やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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盛大なる勘違いと苛烈な報復

 

 

 

「中々面白い趣向を凝らしてくれるじゃないのよ。うん、それっぽい雰囲気で私は良いと思う」

「何を呑気なことを言っておるのじゃ!」

 

 九重のツッコミであったが、一子はケラケラと笑うだけだ。

 

 

 

 渡月橋までやってきたとき、周囲が霧に覆われ、瞬く間に一子達以外の存在が綺麗さっぱり消え去った。

 異界に取り込まれたという、普通ならばピンチな状況だ。

 とはいえ、九重以外の面々には全く不安はない。

 

「まあ、相手は分かっているからな」

 

 ゼノヴィアの言葉にイリナとアーシアはうんうんと頷く。

 

 そのとき、呑気な声が響き渡る。

 

「おーい、お前達、やっぱり無事だったな」

 

 アザゼルとロスヴァイセがやってきた。

 彼らとはつい10分くらい前に渡月橋の周辺でたまたま出会い、そして別れたばかりだった。

 

「禍の団?」

「おうとも。いいか、一子。お前は手を出すなよ、絶対にだ。やらかされて、後始末をする身にもなれ」

「そういうのは大人の責任でしょう?」

「大人よりも遥かに力があるんだから、超越者として責任を取れよ」

「あ、なんか急に堕天使を滅ぼしたくなっちゃったわ。どうしましょう」

 

 一子の言葉にアザゼルは深く溜息を吐いた。

 そんな彼の反応を一子は笑いつつ、霧に包まれた周囲を見回す。

 

「そろそろ出てきていいわよ」

 

 一子は感じる複数の気配達に声を掛けた。

 いくら索敵が得意ではないとはいえ、スキルその他で近距離の索敵程度なら問題はない。

 ましてや、こちらに転生して以来、ドライグとの鍛錬を全く欠かしていない彼女にとって、気配の探知程度は簡単にこなせるものだった。

 

「趣向を気に入ってくれて何よりだ、赤龍帝」

 

 その声と共に男は現れた。

 

「曹操を名乗らせてもらっている。あなたからすれば取るに足らない、弱っちい人間さ」

 

 口ではそう言っているものの、その態度は全くそうではない。

 堂々としたものであり、その表情は自信に満ちている。

 そして、この場にはアザゼルもいるというのに、彼の視線はただ一子しか見ていない。

 アザゼルもそれを察し、口を挟むことはせず、一子に任せることにした。

 

「弱っちい人間であるなら、精々日々、汗水垂らして働きなさいよ。かつての曹孟徳も、そっちのほうが喜ぶわよ」

「これは手厳しい。とはいえ、どこまで自分があなたに通じるか、試してみたいという思いもあるのだ。許して欲しい」

「仕方がないわね。それで、中々良い槍だけれど……何で青紅の剣と倚天の剣じゃないのよ? 曹操って言ったらそれでしょうに」

「本当に手厳しいな。とはいえ、この黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が私の神器だ」

 

 曹操の言葉を聞き、一子の表情が明らかに変わった。

 おや、と彼は内心思う。

 

 ドラゴンであるが、悪魔でもあるから効く可能性は高いと事前情報から考えていたが、当の本人からそういう反応をされると予想は当たりと彼は判断した。

 

「……その槍はロンギヌスというのね?」

「いかにも。神をも貫き、滅せられる(・・・・・・・・・・・)絶対にして最強の神器だ。もちろん、あなたであっても」

 

 だからこそ、自信を持って、そして予想を交えて彼は告げた。

 

 

 

 

 

 

 一方の一子は非常に危機感を持った。

 迂闊であった、と彼女は反省する。

 

 自分と同じように、ユグドラシルからの転生プレイヤーに対して。

 ワールドアイテムを装備しているから、ロンギヌスは効力を発しない――理論的には。

 だが、ユグドラシルのサービス終了までワールドアイテム持ちに対してロンギヌスが使用されたことはない。

 

 だからこそ、実際はどうなのか、一子にも分からなかった。

 曹操が強気に出る原因は明らかだ。

 彼はユグドラシルプレイヤーであり、ロンギヌスの効果を知っているのは先程の会話から明らか。

 ゲーム上のロンギヌスとは見た目が異なっているが、そんなことは問題ではない。

 

 もしかしたら、何かしらの原因でロンギヌスだけが流れ着いて、神器と化したという可能性もあるが、最悪を想定し、さらにその斜め上を考えることは当然。

 故に、一子は曹操がユグドラシルプレイヤーであり、なおかつ、メリエルを知っており、更にその手の内までも熟知していると仮定した。

 

 だが、この場にはアザゼルもいる。

 セラフォルーがあの時の映像を見せていると彼女本人から聞いているとはいえ、それでもユグドラシルという単語は欠片も出していない。

 あまり大っぴらにするのはよろしくないと一子は判断する。

 

「私のことをどこまで知っているのかしら?」

「赤龍帝である……ということしか知らないかもしれないぞ」

 

 笑ってみせる曹操に一子は最悪だ、と確信する。

 彼の表情や声色、体の僅かな動きには一切の迷いや不安、怯えその他負の感情は一切なく、ただあるのは自信のみ。

 手の内は熟知されている、と一子は判断した。

 

 だからこそ、彼女は問いかける。

 もはや周りの目や影響など気にしている場合ではない。

 

「率直に尋ねるけれど、あなたはプレイヤーかしら?」

 

 

 

 

 問いかけられた曹操は問いの意味を考える。

 プレイヤー、何のプレイヤーだ、と。

 

