「という感じね」
セラフォルーはこれまでにあったことをリアス達へと報告した。
彼女の隣には一子がいるが、説明は全部セラフォルーに任せているので、何も言うことはない。
「つまり、一子がレヴィアタン様と全力で戦って、レヴィアタン様が負けて、あと領地を決めて、たくさんの女の子を囲うことになったっていうことですか?」
げんなりとした顔のリアスが確認を求めると、セラフォルーが頷いて肯定した。
「あの、レヴィアタン様。一子さんの実力は……どのくらいでしたか?」
朱乃の問いかけにセラフォルーはにこりと笑って答える。
「戦いにもならなかったかな。だから私は一子ちゃんに心から尽くすって決めたんだ」
そして、そのまま流れるように一子の頬へ口づけた。
「……ええっと、もう女関係は諦めたからいいとして……レヴィアタン様でも戦いにならないって、どんなレベルですか?」
「んー、リアスちゃん。これは私からの本気のお願いと忠告なんだけど」
一子の頬から離れて、セラフォルーは真面目な顔で告げる。
「一子ちゃんに本気や全力を絶対に出させないで。そうしちゃうと冗談抜きで世界どころじゃなくて、宇宙が終わるから。惑星とか簡単に破壊するレベルになっちゃうから」
リアスは困惑しながら、一子を見た。
なぜか見られた当人はVサインをしてきた。
「でもセラ。私は売られた喧嘩は買うわよ? あと私を打倒しうる相手と私が判断した場合は自己防衛の為に全力でやらさせてもらうから」
「……そんなヤツ、いるのかなぁ」
「ちなみにだけど、セラ。私はあの状態で死にかけたらエリクサーとかそういうフェニックスの涙に匹敵する回復アイテムを使うから」
「鬼畜過ぎないかな? もう絶対に一子ちゃんと戦いたくない」
あのセラフォルーが本気で嫌がるという、中々見られない光景にリアス達は信じられなかったが、それほどまでに一子の本気とか全力はヤバイと認識する。
「ところでセラ。録画はしていたの?」
一子の何気ない問いかけにセラフォルーは傍目にも分かるほどにびくっと体を震わせた。
「えっと、どうして?」
「私と戦うときって大抵、相手はそうなのよ。勿論、私もこっそりとさせてもらった。二回目があったときに対処できるようにね」
セラフォルーは感心と驚きと呆れの3つの感情が同時に湧き上がってきた。
抜け目がないことと、バレていたことと、一子が圧倒的に強者であるのに、対策をしてくることに対して。
「本当に一子ちゃんって凄いね。うん、もう一回言うけど、私の完敗。普通は慢心や油断があるのに、そういうのがないんだもん」
「どんな強者であれ、予想もしない方法で足元を掬われることがある。過去の経験からね」
そう告げて、一子は不敵な笑みを浮かべて、更に言葉を続ける。
「初見で勝ち、2回目以降は完勝する。それが世界最強というものよ。勿論、私は正々堂々なんてことは言わないので、やる時はこれでもかと色んな事をするから」
「というわりには、ちょくちょく油断とか慢心をしているような気がしますけど……ライザー様との戦いとか」
朱乃の指摘に一子に視線が集中する。
しかし、彼女は首を左右に振った。
「いや、あれは誘いなのよ。あのときリアスは眷属以外に誰も赤龍帝であることは告げていなかったし、たとえ告げていたとしても、眷属になってから日が浅いから、戦闘のド素人だと向こうは考えていたと思うから」
「もう、一子さんたら。そんなことを考えていたなんて、相手が可哀想ですわ」
そう返しながらも朱乃はくすくすと笑う。
「それにまあ、足元を掬われたところで、相手に地力がないと……最低でもセラくらいには」
「ということなの。一子ちゃんはヤバイから、リアスちゃん達は死ぬ気で鍛えて、一子ちゃんの出番を無くすようにして」
「それはそれでちょっと嫌なんだけど」
不満そうな顔の一子にセラフォルーはにっこりと笑って抱きついた。
「リアスちゃん達が頑張れば一子ちゃんは暇になるから、私といっぱいエッチできるよね?」
「レヴィアタン様!?」
ここでそれを言うのか、という思いを込めて、リアスは叫んだ。
ただでさえ、彼女としてはセラフォルーは魔王であったり、親友の姉であったりと色々と複雑な関係なのだ。
親友の姉が堂々と自分の恋人とエッチをする発言は頂けなかった。
