やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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真の絶望

 

 

「一子ちゃん、本当に超越者……ううん、もう造物主とでも呼んだほうがいいかな」

 

 セラフォルーは一子の腕に抱きつきながら、そう言った。

 

「まあ、造物主みたいなものかもしれないけど。大げさね」

「だって、本当だし」

 

 

 あの後は大変だった。

 確認してみれば眠り病に罹患していた患者達が次々と目覚めているという。

 勿論、それはサイラオーグの母親も例外ではなく、彼は号泣しながら、一子に感謝の言葉を述べた。

 

 そして、その場で魔王達による満場一致で一子を超越者とする認定が下ったのだ。

 本来ならもう少し先であったが、もはや野放しにするには、あまりにも危険過ぎる。

 さっさと地位や領地その他諸々を与えて、縛っておこうという妥当な考えだ。

 

 リアスや朱乃にも全く異論はない。

 一子はそれだけのことをやらかしたのだから。

 

 

 

 そして、今、一子はセラフォルーの案内で彼女の魔王領を巡っていた。

 彼女の領地は水との調和を目指しているらしく、さながら水の都だった。

 

「私、一子ちゃんのこと、好きだよ」

 

 何気なくセラフォルーはそう言った。

 

「そう、私もあなたのこと、好きよ。で? お願いは何かしら?」

 

 一子の問いかけにセラフォルーはぷくーっと頬を膨らませた。

 

「もう、一子ちゃんってもうちょっとロマンチストかと思ったのに」

「時と場合と相手によるわ。あなたの立場と現在の冥界の勢力図その他諸々を考えれば、どう見ても政治的なヤツでしょうに」

「ダメ?」

「別に構わないわよ」

「やっぱり一子ちゃんだよね。まあ、その、立場とか抜きにしても一子ちゃんは超優良物件だし。そこは信じていいよ? 好きっていうのも本当だし」

「それは有り難いわね。で? 誰を消せばいいの?」

 

 にこやかに問いかける一子に対して、セラフォルーもまたにこやかな笑みで告げる。

 

「老害連中かな。でもでも、一気にやるとマズイから、少しずつ」

「手段は?」

「おまかせ。でも、証拠なんて残しちゃダメだよ?」

「勿論よ。リストを頂戴」

 

 一子の言葉にセラフォルーは「にしし」と笑って、抱きついた。

 

「ね、一子ちゃん。私も幸せにしてくれる?」

「当然よ」

「それなら良かった。一子ちゃんなら私も素を出して、良さそうだし」

「今の状態が演技なのか、素なのか、よく分からないんだけど、演技で良かったの?」

「うーん、どうだろ。私自身も板につきすぎてよく分からなくなっているけど、ともあれ、昔はもっと荒かったよ。ソーナちゃんが生まれる前の話。今でも時々そういう風に話すときはあるから、ソーナちゃんも知っているんだけどね」

 

 なるほど、と一子は頷くと、セラフォルーは告げる。

 

「で、一子ちゃん。一子ちゃんの前でもそういう昔の感じを出していい?」

「構わないわよ」

「んじゃさ、一子のこと、好きだけど、私より強いかどうかまではまだ分かんない。すごいってのは認める」

 

 急に見た目とは裏腹の口調と表情になったセラフォルーに一子はこういうノリだったのか、と驚いた。

 

 それこそ動画などでしか見たことがないヤンキーなギャル、あるいは女番長みたいなそんな感じなのだ。

 しかし、魔法少女の格好であるため、色々台無しだ。

 

「ソーナのことは別として、私を自分の女にしたいっていうなら、私と全力で戦って勝ってよ。そうすれば私も女として、一子に本気で尽くすし。一子、私とヤりたいんでしょ?」

「要するに、あなたをぶっ飛ばせばソーナは別として、私のことを一番に考えてくれるってわけね?」

「そういうこと。やっぱ一子って理解が早くて助かるわ。ただし、私に負けたら、形式上は側室だけど、言うことは聞かないし、ヤらせもしない。自分より弱いヤツに股を開く女なんていないし」

「道理ね。立会人は必要かしら?」

 

 問いにセラフォルーは首を横に振る。

 