 とはいえ彼からすれば、絶大な力を持つ赤龍帝である一子が指すプレイヤーなど一つしかないとあることに思い至る。

 

 世界を動かせるプレイヤーであるか、と。

 判断一つ、行動一つで世界を変えうる存在であるか、と。

 

 それに辿り着いた曹操はかつてないほど気持ちが昂ぶった。

 赤龍帝が己を認めている、と彼は考えたのだ。

 でなければ、こんな質問をしてくる筈がない。

 

 明らかに先程、ロンギヌスと聞いて表情が真剣なものへと変化したのはその証拠だろう、と。

 

 強者に認められるとは、かくも嬉しいものなのか――

 

 

「勿論だとも。あなたと同じ、プレイヤーだ。そして、あなたを打倒する英雄だ」

 

 万感の思いを込めて、彼はそう答えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 確定――

 

 一子の、否、メリエルの頭の中でその2文字が浮かんだ。

 恐れや不安がないとは言えないが、ともあれ、もはややることは一つしかない。

 

 どの程度のプレイヤーか分からないが、自分と同じくウィッシュ・アポン・ア・スターで色んな制限を取っ払っていると予想する。

 だからこそ、彼との戦いは文字通り、世界を巻き込むような戦争となる。

 

 普段なら煽るところだが、相手がロンギヌス持ちとなればそんなことは怖くてできない。

 ブチ切れて、開幕からロンギヌスで相打ち狙いなんてされたらたまらない。

 

 故に、発動までの時間すら与えず、ただし、この世界特有の魔法なり何かしらの技なりを会得している可能性があるので、最初は牽制程度にとどめ、準備が――バフのガン積み――整ったら一気呵成に攻め立てて殲滅する。

 

 もし、他にプレイヤーがいたとしても無視する。

 最優先はロンギヌス持ち、それ以外はどうとでもなる。

 

 

「あなた達、下がっていなさい」

 

 有無を言わさぬよう強い口調で、一子は告げた。

 

「だ、ダメだよ、一子ちゃん!」

 

 イリナが異を唱えようとするが、その口を塞がれた。

 他ならぬ、一子の唇によって。

 

「わぁ、大胆……」

 

 そんな声が幾つか、相手側から聞こえてきたが、それどころではない。

 

「ヤツのロンギヌスか?」

 

 アザゼルの問いに一子はイリナから離れ、頷いた。

 

「か、一子ちゃん……」

 

 ようやく一子が離れたことで、イリナは潤んだ瞳で一子を見つめ、その名を呼んだ。

 そんな彼女に一子は微笑んだ。

 

「続きは終わってからね。こっちの事はこっちで片を付けないといけないので」

 

 なんだかいつもと感じが違う。

 九重はともかく、ゼノヴィアとアーシアはそう感じた。

 イリナは腰砕けになってしまって、それどころではない。

 

 そして、それはアザゼルとロスヴァイセも同じく感じた。

 

「ロンギヌスはお前でも荷が重いぞ」

「ええ、アザゼル。知っているわ。でも、だからこそ、私が倒さねばならない。私にとって脅威となりうるならば」

 

 そこまで言い、彼女はロスヴァイセへと視線を向ける。

 これまで見たこともない真剣であり、かつ凛々しい顔つきの主にロスヴァイセは思わず胸が高鳴ってしまうが、そんなことなど露知らず一子は告げる。

 

「ロスヴァイセ、申し訳ないけれど、私自身の為に今回は戦わせてもらうわ」

「は、はい! あ、あの、一子様。ご武運を……」

「ええ、ありがとう」

 

 一子はそう言って、ロスヴァイセの頬に軽く口付けて、そして、曹操へと向き直った。

 その後ろでロスヴァイセが顔を真っ赤にして俯いてしまったが、一子の意識は曹操のみに向いている。

 

「さて、曹操。悪いけれど、手加減をする訳にはいかない」

「望むところだ。こちらとしても、手加減されて倒させてもらうのは格好が悪いからな」

「あなたが味方であったなら、こうはならなかったのにね。今からでも遅くはない。味方にならない?」

「それはお互い様だ、赤龍帝」

 

 曹操が槍を構え、一子はその装いを一瞬にして変化させる。

 その変化に彼は息を呑む。

 

 元々の一子の美貌と相まって、戦支度を整えた彼女は、まさに戦女神であったからだ。

 また彼女はそこからさらに禁手化を果たす。

 

 同時に、一子は隠蔽の指輪を別の――ガチの戦闘用のものと交換する。

 それにより、その圧倒的なオーラが顕になる。

 

 さながら巨龍を前にしたかのように。

 

 

 

「凄まじいな……これほどまでとは」

 

 曹操は恐ろしさを感じつつも、槍を握りしめる。

 まさしく、格上だ。

 

 ただ立っているだけで放たれているオーラの圧により、渡月橋がギシギシと嫌な音を立て、さらには川面を震わせ、大きく波立たせている。

 それだけに留まらず、橋の両岸にある家々や山の木々、それらすらも大きく揺れている。

 さながら、暴風に晒されているかのように。

 

 彼女の剣は勿論、纏う装備は全て神器ではないか、と思う程の膨大な力が籠もっている。

 特に彼女の首にある黄金の首飾りは別格だ。

 

 ちらり、と曹操は他の面々を見るが、情けない状態だった。

 ある者は頭を垂れ、ある者は恐怖にただ立ち尽くし、マトモに戦える状態ではない。

 

