すっごいカオスなことになった――
それが一子の現状に対する思いだ。
どうせなら教会にいる面々を全員、呼んだらどうか、という提案がリアスより出されたのは和平会談の直後。
その後すぐに、兵藤家を悪魔・堕天使・天使の三勢力が協力してリフォームしたおかげで、地上10階、地下4階とかいう大豪邸へと変貌してしまった。
ちゃんとそれに見合う程度の広い庭までおまけにくっついてきた。
近隣住民には多額の補償金が支払われ、更に別の住宅が提供されたことで、特別な問題を生むことがなかったのも流石であった。
結果として、出来上がったのは悪魔と堕天使と人間が共存するという混沌としたものだった。
おまけに派閥的に考えても、旧魔王の血族やら現魔王の血族やらとごった煮だ。
しかし、カオスはそれだけで終わらなかった。
そんな状態のところへ、駒王学園襲撃に参加していた大勢のはぐれ魔法使い達が一子と契約を得ようと詰めかけたのだ。
「私と契約を!」
「私を! 全て捧げます!」
「私は処女です!」
きゃーきゃーと玄関先に手に履歴書に相当する書類を持って押し寄せる魔法使い達。
そして、全員が女性であった。
幸いなことに結界が張られている為、一般人がこの光景を目にすることはない。
そんな状況にリアスはジト目で尋ねた。
「一子……何をやったの?」
「はぐれ魔法使いが契約したいって……ダメ?」
「私が適正年齢にならないとダメ」
「どうしても?」
「ダメったらダメ」
「こっそりと……バレなければいいから……」
「ダメ!」
取り付く島もない対応に一子は心の中で涙した。
しかし、彼女は諦めなかった。
「だが、待って欲しい。リアス、魔王に確認を取って」
「……仕方がないわね」
何だかんだ一子に甘いリアスは溜息一つ、一応、サーゼクスに連絡を取ってみる。
すぐに彼との通信は繋がった。
小さな立体映像として浮かび上がる彼は、何となく元気がなさそうに見えた。
ともあれ、リアスは用件を告げる。
「お兄様、一子へ魔法使いの契約申し込みが殺到しています。しかも、はぐれです」
『本来はダメだが、一子さんの場合は特殊だ。許可するよ』
サーゼクスの言葉にリアスは溜息を吐く。
「良いのですか? 色々とうるさい連中とか……」
『そっちは大丈夫だ。今回みたいな場合なら何とかなる』
一子のような、下級悪魔の時点でそこらの上級悪魔よりも強いとまではいかないが、それでも下級悪魔であるにも関わらず下級悪魔という範疇を逸脱した力を持つ者は少数ながらこれまでにも存在した。
そういった面々は大抵、早い段階から情報を入手した魔法使い達――主にはぐれ魔法使い――が契約を申し込んできたということがある。
前例があるが故に、サーゼクスは問題ないと判断したのだ。
『それに……下手にはぐれ魔法使い達を野放しにしておくよりは一子さんが縛ってくれた方がいい』
「……確かに」
『というわけで、リアス。うまくやってくれ』
「分かりました」
そうして、連絡を終えて、リアスは目を輝かせている一子に告げる。
「一子、はぐれの連中だから、過激な輩もいるかもしれない。ちゃんと手綱を握っておきなさいよ」
「勿論よ。任せて」
本当に任せて大丈夫か、とリアスは果てしなく不安であった。
結局、一子は家に押し寄せてきたはぐれ魔法使い達全員と契約を結んでしまった。
だが、これ以外にも新たな悩みの種が数日後に湧いてくるとはリアスには予想もつかなかった。
「オカルト研究部の顧問になったアザゼルだ」
「副顧問のセラフォルーだよ! よろしく!」
ソーナが疲れた顔で、紹介する。
「というわけで、アザゼル様と……うちの姉です」
「ソーナ……お疲れ様」
「リアス……本当はあなたのお兄様が来る可能性もあったのよ」
ソーナから告げられた衝撃の事実にリアスは頬を引き攣らせた。
数日前、はぐれ魔法使いとの契約の件で連絡をしたときには元気がなさそうに見えたのは、自分がこっちに来られなかったからに違いない。
「セラフォルーだ! わーい!」
「一子ちゃーん!」
セラフォルーと抱き合って、きゃーきゃー言い始める一子。
