「で、お前、今度は何をやらかそうってんだ?」
「ダメだよ、一子ちゃん。みんなに迷惑を掛けちゃ!」
アザゼルとセラフォルーからの騒ぎを起こすなという視線と言葉、しかし、一子はへこたれない。
グレモリー邸ではなく、魔王領に一子はいた。
セラフォルーが一子を連れにきた為だ。
そこで彼女が一子の側室になるということがリアスに発覚し、グレモリー夫妻はセラフォルーに春が来たことを喜んだ。
ともあれ、リアスが怒りはしたものの、それよりも婚約指輪をもらったこと、一子の正体を教えられたことという嬉しさが勝り、大きく反対することはしなかった。
たとえリアスが反対したとしても、無理であったのだが、あらかじめ教えておかなかった一子の落ち度ということで、リアスからはデートを要求され、それを一子は快諾した。
ともあれ、そんなこんなでまずはシトリー領へと赴いて、セラフォルーの両親とソーナに紹介と挨拶を済ませた。
事前に説明がセラフォルーからされていた為にシトリー側に驚きはなかったものの、ソーナがそれはもう深く溜息を吐いていたのが印象的だった。
その後に魔王領――セラフォルーの統治する領地へとやってきてアザゼルと合流した。
「実はなんだけど、私って今代の赤龍帝なので、ホムンクルスとか色々と作れるわけよ。今代の赤龍帝なので」
「一子ちゃん、大事なことだからって2回言っているけど、無理矢理な理由だよね?」
「なあ、一子。それ、無理があるぞ?」
「今代の赤龍帝なので」
3回目が飛び出したところでアザゼルとセラフォルーは溜息を吐く。
「で、今代の赤龍帝さんは何をやるんだ? 言ったとおりにホムンクルスでも作るのか?」
「似たようなものね。どの程度のスペックまで作れるかっていう性能試験をしたいのよ。だから、事前報告を」
「事前許可じゃないんだね……」
「私が私に対して許可を下したから、他に許可は必要ないと思う」
これだからドラゴンは、とセラフォルーとアザゼルは溜息を吐いた。
こういう自己中なところは紛れもない赤龍帝の証なのである。
「というわけで、色々とやるので、ちょっと待ってね」
既に色々と設定やらキャラメイクは終わっている為、その通りにスキルを使って作るだけだ。
とはいえ、今の一子のホムンクルス作成スキルは凶悪化している。
超位魔法による制限の取っ払いによりホムンクルス以外の種族作成は勿論だが、魔法やアイテム、自分の設定がフレーバーテキスト通りになっていることから、種族作成の際に設定したフレーバーテキストの通りになる可能性が高い。
また本来であったならば、レベルも設定できるのだが、こちらに来てからはそのレベルを設定する項目自体が無くなってしまっている。
つまり、フレーバーテキストにおける設定でどうとでもなるのでは、と一子は予想した。
ならば、そのフレーバーテキストに最高の実力とか天才的な頭脳とか、そういうものを設定したら、どうなるのか、とそれが今回の一子が実験したいことだった。
なお、今回のことは人間界に残してきたカテレアと黒歌、そしてレイナーレ達にカテレアが入手した映像中継装置を使ってこっそりと生中継している。
求心力を高める必要があると一子が思った為に。
そして、一子は作った。
アザゼルとセラフォルーが見守る中、一子の前に魔法陣が描かれた。
見たこともないその魔法陣に2人が驚く中、淡い光とともに一子が作った人物が現れる。
「おいおいおい……マジかよ」
アザゼルは咥えていたタバコを落とした。
セラフォルーは目を見開き、そして、告げた。
「グレイフィアちゃん……?」
一子が作ったのはグレイフィアのそっくりさんだった。
彼女はメイド服を着ていた。
「グレイフィア、結界を張った上で全力で魔力を解放しなさい」
「はい、一子様」
優雅に微笑み、頷きながらグレイフィアは結界を展開、そして全力で魔力を解放した。
一子達3人に襲いかかるグレイフィアの膨大な魔力。
彼女を中心として地面に敷き詰められた石畳みが一瞬にして砕けていく。
「セラフォルー、グレイフィアの魔力は本物かしら?」
一子の問いに過去、何度も戦ったことがあるセラフォルーは告げる。
「うん、本物だよ……この感じ、間違いない」
「グレイフィア、セラフォルーと戦うと勝利できるかしら?」
一子の問いにグレイフィアは困ったように笑ってみせる。