 曹操の傍にいる面々ですらもこれであるから、対岸から挟み撃ちする形となっている別働隊は、畏れから、もはや身動き一つ取れまい。

 

「曹操! アレはマズイ! 今すぐ撤退を!」

 

 ゲオルグが青い顔をしながら、そう叫んだ。

 曹操がそちらへと視線を向ければゲオルグ以外にも、ヘラクレスが頭を抱えて蹲り、ジャンヌがただ呆然と赤龍帝を見ているのが見えた。

 

 ふむ、と曹操は考える。

 

「よし、お前達は撤退しろ。私は戦わねばならない。アレを倒してこそ、英雄だ」

「何を馬鹿な! アレが内包する力が分からないのか!? 魔王すらも超えているかもしれないぞ!」

「無論、分かるとも。だからこそ、赤龍帝に挑まねばならない。そうでなくては失礼だ」

 

 瞬間、曹操は槍でもってゲオルグの顔の真横を突いた。

 甲高い金属音が響き渡る。

 

 ゲオルグは何が起きたのか分からず、顔の横を見てみると、そこには曹操の槍の穂先と見慣れないガラスのような刀身が拮抗していた。

 一子が隙を突くべく、回り込んできたのだ。

 

 ゲオルグは慌てて、その場から離れた。

 

「不意打ちとは随分卑怯ではないか? 強者は悠然と構えているものだろうに」

「窮鼠猫を噛む。その諺を知らないわけがないわよね?」

 

 そう会話をしながらも、曹操は冷や汗が背筋を伝っていた。

 反応できたのは奇跡に等しい。

 ゲオルグと会話をしていなければ、一撃で終わっていた。

 

 それほどまでに赤龍帝は速く、またその一撃は重い。

 現に今も、拮抗しているように見えるが、それは赤龍帝が次の行動に移る為にわざと力を抜いているのだと理解できてしまう。

 

 瞬間、曹操は穂先でもって刀身を払って、後ろに大きく飛び退いた。

 彼がいたところを巨大な土の槍が飛び出ている。

 

 魔法――!

 

 もはや考えるよりも速く、体が動いた。

 彼は直感を信じ、着地するや否や槍を前に突き出した。

 

 再度響き渡る金属音。

 

「流石にやるわね」

「それほどでもない。何分、弱っちいのでね。ついていくだけで精一杯だ」

 

 彼は赤龍帝の勝利への貪欲さに戦慄する。

 

 禁手化すら、させてくれないか――

 

 相手に猶予を与えない。

 格下であっても、勝利の為に油断も慢心もしない。

 

 このままではあと数分も経たないうちに敗北する未来しか彼にはなかった。

 

 速さも力も圧倒的に上、更につけ入る隙になりうる油断や慢心もない。

 呆れる程にどうしようもなかった。

 

「ヴァーリが言っていたよ。赤龍帝は、理不尽の塊だと。ようやく理解した」

「それはどうも」

 

 その会話と共に始まる刃の応酬。

 しかし、一子がそれだけで終わるわけがない。

 

 飛んでくる多種多様な魔法の数々。

 曹操は全く見たこともないようなそれらを禁手化すらできない状態で、致命傷になりそうなものだけはどうにか防ぎ、避けながらも、一子の剣による連撃を槍で受ける。

 これまでの経験と培った勘、そして彼が持つ天賦の才能故であったが、そこで曹操はあることに気づいてしまった。

 絶望的な事実に。

 

 飛んでくる魔法に紛れて、一子の体を色とりどりの光が包み込んでいるのだ。

 それにより、1秒前に受けたものよりも、遥かに速く重い一撃が飛んでくる。

 

 明らかに自己強化の魔法を使っている。

 だが、曹操にはそれを防ぐ術はない。

 

 本当に、高い壁だ――

 だが、超えてみせる――

 

 

 曹操は決意を新たにしてみるが、あいにくと思いの一つでどうこうできるような差ではなかった。

 このままでは遠からず、彼は一子によって倒される。

 それは誰の目にも明らかであった。

 

 しかし、助けは予想外のところからやってきた。

 

「わ、わわ! ちょ、ちょっと待ってー! ストーップ!」

 

 そんな場違いな声が横から聞こえてきたのだ。

 とはいえ、一子がそんなことで止まるわけがない。

 

 PvP中の横槍、裏切りなんてよくあったために。

 とりあえず死んでおけ、とばかりに一子は現断(リアリティスラッシュ)を数発、視線も向けずに声の方へ放った。

 

「く、空間切断をたった一言で!? 魔法陣も何もなく!? すごい!」

 

 なんか感動しているようであったが、当たらなかったという残念な事実に一子は曹操への攻撃の手を緩めることなく、視線は向けないまま問いかける。

 

「誰? 今、かなり忙しいんだけど」

「わ、私はヴァーリチームのルフェイ・ペンドラゴンです! 赤龍帝の兵藤一子さん、戦闘停止です! 曹操さんを殺しちゃまずいですって!」

「ヤダ」

「九尾の八坂さんの身柄がどうなってもいいんですか!? 曹操さんを殺したら、分からないですよ!?」

 

 それを言われると一子としても問題だ。

 死者蘇生をするにしても、遺体があるのとないのとでは勝手が違う可能性がある。

 

 もっともそれとこれとは話が別で、自分の命に関わることを優先するのは当然だ。

 

「申し訳ないけれど、部外者は引っ込んでいて」

「そ、そんなぁ……」

 

 ルフェイは泣きそうになった。

 そんなとき、予想外のところから助け舟が出てきた。 

 

