鳴り響く花火の音。
見たら誰もが笑顔になるだろう、夏の風物詩のひとつ。
きっと仲の良い男女や、家族同士で見ればその楽しさも倍増すること請け合いだろう。
「日本で最初に花火を見たのは徳川家康という説があってね」
「………」
「花火の起源は中国なんだけど」
「…………………」
「ヨーロッパを経て種子島に鉄砲と共に伝わり……」
「つまんない!何であんたと花火見なきゃいけないのよ!?」
「あんたが悪いんでしょ!」
だめだこりゃ。
何でよりによって一番仲の悪い二乃と一緒になるかね。せめて五月あたりならまあ、らいはの話題で盛り上がれたりしたのに。
「!二乃、携帯鳴ってる」
「ほんとだ……四葉!妹ちゃんも一緒?もう花火始まってるけどどこにいるの?……え?時計台?分かった、そっち迎えに行くからそこにいなさい!……ぼさっとしてないで、あんたも早く電話しなさいよ」
「しょうがないな……」
私の携帯のアドレス、二件。
あ行。
上杉らいは、お父さん。
終わり。
「だめだこの携帯使えない!」
「使えないのはあんたよ!頑張って宿題も終わらせたのに!なんでこうなるの……」
「あれ?」
ビルの上から五つ子を探していて気が付いた。あの浴衣、それにあの髪の長さ……もしかして、たぶん。
「あれ、一花じゃない?」
「え!?あ!ほんとだ!……んん~…どうして携帯に出ないのよ……」
「気づいてないっぽいね……」
……そういえば、三玖が言ってたな。「花火はお母さんとの思い出なんだ」って……。
……仕方、ないね。
「私が連れてくる。あんたと二人っきりも嫌だしね」
「!……ふん、アタシこそ……なんでもない。一花は任せたわ」
「任せな。あんたの大好きな家族は絶対連れてくるから」
「っ!ちょっ、どうしてそれを……」
見りゃ分かるっつーの。
日頃のお返しだよ。さて、と……。
「あぁ、いたいた。一花!」
「!後で掛け直します……」
「?他の姉妹と電話……?まあいいや、早く店に戻るよ」
「ちょっと待って」
「うん。うん?」
一花と私の間に、知らないヒゲのオジサンが割り込んできた。
「君、誰?」
あんたこそ誰だよ。
いやほんとに知らないぞ、このオジサン。
「一花ちゃんとどういう関係?」
「えっ」
関係……?
「私は、その……友達……」
いや、四葉はさっき私のことを友達と言ってくれたけど、私からすれば家庭教師の事がなければ知り合ってすらいなかった。それを友人と呼ぶのは……。
「教師……関係者………」
いやでも、ピンと来ない。そこまで立派な関係でもないというか……。
「知人?」
それだ。
「知人だけど」
………あれ、二人ともどこいった?
「知人ですけどーー!?」
どういうつもりなの、一花。
「フー子?」
「!一花……じゃ、ないね。三玖!よかった、よく私を見つけられたね」
「うん……目立ってたから」
「?そうだ、一花を追いかけるから、付いてきて!」
「っ、痛っ……」
げっ。
足、踏まれてる……。ちょっと赤くなってるし……。
「フー子は先行ってて」
「……。放っとけるわけないでしょ、ほら。こっち来な」
「えっ?」
私の力じゃ、この子をおぶって動き回るのは
絶対無理。
だからせめて、怪我の手当てだけでもしないとね。
「はい、もう大丈夫。しばらくの間は痛むかもしんないけどね」
「あ……う、うん……ありがとう。フー子、怪我の手当て上手だね」
「まあ、昔怪我した時にお父さんが手当てしてくれたんだけど、それがへたっぴで。しょうがないから自分でやるようになって、いつの間にか上手くなってただけだよ」
「そうなんだ。……それで、一花を見たってのは本当?」
「うん。でも、髭のおじさんとすぐどこかに行っちゃって……。心当たりある?」
「……あ。確か、前に一花が髭の人の車から出てきたの見たかも……」
なにそれ。
怪しい関係だったりしない?
いや、まあ。どうでもいいけど、あと40分しかない。何やってんの、あの子。
「このままじゃ五人集まる前に花火終わっちゃうよ……」
「……勉強関係ないのに協力的。フー子のくせして」
うるさいな。
「思うところあるんだよ。このために必死に宿題やってるのも見たしね。……立てる?」
「ふふっ……。うん」
「すみません、花火大会に来られた方にアンケートをしてるのですが……」
何だ突然。急いでるのに……。
「答えていただいた方には100円分の引換券を差し上げてます」
い、いそいでるのに……!
「一つだけでも!お二人はどのようなご関係でしょうか?」
どのような?
関係?
髭のおじさんにも同じ事言われたな。
「やはりお友達とかでしょうか?」
「はい、友じ……」
「ただの知り合いですよ」
「………っ」
ん?それより同級生でいいのかな。
うーん、それだけだと足りない気もする。
顔なじみ?
依頼人?