「少し、難しいですね」
「ありがとう。もういいわ」
グレイフィアは魔力を収め、結界を解除する。
同時に壊れた石畳を綺麗に修繕した。
「一子、お前、性能試験って……」
アザゼルの言葉に一子はにっこりと笑った。
「ええ。このグレイフィアは私が作ったグレイフィアよ。設定通りの性能になったわ」
「皆様、初めまして。一子様のメイド、グレイフィアです。どうぞよろしくお願いします」
優雅に頭を下げるグレイフィアにアザゼルとセラフォルーは曖昧に返事をするので精一杯だった。
とはいえ、事態は大事だった。
一子の為したことは、それこそ天地がひっくり返る程のことだ。
「魔王級の力を持つ悪魔を作りやがった……」
パワーバランスが悪魔側に傾いた、などでは済まされない。
文字通りに世界は一子の意のままにできる。
彼女がそれこそ魔王級の悪魔を量産すれば、誰も止められない。
しかも、見たところ、そんなとんでもないことを為したというのに、一子は全く消耗していないように見える。
「一子ちゃん、その、何か代償とかそういうのは……?」
「え? 魔力消費だけだけど。むしろ、設定を考えるのが大変だった」
予想外の言葉にアザゼルもセラフォルーも口を閉ざすしかない。
「ところでセラフォルー、魔法少女、実は双子でしたっていう設定はどうかしら?」
一子から飛び出した言葉にセラフォルーは目を丸くした。
どういうことだ、と思いつつも、しかし、それは魅力的だと同時に思う。
「おい、待て。どういうことだ?」
「どうもこうもそういうことよ、アザゼル。それでね、セラフォルー、私は自分の傍にいる女性に対しては全て面倒を見ると決めているの。あなたは幸せで、楽しくなければならないわ」
一子の言葉に押され、セラフォルーは意を決して、告げる。
「一子ちゃん、その設定、貰うよ」
「分かったわ。というわけで、ちょっと待ってね」
再度、少しの間をおいて、一子の前に魔法陣が展開された。
淡い光とともに現れたのは――セラフォルーだった。
「魔法少女マジカル☆レヴィアたん! 参上!」
アザゼルは頭を抱えた。
セラフォルーは予想通りの展開に、目を輝かせた。
「ねぇねぇ、私。私が一号ってことでいい?」
「勿論よ、私。一子ちゃんに作られたけど、あなたと全く同じだから。あ、でも、一子ちゃんに対する思いは私のほうが深いかも」
「えー! 一子ちゃん最低ー!」
「だって一子ちゃん、私にもっと愛されたい、尽くされたいって思ってるみたいだし」
「もう、一子ちゃんたら、仕方ないなぁ」
頭の痛い会話だった。
アザゼルは空を見上げた。
「……もう俺、帰っていいか? 神器の研究したい」
「ダメだよ?」
「そうそう、ダメだよ。アザゼルちゃんはこのことをサーゼクスちゃんとかに報告しないとだから。私達と一緒に」
「研究者として興味はあるが、面倒事の方が多そうなんだが」
もうなんか色々とどうでもいいや、とアザゼルは投げ槍だった。
「で、まあ、そんなわけだけど、実は3人目には私を作ろうと思って」
「それはダメ」
息ぴったりに、セラフォルーとアザゼルが告げた。
これには一子に作られたセラフォルーもまた声を揃えた。
予想外のところからの反対に一子は驚き、同時にグレイフィアの目つきが鋭くなる。
「セラフォルー、一子様のご意思に背くというの?」
「グレイフィアちゃん、それでもダメなものはダメだよ。主を諌めるのも私達の役目だから」
「それは……確かにそうだけど……」
グレイフィアとセラフォルーのやり取り、アザゼルは感心した。
「ちゃんとそういうこともできるようにしてあるのか……いや、何というか、すげぇな」
主一辺倒ではなく、どうやら本当にオリジナルのセラフォルーと同じ性格らしいことに、アザゼルはそんな感想をもらした。
「じゃあ、なんか別のにする。何かない?」
「それじゃ、ソーナちゃんで!」
「ソーナちゃんが2人!? しかも一子ちゃんの傍にいるから、嫁にもいかない!? ソーナちゃんで!」
セラフォルー2人の強い希望で、一子はソーナを作ることにした。
セラフォルー達の幸せの為なら仕方がないのだ。
「……お姉様達、本当に、本当にもう……」
そして、30分くらいのキャラメイクと設定作成の末に作られたソーナは2人を見るなり、それはもう深く溜息を吐いた。
