やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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ドリームマッチ

 

 

 

 

《いよいよ始まります! 女性悪魔最強タッグと二天龍及び皇帝のドリームマッチ!》

 

 司会も大興奮しながらの宣言に観客達は大歓声で応じる。

 その歓声を聞きながら、一子は告げる。

 

「それじゃ、行ってくるから」

「ええ。あなたの強いところを見せて」

 

 リアスの言葉に頷いて答えつつ、一子は専用の転移魔法陣へと歩みだした。

 その後をヴァーリとディハウザーが続いた。

 

 戦場は先程と変わらずに平原だ。

 

 

 3人が転移した先に、数秒遅れてセラフォルーとグレイフィアが転移してきた。

 互いの距離は10m足らず。

 

 同時に試合開始のアナウンスが響き渡る。

 しかし、どちらもすぐには動かない。

 

 事前に一子は運営及び審判に確認を取っていた。

 相手を煽ってもいいか、と。

 返ってきたのは問題ない、という答え。

 念の為にディハウザーにも尋ねたところ、暗黙の了解として政治的なものでなければ何でもOKとのことだ。

 

 故に、一子はユグドラシル時代に鍛えに鍛えた煽りスキルを発揮することとした。

 

「よく逃げずに向かってこれたわね。大昔にドライグとアルビオンに負けたトラウマが蘇って、泣いて喚いて、行きたくないよーって嫌がるかと思った」

 

 褒めてあげる、よくできまちたねぇ、と一子は満面の笑みに膨大な悪意を込めてグレイフィアとセラフォルーに向けて言った。

 

 ヴァーリは一子から少し距離を取った。

 ディハウザーは思わず笑ってしまった。

 

「その頃には生まれていませんので」

「そうそう! 一子ちゃん、煽りにはのらないよ!」

「え、何、自分達が若いとでも思っているの?」

 

 グレイフィアとセラフォルーは一子の何気ない一言に怒りが込み上げてきたが、冷静さを保った。

 

「というかさ、私の煽りスキルを舐めないでほしいわ。こっちの言葉が通じて、理解できる頭があるなら、血管がブチ切れるまで煽りまくるのが、同格に対するスタイルよ」

「え、何それ最低……」

「一子様、ここでのやり取りは全て観客の皆様に見えていますし、聞こえておりますので、節度は守ってください」

「戦いに節度も何もあるわけないでしょ。ましてや悪魔なのに。何、淑女を気取っているわけ? 節度とかルールとかが大好きなら天使にでもなったら如何?」

 

 ニヤニヤと、いやみったらしい笑みを浮かべる一子。

 グレイフィアもセラフォルーも悟った。

 

 これ、何を言っても重箱の隅をつついて、粗を探してくるパターンだ、と。

 

 つまるところ、会話をしているようで会話をしていない。

 はじめから悪意を込めた煽りという大前提がある為に、どれほどの正論を述べようが、ああでもないこうでもない、と否定して反論してくるのだ。

 

 無視するか、物理的に黙らせるかの2つしかない。

 

 とはいえ、グレイフィアもセラフォルーも伊達に純血悪魔ではない。

 汚さ、黒さを見てきた数、体験した数、そしてやり返した数でいえば悪魔としてはぽっと出の一子に劣るものではないのだ。

 

「一子ちゃんの力は認めるけど、それだけじゃ、やっていけないよ?」

「慢心、油断は大いにして頂いて結構です。その方が倒しやすいので」

「何を言っているのよ? 慢心? 油断? これは強者の余裕というものよ。とはいえ、そうね、私としてもやり過ぎたところはあるわ」

 

 一子の言葉にグレイフィアとセラフォルーは耳を疑った。

 謝罪でもするのか、と2人は思ったが、次に出てきた一子の言葉にそんなことはなかったとすぐに思い直した。

 

「抵抗することなく、その命を差し出せ。そうすれば苦痛も絶望もなく殺してやろう」

 

 その言葉が実質的な試合開始のゴングとなった。

 

 

 グレイフィアとセラフォルーは一瞬にして間合いを詰め、一子目掛けて左右から飛びかかった――

 しかし、目前にまで迫った、2人の魔力をこれでもかと込めた拳が届く直前。

 グレイフィアもセラフォルーも瞬時にその場から離脱した。

 

 2人の判断は正しかった。

 

 黒い茨が一子の周囲を突如として覆った為に。

 しかし、様子を見るという選択肢はグレイフィアにもセラフォルーにもない。

 

