夏休みが終わり、一子達は駒王町に戻ってきていた。
修学旅行も間近ということで、ウキウキわくわくであったが、実のところ一子は放課後、毎日のようにあちこちに出かけていた。
リアスを誘って2人でデートであったが、行く場所は転移魔法を使用している為、世界中どこでもであった。
リアスは大満足であり、一子との一時を楽しみ、そのまま2人でベッド・インという生活を送っていた。
そこに不満を持つ者達がいた。
「リアス、最近、一子を独占し過ぎですわ」
むーっと頬を膨らませて朱乃が訴えた。
「そうだよ! 私も一子ちゃん成分が不足し過ぎているんだから!」
これまたセラフォルーも同じように頬を膨らませ、訴えた。
「そう言われても、私は一子の主で恋人だし……それにその、一子の子供を高校生のうちに産みたいなって思っているし……」
高校生のうちに孕むから産むに変わっているが、エキシビション後にリアスから一子に告げたことだ。
色々と人間の倫理としては問題があるが、あいにくとここにいるのは悪魔なので人間の倫理は通用しない。
時間的に産めるか、という問題もあるが、そこは一子が何とかしてくれるとリアスは信じていた。
「リアス! 私だって一子の子供を高校生のうちに産みたいですわ!」
「そうだよ! 私は高校生じゃないけど、それでも早く産みたいなって思うもん!」
「朱乃はともかくとして、セラフォルー様はいつ、そこまで関係が?」
冥界に帰省していたとき、まだそこまで進展してない、とリアスは一子から直接に聞いていた。
ただ時間の問題だろうという予想は当時からリアスはしていた。
なお、セラフォルーからは名前で呼んで欲しいとのことで、そういう呼び方にリアスは変えていた。
「この前、デートしなかったときがあるよね? 私が一子ちゃんにお願いがあるからって」
リアスはセラフォルーをジト目で見つめた。
「……私、確か大切な用事だから、今日だけは貸してくれないかって言われたのですけど?」
「うん。女として大切な用事だよ。一子ちゃんの子供を孕むっていう大切な用事。あのときに私、初めてを捧げちゃった」
てへ、と舌を出してみせるセラフォルーにリアスは怒りが湧くも、深呼吸をして無理矢理落ち着いた。
「でもでも、そのときだけで、リアスちゃんが一子ちゃんを独占しているから! ずるい!」
その言葉にリアスは察してしまった。
セラフォルー様は恋人すらもできたことがない。
当然、情事などしたことがない。
だからこそ――
「……セラフォルー様、もしかして溜まっていますか?」
「そうだよ! もう欲求不満なの! 自分で慰めるのにも限界があるの! 恋人いない歴=年齢だった私を舐めるなよぉ!」
涙目で叫ぶセラフォルーにリアスはとても優しい目を向けた。
「そういうことに興味がなさそうでしたけど、人並みにはあったのですね」
「うるさい! リアスちゃんがいじめる! それと私はシトリーだよ! 性愛に素直なんだから!」
そんなセラフォルーを横目で見ながら、朱乃が告げる。
「リアス、私も一子の子供を産みたいですわ」
「そうだよ! 私も産む!」
2人の姿にリアスは折れる。
「分かりました。明日から交代でしましょう。まあ、もうこの際、皆纏めて相手をしてもらってもいいのだけど」
「2人きりの甘い時間を私は過ごしたいですわ。その後でしたら」
「私も同意見! 甘い時間を過ごしてから!」
はいはい、とリアスは返事をし、軽く溜息を吐く。
正妻というのは大変だと、ようやく実感したのだった。
「ディオドラ・アスタロト?」
「うん。この間、若手悪魔の集まりでいたと思うんだけど」
一子の全く覚えがない、という顔にセラフォルーは溜息を吐いた。
2人はベッドで全裸で抱き合って横になっている。
一戦後の休憩時間だ。
別にどちらも体力的に休憩など取る必要はないのだが、2人ともイチャイチャしたかったので、休憩を取っている。
「そんなデオドラントみたいな名前は知らないわ。アスタロトってあれでしょ、いわゆるアシュタロスでしょ?」