『……なぁ、相棒。一ついいか?』

『何よ、ドライグ。今、忙しいんだけど』

『お前の思うロンギヌスと、曹操のロンギヌスは違うものだぞ。お前のようにこっちにやってきたとかそういうのでもない。確かに最強の槍であるが、お前の知るロンギヌス程に理不尽ではない。あと曹操はあまりにも弱すぎる。禁手はあるだろうが、それも出せない、ユグドラシルのスキルの一つも使ってこない。どう見てもプレイヤーではないだろう』

 

 ドライグは、そこまで言って、小さく笑いだし、やがてそれは大きくなった。

 

『本当に面白い勘違いをしてくれたな、相棒! いや、最高に面白かった! いつになく真剣な顔で! あなたはプレイヤーか、だと! もうぶっちぎりで最高に面白い相棒だな!』

 

 大爆笑とともにドライグは一子に告げた。

 一子は無言で、曹操から距離を取った。

 

 満身創痍、生きているのが不思議なくらいであった曹操は好機到来と思うよりもまず、首を傾げた。

 

 今の今まで、こちらに禁手化させまいと至近距離での曹操の刺突と一子の斬撃の応酬、更にそれだけに留まらず彼女からは魔法も飛んできていたのが、パッタリと無くなったのだ。

 

「曹操」

「何だ?」

「ロンギヌスって自分を完全にこの世から抹消する代わりに、対象となった相手も完全に抹消する能力ってある?」

「あるわけないだろう。禁手化したとしても、そんなものはない。そもそも、そんな能力があればとうに使っている。赤龍帝と刺し違えるのならば悪くない」

「……あー、うん、これは、やってしまいましたね」

 

 一子は装備を収納し、無手になって両手を挙げた。

 

「なかったことにできないかしら?」

「無理だな。何を勘違いしたか分からないが……とりあえず、この惨状をどうにかする為に休戦を提案したい」

「承諾するわ。とりあえず、治癒するから」

「……そこまでできるのか、有り難い」

 

 曹操と一子による戦闘の余波で渡月橋は今にも崩れそうな程にボロボロであり、一子の放つオーラにあてられて動ける者がほとんどいなかった彼の部下達は、退避することすらできず、2人の戦闘の余波で怪我人が多数出ていた。

 

「物は相談なんだが……赤龍帝、今回の京都の件、どう収めるつもりだ?」

 

 アーシアの神器もあり、スムーズに怪我人達の治癒が進む中、曹操は問いかけた。

 

「アザゼルから処理を一任されているわ。で、何をするつもりなのよ?」

 

 アザゼルの方へ一瞬だけ視線を向けながら――彼は腕を組んで、疲れた顔をしている――彼女はそう問いかける。

 

「うむ。単刀直入に言えば、八坂を暴走させて力を引き出し、更に京都という特殊な都市を生かして霊的な力を集め、グレートレッドを喚び出し、戦おうとしていた」

「私と戦ったことで満足しておきなさいよ」

「そうしておくとも。さすがに手も足も出ないとはなぁ……まだまだ遠い遠い」

 

 朗らかに笑う曹操に一子は溜息を吐く。

 

「で、また何で英雄になりたいのよ?」

「簡単な話だ。血筋と聖槍に選ばれた。なら、そうならねばならない。そうではないか?」

「……いや、そんだけ?」

「それだけだ。あなたも似たようなものではないか? そも、我々英雄派は伝説の英雄や勇者の子孫や神器を有する人間で構成している。あなたもまた神器に選ばれたのだから」

「あー、そういう……私の場合、ちょっとだけ事情が異なってね。似てはいるけれど」

 

 赤龍帝の裏事情とでも言うべきものに曹操は惹かれるものの、それよりも赤龍帝の抱く英雄像とは何かを尋ねてみたくなった。

 

「あなたが思う、英雄とはどのようなものか? どうやったら英雄になれるか?」

「うーん、難しいわね。世間一般の民衆の支持が得られるかどうか、じゃないの? 自分は英雄だと威張って力を振るったところで、周りが認めなければ単なる頭のおかしい輩だし」

 

 曹操は自らの心臓に剣が刺さったような気がした。

 

「どれほどに凄い力を持っていたとしても、それを支持する基盤がないとねぇ……今のあなたは世間一般的な基準で言うと、自分のことを曹操だと思いこんでいる頭がヤバイテロリストかしら。まー、英雄は無理じゃない?」

 

 とどめの一撃に曹操はがっくりと頭を垂れた。

 

「ちなみにだけど私は別に英雄と思われようが、史上最悪の化け物と思われようが、何でもいいので」

「本当か、化け物?」

「本当よ、サイコパステロリスト」

 

 見事なカウンターで返された曹操は深く溜息を吐く。

 

「で、どうかしら?」

「何がどうなんだ?」

「どうせどっかの神話勢力と繋がっているんでしょ。私に鞍替えしない? 今のままだとあなた達、使い捨てられて最後はテロリストとして処理されるわよ?」

 

 曹操は沈黙し、思考する。

 どちらが良いか、という単純な問題だ。

 

「あなたが使い捨てをしない、という根拠は?」

「私が魔王級の悪魔を5秒に1人、魔力の消費のみで量産できるので」

「……は?」

 

 曹操は間の抜けた顔を披露した。

 

「見たほうが早いかしら。転移の阻害だけ解くように伝えて」

「あ、あぁ……」

 

 生返事をしながらも、曹操は言われた通りにゲオルグに伝える。

 そして、一子は兵藤邸から9人のグレイフィアを召喚した。

 