傍目には仲の良い女子高校生同士がじゃれ合っているようにしか見えない。
「一応、言っておくが、セラフォルーが来たのは一子の為でもある」
アザゼルの言葉に一同の視線が彼へと集中する。
その視線を受けながら、彼は言葉を続ける。
「ぶっちゃけた話、一子相手にマトモに戦えそうなのが魔王とか熾天使とかそういう連中しかいない。それじゃ誰がってなったとき、ちょうどこっちで日本神話の神々や妖怪との外交交渉を始めようとしていたセラフォルーが手を挙げた、というわけだ」
「私は一子ちゃんが暴走したとき、止める役でもあるの。暴走したら、1分以内に援軍として魔王と熾天使と堕天使がたくさんやってくるからね」
にこにこ笑顔でセラフォルーはとんでもないことを宣った。
「まあ、一子を止めるなら妥当なところかしらね……」
「リアスちゃんには悪いけど、一子ちゃんは特殊過ぎるから、あんまり気にしないでね。本当にこの子、1人で世界のパワーバランスを傾かせてしまうから」
そんな会話を聞き、イリナが問いかけた。
「ねぇ、一子ちゃん。世界相手に戦える?」
「戦えるわよ。あと、たぶん勝てる」
「勝てちゃうんだ……」
「私だけじゃなく、ドライグもいるからね」
一子の言葉に何となく引っかかりを覚えたのはアザゼルとセラフォルーだった。
世界相手に勝てるのは予想されたことだ。
しかし、わざわざドライグもいる、というのはどういうことだろうか。
「一子、ドライグもいるってどういうことだ?」
「簡単よ、アザゼル。もう答えは見せている筈よ」
アザゼルとセラフォルーはその言葉に思考を巡らせ――そして、気がついた。
死者蘇生だ。
そこから導き出され、ドライグもいるという意味。
それは一つしかない。
「おい駄目だぞ。絶対それ、駄目だからな!」
「駄目だよ! 世界が滅ぶから!」
アザゼルとセラフォルーが血相を変えたのを見て、リアスやソーナ達は首を傾げる。
「答え合わせの時間よ。ドライグ、教えてあげなさい」
「おうとも。俺はいつでも実体化ができ、全盛期の力を振るうことができる。それだけだ。無論、その状態でも一子は神器を使い、禁手化することができるからな」
そうなったのは超位魔法のウィッシュ・アポン・ア・スターによるものだが、そこはもちろん、一子は言わない。
とはいえ、重要なところはそこではない。
深く、それはもう深くアザゼルとセラフォルーは溜息を吐いた。
「まあ、今更か……」
「一子ちゃんが怖いよぉ……ソーナちゃん、慰めてー」
ふらふらとソーナの胸にやってきたセラフォルーを無意識的にソーナは抱きしめて、頭を撫でる。
「……えっと、つまり、ドライグが甦ったってことかしら?」
「まあ、そういうことね」
リアスの問いかけに一子は肯定する。
「安心しろ。よほどのことがない限り、俺は出ない。大抵、出る前に一子が終わらせるからな」
「そうよ、安心して。面白半分に絡んできたチンピラ相手にけしかけたりしないから」
面白半分にやりそうだから、怖かった。
「それに事前にこうして報告しているわ」
「お、おう、そうだな……」
一子の言葉にアザゼルはそう返すしかない。
「よし、じゃあ一子。お前はもう自由にやれ。世界を壊すようなことしなければ、もうそれでいい。セラフォルー、お前もそれでいいな?」
「いいよー、ソーナちゃん可愛い……」
一子に対して考えることを放棄したアザゼルはセラフォルーの承諾を得たことで、ひとまず咳払いし、リアス達へと視線を向ける。
「今回、俺が来たのは修行をつけにきた、と思ってくれていい。セラフォルーも基本はそうだ」
「ソーナちゃんにも会えるし、最高だね!」
「お姉様! もう立ち直っていますよね!?」
いつまでも胸にひっついている姉を引き剥がそうとするソーナを見なかったことにしながら、アザゼルは話を続ける。
「一子はさっきも言った通り、自由にしろ。というか、お前の場合、ドライグと戦ってろ」
「もう戦ってるわよ。今のところ、神器を使わないという条件下で引き分けが続いているわね」
「……素の状態でドライグと戦えるっていうだけで、常識が壊れるんだが、まあ、いい。何かアドバイスが欲しかったら、その都度、聞きに来い」
