ライザーとのレーティングゲームから2週間程が経過し、一子は悪魔の活動に精を出す毎日であったが、ある日、学校から帰ると懐かしい顔に出会うことになった。
「一子ちゃん! 悪魔になったって本当!?」
帰るなり、そんな感じで飛びかかってきたのは近所に住んでいたイリナだった。
「おじさんやおばさんから聞いたよ! 悪魔になったって!」
「うん、なっちゃった。ところで、そっちは?」
イリナの横にいた人物に一子は視線を向ける。
「私はゼノヴィアだ。しかし……何というか、お前、随分と非常識だな。両親に悪魔になったって話したと聞いたときは目が点になったぞ」
「私もだよ! どうして悪魔に!」
「……とりあえず、私の部屋に行きましょうか」
玄関先で騒ぐのは良くないという一子の提案に2人もまた承諾した。
場所を変えて、一子の部屋でイリナが色々と彼女達の立場を説明する。
教会の聖剣使いとして、この街に仕事で戻ってきたとのことだ。
「聖剣ってどれ?」
「これだよ、これ! 私のはエクスカリバー・ミミックっていうの」
「ちょっと失礼」
イリナに断りを入れて、一子はエクスカリバー・ミミックを触らせてもらう。
「イリナが持っていていいから、刃を見せてもらってもいい?」
『相棒、何をする気だ?』
『ちょっとした実験を。超位魔法の効果を確認するのよ』
ドライグにそう答えながら、イリナの返事を待つ。
「うーん、いいよ。何なら、ここで私が斬っても……」
「それはちょっとだけ待って」
一子の言葉に不満げな顔をしながら、イリナは鞘からエクスカリバー・ミミックを引き抜いた。
一子はその刀身を見ても、まるで脅威を感じなかった。
ならば、と彼女はその切っ先に己の指先を押し当ててみせる。
ちくり、とした痛みと共に流れ出る赤い血。
イリナもゼノヴィアも驚愕した。
それだけで済んでしまったことに。
『天使と堕天使、人間、龍、悪魔。それら全てがお前であるのだから、ある意味当然の結果だな……俺も長いこと生きているが、ここまでごちゃ混ぜのヤツは初めて見たぞ』
『ええ。これで確信した。特別な効果を有さないってことを。まあ、アーシアと一緒にお祈りの真似事をしてみたり、聖書を大声で朗読したりして一応の確認はできていたのだけれど』
それを見たときのレイナーレ達の驚きようも、今のイリナとゼノヴィアのようだったな、と一子は思い出す。
「え、どういうことなの? 実は悪魔になってなんかない……?」
「こんなことは初めてだが……」
困惑する2人にもう一つ、一子は驚かそうと企んだ。
「それ、エクスカリバーだったわね? 実は私も持っているのよ。たくさん」
そう言いながら、ユグドラシルにおいて対悪魔に特化したエクスカリバーを無限倉庫の中から引っ張り出す。
見るからに神々しい気配を放っており、それを一子は鞘から引き抜いた。
見る者を魅了する純銀の刀身にイリナとゼノヴィアは無意識的に祈りを捧げ始めた。
「どうして一子ちゃんがエクスカリバーを持っているの?」
お祈りを終えたイリナがそう問いかけてきた。
「エクスカリバーなんて、ありふれたものはいっぱい持っているわよ。他にもデュランダルとか色々……」
著名な武器の名前をつけたプレイヤーは多かった、というのが事実であるのだが、一子は当然そんな裏事情は話さない。
むしろ、疑問を持たぬ程度に驚かしてしまおうと指を鳴らす。
すると彼女の背後の空間から無数の聖剣が出てきた。
それらは全てエクスカリバーと名付けられたものだ。
中には真エクスカリバー零式とかエクスカリバーMK5とか色々な形容詞がついていたり、型式がついていたりするものもあるが、ともあれエクスカリバーはエクスカリバーだ。
イリナとゼノヴィアは意識が遠のきそうになった。
エクスカリバーかどうかは分からないが、とにもかくにも、目の前にある剣は全て神聖な気配や神々しい気配を宿しており、悪魔が持てる筈がないものばかりだ。
「何故かというと、私は今代の赤龍帝なので。ほら、ドラゴンって光り物が好きだから。色々溜め込んでいたのを吐き出させた」
『おい俺がやったみたいに言うな。全部お前が持ってきたものだろう!』
ドライグの抗議を華麗にスルーして、一子はそう言った。
なるほど、と納得するイリナとゼノヴィアにドライグはツッコミを入れたくなったが、ぐっと我慢した。
「それはさておき、リアスにはもう会った? 私の主なんだけど」
「これから会うつもりだよ。ちょっと色々と面倒な仕事だから」
「そうなの? それとイリナ、お金は大丈夫? なんか教会って清く貧しく美しくっていうのがあったと思うから、最低限の活動資金しかなさそうで……」
一子の言葉にイリナとゼノヴィアは互いに顔を見合わせ、ヒソヒソと小声で話す。
しかし、無駄に知覚領域が広がってしまった一子には筒抜けだった。
御飯代が、とか宿代が、とか何やら不穏な単語ばかりだ。
「仕方がないわねぇ……はいこれ、あなた達への寄付ってことでいいわよ」
一子は自分の財布から万札を5枚程取り出して、イリナの手に握らせた。
「え、こ、こんなに!? だ、ダメだよ! いくら一子ちゃんだからって、こんな5万円も……」
「そ、そうだぞ。悪魔からの施しは受けない! うん、受けないぞ!」
「2人共、声が震えているわよ。それはさておき、悪魔すらも許してこそ、主の御心ではないのかしら? 悪をも許す、だからこそ主の愛は無限と言われる所以では?」