 次々と召喚されてくるグレイフィアに曹操は目を剥いた。

 アザゼルが頭を抱えた。

 よりによって、それを見せるのかよ、とそんな声が聞こえてきそうだ。

 

 とはいえ、彼はグレモリー眷属に任せると言った手前、まだ口を出してきていない。

 意外と約束は守るらしいと一子は彼への評価を上方修正する。

 

「赤龍帝……コピーか?」

「グレイフィア、結界を張って全力で魔力を解放しなさい。彼に教えてあげて」

 

 一子の言葉に8人のグレイフィアが結界を張った上で、1人のグレイフィアがその魔力を全力で解放する。

 当然怪我人を巻き込むわけにはいかないので、曹操だけを結界内に取り込んだ上で。

 

 放たれる魔王に匹敵する膨大な魔力に曹操は笑いがこみ上げてきた。

 実際にオリジナルのグレイフィアと対峙したことはないが、それでも生半可な輩が出せるものではないことが理解できてしまったのだ。

 

「というわけなのよ。大抵はグレイフィアに命じればやってくれるし、そもそも、私が一声、魔王とか熾天使とか堕天使にこうしてくれないかしら、とお願いすれば言うことを聞いてくれると思う」

「既に三大勢力をその影響下に置いている、というわけか?」

「事情を知っている連中だけに限定されるけどね。で、どうかしら? 待遇も環境も最高のものを用意するわ」

「何故、我々を? 必要などないのでは?」

「しいて言えば……女の子とイチャイチャしたいので」

 

 ジャンヌや他の子達へと視線を向けながら、一子はそう言った。

 曹操は冷静に告げる。

 

「……同性同士は不毛だぞ」

「両性具有になれるのでセーフ。それにこういう即物的な欲望の方が信じてもらえるでしょう?」

「確かに。綺麗事を言われるよりは信じられる」

「分かってくれて何よりだわ。私が全力を出し始めると、惑星を粉々にするようなレベルになってくるから。良かったわね、途中で止まらなかったら、そうなっていたわよ」

 

 曹操は無言になった。

 数秒の沈黙、そして問いかける。

 

「……本当か?」

「本当よ。セラフォルーと全力で戦ったけど、彼女は私に手も足も出なかった」

「魔王ですら、それか」

「それよ。彼らは全力だと国を滅ぼせるけれど、私は本気の状態で大陸を消し飛ばせるからね。全力になると惑星」

 

 曹操は躊躇なく両手を挙げた。

 

「降参する。いくら鍛えたところで、流石にそういう規模は無理だ」

 

 どれほどの鍛錬を積んだところで、惑星そのものを破壊するような攻撃をされては無理だった。

 次元の狭間に逃げ込んだところで、赤龍帝なら普通に追っかけてきそうだし、そもそも逃してくれるとも思えない。

 現に今もそうだろう。

 休戦しているものの、それが無くなった瞬間に赤龍帝は全力で曹操を捕らえるか、殺しにかかってくることは間違いない。 

 

 ならば赤龍帝に降ったほうがメリットが大きい。

 曹操にとって、その選択肢しかなかった。

 

「賢明な判断だわ。さ、というわけで八坂を解放して、さっさとアジトや構成員その他諸々の居場所を全部吐きなさいよ。悪いようにはしないから」

 

 にこにこと天使の笑みを浮かべて告げる一子に曹操は恐ろしいものを感じた。

 顔見せなどせず、さっさとグレートレッドの召喚計画を実行に移しておけばよかったかな、とちょっとだけ後悔した。

 

「もしも、計画の方を先に移していたら、その場所で私は色々と勘違いをしたことになっていたので、あなたは抵抗すらできなかったわよ。さっきみたいに牽制はしなかったと思うから。初手で決めるに限る」

 

 曹操は一子の言葉に思わず体を震わせる。

 アレで牽制に過ぎなかったのか、と。

 

「というか、どうして分かった?」

「考えそうなことなので」

 

 曹操は溜息を吐くしかなかった。

 

「あ、あのー、一子さん。実はヴァーリ様から伝言があるのですがー」

 

 恐る恐る声を掛けてきたルフェイ。

 一子は彼女に驚いた。

 

「え、まだいたの?」

「酷いです! 怪我人の救助を手伝っていたのに!」

「そう、それはありがとう。で?」

「えっと、曹操は殺すな。あと大きな被害は出すな、だそうです。もう意味がないかもですけど」

 

 要するにヴァーリも一子が本気を出すことを心配していたようだった。

 

「その、一子さん。私、一子さんともっと仲良くなりたいなって思うのですが! 契約とかしませんか!?」

 

 ぐいっと身を乗り出してくるルフェイ。

 すぐさま一子は懐からメモを取り出して渡した。

 

「これ、私の住所、電話番号、メールアドレスが書いてあるのよ。あげるわ」

「わー! ありがとうございます!」

 

 嬉しさのあまりくるくる回るルフェイ。

 

「それじゃ、一子さん。契約ができるようになりましたら、改めて挨拶に行きますので、よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と頭を下げて彼女は転移していった。

 実はもう魔法使いと契約できるし、しているんだけど、と一子は思いつつ、呟く。

 

「……正統派の魔女っ子ね。どっかの現役魔王に見せてやりたいわ」

「レヴィアタンが魔法少女をやっているというのは本当なのか?」

「残念ながら本当よ」

「……冥界は自由だな」

 

 曹操は、どうやら自分にはそういうある種の自由な発想が足らないのでは、と思う。

 現に目の前にいる赤龍帝も、調べた限りではこれ以上ない程に自由に振る舞っている。

 

