「想像以上に強い」
グレイフィアは一子と戦って、素直にそう評価した。
禁手化した状態の一子はグレイフィアと真正面から戦える程の力を有しており、グレイフィアも久しぶりに楽しめた、というのが本音だ。
継戦能力も半端ではなく、夕食までの数時間に渡ってグレイフィアと戦ったのだが、一子は息一つ乱すことがなかった。
対するグレイフィアも同じく息を乱さなかったが、それでも多少の消耗はある。
「禁手化以上の形態はありませんが……」
通常の神器ではそうだ。
しかし、獣や龍を封じたものはその限りではない。
完全な暴走状態であり、生命力を大きく削るが、神をも超える力を得るもの。
さすがにレーティングゲームでは使わないだろう、とグレイフィアは予想するが、それでもセラフォルーから頼まれた通りに釘は刺しておく必要はあった。
そして、グレイフィアはリアス達を夕食後に広間へと集めた。
「ソーナに助っ人ですって!?」
リアスは思わず叫んだ。
グレイフィアが説明した寝耳に水の今回の特別ルール。
彼女にとって、リアスの反応は予想できたものだった。
「簡単に申しますと、一子様が強すぎるので。レーティングゲームは確かに戦闘経験を積むという面もありますが、あくまでエンターテイメントですから」
そう言われるとリアスとしても全く反論ができない。
特に今回はレーティングゲームの有用性をアピールする為に各神話や勢力の要人が招かれている。
そんな中で一子が一人勝ちしたら、白けてしまうのは容易に想像ができる。
「本来なら、色々と適当な理由をつけて一子様をゲームから除外するという案もありましたが、それではさすがに、ということで」
リアスとしては何も言えない。
下手に抗議して、そうなってしまっては元も子もないからだ。
「勿論、リアスお嬢様にも助っ人は認められています。ソーナ様と同じく2人まで、誰でも構いませんが、過去の経歴に問題がある方や若手悪魔は認められません。勿論、試合開始まで非公開とされます」
リアスは直感した。
グレイフィアは具体的に名前を出していないが、明らかにカテレアや黒歌、レイナーレ達を指していることに。
「なるほど、素敵なやり方ね」
一方、一子は拍手でもしそうなくらいにご機嫌だった。
「ちょっと一子、これかなりまずいわよ?」
「何を言っているのよ、リアス。目の前に最強の助っ人がいるじゃない」
あ、とリアスは声を上げて、グレイフィアへと視線を送った。
朱乃達もまたグレイフィアへと視線を送る。
「グレイフィア、助っ人として……」
「申し訳ありませんが、当日は既に予定がありますので。勿論、サーゼクス様やセラフォルー様も」
「まあ、そうよね……」
リアスは予想した答えに溜息を吐いた。
「それと一子様。セラフォルー様から聞き及んでいますが……勿論、ダメですので」
「さすがに私も出さないわよ」
「それと、神器を完全解放したりとか、そういうのもダメですので」
「そう、それは最高だわ。地獄に落ちろ、悪魔」
「ここは冥界ですよ? あとあなたも悪魔ですよね?」
「じゃあ天国に昇れ、悪魔」
「そういう罵倒は初めて聞きましたね。何かご質問は?」
一子はぐぬぬ、と唸るも口を閉じた。
そこで朱乃が手を挙げた。
「助っ人は非公開ということですが、どのように伝えれば良いのですか?」
「こちらの紙に氏名を記入し、この箱へと入れていただければ。もし、助っ人として問題があったなら、1分以内に自動的に紙が箱から排出されます。問題がなければそのまま箱の中へ収まります。もし別の助っ人に変えたい場合は箱にある排出ボタンを押してください」
「自動判別機兼金庫というわけですね」
「そういうことです。箱は当日まで時限式の封印術により開きませんので、ご安心を」
グレイフィアは小箱と紙の束を手近なテーブルへと置いた。
「他に質問は?」
「当たり前のことだけど、名前を書いて入れて、問題がなくても、当然、助っ人とする人にアポイントメントを取って、当日に来てもらわないといけないのよね?」
「はい、この箱に召喚機能などはありませんので、そちらはリアスお嬢様達にやっていただく必要があります」