「えー、だって私、意外と独占欲が強いんだよー? リアスちゃんは正妻だから顔を立てるけどさー」
「ソーナは! ソーナはいいんですか!?」
「ソーナちゃんは別だよー」
そう言うも、セラフォルーは一子から離れない。
「あ、僕達は外に出ていますね」
「失礼しましたー」
女の戦いに巻き込まれるのはゴメンだ、と木場とギャスパーはそそくさと部屋から出ていった。
「あ、あの、皆で一緒にというのはダメなのでしょうか?」
戦うのはダメだとアーシアはそう問いかけた。
何気にとんでもないことを言っているが、彼女は気づけなかった。
「アーシア……あなたって大胆ね」
「え、え? あっ……」
リアスに指摘されて、ようやく自分が何を言ったか気がついた。
一瞬にして顔が真っ赤に染まった。
「え? 何? 一子ちゃんっていつのまにか皆の妹のアーシアちゃんにも手を出したの? サイテー」
「一子先輩、最低です」
「別に私は良いと思うぞ。アーシアは魅力的だからな」
イリナと小猫がツッコミ、ゼノヴィアは微妙に的はずれなフォローをする。
「……ええと、私はどうツッコミを入れれば」
ロスヴァイセは真面目な性格故に、見当外れなところで悩んでいた。
そんな女の戦いが一段落した後、木場とギャスパーも交えて録画したものの鑑賞会となったのだが、そこで既に知っていたリアスと朱乃以外はあまりの衝撃的な事実に現実逃避に至ってしまったが、些細なことだった。
鑑賞会の終了後、セラフォルーは一子達と別れ、サーゼクス達の下を訪れていた。
すぐに対策が構築できるわけもない為、まだやっているだろう、という予想であったが、案の定であった。
「セラフォルーか……」
疲れた顔のサーゼクス、彼の横にはアザゼル、そしてミカエルまでもがいた。
アジュカは帰ったらしく、姿が見えない。
冥界にミカエルが来るというのは協定が結ばれていたとしても、非常にヤバイことであったが、そんなことは言ってられなかった。
「皆、お疲れ様。まず報告。私、一子ちゃんの女に正式になったから」
「そんなことを言うためにわざわざ来たのか?」
アザゼルは苛立ち混じりに問いかけた。
造物主そのものと言っても過言ではないあの力を思う存分行使されたら、世界どころか宇宙がめちゃくちゃになる。
かといって、排除や封印などできよう筈もない。
勿論、アザゼル個人としては一子が嫌いなわけではなく、あれだけ自由奔放なのは羨ましくすらある。
とはいえ、それとこれとは別であり、公的な立場から見れば一子は最悪の存在だった。
「それだけじゃないよ? もう悩む必要すらないことを見せに来た。ミカエルちゃんもいるからちょうどいいや。ミカエルちゃん、アザゼルちゃん。無上天の熾天使って知ってる?」
「いえ、知りません」
「俺も知らねぇな。何だそれ?」
「じゃあ、アザゼルちゃん。堕天使側の区分として、大公爵級堕天使っていう区分はある?」
アザゼルは首を傾げるが、そんな区分は存在しないと答える。
精々が天使であった頃の位階程度であり、大公爵級とかいう仰々しいものやそれに類するものはない、と補足する。
「一子ちゃんが言うには至高天の上、無上天の熾天使っていうのは無上天を守護する熾天使なんだって」
ミカエルとアザゼルの顔が一瞬で変わった。
「……無上天……ええ、確かに私や他の天使が立ち入ることができない領域というのは存在します。それは主が不在の今ですらも」
「俺も昔に噂で聞いたことはある。暇な天使達が作った都市伝説だと聞いたが……」
至高天は神の領域、諸天使と聖人達が集っているが、神は常にそこにいたわけではない。
「どうやら、とんでもないパンドラの箱を開けてしまったようだな」
「ええ……その力を考慮すれば、もっと早く気がついても良かったのに」
アザゼルとミカエルは一子の正体を予想する。
セラフォルーとしてもこれは予想外であったが、似たような領域があることが分かったのは収穫だった。
堕天使陣営と天使陣営に対して、絶対的なカードを手に入れたも同然なのだ。
外交官としての本領発揮、腕の見せどころ――
セラフォルーは内心ほくそ笑みながらも、更に告げる。
「一子ちゃんが言うには無上天は天の御座よ。そして、そこを守護することを許された熾天使……けれど、色々あって堕天した。しかし、光は見捨てなかった」
