「え、一子ちゃん、マジで?」
セラフォルーは引きつった顔で、そう問いかけてきた。
朱乃に言われるがまま、一子は転移魔法で一緒に駒王町へと戻った。
そして、セラフォルーに連絡し、家まで来てもらい説明をしたら、そんな反応が返ってきた。
「マジよ。当時の私は合法的にぶっ殺せる敵に飢えていたので、お礼として助けたのよ」
「あー、うん、そっかー……皇帝の言っていた名も知らぬ恩人って一子ちゃんだったんだー……」
これ以上ないくらいに深い溜息をするセラフォルー。
「なになに? 魔王だけじゃなくて皇帝までいるの? 冥界、フリーダムね」
「あー、一子ちゃん。詳しく説明するとね……」
セラフォルーはコメカミを抑えながら、皇帝について一子へ説明を行う。
レーティングゲームのトッププレイヤーであり、1位であり続ける男。
故に、ついた異名が皇帝。
そんな皇帝の従姉妹であり、妹のように皇帝が可愛がっていたのが件のクレーリアだと。
「一応、その後の結果なんだけど……クレーリアとその恋人、そして彼女の眷属達は冥界のベリアル領で仲良く暮らしているから」
あのときは色々と大変だった、とセラフォルーは遠い目になる。
教会の戦士と従姉妹が結ばれたので、何とかしてくれ、とディハウザーがこっそりと魔王達に持ちかけてきたのだ。
魔王達が詳しく調べてみると、駒王町に刺客や調査として向かった古き悪魔達の多数の刺客が全く帰ってこず、何が起こっているか把握もできない為、彼らが大いに混乱していることが分かった。
何かがいる、と分かったものの、皇帝が放り込んできた特大の爆弾をどうにかするほうが先だった。
紆余曲折あったものの、皇帝の下にいるクレーリアとその恋人に手を出す命知らずはさすがにどこにもいなかったので、秘密裏にクレーリアが堕落させたということにして、表向きにはやらかしたので粛清された、という風に落ち着いたのだ。
教会側も何かがあると察知し、エクソシスト達を撤退させ、今に至るまで教会側も全くの空白地帯であったとセラフォルーは聞いていた。
ミカエルに伝えたら、胃を痛めるだろうな、と彼女は思いながら尋ねる。
「イリナちゃんのお父さんも関わっていたと思うけど、どうしたの?」
「殺すのは忍びなかったので、奇襲で眠らせて家に送り返した。彼の部下とかも同じ対応で、殺したのは悪魔だけ」
「さすがにそこは良心があったんだね」
よかった、とセラフォルーは胸を撫で下ろす。
むぅ、とその反応に一子は不満げな顔をしつつも、件の皇帝に興味を示す。
「最強の皇帝……うーん、面白そうね。どのくらい強いのかしら? 私は敗北を知ることができるのかしら?」
「……レーティングゲームでも、一子ちゃん、普通に勝てそうなんだよなぁ」
そもそもレーティングゲームに出禁になりそうな一子だ。
あまりにも規格外過ぎて。
「何を言っているのよ? 不動の1位が挑戦者に敗れる、それもまたゲームの面白いところじゃないの」
けらけら笑う一子にセラフォルーは再度、溜息を吐いた。
「あ、もちろん、私は自分が圧倒的勝利を飾る方に賭けるわ。オッズが凄そうだから、きっと大儲けできる」
さすがのセラフォルーもドン引きだ。
息をするように悪知恵が働くというか、欲望に忠実であり、悪魔らしかった。
「なんでかな、一子ちゃんを野放しにしておくと、とてもダメな気がする……」
「失礼ね、この魔王……」
「だって、なんかこう、面白そうだからっていう理由でとんでもないことをやらかしそう」
「そんなに不安なら、やっぱりセラフォルーが私の眷属になればいいんじゃない? 私が何かやろうとしたとき、第三者にバレるようにやると思う?」
「思わない。うーん、とはいえ、私が眷属っていうのも……まあ、考えてみるよ」
ていうかこの子、私が魔王だって分かっているのかな、とセラフォルーは疑惑の目を向けるも、にこにことした笑顔の一子がいた。
何故だろうか、その笑顔がとても恐ろしいものに見えた。
「というか、一子ちゃん。リアスちゃんはどうなの?」