一子の問いにグレイフィアは答えた。
リアスの表情が曇る。
難題だった。
「それでは以上で説明を終わります」
そう締めくくり、グレイフィアは部屋から出ていった。
「誰か、助っ人に心当たりは?」
リアスの問いに誰も答えない。
それを見て、一子は驚いた。
「え、もしかして……あなた達、ボッチ? ただしアーシアは除く」
「一子先輩、最低です」
「だって、小猫……普通、横のつながりみたいなの、あるでしょ? それに私なんかほら、あっちこっちで仲間にしているけれど」
「おっと一子、私とイリナはあれだぞ、仲間はいたからな。今ではもう種族的な関係で連絡を取ることができないだけだ」
「そうだよ、一子ちゃん。私達は違うから」
自分達はセーフと言い張るゼノヴィアとイリナ。
彼女達は事情が事情の為、仕方ないといえば仕方ない。
「木場とか、誰かいないの?」
「あー、僕も実はそういうのは……師匠ならいるけど、師匠はサーゼクス様の眷属だから、たぶん……」
「というか、一子先輩が特殊過ぎるんです」
小猫の言葉にリアスや朱乃も含めて一子とアーシア以外がうんうんと頷く。
「一子さんは特殊というか、器が広いと思います」
唯一、アーシアはそう言ってフォローする。
一子はアーシアの言葉に癒やされつつも、リアスへと視線を向ける。
「誰かいないの? リアスの人脈とかで」
「私ならサイラオーグだけど、若手悪魔はダメって言われたし……他にはちょっと思いつかないわね」
「朱乃は?」
「……残念ながら」
一子は匙を投げたくなった。
「で、でも、一子。ソーナの助っ人が一子より強いってことはないでしょ?」
リアスの言葉に一子は深く溜息を吐き、告げる。
「ねぇ、リアス。ソーナをこの世で一番助けたいのって誰だと思う?」
「……あっ」
リアスは察した。
ありえないことはない。
「で、でも、魔王様よ? お兄様と同じで当日は忙しい筈……」
「セラフォルーのソーナへの愛は、そんなものかしら?」
一子の言葉はこれ以上ない程に説得力があった。
「一子、レヴィアタン様、倒せる?」
「戦ったことがないから何とも言えないわ。で、問題は2人目」
「流石にお兄様は出てこないわよ。きっと、たぶん、何か、そこらの上級悪魔の誰か……」
リアスの淡い期待を打ち砕くように、一子は告げる。
「たぶんだけど、グレイフィアよ。出てくるの。わざわざ私の修行をつけてくれたんですもの。あれ絶対私の戦闘力を図っていた。私の勘だけど」
一子の言葉にリアスは力なく、椅子にへたりこんだ。
「グレイフィアとレヴィアタン様がタッグ……勝てるわけないじゃないの……」
リアスの言葉に絶望的な空気が広がってしまう。
さすがにそれも仕方がなかった。
何しろ、どちらが最強の女性悪魔なのか、と互いに競い合ったのだ。
冥界どころか、全ての神話勢力でその名を知らない者、強さを知らない者はいない。
「一子さん、何かありませんか?」
「私の神器を完全解放すれば普通に勝てるけど、それを禁じられたからね。大人しく助っ人を探すことにするわ。ただ、そうね、念の為に確認を」
朱乃の問いにそう返しながら、一子は置いてある紙の束から2枚を取り、無限倉庫からペンを取り出した。
そして、名前を書いて箱に入れた。
リアス達は一子の行動に驚きつつも、箱の反応を見る。
1分が過ぎても、箱から紙は排出されなかった。
「え、一子、誰の名前を書いたの?」
「当日まで秘密。というわけで、私はちょっと助っ人のスケジュールを調整してくるから。安心して、大丈夫だから」
それじゃあね、と一子は転移していった。
「……排出ボタン、押す?」
「部長、流石にそれはどうかと思いますわ」
「冗談よ、冗談。一子が何かやらかすのを信じるしかないわね」
「信じなくても、やらかしてくれますわ。だって、一子さんですもの」
朱乃の言葉はこれ以上ないほどの説得力があった。
一子が転移した先は兵藤邸だった。
彼女はまっすぐに黒歌へと会いに行き、何も言わずに無限倉庫からユグドラシル産極上霜降り肉の巨大な塊を取り出して、彼女の前へと置いた。
「にゃ!? 一子、これ、食べていいにゃ!?」