「うん、そうだよ。その次期当主なんだけど……一子ちゃん、若手だと誰を覚えているの?」
「シーグヴァイラとその他女の子達。あと覚えたくなかったけどサイラオーグ」
「うん、清々しいまでに欲望一直線。私というものがありながら」
このこの、と一子の頬をつつくセラフォルー。
「で? そのデオドラントがどうかしたの?」
「一子ちゃん、わざと言っている?」
「当たり前じゃないのよ。で?」
「すっごく簡単に言うと、聖女とかのシスターフェチ。シスターを落として悪魔にするのが趣味」
「何それ、私と話が合いそう。2、3人融通してくれないかしら……」
「まあ、そうだよね。ただ、どうもアーシアちゃんをそうしたのが彼っぽいんだよねぇ」
「ふーん」
セラフォルーの言葉に一子は怒ったりせず、どうでもよさそうな返事だった。
それはセラフォルーにとっては予想外だった。
「一子ちゃんのことだから、けしからんってブチ切れるかと思った」
「だって、アーシアの神器的に、彼女が望むような扱われ方じゃなかったと思うし。結果としては良かったんじゃないの?」
「いやまあ、そうだろうけどさ。ともあれ、そのディオドラがアーシアちゃんを懲りずに狙っているらしいから」
「うーん……純粋な子が快楽に染まるのも好みではあるけど、事がアーシアに及ぶとなるとアレね、私が動かざるを得ない」
だよねー、とセラフォルーは言いつつも、問いかける。
「アーシアちゃん、どうするの? 眷属にするの?」
「私の眷属だとちょっとアレなのよね。分かると思うけど」
一子の言葉にセラフォルーは察する。
性格的にも優しくて、純粋なアーシアが果たして一子の眷属に良いかというと、素直には頷けない。
「私、殺るときは殺るわよ? 老若男女、種族の区別なく、そして例外なく」
「だよね。一子ちゃん、子供だろうが赤ん坊だろうが始末しそうだし」
「当たり前よ。アーシアができると思う? そして、それを許してくれると思う?」
「無理かな。賭けてもいいくらい」
「賭けにならないわよ。私も無理に賭けるから。何かいい案はないかしら?」
「やっぱりリアスちゃんかなぁ。性格的にも合いそう」
「まあ、アーシア本人の意向よね」
一子はそう締めくくり、セラフォルーの頬に口づけた。
2回戦開始の合図だった。
「一子さん! 大変です!」
セラフォルーとアーシアについての会話をした数日後、アーシアが血相を変えて一子の部屋に飛び込んできた。
「あらあら、見られてしまいました」
ベッドの上でイチャイチャしていた朱乃と一子。
しかし、アーシアはそこに気を回す余裕がないらしい。
「あの! さっき街中で昔、私が助けた悪魔さんにプロポーズされました!」
アーシアの叫びに朱乃と一子は固まった。
ちょっと何を言っているのか、分からなかった。
「……アーシア、その悪魔ってデオドラントとか名乗ってなかった?」
「デオドラント……? ええと、確か、そんな感じでした!」
「デオドラント? どこか、似たような名前を聞いたことがありますわ。部長に連絡してみますね」
朱乃がリアスに連絡したことにより、リアスは即座に緊急対策会議を開くことを決定した。
「デオドラントじゃなくて、ディオドラ・アスタロトよ。もう、一子、ちゃんと覚えて頂戴」
「ごめんなさいね、興味のないことは右から左なのよ。どうせここで潰すし」
さらりととんでもないことを宣った一子にリアスは溜息を吐く。
「で、そのデオドラントがアーシアにプロポーズとかしたわけだけど、ぶっちゃけます」
一子はそう宣言し、一同を見回す。
ここにセラフォルーがいないことが残念である。
なお、あくまでグレモリー眷属による対策会議な為、一子が作ったグレイフィア達やソーナ、セラフォルーは参加していない。
「そいつ、シスターとかを落として悪魔にすることが趣味だから、アーシアもそうみたいよ? まあ、だいたい、どうなるかは予想がつくでしょ。ちなみにソースはセラフォルー」
