「若手悪魔の会合って楽しみね」
一子は何かを思いついたと言わんばかりに悪い笑みを浮かべていた。
「一子、相応の振る舞いを頼むわ」
「私はそうするけど、向こうが喧嘩を売ってきたら、その限りではない」
「それはそうだけど……」
リアスは悩ましかった。
私のことを思ってくれているし、とても嬉しいけれど、一子が騒ぎを起こすのは良くない、と。
ただでさえ、何かをやらかしたらしく、アザゼルとセラフォルー、そしてサーゼクスから絶対に目を離さないでくれ、とお願いされている為に。
セラフォルーはそうでもなかったが、アザゼルとサーゼクスの疲れた顔はリアスの記憶に新しい。
「って、あら、サイラオーグ? こんなところでどうしたの?」
「おう、リアス。それと噂の赤龍帝か」
「初めまして、それなりに強そうね」
優雅にお辞儀をする一子にサイラオーグは手を軽く挙げて答える。
「で、リアス。こんなところにいる理由だが、まあ、想像はつくだろう」
「……おおよそは」
リアスが答えた直後、会場と思われるところの扉が吹き飛んだ。
血の気の多い連中もいる為、こうなるのは予想済みであった。
「一子、手出しは……」
ダメよ、と言いかけてリアスは気がついた。
こつ然と一子の姿が消え失せたことに。
「赤龍帝なら、会場に入っていったぞ。血の気の多い奴だな」
笑うサイラオーグにリアスは深く溜息を吐いた。
「この後の展開が予想できるわ……」
ともあれ、若手悪魔達の命が危ない。
リアスは決死の覚悟で会場の中へ駆け込んだ。
彼女に続き、朱乃達とサイラオーグも会場の中へ。
会場ではグラシャラボラス家のゼファードルとアガレス家のシーグヴァイラ、そして一子という中々面白い構図になっていた。
リアスは頭を抱えた。
だが、どういう展開になるか、見てみたいという好奇心もあった。
「ここで殺しても咎められないかしら?」
「そんなんだから男が寄ってこずに処女をやってるんだろ? 俺が開通式をしてやるよ」
「まぁまぁ落ち着いて」
おや、とリアスは不思議に思った。
あの一子がにこにこと笑みを浮かべて、両者の間に割って入ったのだ。
「あ? 何だこいつは?」
「誰の眷属かしら?」
「そんなことはどうでもいいわ。それよりも、ここは私に免じて双方、剣を収めるという形で」
「そもそもコイツから喧嘩を売ってきたわ」
「いつまでも処女くさい奴がいたから、当然だろう」
そして、ゼファードルは思いっきり一子の顔をぶん殴った。
「おっと悪い、手が滑っちまった。どいつの眷属か知らねぇが、悪いな」
ゼファードルは殺したことを確信した。
それだけの力を込めたのだから。
「そう、それは残念ね」
しかし、その声に驚き、ゼファードルは拳をどかした。
そこには傷一つついていない一子の顔があった。
「私は今、対話をしていたのに、悪逆非道な不意打ちを受けたわ」
にこにこと変わらぬ笑顔の一子にシーグヴァイラは後ずさりした。
嫌な予感がしたのだ。
それはゼファードルも同じだったようで、彼は後ずさりしつつ、問いかけた。
「お、お前は誰だ?」
「そんなことはどうでもいいわ。だって、もうこの世から消える奴に教えたって仕方がないでしょう?」
瞬間、ゼファードルは全身が千切れたかと思う程の衝撃を受けた。
気がついたら、彼は瓦礫の山に埋もれていた。
全身が悲鳴を上げ、指一本動かすこともままならない。
瀕死のゼファードルに向け、一子は告げる。
「死は汝に与えよう」
ゆっくりと彼女はその指先をゼファードルへと向けた。
そこに躊躇は一切なく、殺る気であることを周囲に印象づけた。
「待ちなさい、一子」
しかし、そこでリアスが待ったを掛けた。
一子は視線は逸らさないまま、問いかける。
「どうして? あなたの前にゴミがいたから、掃除をしているだけなのだけど」
リアスはその返しに確信する。
これは一子による茶番だと。
そもそもからしておかしい話だ。
彼女が殺る気であるなら、最初に殴ったときにゼファードルは死んでいたのに。
故に、リアスはこれが自分の為に用意された場だと確信したのだ。
眷属の格は主の格に直結するのだから。
「ええ、その心遣いはとても有り難いのだけど、せっかくのデビュー前の会合よ。血で汚すのは如何なものかしら」
リアスはそう告げ、優雅に歩きながら、腕を組んでみせる。
彼女の予想が正しければ――
「それもそうね」
とてもあっさりと一子は矛先を収めた。
そして、最後の仕上げだ。
「私の眷属が迷惑を掛けたわね。私思いの可愛い眷属なのよ」
にこにこと笑顔でリアスがそう言えば、他の面々は何も言えなかった。
「うまいものだな」
サイラオーグは肩を竦めてみせた。
これで誰もリアスに真っ向から喧嘩を売ろうなんて輩は現れないだろう。
「サイラオーグ、強すぎるのも考えものよ」
「だろうな、リアス。アレは苦労するだろう」
ゼファードルを殴った一撃をサイラオーグはかろうじて目で追えた。
逆に言えば、目で追えただけで体は反応できないだろう、と彼は感じていた。
「どの程度だ?」
何が、とはリアスは聞かない。
容易に理解できた為に。
「最低でもお兄様以上」
「最低でも、か。最大の予想は?」
「世界を相手に1人で戦って勝てるくらいに」
思わず、サイラオーグはほくそ笑む。
「時々修行をつけてもらっているけれど、一子の本気は修行のときに見たことがないわ」
「俺が挑戦しても?」
「いいけど、絶望しても知らないわよ……って、あの子ったら」
リアスの言葉にサイラオーグが一子へと視線を向けると、シーグヴァイラを熱心に口説いている姿が見えた。
シーグヴァイラも満更ではなさそうで、サイラオーグは彼女に相手がいないのは、そっち系だからではないかと考えてしまう。
「レーティングゲームを若手でやることになるが、さて、どうするかな。赤龍帝はお前の切り札だろうが、その赤龍帝に修行をつけてもらっているとなると心を折るのは無理そうだ」
「ええ、サイラオーグ……太陽って重くて熱いのね」
遠い目になったリアスにサイラオーグは一体何をされたんだ、と思うも答えが出ることはなかった。