「ブツブツ言われるのも面倒くさい。一子だってまたうだうだ言われるの、嫌でしょ?」

「ま、そうね。じゃ、私がフィールドを作るから……ただ、セラフォルー、私の愛は重いわよ? あなたの体も心も魂までも、私のモノにしたいって思ってるから」

 

 その言葉にセラフォルーは獰猛な笑みを浮かべた。

 普段の彼女なら絶対にしない笑みだ。

 

「いいよ? 私が完全に敗北したって心から思ったらね」

 

 セラフォルーの返事に一子はそれはもう素敵な笑みを浮かべてみせた。

 そして、彼女は戦域を展開する。

 

 たちまちのうちに周囲は一子の構築した世界へと変化する。

 しかし、セラフォルーは全く動じることもない。

 そして、一子は更に問いかける。

 

「セラフォルー、あなたは強いの?」

「当たり前じゃん。この間のエキシビションでは少し本気だったけど、全力じゃなかった。一子があの程度であったなら、私がぶっ殺して終わり。私に使われるだけ。口だけ野郎って毎日言ってやるから」

 

 セラフォルーはそう告げて、魔力を高めていく。

 彼女の周囲は一瞬にして冷気が取り囲み、草原を凍らせていく。

 

 一子はにこやかな笑みを浮かべつつ、そして、その装備を整えた。

 ユグドラシル時代からの付き合いである神器級装備及びワールドアイテムだ。

 しかし、禁手化はしない。

 それどころか、赤龍帝の籠手を顕現すらしない。

 

『相棒、いいのか?』

『ええ、構わないわ。ただし、私は本当に全力を出す』

『……俺は知らねぇぞ。セラフォルーは最悪の選択をしたな……』

 

 ドライグはこの世界でもっとも長い付き合いだから知っている。

 一子の――否、メリエルをブチ切れさせるもっとも簡単な方法を。

 

『あいつは相棒を侮った』 

 

 恐れられ、怖がられる、それは一子にとって最高のことだ。

 それだけ実力を認められたのだと彼女は考える。

 

 しかし、侮られたり、舐められたりするのだけはダメだ。

 軽く見て馬鹿にされるということは自分の積み上げてきた、これまでを全て否定されたと彼女は考える。

 

 だからこそ、今、一子は――メリエルは容赦しない。

 世界を相手にたった1人で戦ったときのように、ワールドエネミーにソロで挑むときのように。

 ゲームの上であったそれらは現実化した今、全て彼女の記憶に現実のものであるとして存在する。

 

「セラフォルー、あまり強い言葉を使うな」

「は?」

たかが魔王程度(・・・・・・・)、数百体は滅殺してきた。知りたいのだろう? ならば教えてやろう。我が正体を」

 

 瞬間、一子から膨大な殺気が吹き出した。

 それは周囲の空間を覆い尽くす。

 

 セラフォルーであっても、底冷えがするような殺気に彼女は興奮と恐怖を同時に感じた。

 そして、そこであることに気がつく。

 

 一子を中心として、草原が一瞬にして枯れているのだ。

 

 殺気だけで生命を殺す、そんなことができる輩などセラフォルーは聞いたことがない。

 たとえ赤龍帝であったとしても――そこで彼女は気がついた。

 

 どうして、一子は赤龍帝の籠手を顕現すらしていないのか?

 

 セラフォルーは一子の力を見つつ、自分が納得する為に喧嘩を売った。

 このときの為にアジュカ製の映像記録装置も見えないようにした上で既に配置してある。

 

 だが、どうにもとても嫌な予感がした。

 パンドラの箱を開けてしまったかのような、そんな気分だった。

 

 

 

「我が名を刻め」

 

 一子の背中に4対8枚の翼が顕現した。

 それは純白であったが、それは徐々に黒く染まり、しかし、再度白くなり、やがて入り混じった。

 

「そんな、そんなことはありえない!」

 

 セラフォルーは驚愕に目を見開き、叫ぶのが精一杯だった。

 だが、それで終わりではない。

 そう、まだ始まりなのだ。

 

 そこに悪魔の翼が生え、更にはドラゴンの翼までもが生えた。

 