「ソーナちゃん!」
「ソーナちゃん!」
わーいわーい、とソーナの周りではしゃぐ2人のセラフォルー。
カオス過ぎる状況にアザゼルは見なかったことにした。
「どうするんだよ、これ……」
事態の収拾をアザゼルは完全に諦めた。
「うん、無理だ」
サーゼクスは両手を挙げて降参のポーズを示した。
事の顛末を報告した結果がこれであった。
それも当然だろうな、とアザゼルは同意するしかない。
「一応、我々悪魔側にパワーバランスが傾いたが、どのように? 堕天使の総督として」
「どのようにも何もない。悪魔側というよりか、一子側に思いっきり傾いているだろう」
この場にいるのは2人のセラフォルーとアザゼル、そしてサーゼクスの4人だけだった。
「ねぇねぇ、私。一子ちゃんは私をどう設定したの?」
「基本は私と同じだよ。ただ、一子ちゃんに尽くしたいとかそういう思いは強いかな。でもでも、一子ちゃんの行動は止められると思うよ。そういう縛りはないし」
なるほどとサーゼクスは頷く。
「万が一にはセラフォルーに止めてもらいたい」
「勿論だよ。でも何でかな、一子ちゃんはそういうことはやらないと思うよ? 作られた私が言うのもなんだけど」
「その理由は?」
「だって、一子ちゃんだし。それにそういう気があるなら、グレイフィアちゃんが100人くらいになっているよ?」
そう言われるとサーゼクスは納得するしかない。
「とはいえ、何だか非常に複雑なんだが……」
「おう、そうだろ、サーゼクス。お前は怒っていいぞ」
アザゼルはうんうんと頷く。
自分の妻と全く同じ存在が増えた上に片方は別の者に仕えているのだ。
「ところで私、さっきグレイフィアちゃんが100人に増えるって言ってたけど、もしかしなくても一子ちゃんはそういうことができるの?」
「うん、私。私は一子ちゃんについてはたぶん、私より知っているかも。一子ちゃんは魔力の消費だけで、制限なく、そして際限なく作り出せるよ」
サーゼクスとアザゼルとセラフォルーの顔が引き攣った。
グレイフィアが100人、1000人と無数に軍団を形成する。
怒りを通り越して、不気味であり、おぞましかった。
「おい、サーゼクス。悪魔の法律とかなんとか言って、無断での作成を禁止しろ。今すぐに。取り返しがつかねぇぞ」
「無理無理、アザゼルちゃん。一子ちゃんからすれば、たかが魔王風情が邪魔するなって感じになっちゃうから。むしろ、リアスちゃんの兄として攻めたほうがいいよ」
作られたセラフォルーの言葉にその手があったか、とアザゼルとサーゼクス。
しかし、そこでオリジナルのセラフォルーが手を挙げた。
「禁止するのは賛成だけど、一子ちゃんに私達が手を出せない輩を処理してもらうってどうかな? 一子ちゃんの作成を使えば、本当に身内になって暗殺とか簡単なんだけど」
サーゼクスとアザゼルは顔を見合わせ、作られたセラフォルーは名案だと手のひらを叩いた。
「それにもっと悪いこと、思いついちゃった」
ついで、オリジナルのセラフォルーがにんまりと笑みを浮かべた。
「私やグレイフィアちゃんが増えるってことは、他の悪魔も増やせる……優秀な子達を増やせば、もっと悪魔社会は発展するよね? 一子ちゃんに生殺与奪権を握られるけど、それはもう今更だし」
「悪魔が増やせるなら、堕天使だって大丈夫な筈だ。よし、一子に堕天使の女の子を送り込もう。くそっ、レイナーレの件はしくじったなぁ……」
よりにもよって、グレモリーの管理地でやらかした、と聞いて始末しようとしたのは早計だった、とアザゼルは後悔する。
堕天使側につくのはない、と一子から言われたと報告が上がっていた為に。
もっと早くに接触を、いや、だが、あのときは下手に接触すれば逆鱗に触れる可能性が、とアザゼルは悶々とした。
「……天使にはどうしようか?」
「伝えたほうがいいと思うよ。でも、これ、どう伝えたものかな……」
悩みに悩む4人。
そんな中、サーゼクスはあることに気がついて問いかける。
「ところで作られたほうのグレイフィアとソーナさんは?」
「グレモリー領に戻すと話が拗れるから、一子ちゃんに言って人間界に送ってもらったよ。私もこの後はそっちに行くから」
作られた方のセラフォルーの言葉にサーゼクスは安堵した。
「流石私、うんうん、一子ちゃんはよく分かっているね」