リアスは無言で腕を組んだ。
そして、しばしの間を置いて、告げた。
「潰す」
「ほら、やっぱりそうなった」
「場を整えるから。レーティングゲームなら文句は言われないでしょうし」
若手同士のエキシビションという形でソーナとリアスの戦いの後にも行われているのだが、残念ながらグレモリー眷属は一子がいる為に圧倒的過ぎるという評価の為にはじめから除外されていた。
ディオドラの戦績はシーグヴァイラを下すという事前の予想を裏切ったものだった。
リアスはアーシアを賭けて、レーティングゲームをディオドラに申し込む気であった。
しかし、そこで朱乃が手を挙げた。
「アーシアさんの立場は一子さんの庇護下にあるというだけで、グレモリーとは何も関係がないというものですが、そこは大丈夫でしょうか?」
「……そういえばそうだったわね。すっかり眷属だと思ってしまっていたわ」
うっかりしていた、とリアスは渋い顔になる。
リアスの眷属であるならば、それを盾にどうとでもできる。
だが、アーシアはリアスの眷属ではなく、ましてや他の悪魔の眷属でもない。
言ってしまえばディオドラが眷属にしても誰も文句は言えない。
もっとも、ディオドラが不幸であったのは無理を通せば道理が引っ込むを地でいく輩がアーシアを庇護していたこと。
「関係ないわね。知っているかしら? ドラゴンって自分の宝物を取られるとき、すごく怒るらしいわよ?」
宝物と言われて嬉しく、はにかむアーシア。
その笑顔、絶対に守ってみせると一子は決意を新たにする。
「でも、具体的にはどうするのよ? レーティングゲームがダメなら、闇討ちでもするの? さすがにそれはちょっと許可できないわよ」
「いいえ、違うわよ。取り出したるは魔法の電話よ」
一子が懐から出したのは――彼女のスマートフォンだった。
「……単なるスマホじゃないのよ」
「まぁまぁ、リアス。そう焦らないの」
掛ける先はセラフォルーだ。
彼女はすぐに電話に出た。
『やっほー、一子ちゃん! どうしたの?』
「ディオドラを潰したいんだけど、眷属じゃないからレーティングゲームでケリをつけられない。私が全力で叩いていい?」
一子がそう言った直後、セラフォルーが一子の目の前に転移してきた。
「ダメ! 絶対ダメ!」
バツ印を両手で作って、セラフォルーは宣言した。
ならばと一子は問いかける。
「どうすればいい?」
「アーシアちゃんがリアスちゃんの眷属になるのがオススメかなー」
ちらり、とアーシアを見ながらセラフォルーはそう言った。
「私の庇護下というのじゃ弱い?」
「無理かな。事情を知っているなら、絶対に手を出そうとは思わないけど、ディオドラが知っているのは、たぶんライザー戦のときだろうし……いや、正直それでも勝てるって思った彼はちょっと頭がアレなのかも……」
「実のところ、なるべくならアーシアは人間のままでいてほしい、というのが本当のところなのよね」
意外な発言にリアス達は驚く。
「悪魔にしたら、事情はどうあれ、ディオドラと同じことをやったことになるからね」
「……一子ちゃんが真剣にアーシアちゃんのことを考えているなんて」
セラフォルーの言葉に一子は心外な、とふくれっ面になりつつも、告げる。
「私は身内には甘いのよ。それはもうダダ甘。甘い汁を吸わせまくる」
「それはそれでマズイ気がするけど……ともあれ、眷属にしないなら、やっぱり家の力を使うしかないかな。ウチでもいいし、リアスちゃんとこでもいい。アーシアちゃんはその庇護下にあるってディオドラに申し入れればいいよ。さすがにシトリーやグレモリーと本気でやり合おうとは思わないだろうし」
今度はリアスが何とも言えない微妙な顔となる。
なるべくなら自分の力で解決したい、というのが本音だからだ。
何かに頼りっぱなしでは主としては勿論、恋人として、将来の妻としても自分が情けなく思える為に。
一子はそんなリアスの思いを汲んで、告げる。
「やっぱり私が闇討ち……いえ、ちょうどいいのがいたわ。すっごいピッタリなヤツが」