「フー子!」
うわっびっくりした。
いつの間にかインタビューの人もいなくなってるし。
「ど、どうしたの」
「………ううん。なんでもない」
………あれっ。何だろ、この違和感。
笑ってるのに、すごく寂しそうな。
「あ、フー子。あれ見て」
「!五月……呼んでくるから、待ってて」
「分かった」
「五月!」
「!………なんだあなたですか」
「残念さを少しは隠しなさい」
二乃は屋上で待ってる。三玖は休んでるし、四葉とらいはは時計台にいるって連絡があった。
後は一花だけか。
「脇道に三玖がいるから、ひとまず合流しよっか」
「分かりました」
……それにしても。
髭のおじさんといい、インタビューの人の時といい、今日はよく同じワードが出てくるな。
「……一つ聞いていい?」
「なんでしょう」
「私達ってどういう関係?」
「なんですかその気味の悪い質問……そうですね。百歩譲って赤の他人でしょうか」
百歩譲ってもかー。
「私に聞かずとも、あなたはその答えを既に持ってるじゃありませんか」
「え?」
「今はそれより一花です。どこにいったのでしょうか……」
ほんとだよ。あっちこっちほっぽり歩いて。
「よかったー、五月ちゃんと合流できたんだね」
そうそう、五月と合流できたのは不幸中の幸い……
って。
「一…」
「こっち来て」
「え?」
ちょっと。五月、気付いてないよ。私を連れてどこに行くの?
五月を無視して、何が目的なの?
花火、五人で見るんじゃなかったの……?
「ははっ、いーからいーから」
……まただ。この違和感。
何だろ、この笑顔の……薄っぺらい感じは。
連れて来られたのは、ビルの合間の、人気のない物陰だった。
「ここでいっか。……さて、フー子ちゃん。さっきのことは秘密にしておいて」
「………?」
「私はみんなと一緒に花火を見られない」
………何で?
「急なお仕事頼まれちゃって。だから今年は花火は無理。ほら、同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ」
「それは無理でしょ……。ちょっと、ちゃんと説明してよ」
「なんで?」
えっ。
「どうしてお節介焼いてくれるの?」
「それは……」
「私達の家庭教師だから?」
「………確かに!」
いやほんと、客観的に見て、なんで余計な面倒見てるんだって話だよね。
「うん。じゃあ、そういうことだから……あ。やばっ」
あれ。さっき一花といたオジサンだ。
「あの人仕事仲間なんだ。……やば!こっち来た!」
「仕事仲間ならいいんじゃないの?」
「どうしよう、仕事抜け出して来たから怒られちゃう!」
知らないよ。
「ちょっとフー子ちゃん、こっち来て!」
えっ。
私と一花は抱き合う姿勢になった。
確かに、オジサンからは顔は見えないけど。
これってどう思われてるんだろ。女の子同士のハグ……。
「……ふふっ。私達、傍から見たら仲の良い友達に見えてるのかな?それとも、女の子同士の恋人、とか?」
「バカな女子二人じゃないの」
「もう、フー子ちゃんったら。……でもなんだか、本当は友達なのに、悪いことしてるみたい」
友達。
四葉の台詞がフラッシュバックする。
『もう私達は友達ですので!これからは上杉ちゃんと呼ばせていただきますよ!』
あの時も思ったけど。
「私達って、友達なの?」
「え?」
「私はただの雇われ教師。それさえ無かったらあんた達と接する事もなかった。そんな関係を友達って言うのは違和感が……」
「なにそれめんどくさっ」
うわ。ズバッと言われた。
「私は友達だと思ってたのに、やっぱりフー子ちゃんは違ったんだ。傷つくなあ~」
次に思い出したのは、三玖の違和感のある笑顔だった。
……もしかして。
あの時の三玖も、本当は傷ついていたのかな。
「……そういや。あんたの仕事って何なの」
「実はあの人カメラマンさんなんだ。私はそこで働かせてもらってる」
「あー、カメラアシスタント……」
そういえば、私のお父さんもそれ関係の仕事だなー。
「良い画が撮れるように試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」
「……あんまり、こういう事は言いたくないけど。あんた達は進学すら怪しいんだよ?今そんなことして大丈夫なの」
「むー……じゃあ、フー子ちゃんは何のために勉強してるの?」
………何のため、か。
それはやっぱり……自分のためっていうのもあるけど。五年前の、あの子のため……。
「見つけた!」
「え!やばっ……」
「こんなところで何やってんの!言い訳は後で聞く、早く走って!」
オジサンは手を引いてさっさと行ってしまった。……一花じゃない、他の誰かの姉妹の、手を引いて。
「三玖!?」
「ああ、あれ三玖ね!あー…髪型変えてたから分かんなかった……」
つーか早く追わなきゃ。
よかった、あんまり離れてない。今なら追いつける!
「待ってくださーい!……ったく、もう!あんた、なんで仕事抜け出してきたりしたの」
「………言いたくない!どうやらフー子ちゃんとは友達じゃないらしいし」
そうは言ったけど。
ていうか、関係ないか。この子達が何をしてようが、私には関係ない!
関係……。
あ、そっか。
「オジサン、待って。手を離しな」
「!?君は……さっきの!何なんだ?君はこの子の何なんだ!」
「私は………」
この関係を友達とは言えないけれど。あの時とっさに出た言葉が一番しっくりくる。
「私は、この子の……。この子達の……」
気付いちゃえば簡単だった。
「パートナーだよ。返してちょうだい」
……あれ、なんかちょっと私痛くない?
テンション上がって変な事言ってない?大丈夫かな、私。なんか恥ずいな……。
「な、何を訳の分からないことを!」
うんまあ、そうなるよね。でも。
「よく見て!この子は一花じゃない!」
「その顔は見間違いようがない!さあ早く……!」
「聞きなって、オジサン!」
「うちの大切な若手女優を離しなさい!」
えっ。
カメラで撮る仕事って、そっち?
風古戦場に向けてミリン育ててます。うちのジータちゃんもメカニックにしたけど、コンパニオンてなんやあれ、どうすればええんやあれ