そんな感じでアザゼルはリアスやその眷属達に色々な質問を浴びせていく。
そんな中、一匹の黒猫が窓からひょいっと入ってきた。
猫は一子に近づいて、そのまま体を伝って頭の上で丸まった。
「……姉様」
ジト目で小猫がその黒猫を見つめて呟く。
すると、片足をあげて、にゃあと黒猫は一鳴き。
「黒歌をペットにして、一番良かったことは癒やしが増えたことね」
黒猫を頭から胸に抱いて、その背中を軽く撫でる一子。
小猫は何だかその光景に嫉妬心がこみ上げてくる。
「塔城、お前は姉に教えてもらえ」
アザゼルの言葉に一子はおや、と思い、問いかける。
「説明したの?」
「ああ。会談の後にな。お前がカテレアとイチャイチャしていたときに」
「なるほどね」
「んで、カテレアは良かったか?」
「良かったわよ。女王候補にしたい」
「うむ。ドラゴンは自然と一夫多妻を形成してしまうものだからな」
「ドラゴンって最高ね」
そんな会話がなされる中、黒猫――黒歌は一子の腕の中から降りて、人型に変化する。
「白音、そういうわけでお姉ちゃんが教えるにゃ」
黒歌の言葉に頷く小猫。
その様子を見て、黒歌は飛びついた。
「白音! もう絶対離さないにゃ!」
「姉様……苦しいです……」
姉妹のやり取りを見て、アザゼルが一子へと告げる。
「一子、塔城は力の暴走を心配している。暴走したら止めてやれ」
「了解したわ」
ビクッと小猫は震えた。
「か、一子先輩に止められるって……息の根をですか?」
「安心して。気絶させるだけに留めるから。暴走して周囲に被害を与えるかもって考えていたりしたなら、まずこの私を倒せるような感じで暴走してくれると……」
世界を相手に1人で勝てるような存在を倒せるくらいの暴走を小猫ができるか、というと当然否である。
「一子先輩からすると、私が暴走したとしたら、どんな感覚ですか?」
「興奮した猫が暴れているくらいの感じだと思う」
「分かりました。安心してやってみます」
「お姉ちゃんとしては複雑にゃ……白音は私が暴走させないから安心してにゃ」
胸を張る黒歌に小猫もまた小さく頷いた。
「それと朱乃。まだ堕天使は――バラキエルは許せないか?」
「当然です! あのヒトのせいで、母は死んだのですから!」
声を荒げる朱乃に一子は目を白黒させる。
あのおっとりとした朱乃がここまで感情を露わにするというのを初めて見たからだ。
基本的に一子は他人の過去は詮索しないし、気にしない。
色んな事情があるのは当たり前であり、また一子自身もいらぬことを詮索されたくがない為に。
一子は
突然頭の中に一子の声が響いた彼女は驚くが、そういう魔法だという一子の言葉に納得する。
これまでのぶっとんだことの数々から、一子は周囲に対して何をしても不思議ではない、という認識を植え付けることに成功していた。
『朱乃って何かあるの? バラキエルって誰?』
『彼女は堕天使と人間のハーフで、バラキエルは父親ね。人間の方は代々退魔の家系で姫島というところよ』
『あー、理解できた。つまりは堕天使の子なんぞ穢れだとか何とかで母親が殺されたのね』
『それだけで理解できる一子って本当に凄いわね』
『よくありそうな展開なので。死者蘇生ができますとかそういうことを言い出せる空気じゃないわね、これ』
『できるの? 10年以上昔だけど』
『やってやれないことはないと思う。でも、カテレアのときは死後1時間も経っていなかったから成功したのかもしれない』
『さすがに何が起こるか分からないから、やめたほうがいいわ。朱乃には、とてもつらいことだけど……』
そうね、とリアスへ返し、一子は
朱乃とアザゼルの言い合い――というよりか、朱乃が声を荒げている状況は終わった。
彼女は顔を逸している。
朱乃の横顔を見ながら、この後、少し話をすべきだと一子は思った。
「ふふ、一子さんと2人きり……初めてですね」
朱乃の言葉に一子は頷く。
2人は家ではなく、一子の転移魔法によって南太平洋に浮かぶ島にやってきていた。
完全な無人島である為、人に見られる心配もない。
