やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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会談前の仕込み

 

 

「一子が全力で戦ったら、どうなるんだ?」

 

 オカルト研究部の部室にて、ゼノヴィアが何となくそんなことを言った。

 純粋に気になったのがその発端だった。

 

 コカビエルとの戦いではおそらく本気ではあったのだろうが、全力ではなかったようにゼノヴィアは感じた為に。

 

「とりあえず、めちゃくちゃ強いことは知っているけど、どんな感じ?」

 

 イリナもまた便乗し、一子に問いかける。

 

「うーん……実は全力って出したことがないのよね。夢の中とかでドライグの完全体とガチバトルするとき以外では」

 

 聞き捨てならない単語が聞こえてきたが、そこにドライグが告げる。

 

「おい相棒。そのときはお前だけの力だろう? 俺の力も使った上となればまだやったことはない」

 

 ドライグが喋った、という事実であるが、それよりもまず、色々とツッコミを入れなければならないところがあった。

 

「えーと、一子は夢の中とはいえ二天龍の片割れとガチバトルができるくらいに、素の状態でも強いってことか?」

「そうなるわね。夢の中っていっても、いわゆる仮想空間としてのそれだから、ダメージとか色々は現実に限りなく近いわよ」

「こいつ、切り札を大量に持っているからな。ありえんくらいに」

「ぐへへへ、私の切り札は108枚あるぞ。実はそれ以上だけど」

 

 ツッコミが追いつかなかった。

 

「ということは」

 

 小猫の声に視線が集中する。

 

「赤龍帝の籠手を使って、全力を出した一子先輩は誰も敵わないという結論ですね」

「うーん……宇宙全部と戦うのはちょっと厳しいかも。ほら、宇宙レベルで考えると色々とアレなので」

「比較相手が宇宙スケールですか……非常識です」

「まあ、全力出した状態なら1分以内に地球を消し飛ばせると思うけど」

「ドン引きです」

 

 小猫のツッコミにうんうんと誰もが頷いた。

 

「あら、どうかしたの? 変な空気だけど」

「あらあら、また一子さんが突拍子もないことを?」

 

 そこへやってきたリアスと朱乃。

 すぐさまゼノヴィアとイリナが事情を説明する。

 

 リアスはコメカミを抑え、朱乃はいつも通りの微笑みだ。

 

「いい? 一子、よっぽどのことがない限り、絶対に全力を出しちゃ駄目よ?」

「まあ、大抵の敵がワンパンで片付いてしまうので、出すにも出せないわよ。それで、今日は解散でいいの?」

 

 リアスは少し考えるも、特に何か用事は思い当たらない。

 警備のあれこれも、一子が会談場所に呼ばれているので、そこで迎撃すれば良いだけだ。

 

「ええ、いいわよ。今日は解散で。明日からの授業参観とその後に行われる和平会談に備えて、英気を養って頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一子は真っ直ぐに家には帰らなかった。

 誰も気づいていなかったが、彼女は探知していたのだ。

 

 自身を見つめる者の存在を。

 

 

『魔法的なものじゃないわね。そうだったら、私の攻勢防壁その他諸々が発動している筈』

『相棒、もしそれに引っかかったら、どうなるんだ?』

『良くて死亡、悪ければ永遠に責め苦を味あわされるってところかしら。今、展開しているのはクトゥルー系だから』

『……なあ、俺が言うのもなんだが、敵にも優しくしてやれよな?』

『まあ、努力はするわ』

 

 一子は人気のない廃ビルへと入る。

 しっかりと敵らしきものは追ってくる。

 

 完全不可知化ではなく、ただ光学的に魔力をうまく扱うことで見えなくしているだけのようだ。

 

 そして、一子は適当なところで立ち止まり、視線を送ってくる輩がいるところへまっすぐに視線を送り、告げる。

 

「そこにいるのは分かっているわ。どちら様?」

 

 すると、すぐさまに姿を現した。

 美しい褐色の女性であった。

 

「美女にストーカーされるのは悪くないわね」

「ふふ、ありがとうございます。私はカテレア・レヴィアタンと申します」

 

 そう言い、頭を下げる女性――カテレアに一子は軽く頷きつつ、告げる。

 

「知っていると思うけど、兵藤一子よ。私がここに連れてきたとはいえ、デートの場所にはふさわしくないわね」

 

 お構いなく、とカテレアが言う前に一子は唱え、戦域を発動する。

 

 たちまちのうちに周囲は草原へ、そして夕暮れだった空は不気味な程に青い空へと変貌する。

 一瞬で変わった世界にカテレアは言葉を失ってしまった。

 彼女とて現魔王などには及ばないものの、相応の力を有したレヴィアタンの正統な血統の悪魔だ。

 

 だからこそ、理解してしまったのだ。

 

 結界などという生易しいものではなく、かといってレーティングゲームに使用される異空間などでもない、と。

 

「世界を、創造されたのですか……?」

 

 震える声で、カテレアは問いかけた。

 