にんまりと一子は笑みを浮かべた。
その笑みを見た面々は容易に理解できた。
また、ろくでもないことを思いついたのだ、と。
「取り出したるは魔法の電話」
「その下りはもういいから。今度は誰に掛けるのよ?」
「ヴァーリ。この間の後、無理矢理にスマホを持たせたので。まあ、私の魔法で連絡してもいいんだけどね」
リアス達は予想がついた。
ヴァーリにディオドラを潰してもらおう、と企んでいると。
「……まあ、白龍皇なら……彼、戦闘にしか興味がなさそうだし……そうするのって問題ではあるんだけどね」
セラフォルーの言葉を聞きつつも、一子が電話を掛けようとしたとき、アーシアがおずおずと手を挙げた。
「あの、私、悪魔になりたいんですけど……」
一同は困惑した。
「アーシア……私、そうしない為に頑張っていたんだけど……」
「その、一子さんの頑張りとか私への思いとか凄く嬉しいです……でも、その、やっぱり私も皆さんと一緒の時間を歩みたいなって……」
「私、不老不死の薬があるから、それじゃダメ?」
さりげなくとんでもないことを暴露する一子に事情を知らない面々が驚愕するが、そんなことよりもアーシアの方が重要だった。
「ええと、そう言われると困ってしまいますが……その、なりたい、です」
上目遣いでそう言われてしまうと一子としても大変困った。
「どうしよう? リアス、助けて」
「私に言われても……ねぇ、アーシア。本当にいいの? 後戻りはできないのよ? 永遠の時間って、人間から成った悪魔にとっては苦痛なのよ? 死ぬこともできず、屍のようになって過ごす転生悪魔も多いのよ? お祈りだって無理よ?」
問いかけるリアスにアーシアは毅然として、頷く。
そして、告げる。
「そもそもですけど、私、実は一回、死んでいます」
突然の暴露であったが、リアスとセラフォルーは思い当たる節があった。
一子だ。
彼女は死者蘇生を容易く行った。たった一言、唱えるだけで。
「それはどういうことですの?」
「私、一子さんに蘇生してもらったんです」
問いかけてきた朱乃に答え、アーシアは語り出す。
あのとき、何があったのか、を。
レイナーレ達はリアス達に話す義理も義務もない為、当然話しているわけもない。
またリアスも当事者である一子からは大雑把にしか聞いていない為、詳細を聞くのは初めてだ。
そういうことがあったのか、とリアスは気づけなかった自分の不甲斐なさに怒りが湧く。
とはいえ、もう終わったことだ。
それならば、その怒りを糧に前に進むしかない。
「今、ここにいるのは本当に一子さんのおかげなんです。だから、私は一子さんのお役に立ちたいって常々思っていて……でも、私にそんな力はなくて……」
そう告げるアーシアの顔はとても哀しみに満ちたものだった。
「勿論、義務感とかそういうのじゃなくて、私なりに考えました。その、私は今、とても楽しいんです。一子さんが言ってくれたように、不老不死になるっていうのでもいいんですけど……その、できれば同じ目線で楽しみたいんです。私、今までずっと、こうやって楽しいって思ったこと、なかったので……同じ目線になれば、少しは私もお役に立てることが見つかるんじゃないかと……」
アーシアの言葉に一子は柄にもなく、神妙な顔だった。
その隣ではアーシアの健気さにセラフォルーが涙ぐんでいる。
「……とりあえず、ディオドラは潰す。私が潰す。今すぐ潰してくる。趣味が合うけど、残念ながら、アーシアを渡すわけにはいかないので」
一子は決心した。
もうディオドラがどうのこうのと、そんな些末なことに悩んでいる段階は過ぎてしまった。
アーシアを眷属にするかどうか、そっちの方が遥かに重大だった。
「うーん……一子ちゃん、潰すよりももうちょっと良い方法があるんだけど」
「何よ?」
「実はこの間のアガレス戦でディオドラは不自然なパワーアップをしているのよね」
セラフォルーの言葉に一子はすぐさまピンときた。
そして、とても良い笑みを浮かべた。