「……なあ、セラフォルー。それは誰のことを言っているんだ?」
「アザゼルちゃん、もう分かるでしょ? だから、見せるよ。見て、皆で悩もう?」
セラフォルーは満面の笑みでそう告げ、録画していた映像を再生する。
一子とセラフォルーの全力での戦闘だ。
一子によるカミングアウトでまず一同が硬直した。
しかし、セラフォルーとしては見て欲しいのはそこではない。
それよりももっと凄いことがあると言われ、一同は見たくないと思ったが、立場的には見ないわけにはいかない。
嫌々ながらも続きを見て、そして、それを目撃した。
メリエルによる封印解除、その一部始終とセラフォルーに対して放たれた槍を。
「恒星をも貫く熾天の槍……おい、ミカエル。異世界とはいえ、同じ熾天使だろう。できるか?」
「無理ですね。そもそも力の桁が違います。彼女には宇宙全て、この次元の生きとし生けるもの全てを断罪できるだけの力があるのでしょう。そして、それだけではないことを既に我々は知っています」
何でも願いを叶える魔法。
それにより、ある結論が導き出されてしまうのだ。
神々すらも超えた存在。
唯一にして絶対、造物主というものであると。
「異世界とは、かくも恐ろしいものですね。一子さんのような方であったのは幸いでした」
ミカエルの言葉に他の面々も同意と頷いた。
一子がもし、もっと好戦的であれば世界はとうの昔に彼女によって征服されていた。
現状程度で済んでいるのは、まさしく何でもできるが故に、何もしないという言葉がぴったりだった。
「で、どうする? 俺にはもう解決方法や対策なんぞ思いつかん。かといって放置も無理だろう。あいつが気まぐれで冥界征服とか考えて実行したら、誰も止められない。それこそ10年後にやりますよ、とか予告されても無理だ」
アザゼルは完全に匙を投げた。
「私にも無理ですね。むしろ、異世界とはいえ、同じような立場……いえ、上司にあたるのでしょうか。ともあれ、友好的に……それこそ、いっそ、一子さんの指揮下に入ってもいいくらいです。お願いすれば、うまくやってくれそうですし」
「あ、ミカエル、ずるいぞ! 堕天使だから、一子はウチが先だ!」
「待ってくれ。一子さんは悪魔で、リアスの眷属。なら、ウチだ」
ミカエルとアザゼル、負けじとサーゼクス。
3人による一子の取り合い合戦が勃発するが、セラフォルーは手を叩く。
「いつまで経っても決まらないから、一子ちゃんは現状を鑑みて、悪魔陣営だけど、天使とか堕天使とかその他神話勢力などと接触する、協力するのは制限しない。勿論、彼女の眷属となる子達も種族その他は制限しない。ただし、戦争には手を出さないっていうのでどうかな? まあ、一子ちゃん本人が殺る気になったら、アレだけど」
セラフォルーの提案に三陣営のトップ達は瞬時にその損得を考える。
妥当な案だった。
現状を追認するようなものであったが、それでも一応の取り決めは必要だ。
「異議はありません」
「問題はないな」
「セラフォルー、それでいこう」
3人の承諾を受けて、セラフォルーは満足げに頷きつつ、告げる。
「ただ一子ちゃんのことだから戦争をしたら、首を突っ込んでくるに決まっているよ? だから、友好を保たないとヤバイよ? それと悪魔も同族だからって胡座をかいたままだと一子ちゃんが不甲斐ないって思って滅ぼしにかかるかも」
3人は顔色が一瞬で悪くなった。
「今よりももっと、友好交流を進めよう」
「異議はありません。天使から何人か、一子さんの下へ派遣したいですね。勿論、政府にも」
「堕天使も異論はない。こっちからも人員を派遣したい」
「互いに大使館を設置し、各政府機関にも交流として人員の派遣を……」
どんどんと案を出し始める3人にセラフォルーは問いかける。
「対案もなく感情だけで反対する輩は?」
「殺してでも言うことを聞かせる」
「罪の重さを味わうことになります」
「実験材料にしてやる」
セラフォルーは満足して、何度も頷いた。
これでようやく友好が前進するだろう、と彼女は確信した。
平和になれば、その分、一子ちゃんとイチャイチャできるし――
あとソーナちゃん可愛い――
セラフォルーが頑張った理由はそんなものだった。