「私にどう接していいか、分からないみたいよ」
「あー、そうだろうね……」
主人であるリアスよりも圧倒的に強い上、一子が眷属になった経緯を聞けば、リアスが一子の苦境を助けたということではない。
一子にはリアスの眷属にはならない、という選択肢もあったのだ。
というか、よくもまあ、兵士の駒を8個全てとはいえ、普通の悪魔の駒で転生できたものだと感心してしまう。
もし、他の悪魔――それこそセラフォルーなどの魔王や他の悪魔達も、一子のことを知っていれば三顧の礼でもって迎えただろうことは想像に難くない。
眷属とするかどうかはまた別であるが、自分の味方となるように動くのは当然であった。
「で、一子ちゃんはどうなの? リアスちゃんのこと」
「好きよ。恋愛対象として」
「もっとこう、アピールしないと」
「え、何? イクとこまでイッていいの?」
「いいと思うよ。リアスちゃんも一子ちゃんのこと、たぶん好きだし」
個人としては勿論、立場としてもリアスは拒まないだろうとセラフォルーは予想する。
魔王に匹敵するか、超える程の力を持つ一子が両性具有になれるとすれば、これほどに婿として良い存在はいないだろう。
そこで、セラフォルーは自分のことに気がついた。
ずーっと男っ気がなく、年齢=恋人がいない歴だ。
性格的にも、実力的にも釣り合う男がいないから、あとソーナちゃん可愛い、というのが彼女本人の理由。
魔王になる前から見合いの話は星の数程あったが、ダメだった。
不思議なことに向こうからお断りになる。
私が悪いわけじゃない、とセラフォルーは自信を持って断言できる。
しかし、目の前には自分よりも強そうで、性格的にもなんか合いそうな奴がいる。
悪魔は一夫多妻がOKであり、グレモリー家とは長い付き合い。
そっちの気はなかったけれど、もうそっちでもいいか。
リアスちゃんを正妻にして、私は側室ってことで。
その方が色々都合がいいし。
セラフォルーは告げる。
「一子ちゃん、リアスちゃんは正妻で。私は側室で」
「うん、よく分かんないけどつまりどういうことなの?」
「私もほら、魔王になったとはいえ、やっぱりソーナちゃんの姉だし、ソーナちゃんにも姉としての威厳とか見せて、キャーお姉様って言われたいし」
「つまり?」
一子の問いかけにセラフォルーは身を乗り出して、普段のおちゃらけた態度ではなく、真顔で告げる。
「……ぶっちゃけ、行き遅れそうなので。お見合いの話はいっぱいあったけど、向こうからお断りされて。不思議なんだけど」
「え、結婚願望とかあるように見えないんだけど……」
一子の言葉にセラフォルーは頬を膨らませてみせる。
「私だって、ソーナちゃんが一番大事だけど、二番目くらいには自分の家族とか持ちたいなーって思いがあるんだよ」
そういうところが彼氏ができない原因なのでは、と一子は素直に思ったが、口にはしない。
普通に自分の家族よりも妹を取りそうなところだ。
他にもセラフォルー本人の趣味を受け入れるということ。
悪魔社会では子供に人気があるらしいとはいえ、大人が趣味とするにはまだまだ偏見も多いだろう、と一子は思う。
勿論、セラフォルーの立場や冥界における政治的なアレコレを考えれば、それだけではないことは一子は確信している。
絶対何かお願いされるという予感があった。
しかし、セラフォルーがそれで手に入るなら安いものだとも一子としては思う。
「というわけで、眷属は無理だけど、側室ってことで」
「私は一向に構わないわ」
「決まり。じゃ、そういう風にしとくから、一子ちゃんはリアスちゃんにちゃんと告白しておくんだよ?」
よしよし、とセラフォルーは一子の頭をなでなでして、転移魔法で消えていった。
「……ヤバイ、フリーダムさで負けそう。負けてなるものか、世界一ワガママで自由奔放の称号は譲らない」
『とてつもなくしょうもない称号だな……』
これまで黙って見守っていたドライグはそうツッコミを入れるのが精一杯だった。