イリナとゼノヴィアはその言葉に再びヒソヒソと話し合い、そして――
「感謝します。主は、あなたの罪をお許しになることでしょう」
「ありがとう! 一子ちゃん! 実はもうお金がなくて……!」
「いいのよ。困っていたら、助けるのは当たり前だから。何なら、泊まっていく? 部屋はあるし……教会での生活とかそういうの聞いてみたいし。節約しないと、あなた達、飛行機代も足りないんじゃない?」
言い当てられて、イリナとゼノヴィアは項垂れつつ、一子の提案を承諾するしかなかった。
「ということなんですって」
一子がこれまでの経緯を簡単にリアスに説明した。
一子の隣にはゼノヴィアとイリナが座っており、2人の態度は堂々としたものだ。
既にゼノヴィアから今回、駒王町に来た目的が告げられており、その後に一子がゼノヴィアとイリナが居候をする経緯を説明した形だ。
「色々とツッコミたいのだけど……まあ、赤龍帝だから、ということで納得しておくわ」
「教会の聖剣使いを自分のところに下宿させるなんて、大胆ですね」
リアスはコメカミを抑え、朱乃はあらあらうふふ、と笑っている。
その中で何やら複雑な表情をしている者がいるのを、一子は見逃さなかった。
「木場、何か訳ありみたいね。そんな複雑な顔をしているなんて」
「……少し過去にね」
うんうん、と一子は頷いて、ソファから立ち上がって、真っ直ぐに木場の下へと歩み寄る。
そして、彼の両肩をガシッと両手で握った。
「復讐ね? 協力するわ。とりあえず、ヴァチカン潰してくる。あとついでに天界潰してくるわ」
目を爛々と輝かせる一子に木場は思わず後ずさる。
「い、いや、その、確かに教会には色々と思うところはあるけど……」
「何を言っているの? 諸悪の根源は全部潰さなければならないわ。ヴァチカン潰して、天界潰した後に生き残りをじっくりと嬲り殺しにしましょう!」
「待ってくれ。何でそうなるんだ?」
木場の問いかけに一子は告げる。
「そっちのほうが楽しいと思うので。大丈夫よ、たぶんだけど聖剣使いの実験が云々とかそういう系統のやつね?」
「楽しいって……いや、赤龍帝だからなのか? と、ともあれ、確かに僕は君の予想した通り、聖剣計画の生き残りだ」
聖剣計画という単語にゼノヴィアとイリナが反応した。
すかさずに一子が説明を求めると、主にゼノヴィアが説明してくれた。
彼女の説明を聞き終えて、一子はリアスへと話を振る。
「だ、そうだけど、リアスはどうする?」
「そこで私に話を振るのね……」
リアスは溜息を吐いた。
一子が自由奔放であるのは短い付き合いであったが、よく分かっている。
力が強ければ強いほど、性格がおかしくなるのは世界の真理か何かなのだろうか、とリアスは考えてしまう。
ともあれ、それは横において、今回の話だ。
盗まれた聖剣がこの町にあるというのは嫌な話だ。
とはいえ、聖剣使いが2人も送り込まれてきたということは、協力要請はしてきたものの、それは名目上のもので、実際は手出し無用という意味合いだろう、とリアスは考えた。
悪魔の助けを借りて、聖剣を奪還するなど向こうのメンツは丸潰れだ。
「ちなみにだけど、私はイリナの幼馴染という身分で協力するので」
「えー!? 一子ちゃん、悪いよぉ……それに一子ちゃんは悪魔だし!」
「悪魔だろうが何だろうが、そんなの関係ないわね。私がするって言ったらするの。私が言った以上、それは絶対よ」
ドヤ顔でそう宣言する一子にイリナはむーっと頬を膨らませる。
「というか、ぶっちゃけた話、最近は面白いことがなくて、闘争に飢えていて……くくく、今宵のドライグは血に飢えておる……」
『おい俺を引き合いに出すな。お前が戦いたいだけだろうが』
ドライグのツッコミを知らんぷりして、一子はリアスへと視線を向ける。
「ダメ?」
「ダメって言っても聞かないって知っているわ。ただし、戦争になるようなことはやめて」
「大丈夫、これは戦争ではなくて事変だから! 駒王町事変! セーフ!」
リアスはもう考えるのをやめた。
もういくところまでいってしまえ、と。
「仕方がないわね。一子がうっかり天界を消し飛ばしても困るし……一子の監督役として、私も出るしかないわ。というわけで、駒王町の住人という立場で私も協力するわ。善意の市民の協力を、教会が断るわけないわよね?」
ずいっと迫るリアス。
その迫力にゼノヴィアとイリナは冷や汗を垂らしながら、頷く。
「あらあら、それなら私は駒王学園に通う生徒という立場で参加しますわ」
「それなら私もそれで」
「じゃあ、僕もそれで。過去に決着をつけられるかもしれないし」
なんなんだこの悪魔達は、とゼノヴィアとイリナは思ったが、元凶は理解できている。
「これほどに強引なヤツは初めて見たぞ」
「思えば一子ちゃんって昔からワガママだったよね……」
一子がだいたいの原因である。
当人は胸を張って告げる。
「私は世界で一番ワガママよ。あ、それと木場」
声を掛けられ、木場は首を傾げる。
一子は彼に向けて、にこやかな笑みを浮かべて告げる。
「もし1人で抜け駆けして、敵と戦おうとしたら……死はこれ以上の苦痛を与えられないという意味だと教えてあげるから」
「し、しないよ。流石に僕も、命は惜しいからね……」
考えていたことがバレていた、と木場は冷や汗を流したのだった。