 セラフォルーが茨を凍りつかせ、グレイフィアが更にそこに魔力の弾丸を撃ち出して破壊。

 さらにそこにセラフォルーが一子目掛けて再度、飛びかかったが、そこに一子は既にいなかった。

 しかし、グレイフィアがカバーする。

 彼女は正確に一子が移動した場所を探知し、そこへ数多の魔力の弾丸を浴びせる。

 超圧縮したその弾丸は貫通力を重視したものであり、たとえ赤龍帝の鎧を纏ったとしても容易に貫ける力があった。

 

 一子とて、そういうのは予想済み。

 故に、彼女もまた同じように魔力を超圧縮して、その飛んできた弾丸を全て撃ち落とした。

 

 

《な、何という攻防でしょうか! 今代の赤龍帝は既にその力は魔王に匹敵するのか!?》

 

 そんな声がコート内の面々に聞こえてきた。

 しかし、セラフォルーとグレイフィアは口を揃えて否定したかった。

 

 一子の力はそんなものでは収まらない、と。

 

 何しろ、赤龍帝の籠手すら出していない状態でこれなのだ。

 無論、グレイフィアもセラフォルーもまだ本気ではない。

 だが、既に彼女達は致命的なミスを犯してしまった。

 

 セラフォルーはグレイフィアの弾幕に巻き込まれないよう、射線から外れつつも、一子がどう対応するか様子を見ていた。

 そして、グレイフィアは全てを撃ち落とされるという一子の回答に次の行動への反応が僅かに遅れてしまう。

 

 一子に10秒足らずとはいえ、時間を与えてしまった。

 一瞬にして彼女は赤龍帝の籠手を顕現させ、禁手化し、更にその上から数々の装備品を身につけた。

 

 それにより、グレイフィア達だけでなく、ヴァーリやディハウザーも感じた。

 一子の力が桁違いに跳ね上がったことに。

 

 彼女はその腰に吊るされた剣を抜かず、ゆっくりと独特な構えを取った。

 片手を天に、片手を地に。

 

 その構えにグレイフィアやセラフォルーは勿論、ヴァーリやディハウザーですら、底知れぬものを感じた。

 

 何かがある、という確信だ。

 

「セラフォルー」

「うん、分かった」

 

 グレイフィアとセラフォルーは即席コンビであるにも関わらず、すぐに互いの意図を察した。

 そして、グレイフィアはまっすぐに一子目掛けて突っ込んだ。

 同時にセラフォルーが援護し、一子を取り囲むよう無数の淡く光る魔力球が現れ、そこから光線が迸る。

 

 それらの着弾タイミングはグレイフィアが一子へ向けて放った拳が当たるのとほぼ同じ。

 同時飽和攻撃に対する一子の回答は、転移で逃げるなどではなかった。

 

 

「……え?」

 

 セラフォルーは思わず声を発した。

 グレイフィアが吹き飛び、放った全ての光線がかき消され、さらにそれだけに終わらず、浮かべた魔力球が全て消し飛んだ。

 

 どうにかうまく着地したグレイフィアは左の肩口あたりから何か、鋭利なもので切断されたような傷跡があり、そこから出血していた。 

 

「グレイフィアちゃん!?」

「セラフォルー、見えましたか?」

「分かんなかった」

「私の拳は一子様の地面に向けた手で弾かれ、もう一方の手で斬られた後に衝撃波を起こされて吹き飛びました」

「意味が分からないんだけど……」

「簡単に言うと防がれました。彼女の手刀は魔力が凝縮されていて、斬れ味はそこらの聖剣や魔剣以上ですね。要するに、あの構えは必殺のカウンターです。大抵の相手はアレをやられた時点で、終わりでしょう」

 

 グレイフィアはフェニックスの涙を使用し、その傷を癒やす。

 試合前に助っ人には1個ずつフェニックスの涙が与えられている。

 そっちの方が面白いというエンタメ的な理由で。

 

「さすがね、グレイフィア。この構えは天地魔闘の構えっていうの。天は攻撃、地は防御、そして魔は魔力の使用を示すわ。それと、私の手刀こそ、世界最強の剣というやつよ」

 

 グレイフィアもセラフォルーも、そして勿論、味方側であるヴァーリもディハウザーもその言葉に耳を疑った。

 カウンターは別に珍しいことでもない。

 だが、一子のそれは気色が違う。

 

 相手の攻撃を防御した上で、物理攻撃と魔力による連撃を無防備となった相手に叩き込むのだ。

 初見の相手は懐に飛び込んで、防御されたときに初めてその恐ろしさに気づき、そして気づいたときにはもはや手遅れとなっている。

 まさしく先程のグレイフィアがそうであった。

 

「……一子ちゃん、それはどこまで防げるの?」

「さぁ、どこまでかしらね。そちらの最強の必殺技でも出してみたら、分かるんじゃないかしら?」

 

 けらけらと笑う一子に問いかけたセラフォルーは無論のこと、他の面々も悟る。

 防がれる、と。

 