にこにこ笑顔のオリジナルのセラフォルー。
とはいえ、いつまでも隠し通せる問題でもなく、最低でも両親と息子、そしてグレイフィア本人への説明は早いうちにしなければ、とサーゼクスは確信する。
「一人ずつ、地道に説明するしかないな……」
降って湧いた難題にサーゼクスは溜息しか出なかった。
「グレイフィアちゃんには私から伝えるよ。一波乱ありそうだし」
オリジナルのセラフォルーの言葉にサーゼクス達は若手悪魔の会合が近々あったな、と思いだした。
それは確かに一波乱ありそうだった。
「至高の御方に全てを捧げます」
家に戻るとカテレア達居残り組が平伏して一子を出迎え、そしてそんな言葉を宣った。
「……えーと、いくら何でも変わりすぎじゃない?」
「一子さん、普通に魔王級の悪魔を魔力の消費だけで作り出せるなんて、神とか悪魔の領域を超えていますからね」
唯一の常識人のソーナ、彼女の解説にそういうものか、と一子は納得する。
そんな一子にソーナはそれはもう深く溜息を吐いた。
「どうして、私を作ったのですか? もっと別の方に……」
ソーナもまた、当然、オリジナルと基本的には変わらない。
ただ2人目のセラフォルーと同じように一子に対する思いが深いだけで。
「セラフォルー達の願いだったので。あと、ソーナちゃん可愛い」
「お姉様達は……それとお姉様達のものが移っていますよ?」
「いや、ソーナは可愛いと思うので」
これでは会話が進まないとみたグレイフィアが告げる。
「一子様、カテレア達が待っております」
「それもそうね、グレイフィア。ところで、やはりメイドはもう1人欲しいと思うの。だから、あなたをもう1人作るから」
「はい、全ては一子様の御心のままに」
グレイフィアは深く頭を下げた。
しかし、その内心は歓喜に染まっていた。
自分が増えるということを彼女は一子からの信頼と信用の証だと捉えたのだ。
唯一、グレイフィアは大幅にその設定が変更されている。
ルキフグス家について、グレイフィアについて、そして冥界での歴史について調べ、一子が良い感じに作り上げたのがここにいるグレイフィアだ。
「カテレア、私はあなたを女王にしたいわ」
カテレアは思わず、顔を上げた。
微笑む一子の顔がそこにはあったが、しかし、カテレアはその意味を理解する。
「でもね、カテレア。あなたが予想した通り、私の女王になりたいっていう子はたくさんいると思うの。だから、レヴィアタンの名に恥じない程度の強さ、賢さ、美しさを身につけなさい」
女王の座は与えるが、確定してはいない――
そう告げられたカテレアは当然とばかりにそれを受け入れた。
あまりにも今の自分は全てにおいて非力過ぎる、と。
眷属の格は主人の格に直結する。
どれだけ一子がずば抜けていても、眷属が弱ければ侮られてしまうだけだ。
だからこそ、カテレアは己の名に誓う。
「レヴィアタンの名に懸けて、必ず」
「期待しているわ。私のレヴィアタン」
カテレアは歓喜のあまり、叫びたくなったが、それを堪えた。
「さて、黒歌」
「はいにゃ」
「可愛いから僧侶枠の予定で」
「頑張るわ」
黒歌の答えに一子は満足しつつ、レイナーレ達へ。
「……レイナーレ達には堕天使のままでいて欲しいんだけど」
「私もあなたの役に立ちたい」
「私もっす」
「私もです」
レイナーレ達の言葉、しかし一子としては複雑だ。
「3人の堕天使の翼、結構好きなんだけど」
レイナーレ、ミッテルト、カラワーナは言われて悩んだ。
「というか、3人とも私の使い魔みたいなものだから、別にもういいんじゃない?」
一子の言葉にそれもそうだ、とレイナーレ達は何となく納得するが、これまで使い魔らしいことは全くしていなかったことに引っかかりを覚える。
とはいえ、使い魔らしいことと言われても基本的に一子が何でも済ませてしまうので、あんまり意味がない。
「使い魔として、私に愛されること、これね」
ところが一子は使い魔の定義に真っ向から喧嘩を売ることを宣った。
とはいえ、それはレイナーレ達にとっても望むこと。
「一子様は本当に欲望一直線っすね」
「それほどでもない。さて、邪魔が入らないうちにグレイフィアをもう1人と言わず、何人か、作っておきましょうか。ちょっとだけ設定とか年齢を変えて」
一子はこれから色々と楽ができると素直に喜んだ。