聖剣使い達と悪魔達は手を結ぶことになったのだが、同盟を結んだその日の深夜、一子が遠隔視の鏡を使って監視していたところ、怪しい輩を発見した。
その怪しい輩は駒王学園で何やら儀式めいたことをしている。
リアス達へ連絡しつつ、ゼノヴィアとイリナを引き連れて、一子はただちに学園へと向かった。
学園前でリアス達と合流し、また同時にソーナもリアスからの要請を受け、眷属を引き連れてやってきていた。
そして、全員で突入したのだが、そこにいたのはメガネを掛けた老神父であった。
「ふむ、早くに気づかれてしまったが、ちょうど良い」
余裕綽々の態度であるその男はバルパー・ガリレイだとのことで、ゼノヴィアが色々と説明してくれた。
その説明を聞いた後で木場が仇敵であるので倒したい、といった旨のことを言ってきたので、彼に任せることにした。
そんなものよりも、もっと強い気配を一子は感じ取っていたのだ。
「隠れていないで、出てきたらどう? それなりに強い堕天使が一匹、紛れ込んでいるわよ?」
一子は視線を空中に向けて、そう告げた。
彼女の向いている方に視線が集中する。
すると、ゆっくりと彼は姿を現した。
「俺を見抜くとは、それなりにやる奴がいるようだ」
「ええ、それなりに腕には自信があるので。どちら様かしら?」
「コカビエルだ」
一子は口笛を吹く。
大物が出てきたからだ。
「ようやく、戦いらしい戦いができそうだわ」
『おお、ようやくか! ようやく俺をマトモに使うか!』
これまで全く戦いというものができなかった一子とドライグはやる気満々だった。
「一子、相手は旧約聖書にも出てくるような堕天使の幹部よ」
リアスの言葉に一子は獰猛な笑みを浮かべてみせる。
「勝てるわ。あ、でもそうね……私にいつまでもおんぶにだっこだとアレなので、ちょっと戦ってみなさいよ。いい経験になるわ」
「俺を練習台にでもするつもりか? いい度胸だ……と怒るところではあるが、お前からは底知れないモノを感じる。何者だ?」
「今代の赤龍帝で、禁手化に至っているのよ。理解して頂けるとありがたいわ」
コカビエルは笑みを浮かべる。
「あの忌々しいドラゴンか。俺は構わん。戦争さえ起こせればどうでもいい。元々、聖剣使いから聖剣も奪う予定であったしな」
「だ、そうよ」
一子はそこで話をリアスへと振った。
「……善意なんだろうけど、なんだか複雑」
リアスの言葉にうんうんと一子以外の全員が頷く。
「リアス、あなたの眷属は中々特殊ですね……眷属が主人を顎で使っているように感じます」
「ええ、ソーナ。最近、私もそう思えてきたわ。いい子なんだけど……強すぎるせいか、自由奔放で……」
「……なぜでしょうか、姉の顔が浮かんできました」
「奇遇ね。私もお兄様の顔が浮かんできたわ」
はぁ、と溜息を吐く2人。
そんな2人に一子は不満げな顔だ。
「いいからさっさと戦いなさいよ。フィールドは整えてあげるから」
一子はそう告げて、唱えた。
世界が書き換わる。
駒王学園の校庭から、一瞬にして草原へ。
夜から昼へ。
誰よりも早く、反応したのはコカビエルだった。
彼は大声で笑う。
そして、彼は告げる。
一子へのみ殺気を集中させながら。
「化け物め。世界を創造しやがった」
「ありがとう。最高の褒め言葉よ」
一子が答えたところで、ようやく彼女とコカビエル以外の全員が我に返った。
リアスは震える声で問いかける。
「一子、何をしたの?」
「簡単よ、リアス。私は通常空間で全力を出すと世界が耐えられなくて壊れてしまうの。だから、私が全力を出せる世界を創ったのよ。この世界から帰る方法は2つ。私を殺すか、私が解除するか、そのどちらかしかないわ」
そう言いながら、一子はリアスに微笑む。
そして、告げる。
「リアスも生徒会長も他の皆も、私からすればたんなる少年少女にしか見えないわ。だって、私ってこんなに可憐で美しくて、それで冷酷で残酷な化け物なんですもの」
一子の言葉にリアスは震える体を戒めるように、ぐっと全身に力を込める。
そして、毅然として告げる。
「あなたは私の眷属よ。あなたが強いことは私に箔がつくからちょうどいいわ」
そういう返しがくるとは思っていなかった一子は、きょとんと首を傾げる。
