもない。

 

「えーっと、ヒ、ヒントだけでも貰えませんか?上杉さんが誰に好意を抱いているのか私も興味があるので……」

「ええ……?んー……」

 

 四葉は少し考えて、

 

「その人の名前の一番最初の文字は『あ行』」

「ふむふむ」

「二番目の文字は『た行』」

「ほうほう」

「三番目の文字は『か行』。あ、下の名前の方ね」

「なるほどですねー」

 

(あ、これヒントっていうかもう言ってるようなものだ!)

 

 上杉風子と共に行動する人間など限られている。

 その中でその条件に該当する人間など一人しかいない、よって四葉はこれがヒントどころか答えそのものを教えているのと同じだと理解した。彼女の頭は咄嗟に最適解を導き出せるほど上等にはできていないのだ……。

 

(まあ、いいよね!)

 

 しかし持ち前のポジティブシンキングさで気にしないことにした。

 どうせ五月も知る運命なのだ、放っておいても問題はないだろうと。

 だが彼女は勘違いしていた。

 下の名前が『あ行』『た行』『か行』で構成されている人物は一花だけではなく、もう一人いるということに……。

 

「上杉さんの周りで……三文字で……先の条件に該当する人物ですか……」

 

 あ行→い

 た行→つ

 か行→き

 

 中野五月、ファイナルアンサー。

 

「っ て 私 ー っ ! ?」

 

 当然勘違いである。

 しかし中野家はどれだけテストの点数が高くなろうと根本的な部分で馬鹿であり致命的に阿保なのである。五月の勘違いは止まることなく加速した!

 最初の中間テスト辺りをきっかけとして、雪山での遭難イベント。そして二乃の家出を経て互いに信頼度を高め合い、そしてらいはと仲が良いことでコンスタントに実家で会う関係となっている!

 その関係を客観的に見るなら、さながら通い妻!

 会う頻度は何気に一番高い!!

(実際には風子の想い人は会う頻度が一番少ない一花)

 

「そ、そうです、私何気にあの人の家まで知っててご家族ともお知り合いじゃないですか…!そういえば三玖も言っていました!好きな人は胃袋から攻略(される側)すべしと!」

 

 しかも何気に彼女と初めて会ったのは五月!

 つまり一番最初に出会ったヒロイン!

 こういうのは一番最初に出会ったヒロインがメインルートを飾るのがお約束だと聞いたことがある!

 ある……!メインヒロインの風格……!

(実際に一番最初に会ったのは四葉)

 

「どっどっどうしましょうどうしましょう!大嫌いかーらー!大好きへーとー!かーわーるー心にー!ついてーいけーなーいよー!」

 

 五月はパニクっていた!

 一体フー子はどういう感情で接してきていたのか!

 一体今何を考えているのか!

 勉強だーけーじゃーなーくてー!きーみをー!

 知ーりーたいよー!

 

(でも上杉さん、ごめんなさい。私の答えはもう決まっているんです。それは皆んなの恋を応援すること……あの時ボートで零奈を演じた時から貴方に必要なのは本当は繊細な貴方を引っ張ってあげられるような人だと思っていたんです。

 それに、皆んなは貴方に対して真摯に向き合ってきたのですから。それを私は応援したい……)

 

 五月は上杉風子を振る覚悟を決めた。

 風子からしたらたまったもんじゃねえ案件である。

 だがまあ、彼女も何だかんだこの一年を通して人の話をじっくり聞くことができる人間に成長したわけである。五月の話をちゃんと聞けば誤解が晴れる可能性はあった。

 しかし状況とタイミングが事態を悪化させた!

 翌日、「大事な話があるんだ」と言って風子は五月を呼びつけた。ああ、これは告白だなと考えた五月は開口一番、言った。

 

「ごめんなさい上杉さん貴方とは付き合えません!」

「えっっっっ????」

 

 風子、困惑!

 何言ってんだコイツ!

 

「上杉さん、私のことが好きなんですよね!?でも駄目です!上杉さんにはもっと魅力的な人がいます!割と近くに!」

「えっえっ?」

 

 五月は露骨に視線を逸らした。

 その先には一花がいた!

 風子としては一花と付き合うことになったことを報告しに五月を呼んだだけなのだが、まさかの急に振られるという訳の分からない状況に陥っているわけである。

 そして彼女になったばかりの人物にその発言を聞かれたわけで。

 

「フー子ちゃん?」

 

 ぴきぴきと、一花の顔に青筋が浮かんだ。

 キレていた!

 五月は「私のことは気にせずにお二人で幸せになってくださいね!ファイトです一花!」という意図のウインクをばちこーん☆と送ったわけだが、一花からしてみればそれは挑発以外の何物でもなかったのである!

