若手悪魔の会合も波乱万丈ではあったが、終わった。
レーティングゲームを若手悪魔同士、エキシビジョンという形でやるということが決まり、リアスの相手はソーナとなった。
だが、それきりだ。
グレモリーチームは一子が規格外過ぎるということ、かといって一子を除外しては人数差がありすぎるということから、戦う相手はシトリーチームのみということになった。
一子との戦力差を埋める為に特殊ルールになるかもしれない、という予想もあり、どうなるかは皆目検討もつかなかった。
そして、各々の修行ということになったが、その初日に――
「一子、お前は本当に強いな!」
「何で私は初日から、こんな熱血馬鹿の相手なのよ」
「まあそう言うな!」
余所見をして文句を言う一子に対するサイラオーグは殴りかかったが、軽々と指一本で一子は受け止めた。
そこからの怒涛のラッシュを全て一子は簡単に余所見をしながら避ける。
サイラオーグは面白いとばかりにどんどん速度を上げるも、全く掠ることもしない。
「流石に強いなぁ、一子は」
「うんうん、一子ちゃんは流石だね」
アザゼルとセラフォルーは呑気にその様子を見ていた。
「っていうかこれ、サイラオーグに利益があって、私に利益がなくない?」
余所見をしながらそう言い、一子はカウンターでサイラオーグの鳩尾に一撃を入れた。
その衝撃により彼は吹き飛んだ。
「で?」
「まあ、サイラオーグは本人の熱心な頼みからだ。お前の修行に関してはちゃんと考えてある。ドライグに丸投げだと、どこまで非常識になるか、分からないからな」
おい、とドライグが抗議の声を上げるが、アザゼルは無視して続ける。
「もう本当に一子ちゃんの修行相手は悩んだんだよ?」
「で、誰なのよ、セラフォルー」
「一子ちゃんもお気に入り! スケジュール調整に私、すっごく頑張った! グレイフィアちゃん!」
「え、本当?」
目を輝かせ、そして一子はセラフォルーに抱きついた。
「だからセラフォルーって大好き!」
「うんうん、私も一子ちゃんはソーナちゃんの次くらいに大好きだよ。色々やらかしてくれたけど、それも含めて」
セラフォルーの言葉にアザゼルは深く溜息を吐いた。
やらかしの具合が酷すぎる、後始末をする身にもなってくれ、と。
勿論、一子はそんなことは分かっているが、考慮するわけがない。
「グレイフィアちゃんが来るまではサイラオーグちゃんの修行に付き合ってあげて。午後には来るから。スケジュール的に今日だけなんだけどね」
「今日だけって明日以降はどうするのよ?」
「明日は明日の風が吹くから、大丈夫!」
☆でも語尾につきそうな感じの口調にアザゼルは再度、溜息を吐いた。
セラフォルーは側室らしいが、敢えて彼は言いたかった。
お似合いのカップルだ、と。
「あ、私はちょっと行くところがあるから」
まったねー、とセラフォルーは転移していった。
「……勝てるビジョンが見えない」
ソーナは頭を抱えていた。
日の当たらなかった者達にも学校を、というのが彼女の夢であり、目標の試金石ともなる今回のレーティングゲーム。
だが、相手が悪すぎた。
戦術も戦略も、何もかもが無意味。
単純なパワーが違いすぎた。
ソーナは頭脳派だ。
こういう時の為にデータの収集は一切怠っていない。
だからこそ、絶望的な差が分かってしまう。
ライザーとのレーティングゲーム、そしてコカビエルとの戦い。
禁手化に至った赤龍帝、そして、おそらく一子の手札はそれだけではない。
「一子さんと、それ以外を分断し、その間にリアスを倒すしかないけれど……」
分断して、誰が抑えるか?