「おい赤龍帝。そんな小娘の眷属など、つまらないだろう? そいつではお前を制御などできまい。お前の力は聖書の神すら超えるだろう……もっとも、もう神はいないがな」
コカビエルの言葉に視線が一斉に集中する。
特にゼノヴィアとイリナは体の震えが目に見えて分かる程に動揺している。
一方、神がいないという純粋な知的好奇心に駆られた一子が目を輝かせて尋ねる。
「神は死んだってやつかしら?」
「ああ、そうだ。かつての大戦で魔王達と共に聖書の神も死んだのさ。ミカエルはよくやっていると俺でも思う」
「神が遺した制度というか、システムというか、そういうものが?」
「そうとも。ミカエルをはじめとした熾天使連中が神が遺したシステムを動かすことで、人間達の言うところの奇跡やら神の愛やら悪魔祓いの力やらそういうのが発動することになっている」
「ペラペラ喋っていいの?」
「別に構わん。お前は倒せないかもしれないが、他の連中はここで殺す」
そうコカビエルは告げ、手に光の槍を顕現させるとそれをバルパーに投げつけた。
あっという間に貫かれて、彼は呆気なく絶命した。
その懐から結晶体のようなものがこぼれ落ちる。
「何か落としたわね」
「ああ、それは聖剣使いになるための因子を集めたものらしいぞ。聖剣適正がないなら、因子を集めて高密度にすればいいとか何とか言っていた。聖剣計画とやらから得たものだそうだ」
「親切な堕天使ね」
「お前をこちらに引き込みたい。ある程度の誠意はみせる」
といってもね、と一子はリアス達へと視線を向ける。
神は死んだという言葉に教会の2人は勿論のこと、リアス達も動揺している。
軽く溜息を吐きながら、一子は問いかける。
「リアス、命令を寄越せ。私の主ならば」
「赤龍帝、お前とは戦いたくなかった」
コカビエルは心から残念そうに告げ、光の槍を無数に顕現させる。
同時にリアスはあまりにも、衝撃的な事実を知らされた為に頭が追いつかなかったが、一子の言葉に自分の両頬を思いっきり叩いて、今なすべきことを行う。
「一子、あなたの善意は有り難く思うわ。私達は大丈夫だから、コカビエルを倒して」
「了解した、我が主よ。ドライグ、披露しよう。さぁ、世界に終焉をもたらす力を示そう」
一子は一瞬にして、その装いをユグドラシルにおける装備へと切り替えた。
上から下まで全てが神器級装備であり、かつワールドアイテムを2つ装備した状態だ。
更に、その手に愛剣たるレーヴァテインを持つ。
そして、告げる。
彼女のガチ装備であるドレスの上に赤龍帝の鎧が纏われる。
しかし、それは胸当てや籠手などの一部のみだ。
一子の思いに応えた結果がこの形だ。
膨大な魔力が吹き荒れる中、ゆっくりと一子はレーヴァテインの切っ先をコカビエルへと向ける。
「コカビエル、戦争をしよう。心が震える程の戦争を」
コカビエルはその言葉に笑みを深め、光の槍を全て放った。
逃げ場などまるでないその槍の大群。
しかし、コカビエルはすぐさま背後に拳を振るう。
「転移魔法か……!」
「良い反応速度ね。だが、遅い。もっと本気を出しなさい。私を楽しませなさい。限界を超えろ、堕天使」
にぃ、とコカビエルは口元を歪ませる。
そして、彼はもう一方の手に光の剣を顕現させた。
「楽しもう、化け物」
リアスはただその戦いを見ていた。
同時に、何もできない自分が非常に腹ただしかった。
「部長、あなただけじゃないわ」
隣にいる朱乃の言葉にリアスは彼女へと視線を向ける。
「朱乃……」
「他の皆も、そうみたいよ。生徒会長達や、教会の2人も」
その言葉に視線を巡らせると、小猫や木場、ソーナ達、そしてゼノヴィアとイリナの悔しそうな顔が目に入った。
「箔がつく、と言ったけど……違うわ。私はただ彼女の言葉に従っているだけ。そうすれば彼女が全部解決してくれる……甘えているだけなのよ」
小さな声でリアスはそう朱乃に告げた。
朱乃は彼女の顔をその胸に抱きしめ、優しく頭を撫でる。
「私達みんなが、そうなのよ。でもね、リアス。一子さんはあなたの言葉に応えたのよ。あなたの眷属だと、そうコカビエルに宣言したのよ」
「そう、かしら……」