「我が名はメリエル。無上天の熾天使にして大公爵級堕天使。光と闇を備えた私は混沌の天使となり、異世界から人間へと転生し、そして赤龍帝となり、悪魔となった」

 

 だが、と一子は続ける。

 そして、悪魔とドラゴンの翼を消失させた。

 

「あえて、私は悪魔と赤龍帝としての力を使わずに戦おう」

「舐めるな――!」

 

 セラフォルーが叫ぶ。

 しかし、一子――否、メリエルは告げる。

 戦闘開始の言葉を。

 

「真の絶望を思い知るが良い」

 

 

 

 

 

 

 先手はセラフォルーだ。

 彼女は膨大な魔力を冷気へと瞬時に変換し、叩きつける。

 

 しかし、メリエルは真正面から突っ込んだ。

 回避も防御もなく、ただその剣を鞘から抜きながら。

 そして、その体を色とりどりの光に包まれながら。

 

 レジストされていることを悔しく思いつつも、ならばとセラフォルーは超圧縮した魔力の弾丸を四方八方からお見舞いするも、当たる直前に何かに弾かれた。

 マジックシールドの類とセラフォルーは判断しつつ、空へと飛ぶ。

 

 メリエルもまたセラフォルーを追って空へと浮かび上がる。

 

 そこで気がついた。

 メリエルの速度が、魔力が、急激に上昇していることに。

 

 強化魔法――!

 

 セラフォルーは距離を取るよりも攻撃を選ぶ。

 身に秘めた膨大な魔力を思う存分に使い、術式を瞬時に構築。

 数多の魔力による砲撃を見舞いつつ、更に全方位に向けて氷でもって構築した魔弾を放つ。

 

 掠っただけでも込められた呪いから瞬時に体が凍りついていくシロモノだ。

 メリエルがどこからやってくるかは分からない。

 だからこその全方位攻撃。

 

 しかし、それらはことごとく外れた。

 当たりもしない。

 

 なぜならばメリエルはそこにはいなかった。

 彼女がいたのはセラフォルーよりも遥かな天空。

 転移魔法でもって、最初からそこに行くのがメリエルの狙いだった。

 時間を稼ぐ為に。

 

 セラフォルーはすぐに気がついた。

 あまりの眩しさと身を焦がす焼けるような痛み故に。

 

 眩い太陽が10個以上、そこに顕現していた。

 それらは次々とセラフォルー目掛けて落下してくる。

 

 本物と同じくらいの巨大さではないことが救いだろうが、悪魔であるセラフォルーにとってこんな至近距離での太陽は効果が覿面だ。

 いくら魔王であっても太陽は弱点であることに変わりはない。

 

 だが、この程度でセラフォルーは屈しない。

 

「チキン野郎! 怖いから飛び道具か!」

 

 転移でどうにか太陽から逃げてセラフォルーは怒鳴りつけた――が、すぐに彼女はその口を強制的に閉じることになった。

 

 彼女の全身を叩きつけるような風が襲いかかり、刺して、更に焼かれたような、かつてない程の激痛が一瞬走り、体のあちこちから血が噴き出した。

 だが、痛みはあるが、戦闘続行に支障はない。

 

 彼女が風だと感じたもの、それは最上位の天使が放つ神聖なオーラによるものであったが、そんなことは分からない。

 

 何が起きた、と彼女は空を見ることしかできなかった。

 不気味な程に青かった空は今、暗くなっていたが、空をキャンバスとしたかのように、光で何かが描かれていく。

 

 セラフォルーは息を呑んだ。

 

 空一面に描かれたもの、それはセフィロトの樹であったのだ。

 そして、その中心から伸びる光の柱があった。

 

 やがて、彼女の耳に聞こえてきた。

 それは詠唱だ。

 こんなにも距離が離れているのに、それはまるで目の前で言われているかのように。

 

「開けよ、光の封印、解けよ、闇の戒め。我が身を縛るモノ、ことごとく解けよ開けよ。今ここに、我は断罪を宣言する。我は光の栄光を受けし者、我は闇の光輝を受けし者」

 

 鐘の鳴る音が周囲に木霊する。

 同時に光の柱を囲むように数多の巨大な時計が現れた。

 それらは全て逆さまであり、セフィロトの樹から生えているように見えた。

 