 英雄という存在が自分の努力ではどうにもならないならば、単純に強さを――それこそ赤龍帝に匹敵する強さを目指すのも悪くはない。

 赤龍帝を真正面から打ち破れば、誰も彼もが英雄――と称えるかは微妙なところであるが、それでも良い評価を貰えることは間違いないだろう。

 

「よし、では主よ」

「何よ急に? 主とか」

「ん? あなたの下につくのだから、そうで良いだろう。挑戦はいつでも受け付けているか?」

 

 問いかけに一子は鼻で笑ってみせる。

 

「当然よ。私は趣味で世界最強を目指しているからね」

「それは良かった。どうやら、こうなるのもまた天命であったのかもしれないな」

 

 そこで話は終わっただろう、とばかりにアザゼルが告げる。

 

「またやらかしやがった、と言いたいところだが、今回は大金星だな」

「ええ、アザゼル。一応確認するけれど、ロンギヌスに対象となった者をこの世から完全に抹消する能力はないのよね?」

「ない。さて、曹操。後始末の前にだ」

 

 アザゼルはにっこりと笑った。

 何故か、曹操はとても嫌な予感がした。

 しかし、彼が逃げるよりも早く、アザゼルは彼の背後へと回り込み、肩を組んだ。

 

「お前さん、一子の配下になったのだろう?」

「そうだが……」

「じゃあ当然、秘密も共有する必要があるわけだ」

「何が言いたい?」

 

 アザゼルは笑みを浮かべながら、告げる。

 

「なぁ、一緒に……悩もうや」

「何なんだ、一体……?」

「何、お前さんが見たいものだ。セラフォルーが撮った映像があるんだよ。一子の全力形態の。見るか?」

「見る」

 

 にっしっし、とアザゼルは笑い、そうかそうかと曹操の背中を嬉しそうに叩く。

 

「どうせなら、幹部クラスの連中にも見せたほうがいい。そうすりゃ、もう戦う気力も反抗する気力も無くなるだろうよ」

「まだ彼らの意思は確認していないが……」

「おう、そうか。さっきの一子とお前の戦いを見て、まだ戦う気なら一子は喜ぶぞ。サンドバッグ的な意味で」

 

 アザゼルの言葉に一子はドヤ顔でVサインを決めてみせた。

 曹操は溜息を吐く。

 

「一応、確認だけはさせてくれ」

 

 

 曹操は治癒が完了した者達に自身は一子の配下となることを告げ、各メンバーの意思確認を行った。

 誰も反対する者はおらず、幹部だけに見せるよりは全員に見せた方が良い、とその場で鑑賞会となった。

 

 アザゼルは全部を見せた。

 一子の正体から、その封印解除、槍を投擲するところまで。

 

 

 

 

「……あまりにも非常識だ」

 

 どうにか、曹操はそんな感想を口に出すので精一杯だった。

 他の者達は完全に映像に呆気に取られていた。

 

 理解が追いつかなかった。

 異世界の熾天使で堕天使で、この世界では人間でドラゴンで悪魔。

 非常識にも程があった。

 

「だろ? そうだろ? さぁ、一緒に悩もうぜ……」

 

 アザゼルは楽しそうに笑っていた。

 

「……のう、一子。これは解決したのか?」

 

 一緒に見てしまった九重は付き合いが浅かったが故に、そういうものなのかとどうにか納得した。

 

 とはいえ、子供ながらにこれで良いのか、と問いかけると一子は胸を張った答える。

 

「解決したのよ。皆仲良く! 世界平和! ラブアンドピース! まぁるい世界!」

「本当にそうなのか……?」

 

 疑う九重に一子は大きく頷き、告げる。

 

「というか、どっかで戦争が起きたら、即介入するから。秒速で行くから」

「ただの戦争狂じゃねぇか」

「アザゼル、世界平和の為、やむを得ない犠牲よ。平和の為なら何をしてもいいんじゃないかしら。何よりも、戦争をしているってことは、横から私に殴っていいですよって言っているようなもの」

 

 アザゼルは深く溜息を吐く。

 やっぱり、この間にちゃんと取り決めをしておいてよかった、と。

 あの取り決め以降、かつてない程のスピードで三大陣営の融和と交流は進んでいる。

 

 友好の為、何よりも下手に争って横から一子に殴られないようにする為に。

 

「一応、無関係のお前が介入するのは……」

「無関係じゃないわね。何しろ、今代の赤龍帝なので。あと利益が得られそうなら行くしかない」

「くそっ、この自己中女が!」

「褒め言葉ね」

 

 悪口が悪口にならない為、アザゼルはもうどうしようもなかった。

 とはいえ、彼からすればこれ以上ないほどに一子は魔王――それも旧魔王連中のような存在だと実感する。

 

 連中から血統主義を取り除いて、好戦性を増し増しにすれば一子みたいになるかもしれない、と。

 

 むしろ、一子みたいな輩を魔王に据えて、過激な連中の抑えに回ってもらったほうがいいのでは、とアザゼルは考えてしまう。

 彼女なら粛清に対して全く抵抗がなさそうであるから、最適だろう。

 

 何で俺が悪魔のことを考えているんだ、と彼は深く溜息を吐いた。

 

 

 

 

「そ、その、一子ちゃん……続き……」

 

 もじもじしながら、イリナはそう声を掛けた。

 その横ではゼノヴィアが私も、と言いたげな表情で腕を組んでいる。

 

「疲れましたー、でも、気持ちいいですね」

 