「そうよ。きっと一子さんはリアス以外には従わないわよ。それこそ魔王様とかからお誘いが掛かっても」
朱乃の言葉にリアスにはある言葉が思い出される。
グレイフィアからの逃避行のあのときだ。
「……一子は本当に、私をグレモリーとか関係なく、ただのリアスとしてしか見ていないのね」
「ええ。私のことや他の子の背景を知っても、きっと単なる少女や少年としてしか見てくれませんわ」
リアスは朱乃から離れ、笑みを浮かべる。
「ありがと、朱乃」
「いえいえ、お構いなく。ただ私も一子さん、頂きますので。仲良く分け合いましょうね」
リアスは思わず、朱乃の顔をまじまじと見つめる。
「どうして、と思ってらっしゃいますか? 先程、言ったことですよ。きっと、単なる少女としてしか、見てくれませんもの。それに両性具有になれるって仰られてましたし……」
しまった、ライバルは身近なところから現れた、とリアスは思ったが、そのときであった。
コカビエルが地面に落ちてきた。
リアスと朱乃はそちらへと視線を向け、その凄惨な状態に思わず息を呑んだ。
コカビエルの片翼は全てもがれ、腕も一本、無くなっている。
10分も経っていないのに、彼はもはや満身創痍だった。
「ふ、ふふふ……おい! リアス・グレモリー! お前の眷属、かつての魔王達と神を同時に敵に回すよりも、恐ろしいぞ!」
コカビエルはそう告げ、残った片腕で巨大な光の槍を顕現する。
対する一子は空からコカビエルを見下ろしていた。
傍目にはどちらが敵なのか、ちょっと説明に困る状況だ。
「名を教えろ! 赤龍帝!」
「兵藤一子よ」
「良い、兵藤一子。俺は楽しい戦ができた。幕にするとしよう」
コカビエルは槍の投擲体勢に入る。
対する一子もまた白銀の十字槍を顕現させた。
そして、同時に投擲した。
一瞬の出来事だった。
コカビエルの光の槍は一子の槍の前に砕け散り、槍は彼へと迫り――
直前に消え去った。
「……なぜだ? なぜ、槍を消した!」
問いに一子は空から地上へと降り立ち、ビシッと指をさして告げる。
「コカビエル! お前を殺すには惜しい! 私が弁護してやるから、刑期が終わったらまた戦おう!」
コカビエルは思わず、呆気に取られた。
そして、一拍の間をおいて彼は笑いだした。
「殺すには惜しい? お前にとって俺など虫けらのようなものだろう?」
コカビエルの言葉に一子は笑みを浮かべる。
「だからこそよ。お前は私に掠り傷一つつけられなかった。そんな虫けらが足掻く様を見るのは楽しいでしょう?」
くつくつとコカビエルは笑う。
今の魔王などよりもよほどに魔王らしい、と彼は思う。
「俺はおそらく永久凍結だ。それでもか?」
「それでもよ。数千年くらいは待つとも。そのくらいになれば刑を下した連中の考えも変わっているだろう」
「いいだろう、兵藤一子。首を洗って待っていろ」
「期待しているわ、コカビエル」
そして、一子は結界を解除する。
たちまちのうちに駒王学園の校庭へと変化する。
そこには白い鎧姿の人物が待っていた。
『ドライグ、アレは白龍皇?』
『ああ、そうだ。向こうの宿主もそれなりにやるようだぞ』
『みたいね』
そんなやり取りをしていると、白龍皇が告げる。
「コカビエルを捕まえにきたのだが、赤龍帝がやったのか?」
「ええ、そうよ。今代の赤龍帝、兵藤一子よ。あなたは?」
「白龍皇のヴァーリだ。色々とやりたいところだが、コカビエルを連れてこいとアザゼルがうるさくてな。これで失礼する」
ヴァーリはコカビエルを引っつかむと、そのまま空へと舞い上がっていった。
『後ろから追撃して殺したら駄目かしら?』
『さすがにやめておけ、可哀想だ。それと、お前と唯一対等に戦えるかもしれない存在だぞ』
『それはもったいないわね』
さて、と一子はリアス達へと視線を向ける。
「引き渡してはまずかったかしら? 事情聴取だとか色々と面倒くさいから本人に投げたんだけど」
「いえ、良い判断だと思うわ。しかし、本当に傷一つ、無いわね……」
リアスは呆れた顔だった。
激戦であったにも関わらず、一子はどこにも傷がなかった。
「残念ながらね。敗北を知りたいわ」
ドヤ顔でそう告げる一子にリアスは思わず吹き出してしまうのだった。