「密会という雰囲気ではなさそうですわ。私の生まれについてですの?」
「単刀直入に言うと、そうね。色々と面倒くさそうなことがあるみたいだし」
一子の言葉に朱乃は、肯定しつつ、海へと視線を向ける。
綺麗なエメラルドグリーンがどこまでも広がっていた。
「もし一子さんがそうだったなら、どうしますか? 力などは何もないという状態で」
「そうしてきた奴の一族郎党皆殺しかな。力なんて、あとからついてくるわ。大事なのは意思よ」
即答した一子に朱乃はくすくすと笑ってしまう。
実に彼女らしい、と。
「復讐する? 何なら、協力するわよ?」
「いえ、既に話はついていますので。今更、蒸し返すのも……私自身、分かってはいるんです。ただ、感情が……どうしても」
「感情っていうのは面倒くさいものだからね。で、朱乃はどうしたいの? いつまでも棚上げにしておいたら、スッキリしないんじゃない?」
一子の問いかけに朱乃は困ったような顔になり、やがて哀しみの表情を浮かべ、その背中に翼を顕現させた。
悪魔と堕天使の翼を片方ずつに。
「おぞましいでしょう? 堕天使の翼が嫌で、悪魔になったのに、できたのは両方を持つ、化け物よ」
深く、それはもう深く一子は溜息を吐いた。
『相棒、お前さん、こういうのは向いてないな』
『当たり前じゃない。こちとら、権力闘争の中でアレコレやってきたのであって、こういう少女のお悩み相談はやったことがないのよ』
『いい気味だ』
『黙れトカゲ風情が。焼いて喰うぞ……もう面倒くさいったらない。見せるわ』
『おい、見せるのかよ? このお嬢ちゃん、ひっくり返るぞ』
『……悪魔とドラゴンと堕天使の3つに抑えたほうがいいかな?』
『そこまで見せるなら、全部見せちまえよ……』
『あんたはどっちなのよって思ったけど、絶対面白くなる方って答えそう』
『よく分かっているじゃないか。流石は相棒だ』
『まあ、面白いっていうのは人生において大切よ。で、どっちが面白いかしら?』
『全部見せろ。そっちのが面白い』
『分かったわよ。こうなればいくところまでいってしまおう』
一子は戦域を展開する。
唐突に展開された戦域に朱乃は驚くしかない。
そんな彼女に一子は告げる。
「朱乃、これは世界の誰にも……私に宿っているドライグしか知らない秘密を教えるわ」
そう前置きし、一子は顕現させる。
天使と堕天使と悪魔とドラゴン、それら全ての翼をその背中に。
朱乃は目を丸くした。
「あなたは堕天使と悪魔のハーフって言ったわよね? 私なんて色々あって天使と堕天使と悪魔とドラゴンよ! 私は4つよ! 私のほうが実力見た目その他諸々で化け物よ! ひれ伏すがいいわ!」
『おい相棒、なんか趣旨が違ってきているぞ……』
ノリノリの一子にドライグは思わずツッコミを入れた。
絶句していた朱乃であったが、やがてまじまじと一子の混沌とした翼を凝視している。
「えっと……本物?」
「本物よ、本物。触ってみなさいよ」
ほら、と背中を向ければ、朱乃は恐る恐る手を伸ばして、天使の翼を触った。
非常に柔らかく、また肌触りが良かった。
ついで、堕天使の翼を、ドラゴンの翼を、最後に悪魔の翼を順に触った。
「本物ですね……色々と特殊だとは思っていましたが、まさかこんなありえない状態だとは思ってもみませんでした」
「で、朱乃。私の秘密を知ったからには、ちゃんと過去に決着をつけてもらうわよ」
朱乃は顔を俯かせ、小さく告げる。
「……私は弱いので。一子さんのように強くありません」
一子は再度、溜息を吐いた。
まだやるのか、と。
『相棒、年頃の女っていうのは難しいんだぜ。特にこういう面倒くさい事情持ちは』
『今、すごく実感しているわ』
『で、どうするんだ? このまま引き下がるようなお前じゃないだろう?』
ドライグの言葉に、一子は当然と返す。
そして、彼女は毅然と告げる。
「朱乃、あなたがそんなに弱っちいなら、私が守ってあげるわ。あなたのことをアレコレ言う輩は全部潰してあげる。第一、私は堕天使と悪魔のハーフだろうが悪魔とドラゴンのハーフだろうが何だろうが、一切差別しないわ」