 そして、一子が更に告げる。

 

「これはカウンターである以上、私から仕掛けることはないけれど……」

 

 瞬時に、一子が構えを解いた。

 

「いつでも私は攻撃できるということを、よく理解してもらえれば」

「こちらが攻撃をするなら、その構えを、防御するなら攻撃へ……ということですね?」

「ええ、グレイフィア。理解が早くてとても助かるわ」

 

 一子はにこりと微笑む。

 

「本当に、それだけなのかな? 一子ちゃんは」

「さてね、セラフォルー。ただ、これだけだと思っていると大変なことになるわよ。せっかくのレーティングゲームなんだから、楽しみましょう」

 

 一子はドヤ顔でそう告げながら、参戦していなかった2人に告げる。

 

「ヴァーリ、ディハウザー。うまくやりましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺、よく命があったな」

 

 ライザーは不死身であるにも関わらず、思わず呟いた。

 ドラゴン恐怖症を発症仕掛けたが、どうにか自力で克服して、今回の試合を会場のVIP席で妹と一緒に見ていた。

 

 レイヴェルは目を輝かせて、一子を見つめている。

 怖い思いをさせられたのに、先の戦い以降、彼女は一子にお熱であった。

 

 兄としては色々と複雑であったが、噂によれば赤龍帝は両性具有になれるらしい。

 そこらの男と一緒になるくらいなら、いっそ赤龍帝に嫁がせた方がまだ安心できるとライザーとしては思っていたが、両親がどうするかは分からない。

 

 赤龍帝は自分と同じスケベではあったが、少なくとも妹を泣かせるようなことはしないだろう、とライザーは感じていた。

 

 ともあれ、恐るべきは赤龍帝の力だ。

 

 あんなカウンター技があったなら、真正面から戦ったらまず勝てない。

 事実、グレイフィアとセラフォルーがタッグを組んでも破れていないのだ。

 彼女達よりも劣る者であれば、敵うわけがない。

 

 しかし、とライザーは思う。

 

「赤龍帝め、レーティングゲームを分かっているな」

 

 レーティングゲームはエンターテイメント。

 永遠に近い寿命を持つ悪魔達の娯楽だ。

 娯楽だからこそ、ガチでやってはいけない部分もある。

 

 将来的には各神話勢力でレーティングゲームも開かれるだろうが、その段階でまたルールが変わり、よりガチになるかもしれないが、ともあれ、今はそこまでガチではない。

 無論、多くの者にとっては戦いである以上、ガチなのだが、極一部の少数の者にとってはそうでもない。

 

 存在しない筈の王の駒があるだとか、不正な操作が行われているだとか、そういう黒い噂は無数にある。

 火のないところに煙は立たないという諺があるように、おそらくそれらはあるのだろう、とライザーは決して口には出さないが、そう思っていた。

 

 

 赤龍帝は極一部に含まれる。

 おそらく、レーティングゲームにデビューしたなら、運営から相応の待遇を受けることになるだろう。

 

 ガチでやられるとゲームがつまらなくなる為に。

 

 ただライザーの勘として、赤龍帝はそういう輩に対して甘い汁を啜るだけ啜って、使い捨てるような気がした。

 

 一方、コート内の戦場ではこれまで参戦していなかった白龍皇と皇帝が加わり、赤龍帝と共にグレイフィアとセラフォルーに猛攻を仕掛けている。

 2人は防戦一方かと思いきや、絶妙なコンビネーションでもって反撃を加えている。

 

 観客達は勿論、レイヴェルもその戦いに魅了されている。

 

 しかし、ライザーには分かった。

 わざわざ赤龍帝が白龍皇と皇帝に参戦を促した理由が。

 

 赤龍帝はガチでやればグレイフィアとセラフォルーのタッグに勝てる、と自ら宣言したようなものだ。

 

 だが、それでは面白くない。

 

 せっかく白龍皇と皇帝が味方として参戦しているのだ。

 二天龍と皇帝、その夢のトリオが戦うところを観客達は見たいに決まっている。

 

 白龍皇はどうやら戦闘狂らしく、嬉々として全力で攻撃をしているように見え、意図を理解しなかったみたいだが、皇帝は流石に理解したらしく、それなりの手加減を加えている。

 

 当然、赤龍帝も手加減を加えているだろう。

 観客達が盛り上がるように。

 

 

「さて、どうなることかな」

 

 楽しみな反面、恐ろしくもあった。

 赤龍帝が上級悪魔に昇格し、王となって眷属を揃えることが容易に想像できた為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、白龍皇と皇帝が参戦して観客達を十分に楽しませ、最後には赤龍帝側の勝利でもってドリームマッチは幕を閉じた。

 

 

 

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