「どうしたものかしら」
リアスは自室で物憂げに窓の外をぼんやりと見ていた。
頭に出てくるのは一子のことばかり。
どう接していいか、全く分からなかった。
基本的にこれまでリアスが助けるという形で、彼女は眷属を得てきていたが、一子はそうではない。
それだけなら、まだ良かったのだが、あいにくと一子は魔王に匹敵するか、超える程の力を持っている。
そこにさらにドライグまでが加わるのだから、世界を敵に回しても戦い、勝利できるという一子の言葉は真実なのだろう。
リアスがもっと愚かであれば、平身低頭して、一子のご機嫌取りに奔走するだけで済んだかもしれない。
だが、彼女はそうではなかった。
真正面から一子に、そして彼女がやることに向き合い続けている。
関係は悪くはない、とリアスとしては思っているし、一子に対して、友人や眷属などを超えた好意を抱いているとも感じている。
だが、向こうはどう思っているか全く分からない。
向こうも好意を抱いてくれていると思いたいが、グレイフィアが乱入してきたあの一件以来、一子がリアスに手を出しても良さそうなものであったが、全く手を出してきていない。
それどころか、自分を差し置いて、敵だったカテレアに手を出す始末。
確かにリアスとしてもカテレアは女性として綺麗だとは思うが、自分だって負けていない筈だ、と思う。
「……もういっそ、押し倒すか」
朱乃曰く、一子にマニュアルは通用しない。
リアスは鍵付きの引き出しを開ける。
そこにあるのは大量の雑誌と本。
恋愛マニュアルというものに分類されるものだ。
一子は女の子でもあるので、やはり男性受けを狙ったモノでは通用しないのだろう。
「いや、待て……確か、一子はグレイフィアみたいなメイドが欲しいと……やはり、お兄様にならって、私が一子のメイドとして尽くすしかないかしら……?」
とはいえ、リアスとしては聞き及んだ話ではあるが、主人の嫁、魔王の嫁がメイドというのは他の執事やメイドからすれば非常に困った存在であったらしい。
伝聞であるのは、そんなことになっていたのは彼女が生まれる前の話であり、今ではグレイフィアから他の使用人達に歩み寄ることで良い関係を築けている。
困った存在扱いも当然だろう、とリアスとしては聞いた当時は大いに思ったものだが、お兄様がメイド萌えであったなら、それも仕方がないかもしれないと今では思う。
駒王学園に来たことで、リアスは良くも悪くも人間界、それも特に濃いサブカルチャーがある日本にそれなりに染まってしまっていた。
メイド喫茶なんてものがあり、人気を博していると聞いたときは自分も出店しようか、と本気で考えてしまった程に。
性癖なら仕方がない、と済ませてしまう日本の懐の深さにリアスは感動している。
とはいえ、一子がメイド萌えであるかというと、それは確かにあるだろうが、それだけではない。
一致団結、敵であったカテレアとも協力して、兵藤邸では一子に対するとある作戦がセラフォルーの指揮により実行された。
一子が所持しているエロ本を探し、その好きな属性を探すというものだ。
彼女のことを知る者からすれば、そんなわざわざブラックホールの中に飛び込むようなことをしなくても、と思うが幸いにも作戦は成功した。
そして、出てきたのはノーマルからアブノーマル、人間から異形種、擬人化、幽霊まで、性別は女と両性具有たまに男の娘、そんな感じのエロ本の博覧会か何かと思う程に多種多様なものだった。
ストライクゾーンは無限大、まさに性癖のブラックホール。
これにより一子は至高の変態ドラゴンと名付けられ、言い得て妙だとリアスが思ったことは記憶に新しい。
そのとき、ドアが叩かれた。
相手は一子だった。
「一子? どうかしたの?」
何もなかったかのように、リアスは一子に告げた。
「リアスとお話しようと思って」
珍しい、というのがリアスの本音だ。
基本的に一子はあっちへふらふらこっちへふらふらといった感じであり、リアスのところに来ることはあんまりない。
とはいえ、嬉しくないわけがない。
リアスは見るからに機嫌が良く、しかし、それを悟られないように抑えつつ、一子のお話とやらを促す。
「リアスが私にどう接していいか分からないって聞いたので」
直球な言葉にリアスは頭を抱えた。
確かにそうではあるのだが、もうちょっと言い方ってものがあるのだろう、と。
「別に普通でいいのよ?」
「どういう感じの普通なのよ……」
「そういう感じでいいのよ。テキトーにツッコミを入れたりしてくれれば」
「なんか、色々考えていた私がバカみたいだわ。普通って、私の基準での普通でいいのよね?」
「構わないわ。あ、でも、できればこう、猫可愛がりしてくれると……」
リアスは軽く溜息を吐いて、おいで、と手招き。
一子は待っていました、と言わんばかりに飛びつけば、リアスは抱きしめて、その頭を撫でる。
「こういう感じでいいのよね?」
「ええ、全く問題ない。リアスは何が望み? 世界征服? それとも宇宙征服?」
「……なんでそういう物騒なことが……望みって言われてもね……」
「夢とか? ほら、魔王になって冥界を支配してやるぜとか」
「私はどういう風に見られているのかしら? まあ、そうね、幸せになることかしら」
「また随分と曖昧ね」
一子は困った顔をリアスに向けてみせる。
「あら、一子。あなたが願いを叶えてくれるのかしら?」
「ええ。眷属らしく、主の願いを叶えてやろうかと思って」
リアスは破格のことだと思う。
文字通り、一子に頼めば何でも願いが叶う、そんな気がするのだ。
しかも、おそらく一子はリアスがどんな願いを抱こうが止めるような気がしない。
「とはいえ、あんまり大それたものではないわ。好きな人と結婚したいっていうことよ」
「好きな人? え、何、リアス、実は冥界に恋人がいるとかいうパターン?」
あからさまにショックを受けた感じの一子。
もしやと思いつつ、リアスは告げる。
「私に特定の相手はいないのだけど……」
「それなら私とかどう?」
一子の問いにリアスは心臓が跳ね上がった。
「そ、そうね、か、かなりイイんじゃないかしら」
なんとか答えることができたリアスは自分を最高に褒めたかった。
それこそ一子を欲しがる者は星の数程にいる。
下手に誤魔化したら、ご縁がなかった、と一子に思われてしまう可能性があったからだ。
「かなりイイって、また曖昧ね。自分で言うのもなんだけど、私って世界最高物件よ?」
拗ねたような顔を見せる一子にリアスは焦る。
逃す訳にはいかない、と彼女は告げた。
「一子、グレイフィアの乱入で途切れてしまったあのときの続き、してほしい」
そういえば何気にあの時、自分はファーストキスが奪われていたとリアスは思い出して、顔が真っ赤になった。
あの時は婚約から逃れるのに必死であり、そこまで気が付かなかった。
「私、あなたのことが恋愛対象という意味で好きよ」
耳元で囁かれた言葉、意味を瞬時に理解し、リアスは嬉しさや恥ずかしさでどんな顔をしていい分からなかった。
「わ、私も、その、す、好きよ……恋愛対象という意味で」
言った言った、言ってしまった――
リアスは緊張と興奮のあまりに息を荒くしつつも、かつてない達成感に包まれた。
「それじゃ、リアス。しよっか?」
一子の問いに、リアスは小さく頷いた。