 人助けをしたことで達成感に包まれているアーシア。

 

「一子様……えっと、その、あう」

 

 ロスヴァイセはどう切り出して良いものか、困っていた。

 

 何はともあれ、これで片付いたのは間違いなかったのだが――

 

 

 

 曹操をはじめとした面々がどうにか我に返るまで10分程の時間を要した。

 逆に言えば10分くらいでどうにか受け入れることができた彼らは称賛に値するかもしれない。

 

「ゲオルグ、解除してくれ」

「ああ……しかし、事態は急展開だったな」

「はは、そうだとも。私も全く予想できなかった。赤龍帝の前に姿を現した時点で、もはや逃げられなかったのだ」

 

 曹操とそんな会話をしながらも、ゲオルグは霧を解除した。

 幸いにも渡月橋の周囲に一般人はいなかった。

 

 同時にアザゼルのスマホが盛大に鳴り響く。

 

 念には念を入れ、ゲオルグは通信手段も切断していたことがそこで判明する。

 アザゼルは彼の能力に感心してしまう。

 

「アザゼル、マナーモードにしておきなさいよ」

「すまんすまん。こうしておかないと気づかないものでな」

 

 一子の言葉に謝りながら、アザゼルは電話に出る。

 

「おう、どうした?」

 

 アザゼルの電話の声を聞きながら、一子はジャンヌの方へ。

 

「ねぇねぇ、あなた。綺麗ね? 私、兵藤一子っていうの」

「わ、私はジャンヌです! その、一子様、あ、握手してもらってもいいですか!?」

「勿論よ。握手どころかハグしちゃう」

 

 きゃー、とジャンヌは一子に抱きつかれながらも嬉しそうだった。

 彼女としては一子の正体なども全部ひっくるめて、雲の上の凄い人という認識だった。

 

「あ、あの! 一子様! 私も!」

「私も!」

 

 他の女の子達も集まってきて、まさに一子は天国のようであった。

 

 

「おい、冗談はよしてくれ」

 

 そのときアザゼルの声に一子は思わずそちらを向く。

 彼の顔つきは非常に険しいものだった。

 彼はそこからいくらかのやり取りをした後、電話を切った。

 

「落ち着いて聞いてくれ。駒王町が旧魔王派の襲撃を受けた」

「グレイフィア?」

「召喚される直前まで、そのような兆候はございませんでした」

「タイミングが悪かった、ということかしら?」

 

 一子の問いにアザゼルは頷く。

 

「でも待って。カテレアと黒歌がいるし、レイナーレ達もいる。何ならペットのバイサーも。そこにリアスと朱乃、小猫にギャスパーよ。ソーナ達も含めればどうってことないでしょう。精々、植木鉢が割れたとかその程度よね?」

 

 一子の作ったセラフォルーとソーナは彼女の領地となる予定地の下調べに冥界に赴いている為に駒王町にはいない。

 だが、それでも十分過ぎる戦力だ。

 

「それだけじゃない。連中は北欧の悪神ロキと手を結んだらしい。ヤツがフェンリルやら何やらを引き連れて来たそうだ」

 

 アザゼルはそう告げ、一子をしっかりと見る。

 

「いいか、一子。落ち着いてくれ」

「何なのよ?」

「リアスと朱乃が攫われた」

「……は?」

 

 一子は目を見開いた。

 

「お前に対する抑えにしたいのだろう。セラフォルーが既に駒王町へ向かった。曹操、これはお前らの予定のうちか?」

「そんなことはない。そもそも、我々と連中は呉越同舟に過ぎない。最低限の情報共有程度の繋がりだ」

 

 曹操はそう告げる。

 彼の本能は一秒でも早くここから離れるべきだと叫んでいたが、それを抑え込む。

 当然、そうなっている原因は分かる。

 

 静かに、本当に静かに、まるで大嵐の前の静けさのように。

 しかし、確実に。

 

 一番傍にいたジャンヌは恐る恐るに離れた。

 他の女の子達も離れた。

 

 事前情報で、リアス・グレモリーと姫島朱乃と赤龍帝がどういう関係にあるか、知っている為に。

 

「お前ら! 逃げろ! これはシャレにならん!」

 

 ドライグが叫んだ。

 彼は一子を宿主としているからこそ、もっとも早くに気がついた。

 激しいものが、一子の中で湧き上がりつつあるかを。

 

「ゲオルグ! 結界だ!」

 

 ドライグとそれを聞いた曹操の叫び、ゲオルグが反射的に再度、神器を発動させる。

 同時に恐ろしい程の寒気を感じた。

 

 殺気であると瞬時にこの場にいる全ての者は直感する。

 

「相棒! 落ち着け! 気持ちは分かるが落ち着け! ともかく落ち着け!」

「ドライグ、私はとても落ち着いているわ。ええ、かつて、世界を敵に回して戦ったときと同じように」

「それはダメだろう!」

 

 そんなやり取りをしながらも、一子は告げる。

 

「ゲオルグと言ったかしら? 無理矢理破られたくなければ結界を解除しなさい」

 

 真っ直ぐに黄金の瞳で見つめられたゲオルグはそれだけで死を悟ってしまうが、曹操が彼の頬を叩いて我に返らせる。

 

「主よ、今のあなたを外に出すわけにはいかない。先程までの余裕はどうしたのだ? このような事態にあったとしても、あなたは笑って敵を殺しに行くのだろうに」

 

