道中何事もなく宿泊するホテルへと到着した。
班ごとに割り当てられた部屋へと向かう為に各々がエレベーターへと乗り込んでいく。
一子は事前にリアスから裏側のことで話し合う為に個室を用意する旨を伝えられており、イリナと共にそこへ向かおうとしたのだが――
何故か別のエレベーターをホテルマンがわざわざ案内してくれた。
そのエレベーターは直通らしく、目的階のボタンしか存在しないものだった。
「ねぇ、一子ちゃん。何で最上階なのかな?」
「私を迎えるには相応のものがあるんじゃないかしら」
「自意識過剰って言いたいけど、一子ちゃんは本当にそれくらいの力があるからなぁ」
グレモリー眷属にもリアス経由で一子が超越者と認定されていることが伝えられている。
驚きはなく、そうだろうな、という納得の感情しかなかった。
そんなことを2人が話しているうちにエレベーターは最上階へと到着した。
「……えーと、1部屋だけ?」
エレベーターから降りた2人、そのうちイリナは周囲をきょろきょろと見回して、少し離れたところに扉が1つしかないことに気がついた。
何となくイリナは嫌な予感がした。
庶民の自分には想像もできない世界が広がっているという、そういうものだ。
「まあ、そうね」
一子は何ともなしにその扉にカードキーを通して、ロックを解除する。
イリナは一子の後ろに立ち、中を見て息を呑んだ。
そして、一子が扉を開けるとそこは――
「……あ、私、知っているよ。こういうの、ロイヤルスイートっていうんだよね」
大理石の荘厳なエントランスが広がっており、そこにはグレイフィアをはじめとした世話係が立っていた。
「お待ちしておりました」
「グレイフィアが世話をしてくれるのかしら?」
「はい、一子様。私以外にも専属コック及びメイドがおりますので……勿論、一子様は私共には相応の態度を取って頂けるものと信じております」
暗に口説くなよ、と伝えてくるグレイフィアに一子は苦笑する。
「当然よ。ただ、こちらのプライベートは配慮してもらえるかしら?」
「勿論です」
グレイフィアはちらりとイリナへと視線を向けてくる。
「避妊具はご入用ですか?」
笑顔で問いかけてきたグレイフィア。
その問いの意味をすぐには理解できず、数秒かけて理解した結果、イリナの顔は真っ赤になり、恥ずかしさで顔を俯かせた。
「もう、そんなにいじめないでよ。可愛い幼馴染なんだから」
「これは失礼しました」
恭しく頭を下げるグレイフィアに一子は手をひらひらさせる。
「裏側を話し合っても問題は?」
「ございません。直接お世話をするメイド達も、コックもこちら側ですので。ただ私はこの後、冥界に帰らねばなりませんが……」
「それなら良かった。じゃ、用があったら呼ぶから」
一子はそう言いながら、グレイフィアに旅行鞄を手渡した。
イリナも慌てて、旅行鞄をグレイフィアへと渡す。
「畏まりました。それでは良い時間を……イリナ様、ご武運を」
「は、はい!」
グレイフィア達が退室したところで、一子はイリナの手を引きながら、部屋の中へと入った。
ホテルとは思えない程の広いリビングルーム、幾つもある浴室と寝室、屋内の小型プールにサウナと至れり尽くせりの豪華なアメニティの数々にイリナは感心するしかなかった。
金持ちってこんな生活しているんだ、と。
そんな気持ちを彼女が抱いていることが手に取るように一子には分かり、笑ってしまう。
「イリナ、あなたは私の眷属になったら、このくらいの部屋に1ヶ月くらいは簡単に泊まれるくらいの給料を支払うからね」
「う、うん……こ、この部屋ってだいたいいくらくらいかな……? これ、学生が泊まっていい部屋じゃないよね……?」
「ちょっと待ってね」
一子はそう言うと、スマホを開いてネットで、このホテルについて検索してみる。
「この部屋だと……1泊150万って書いてあるわね」
「150万……」
目眩がするような金額にイリナは慌てふためいた。
「こ、こことか汚しちゃってない?」
「……イリナ、意外と小心者ね」
「だ、だって、こんなホテル、泊まったことないもん!」
そんなイリナに一子は笑いつつ、彼女を抱きしめ、耳元で囁く。
「あなたとの大事な一時だもの。最低でも、このくらいじゃないと」
「一子ちゃん……」
イリナもまた一子を抱きしめる。
「……うん、一子ちゃん。私の初めて、一子ちゃんにあげます。だから、私を一子ちゃんのものにしてください」
「ええ、勿論よ。ずーっと一緒だから」
そして、一子はイリナと共に手近な寝室へと向かった。
「で、お楽しみだったわけですか?」
ロスヴァイセはジト目で一子とイリナを見つめていた。
出かけようとしたが、予想以上に2人が遅い、という一子とイリナの班員から連絡を受け、副担任の彼女が呼びにいったところ、部屋に通じる扉の前ではグレイフィアとメイド達が立っていた。
彼女達は現在、愛の営み中だとして全く譲らなかったのだ。
主が色欲魔で至高の変態ドラゴンで性癖のブラックホールだとロスヴァイセは短い付き合いながら当然知っていたが、さすがに修学旅行中は如何なものか、と問答が始まり、そうこうしているうちに営みを終えた2人が現れたというのが事の顛末。
グレイフィアはにこやかにイリナに戦果を尋ね、イリナは胸を張ってサムズアップ。
もうそれだけでグレイフィアには十分であった。
彼女は過去のサーゼクスとのアレコレから、基本的に恋する乙女の味方なのだ。
「まぁまぁ、班員と言っても、ゼノヴィアとアーシアと私とイリナだし。裏側で固めたほうが動きやすいってアザゼルも言ってたからそうなったんでしょ。木場は遊撃として欲しいってアザゼルに引っこ抜かれたけども」
「そういう問題ではありません。ちゃんと時間は守ってください」
「転移魔法というすごい便利なものがあるから、余裕」
「ダメです」
ロスヴァイセはそう告げて、しおりを開く。
「午後は自由時間ですが、爛れたことは眷属としては許せても、副担任としては許せません。なので、どっか出かけてください」
「じゃあ、どっか行ってくる。アインズ・ウール・ゴウン集合!」
ロスヴァイセは思いっきりずっこけそうになった。
「何ですか、そのアインズなんたらって」
「栄光ある名前よ。うちの班名にしようと思って」
「……好きにしてください」
ロスヴァイセは溜息を吐いた。
「ねぇねぇ、一子ちゃん。アインズ・ウール・ゴウンって?」
「色々と要約して意訳すると世界は我らのものって意味かしら。たぶん」
「凄いけど、長いね……」
「……まあ、そうね」
そんなやり取りの最中、アーシアが手を挙げる。
「はい! 伏見稲荷大社? っていう狐さんがいっぱいいるところに行ってみたいです!」
アーシアの提案に異論は特に無い――というわけもなく、そこで一子が口を開いた。
「どうせならUSJ行かない? 何なら転移魔法で」
「一子様、勿論ダメです」
にっこり笑顔でロスヴァイセは却下だと告げた。