 セラフォルーは動けない。

 彼女は何か戒めを受けているわけではない。

 だが、指一つ、動かすことすらできず、ただその光景を見るしかなかった。

 理解を超えた光景に、何かをするということが全くできなかったのだ。

 

 時計の針は急激に動いている。

 

「時計を進めよ、全てを終末へ。全てを無へ。この世界に、この宇宙に終焉を」

 

 全ての時計の針が12時を指した。

 同時に鐘の音も鳴り止み、光の柱に急激にヒビが入っていく。

 

「今ここに、我が真なる力を示そう――断罪執行(エクスキューション・オブ・コンビクション)

 

 光の柱が消失した。

 同時に、セフィロトの樹もまた消えた。

 

 その意味するところをセラフォルーは正確に悟る。

 彼女はメリエルを直視することができなかった。

 

 あまりにも、恐ろしすぎて。

 殺気をぶつけられているわけではない。

 膨大な魔力による圧力を受けているわけでもない。

 

 何もない。

 静寂だ。

 

 だからこそ、恐ろしい。

 もはや本能で理解した。

 

 アレは触れてはならないもの。

 決して封印を解いては、全力を出させてはいけないもの。

 

「さぁ、戦いましょうか。私を傷つけてくれると、とても楽しいことになる」

 

 楽しげな声が聞こえた。

 セラフォルーは恐る恐るとそちらへと顔を向ける。

 

 そこには、にこやかな笑みを浮かべたメリエルが立っていた。

 見た目の変化は何もない。

 何もないが、だからこそ、恐ろしさにセラフォルーは身を震わせる。

 

 

「久しぶりに全力を出しましょう。ふふ、宇宙を壊してしまうかもしれないけど、そのときはごめんなさいね? ちゃんと直すから」

 

 その言葉にセラフォルーは反射的に切り札を放った。

 

 零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー) 

 

 

 手加減一切なしの全力。

 都市一つどころか、国一つを覆い尽くし、凍りつかせてしまう程の威力。

 だが、メリエルは面白いとばかりに笑みを浮かべ、白銀の巨大な槍を顕現させた。

 

世界最終審判(ワールドジャッジメント)恒星貫く熾天の槍(スターブレイク・ランス・オブ・セラフ)

 

 唱え、メリエルは槍をセラフォルー目掛けて投擲した。

 眩い輝きを放ちながら、その槍はセラフォルーの放った技を一瞬にして貫通し、標的である彼女へと突き進む。

 

 セラフォルーが見たものは眩いばかりの光。

 それはとても長い時間に感じられた。

 

 だが、彼女は場違いな感想を抱いた。

 

 とても、綺麗だ――

 

 そして、その光は唐突に消えてなくなった。

 

 セラフォルーは呆然と直前まで迫っていた光が消えたあたりを眺める。

 理解が全く追いついていない。

 

「どうかしら?」

 

 声が聞こえた。

 ゆっくりとセラフォルーがそちらへと顔を向ければ、巨大な白銀の槍を持ったメリエルが立っていた。

 セラフォルーが認めなかった場合の2撃目だ。

 

 それを見て、セラフォルーは我に返ることに成功する。

 

「私の負け。完全に負けた」

 

 色々と予想外なことばかりだったが、ともあれ、完全な敗北であるとセラフォルーは素直に認めるしかなかった。

 何しろ、赤龍帝の籠手を一切使っていないのだ。

 

 これに更に赤龍帝の籠手により、その力が増強されるというのだから、もはや誰も手出しなどできないだろう。

 

 だが、セラフォルーは魔王として頭を働かせる前に、女としての頭を働かせることにした。

 それが約束であった為に。

 

 彼女はメリエルへとゆっくり歩み寄って抱きついた。

 

「メリエルと呼んだほうがいい?」

「どっちでもいいわよ。どちらも私を示す名前だし」

「そっか。ともかく、私の初めて、あげる。あなたに心から女としても尽くす。だから、幸せにして。あと、セラって呼んで」

 

 そのままセラフォルーはメリエルの唇へ自身の唇を重ね合わせた。

 メリエルは拒むことなく受け入れ、そしてセラフォルーを抱きしめた。

 

 

 

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