 圧がすごい!

 口は笑っているのに目が全く笑っていない!怒りを通り越して殺意が彼女から放たれていた!

 慌てて、フー子は誤解を解くことにした。

 

「えーと、何を誤解しているのか分からないけれど、私、一花と付き合うことになったから……」

「えっ」

 

 五月、困惑!

 何言ってんだコイツ!

 

(な、何故一花と!?四葉の情報が間違っていたとでもいうのですか!?ハッ!それとも私をからかっていただけ……!?)

 

「そ、そんな……嘘……あれは(四葉の)冗談だったんですか!?」

「え!!?私何かしたっけ!?」

「フー子ちゃん???」

「い、一花!?圧が凄いよぉーっ!?」

 

 五月の残念な思考回路は新しいカップルの間に早速軋轢を生じさせていた。

 この後滅茶苦茶誤解解いた。

 

「す、すみません!あらぬ誤解をさせてしまって!」

「まったくだよ。私にとっての一番は一花だから」

「………そっか!うん!それならいいよ!ところで上杉ちゃん私ちょっとう喉渇いたからコーヒー買おうと思うんだけど来る?奢るよ!」

「行く行くー。でも奢らなくっても大丈夫だよー」

 

 ルンルンの一花に連れられてコーヒーショップへと向かう風子を見送ると、まあ結果オーライだと五月は胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 ぽろぽろと。

 予想だにしない涙が目元から溢れていた。

 嘘、なんで、という訳の分からない感情が溢れる。

 

(なんで。こんなに、切ないのですか)

 

 二人でいるのを見るのが辛いなんて……。

 自覚はなかった。

 なかった、のに、なんでこんな気持ちになる。

 五月は携帯を開く。そこには、いつだか上杉家の二人と撮ったプリクラがあった。家族写真だと揶揄されて、恥ずかしくて、でも大切に取っておいたこの思い出。

 五月は元来、不器用な人間である。

 目の前の出来事には全力で取り組める代わりに、周りが見えず、後先考えずに行動してしまうという悪癖があるのだ。ようやく気付く。無意識の内に、惚れていた。

 五月の中にあの幸せそうな顔をした一花から風子を掠め取るなどという選択肢など存在しない。

 家族と親友を一度に取られた気分だ。

 

 違う五人全員が風子と付き合って幸せになるハッピーエンドなど、現代日本には存在しない。それも、姉妹同士なのだ。逃げることなどできない。会わなくてはいけない。

 

(あれ?でもそれなら、上杉さんは何故誰かを選ぶという選択を取れたのでしょう)

 

 上杉風子は、自分が火種を持ち込んだと感じて勝手に家庭教師を辞めるくらいには自罰的な人物だ。

 それが、五人の心に不和を生むような選択を取れたという違和感。多分、彼女ならその不和を感じて告白から逃げる筈だ。

 

(……彼女が私達の絆を信じてくれたからでしょうか)

 

 きっと、自分達なら大丈夫だと甘えてくれたから?

 ……甘えてみようか。

 自分の姉妹達に。

 上杉風子という人間に。

 

 自分達を見捨てず何度もぶつかってくれた上杉風子は、きっとその想いを受けたところで不器用なりに一生懸命に中野五月という人間に向き合って返事をしてくれる筈だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです、上杉さん」

 

「頑張り屋で、不器用で、優しくて」

 

「そんな貴方が好きでした」

 

 それを言われた上杉風子は、困惑して、しかしそれを受け止めて、言い辛そうに、だけど真剣に返してくれた。

 

「──────」

 

 五月は、涙を流して、しかし晴れやかな気持ちで、その返事を受け入れることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えと……それで、五月ちゃんはそれでいいの?」

「ええ、はい。一花の恋を邪魔する気はないですから。それに、上杉さんにはバッサリスッパリ振られちゃいましたしね」

「うん……でも」

「でも、あんまり私達の前でイチャイチャするのはやめてほしいなあと思ったり思わなかったり」

「ぐっ!返す言葉もない……」

「………自信を持っていいですよ。貴方が惚れた女性は、私が好きになった女性は、これくらいのことではヘコたれませんから!」

 

 

 

 知らず五月に降り注いでいた雨は晴れて、より美しい空に美しい月が浮かぶ。

 きっと。

 雨が上がった後の土はより固くなるはずだ。

 

 

 

 

 

『 I'm finished making sense. Done pleading ignorance. That whole defense. may day』

 

──end──




五月が風子に惚れてたら、という話。
全てが終わった後の恋だけどでも立つ鳥跡を濁さずの方が良いよね。

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