「ええ。とはいえ、この風景もそろそろ変えてもいいかもしれないわ。海とか砂漠とか山とか、そういうのがあったほうが楽しいし」

『変えられるのか?』

『設定的には術者の思う通りに変更できる筈だから、たぶん』

 

 ドライグにそう返しながら、一子はカテレアの返答を見る。

 

「素晴らしい……素晴らしいです!」

 

 カテレアは目をきらきらと輝かせる。

 しかし、すぐに咳払いをして、何とか冷静を装う。

 

 既に遅いのだが、一子は優しさを忘れていなかったので、そこには触れないことにして、問いかける。

 

「それで、私に何の用かしら?」

「はい、一子様。実は和平会談のときに襲撃を掛けますので、何もしないで頂きたく」

 

 へぇ、と一子はオモチャを見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべつつ、問いかける。

 

「この私にお願いするからには対価は? まさか、何もなくそう言ってくる程、礼儀知らずではないわよね? 魔王レヴィアタン」

 

 その呼び方にカテレアは歓喜に震える。

 魔王だと認めてくれた、と。

 

 単純に一子が現魔王のレヴィアタンを知らない為にカテレアがそうなのだろうと考えた。

 リアスと朱乃から冥界や悪魔についてのレクチャーを受けているが、魔王レヴィアタンとして示された輩が見るからに魔法少女だったので、そんなことはないだろうと思ったが故に。 

 ともあれ、その勘違いは良い方向へと進んだ。

 

「はい。望むものを全て捧げます」

「それじゃ、あなたが欲しいわ」

 

 躊躇なくそう告げる一子にカテレアは目を数回、瞬かせた。

 

「その、何と?」

「だから、あなたが欲しい。カテレア・レヴィアタンという女がほしいって言ったのよ」

「私……ですか?」

「ええ。私は両性具有にもなれるので」

「し、しかし、その、私は、こ、これまで特定の相手がいなくて……い、いえ、アプローチはあるのですが、タイプじゃないというか……」

 

 的外れな答えが返ってきた。

 とりあえずフリーであると宣言したいらしいが、一子からすれは滑稽だ。

 

「で、いいの? 駄目なの?」

 

 問いに視線を彷徨わせた後、カテレアは小さく頷いた。

 

「とはいえ、私も鬼じゃないわ。あなたが失敗したら、という条件をつける。泣いても笑ってももうすぐ、結果が出る。それくらいは待つわよ。あなたが失敗したら、私の女になって、永遠に私に尽くして」

「それなら……ええ、分かりました」

「契約成立ね」

 

 にんまりと笑いながら、一子はそう言うのだった。

 

 

 

 

 

『で、相棒。何をやるつもりだ? ただ見ているだけじゃないだろう?』

 

 カテレアと別れた後、ドライグがそう声を掛けてきた。

 

『私は手を出さないわ。だけど、他の者が手を出すことを禁じてはいない。おまけに私が警備に口出しすることも向こうは禁じていなかった』

『相棒、魔王がお似合いだぞ……』

 

 一子はそう返しながら、おもむろにスマホを取り出した。

 掛ける相手は生徒会長だ。

 

「もしもし? 私だけど、警備は広範囲に分散したほうがいいわよ?」

『急に電話を掛けてきて、何なんですか、一体』

「あら、ソーナ。私とあなたの仲じゃないの」

『いつからそんなに深い仲になりましたか?』

「コカビエルのときからだった気がする。きっとそうね」

『感謝はしましたが、なってはいません』

「じゃあ今からなりましょうよ。私のことは一子で構わないわ。あなたはソーナでいいわね」

 

 溜息を吐く音が聞こえてきた。

 どうやら諦めたらしい。

 

『あのとき、万が一の為に電話番号を交換したのが間違いでした』

「あらそれは大変ね。私としては美少女のあなたとお近づきになれて、とても嬉しいわ」

『……もういいですか? 切りますよ?』

「ソーナの綺麗な声を聞いていたいわ。ああ、それと広範囲っていうのは駒王町全体に程よくって意味よ。学園を中心に半径10kmってところ」

『具体的ですね。襲撃者の計画でも入手したんですか?』

「いいえ。ただ、そうね、もし自分が襲撃を掛けるならって想定したものよ」

『あなたは何をやっていたんですか……』

「実は世界的な複合企業で裏側を司っていたので。暗殺からカウンターテロその他諸々の裏方をやっていたの」

『どこの小説の設定ですか……ともあれ、信じることにします。こういうことで、あなたは嘘をつかなさそうなので』

 

 それきり、電話が切れた。

 

「嘘じゃないんだけどな」

『まあ、嘘って思うだろうな。事情を知らなければ。知らないほうがいいんだがな』

「まあ、大抵の悪魔よりもよほどに酷いことをやってきた自信がある」

『人間が一番恐ろしい』

 

 ドライグの言葉を一子は肯定するしかなかった。

 

「あ、そうだ。ついでだから、何か面白そうな映画でも借りていこう」

 

 一子にたまたま見えたのが、レンタルショップだった。

 

 

 

 

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