「どこに繋がっているのかしらね? さぁ、楽しみだわ。ディオドラを呼び出してくれない? あとは私がやるから」
「殺しちゃダメだよ? 面倒だからね」
「大丈夫よ、素直に教えてくれるまで、お話をするだけだから。蘇生して、何回でもね」
一子の言葉にリアス達は顔が引き攣った。
死者蘇生ができる一子なら、それこそ何度でも殺して何度でも蘇らせるということが可能なのだろう、と。
さすがにそれだけ死を経験すれば、どれほどの不屈の精神の持ち主だろうとまず折れることは想像に容易い。
「……あの、悪魔さんってこれが普通なんですか?」
「アーシア、一子が特殊なだけよ」
リアスが誤った悪魔のイメージがアーシアについてしまう前に、即座に訂正する。
「え? 相手が汚い手を使ってくるなら、こっちはそれを上回る事をやって、絶望を味合わせるくらいはしないの?」
一子の問いかけにリアスは溜息を吐く。
「ともあれ、あとは一子ちゃん、よろしくね。報告、待ってるから」
セラフォルーの実質的な一子への一任するという言葉を受け、任せろとばかりに一子は自信満々に頷いた。
「じゃ、アーシア。そのディオドラを呼び出して頂戴。大丈夫、悪いようにはしないわ。ただ、ちょっと悪魔らしくお話をするだけだから」
どう考えても、お話だけでは終わりそうになかったが、ともあれ、ディオドラの始末に困っているのも事実。
一子に任せるしかなかった。
その後、ディオドラはアーシアに呼び出されて、ウキウキ気分で待ち合わせ場所に向かったところ、一子に拉致監禁され、玉をクルミのように割られる寸前で、全てを白状した。
ディオドラの一件が片付いた後、一子はアーシアを散策に誘った。
眷属にするか、という問題に決着をつける為に。
「私、人間であることに実はあまり執着がないんです」
「いきなり直球ね……」
散策に出て――とはいえ一子の転移魔法で駒王町どころか、日本ですらない――アーシアはすぐに告げた。
「その、ずっと教会暮らしで……聖女とか呼ばれていましたけど、そういうのに興味はなくて」
「悪魔でいいわね。お祈りができなくなるところは……ミカエルに言っとくわ」
あっさりと一子は人間のままでいてほしい、という意見を翻した。
基本的に彼女は本人がやる気なら、止めないタイプだ。
「以前にも言いましたが、私も何かお役に立てることを……」
「うーん……性格的に戦闘は無理そう」
一子の言葉にアーシアはしょんぼりとしてしまう。
「リアスの眷属がオススメかもしれないけど、うーん……どう?」
「私は一子さんの眷属がいいです」
しょんぼり顔から一転して、強い意志をもって告げるアーシア。
「仕方がないわね……僧侶枠……僧侶枠でいいのかしらね」
そう言いつつも、一子はピンときた。
性格的に無理だから、非力だから、というので諦めるのはよろしくない。
「ねぇ、アーシア。攻撃するのは無理でも、自分の身を守る為に技術とかそういうのを身につけるのは大丈夫よね?」
「そういうのでしたら……」
一子はにんまりと笑った。
アーシアは小首を傾げた。
「キチガイタンクヒーラーって、素敵よね……あいつには本当に手を焼かされた」
一子の――メリエルの脳内に蘇るユグドラシルのこと。
ヒーラー故に積極的にタゲ取りはしないが、防御にガン振りすることで味方が崩れたときに割って入って、味方を回復させつつ敵の攻撃を受け続けるというプレイヤーがいた。
誰が呼んだか、キチガイタンクヒーラー。
主にGvGで活躍していたプレイヤーだった。
「うん、アーシア。どの駒にするかは未定だけど、ともあれ眷属にするから」
一子の言葉にアーシアは満面の笑みで、頷いて、そしてそのままの勢いで――アーシアは背伸びして、一子の口に口づけた。
「一子さん、私、一子さんが好きです。だから、ずっと一緒にいたいです」
一子の答えは勿論、決まっている。
「ええ、アーシア。私も好きよ。だから、永遠に一緒よ」
微笑みながら、彼女はアーシアを抱きしめた。