「いいわよ。ただし、交換条件がある」
「にゃんでも言って!」
「ヴァーリの電話番号、教えて」
「……にゃ?」
黒歌は首を傾げるものの、それくらいだったらお安い御用だ。
「ヴァーリに用があるにゃら、私が伝えるわ。携帯電話なんて小洒落たもの、彼は持っていないもの」
「すぐ連絡を取って」
「分かったにゃ。用件は?」
「魔王と合法的に戦えるって伝えて、今すぐここに来いって」
黒歌が仙術を使用して、ヴァーリに連絡を取り、一子の言葉をそのまま伝えた。
「おい一子! 本当か!?」
5分でヴァーリはやってきた。
「本当よ。相手はセラフォルー・レヴィアタンとグレイフィア・ルキフグスのタッグ。レーティングゲームの一環で、相手は助っ人として呼ぶつもりだから。どうせなら、二天龍のタッグを見せてやりましょうよ。そっちのほうが面白い」
「ああ、それは面白いな……!」
闘志を燃やすヴァーリに一子は満足げに頷く。
「ただ、ヴァーリ。戦うからには勝つわ。でも、覇龍は使うなと言われているから、私達がかなり不利」
一子の言葉にヴァーリは難しい顔となる。
彼は戦闘狂であるが、無鉄砲ではない。
彼我の実力差を正確に分析できる頭を持っている。
「お前の言う通りだ。お前はともかく、俺では足手まといになりかねない」
「グレイフィアと軽く戦ったけど、私が禁手化した状態で甘く見積もって互角かしらね。互いに全力は出していないけれど、アレ、相当やるわよ。戦闘経験の差で向こうが圧倒的に有利」
ヴァーリは軽く頷く。
彼は何となく、一子の言っていることは事実だが、真実ではないと感じた為に。
「一子、お前が全力で戦った場合は?」
「私が勝つに決まっているじゃない」
一切の躊躇なく、一子は言い切った。
ヴァーリは不敵な笑みを浮かべる。
「それなら安心した。俺の目標はお前でいいわけだな」
「ええ、構わないわ。で、日程と場所と時間はこの紙に書いてあるから。当日に来てくれればいい」
「後の面倒は知らんぞ」
「アザゼルのところから出奔した放浪者ってのが世間の評価よ、たぶん」
一子の言葉にヴァーリは確かにそうだ、と頷く。
暗躍はしているが、公になるようなことはまだしていない。
「当日、会場に行く」
「頼んだわ。もう1人の助っ人は今から交渉しに行くので」
一子は再度、冥界へと転移した。
冥界のグレモリー邸に戻ってきた一子はすぐさま
不安はない。
何しろ、こちらは相手に対して大きな貸しがあるのだ。
繋げる相手は――
『もしもし? クレーリア? 10年前、あなたを助けた者だけど』
一子の言葉に相手――クレーリア・ベリアルは驚きの声を上げた。
今の今まで、全く連絡がなかったのに急に頭に声が響いたのだ。
『あ、えっと、あのときは本当にありがとう。おかげで私達、幸せになれました』
『うんうん、それは良かった。実は私、兵藤一子って言って、今代の赤龍帝なんだけど』
『……え、本当に?』
『本当よ、本当。色々あって、今はリアス・グレモリーの眷属をやっているのよ』
『えーと、悪魔をバッタバッタとぶっ殺していた、あなたが?』
クレーリアは思わず問い返した。
10年前、大勢の刺客に取り囲まれたあのとき、一瞬で刺客達を皆殺しにした光景は今でも思い出せる。
あのときの一子はにこにこ笑顔で、クレーリア達ですらも、怖がったものだ。
結局、その恐怖も手伝って、名乗りはしたものの、すぐさま助けてほしいとお願いして、一子の名前を聞くこともなく、逃げ延びたのだ。
かなり失礼な態度であった、とクレーリア達は反省し、謝罪したいと思っていたものの、公の場に出るわけにもいかず、今の今まで思うに留まっていた。
『そうよ。で、早い話、10年前のお礼をしてほしくて』
『私にできることなら……』
『ディハウザーを助っ人として貸してくれないかしら? 今度、レーティングゲームがあってね。助っ人が2名まで認められているのよ』
クレーリアは即答はできなかった。
だが、彼女は数秒の間をおいて、告げる。
『分かりました。詳しいことを教えてください。説得します』
『ありがとう。そちらに直接行きたいわ。座標を頂戴』
久しぶりの交渉事に一子は楽しみであった。