それこそ、ソーナ以外の全員を向かわせたところで、本気どころか真面目に戦われたら1分も保たない。
下手をすれば数秒でやられるのがオチだろう。
しかし、希望はある。
ソーナの女王、椿姫の追憶の鏡だ。
強ければ強い程にカウンターに対して弱くなる。
単純に考えれば、一子の一撃で一子を倒すことは可能だろう。
だが、問題は一子の軽い一撃であっても、こちらは容易に倒されること。
軽い一撃を跳ね返した程度では一子は傷を負うかもしれないが、それで終わりだ。
こちらにカウンターがあるということが知られてしまえば、おそらくはもう二度と通用しない。
ただ、どうにかして一子を倒せてしまえば、それでソーナの勝利は確定したも同然。
一子はグレモリー眷属のエース。
女王と同じか、それ以上に絶大な信頼をリアスから置かれていることは想像に難くないし、それだけの実力もある。
そんな一子を倒せれば、それこそ、グレモリーチームは精神的な柱をへし折られて、戦意を喪失するに違いないだろう。
「やあ、ソーたん。お姉ちゃん登場だよ!」
そんなとき、セラフォルーが現れた。
「お姉様、何の用ですか?」
「悩めるソーナちゃんにちょっと手助け。一子ちゃん、どうにかできる?」
「無理ですね。唯一は椿姫のカウンターくらいですが、それでもおそらく……」
「うんうん、そうだね。カウンターは確かに脅威だけど、それだけじゃ一子ちゃんは無理。ぶっちゃけ、あの子、魔王とかが複数で戦わないとマトモな戦いにならなさそうだし」
でしょうね、とソーナは溜息混じりに肯定する。
「だから、ソーナちゃん。お姉ちゃんが手助けしてあげる。本来は魔王に参加権はないんだけど、根回しは済んでいるから」
「……は?」
ソーナは真顔になった。
彼女に対して、セラフォルーは告げる。
「レーティングゲームはエンタメだよ? それに今回は堕天使とかその他諸々の偉い人達がわざわざ見に来るわけ。一子ちゃんみたいなガチな子が一人勝ちじゃ、面白くも何ともないでしょ?」
「それは……確かにそうですが……」
「それに、ソーナちゃんの夢に協力するのはお姉ちゃんとして当たり前。ソーナちゃんの戦いを取ってしまうようで、申し訳ないけれど……でもソーナちゃん達じゃ、絶対に勝てない。ルール的に制限を加えても、最後は一子ちゃんが出てきて終わり」
姉に真面目な顔で告げられ、ソーナは顔を俯かせてしまう。
「あぁ、そんな顔をしないで、ソーナちゃん。お姉ちゃんだって、嫌なんだから」
「いえ、ただ、悔しくて……」
涙が少しずつ出てくるのをソーナは感じた。
セラフォルーはそんな彼女を思いっきり抱きしめる。
「大丈夫、ソーナちゃん。赤龍帝の力は冥界どころかあちこちに知れ渡っているから、今回の手助けは特別に許可されているの。みんな、偉い人達は承諾済みで、仕方がないって」
「はい……それで、手助けとは?」
「私とグレイフィアちゃんがソーナちゃんのチームに入って、一子ちゃんを全力で抑えるから。その間にリアスちゃんを倒して」
ソーナの明晰な頭脳はすぐさま、予測を弾き出す。
「30分、抑えられますか?」
「任せて。グレイフィアちゃんには今、一子ちゃんと直接、修行っていう名目で戦ってもらっているから。たぶん大丈夫だよ」
あくまで主役はソーナとリアスの戦い。
そこから赤龍帝である一子を除外すれば、程よく戦力が拮抗するだろう、というのがセラフォルーの予想だ。
とはいえ、いくら何でもソーナの側だけに助っ人が2人も加わるのは不自然だ。
いくら赤龍帝を抑える為とはいえ、単純な人数ではソーナの方が上なのだから。
そこでリアス側にも助っ人は2人まで許可される。
勿論、ソーナ側と同じく誰でもOKであり、また助っ人が誰かは試合開始まで秘密という条件で。
一子ちゃんもさすがに作った私やグレイフィアちゃんは出してこないはず――
そこを除外すれば、一子ちゃんの人脈は大したことがない――
セラフォルーは詳細に一子の人脈について調べていた。
助っ人を頼めるような輩は皆無だった。
ありえるとすればカテレアや黒歌、レイナーレ達といった兵藤邸にいる面々であるが、どれもこれも公の場で戦うには過去の経歴に問題がありすぎる。
その為にセラフォルーはリアス達への説明役も兼ねているグレイフィアにはそういう過去の経歴から見て、問題がある面々の助っ人は不可と説明するようお願いしてある。
ただ、セラフォルーには懸念があった。
もしも、一子がこちらの予想以上に強すぎた場合だ。
具体的にはセラフォルーとグレイフィアがタッグを組んで戦ったとしても、秒殺されるような場合。
だからこそ、グレイフィアには一子に神器を完全に解放せずに戦ってもらうように、と説得も頼んであった。
勿論、一子のやらかしについても話した上で、それを説得のカードとするように告げて。
グレイフィアは一子のやらかしを知ったとき、怒りはしなかったものの、非常に困惑していたのが印象的だ。
彼女と一子の接点はそこまでなく、関係も深いとは言えなかった為にどうして、そこまでするんだろう、という疑問だった。
もっともセラフォルーからすれば、よく分かった。
一子ちゃんは性癖のブラックホール、至高の変態ドラゴンだから――
兵藤邸エロ本捜索大作戦の陣頭指揮を執ったセラフォルーからすれば、一子がグレイフィアを好むのは当然とも思えた。
さすがに寝取ろうとしないあたり――まだ寝取る方が常識的に思えるくらいに非常識なことをやらかしたが――分別はあるらしかった。
「ソーナちゃん、リアスちゃん達は強いよ。何しろ、一子ちゃんにちょくちょく鍛えられているからね。それこそ、一子ちゃんをぶつけるくらいはしないと心は折れないと思う」
「戦意喪失を狙うのは無理ということですか……」
「そういうこと。むしろ、一子ちゃんが倒れたら、私達が頑張らないとって感じで、よりやる気がみなぎるかも」
「……本当に厄介ですね、一子さんは」
「敵に回ったらもう降参したほうがいいと思うくらいには厄介だね。でもでも、ソーナちゃん。逆に言えば、一子ちゃんと戦うより辛くてしんどいことは、この世にはあんまりないから大丈夫だよ」
そう言われると、そうかもしれない、とソーナは思えてしまう。
一子と戦うのと学校の為にあちこちに根回しするのでは圧倒的に後者の方が楽に感じてしまう。
「お姉ちゃんに任せて」
「任せました」
ソーナの言葉にセラフォルーは自身満々に頷いた。