一子の瞳が真っ直ぐに朱乃の瞳を見つめる。
「姫島朱乃。私にとってあなたはそこらにいる少女でしかないのよ? 無駄な抵抗はやめて、楽になりなさい。あなた程度を背負ったところで、私は何ともないから」
一子はそこで言葉を切り、数秒の間をおいて、告げる。
「私はあなたの全てを受け入れるわ」
朱乃は一子の言葉にくすくすと笑い出す。
「ズルいですね。そんなこと言われたら、甘えたくなってしまうじゃないですか……」
「女の子が甘えてくる分には一向に構わないわよ」
そう言って一子は朱乃を抱きしめ、その感触を楽しむ。
「女誑しですね」
「褒め言葉だわ。安心して。私は囲う女の子達の生活費から何から、全て面倒みるつもりだから」
何の気なしに一子が告げた言葉に朱乃は呆気に取られてしまう。
「朱乃、どうかしら? 今まで苦労した分、これからの人生は面白おかしく過ごしたいって思わない?」
「そこまで考えているとは思ってもいませんでした。性欲だけの人かと……」
一緒に住むことになった結果、レイナーレ達やバイサー、そしてカテレアや黒歌とどういうことをしているか、朱乃はもちろん、リアスやイリナ、ゼノヴィアだって実際に見てはいないが、そういう話を本人達から聞いている。
曰く、昨夜のプレイは良かっただの、今度はあの服を着てみようだの、と。
唯一、気づいていないのはアーシアくらいなものだろう。
彼女の立ち位置は兵藤家において、癒やしであり、みんなの妹といった感じだ。
「失礼しちゃうわ。全部面倒みるから、その対価に私に尽くしてってことよ。まあ、惚れたりしてくれればもっと嬉しいけど」
「少なくとも、今、あなたと肉体関係を持っている方たちは、そのようですよ」
「それは嬉しいわね。ドライグが宿っているせいか、どうにも思考が男性的な感じになってしまうのよ」
『俺は関係ないだろ』
突如として引き合いに出されたドライグの脳内への直接抗議を一子は聞かなかったことにする。
『おい相棒、せっかくだから聞いておいたらどうだ? 10年前、お前さんが色々やったことだ』
ドライグの声に一子はそれもそうだ、と頷いて、朱乃に問いかける。
「朱乃、10年くらい前って駒王町にリアスはいたのかしら?」
「10年前ですと、まだいませんわ。その前任者は色々あって粛清されてしまったらしいですが……」
「粛清?」
はて、と一子は首を傾げる。
「実は10年くらい前、悪魔とその眷属達とエクソシストを逃して、追手達を殲滅したことがあってね。どんどん刺客がやってきたから、いやもう、色んなことを試せて、とても楽しかった」
朱乃は目をパチクリとさせた。
そんな話は聞いたこともない。
だが、一子がわざわざ嘘を言う必要がない。
「どうやら……事情がありそうですわね」
「大方、知っちゃいけない秘密を知って、消されそうになったとかそういうのでしょうね」
「一子さん、逃した悪魔の名前は分かりますか?」
問いかけに一子は顎に手を当てて悩む。
「クレー何とか。なんだっけかな。クレマンティーヌ? あ、なんかこの名前、いいわね……」
「クレーリアですか?」
「そう、確かそれよ。私の転移魔法でクレーリアが言っていた一番信頼できる人のところへ転移させてあげた」
使い捨てのマジックアイテムで、名前を入力するとその人のいる場所へと転移できるものがある。
稀少なものだったが、当時の一子は合法的に殺せる敵を連れてきてくれた、という感謝の意を込めて使ったのだ。
「その一番信頼できる人の名前は?」
「確か、ディハウザーって言ってたわね。そういや、ファミリーネームでベリアルって言ってたから、有名な悪魔の家系かもしれないけど、でも、まさかそんな有名なのが権力争いで殺されそうになるなんて……」
ないわよね、と一子は言いかけて、そこで朱乃がわなわなと震えていることに気がついた。
「一子さん! 今すぐ戻りましょう! セラフォルー様にお伝えしておかないと、色々と駄目です!」
一子の両肩をがっしりと握った朱乃は勢いよくそう言った。
「えっ、また何か私やったの?」
『どうやらそうらしいな』
ドライグは肯定しながら、盛大に笑っていた。