 曹操は恐怖に苛まれながらも、そう呼びかける。

 それほどに大事な存在であったのだ、と事前情報で知っている。

 それを知りながらに、このように怒れる赤龍帝に声を掛けるのは称賛に値する勇気だ。

 

「申し訳ないけれど、自分の女に手を出されて笑って済ませられるほど、器が大きいわけじゃないのよ」

「確かにそうだ。私としても同じ事態ならば激怒して、聖槍を撃ち込んでやる自信がある。だが、戦士として最高のパフォーマンスを発揮する必要がある。人質救出は慎重に事を進めねばならない。そうではないか?」

 

 そう言われて一子は考える素振りをみせる。

 今だ、とばかりにアーシアは叫ぶ。

 

「わ、私もリアスお姉様や朱乃さんが心配です! で、でも、今の一子さんは私から見ても怖いです!」

 

 彼女に続けとばかりにイリナが、ゼノヴィアが、ロスヴァイセが口々に呼びかける。

 それらを聞き、徐々にではあるが殺気が収まっていく。

 

「……簡単な話よ。要は人質を取り戻せばいい。私にはそれをする術があるのだから」

 

 今度は事情を知っているアザゼルがまさか、と思い至った。

 

「おい、一子、まさかお前……アレを使う気か!?」

「当たり前じゃない。こういうときに使うものよ」

 

 一子は指輪を取り出した。

 これは止められない、と悟ったアザゼルはこの場にいる全ての者に対して叫ぶ。

 

「今から見ることは本当にヤバイから誰にも言うな! 絶対だ!」

 

 そして、一子の周りに巨大な蒼い魔法陣が浮かび上がる。

 

「リアス・グレモリーと姫島朱乃を一切の傷なく、後遺症なく、完全に治癒した状態で、彼女を傷つけた者達、駒王町を襲った全ての者達と共にここに召喚しなさい。ウィッシュ・アポン・ア・スター」

 

 青い光が周囲を包み込み、それらが収まるとそこには――

 

 気絶しているリアスと朱乃が一子の前に横たわり、そして、その後ろには駒王町を襲撃した面々がいた。

 渡月橋に入りきれず対岸にまで広がっている。

 予想よりも敵は多かった。

 

「何が起きたんだ……?」

 

 シャルバ・ベルゼブブは困惑しながら、周囲を見回した。

 他の襲撃者達も、それは同じ。

 

 しかし、一子は彼らに説明することなどしない。

 

 

「さて、少しお話をしましょうか?」

 

 一子は微笑みながら告げる。

 

「赤龍帝!? どういうことだ!?」

「どうもこうもないわよ」

 

 そう答えながら、一子は戦域を展開する。

 世界が切り替わる。

 渡月橋もゲオルグの霧も一瞬にして消え失せて、現れるのは一面の草原、そして不気味なほどに青い空。

 

 異界構築――!?

 

 彼らは一子が何をしたのか理解できてしまった。

 たった一言、唱えただけでこのようなことができるなど、聞いたことがない。

 

「撤退だ!」

 

 シャルバは叫ぶ。

 同時に弾かれたように彼の配下達は次々に転移魔法陣を起動させ――

 

次元封鎖(ディメンショナル・ロック)

 

 瞬時に彼らの転移魔法陣が全て消失した。

 

「何、だと……?」

 

 シャルバは呻くように、呟いた。

 それに一子は嗜虐的な笑みを浮かべながら、告げる。

 

「知らなかったの……? 私からは逃げられない」

 

 一子は一歩、前へと出た。

 シャルバは一歩、後ろへと下がる。

 彼の後ろにいたクルゼレイは再度、転移魔法陣を試すも、同じように消失してしまう。

 

「何を怯える必要がある。これは千載一遇の好機だろう」

 

 その声と共にロキがシャルバとクルゼレイの前に立った。

 フェンリルとその子供達、さらには量産型ミドガルズオルムを多数引き連れている彼からすれば、駒王町襲撃など赤龍帝が仕える主とやらの力を見る程度の意味合いでしかなかった。

 赤龍帝が京都からとんぼ返りしてくることを考え、全ての戦力を引き連れてきたのだが、あまりにも呆気なかった。

 数体の量産型ミドガルズオルムが討ち取られた程度にしか過ぎなかったのだ。

 

 ロキの本命は無論、赤龍帝を討つこと。

 オーディンが三大勢力との協調路線を取った背景には、赤龍帝が悪魔陣営にいることが関係していると推測したために。

 

 赤龍帝を討てば、三大勢力の影響力――特に悪魔陣営においては大いに弱まることは間違いない。

 

「ふむ……」

 

 一子は少し考える。

 彼女の背後には油断なく控えている9人のグレイフィア、そして戦闘の気を感じ、各々の神器を構える曹操ら、イリナやゼノヴィア、ロスヴァイセ、アーシア達、そしてアザゼル。

 

「よく私のいない隙を突いて、リアスと朱乃を攫うことに成功した。讃えよう」

 

 そう告げて、一子は拍手をロキやシャルバ達に送った。

 突然の行動に彼らは訝しむ。

 無論、彼女のその行動にはアザゼル達も驚くしかない。

 

「どういうことだ?」

 

 シャルバの問いに一子は告げる。

 

「故に、褒美を与えようと思うの。さて、金銀財宝か、それとも魔王の椅子か、あるいは世界か……」

 

 そう言いながら、指折り数えていき、にやり、と笑みを浮かべる。

 

「もっとも欲しいものは私の命。そうかしら?」

「ほう、自殺でもしてくれるのか?」

 

 ロキの言葉に一子は笑ってみせる。

 

「それではつまらないでしょう? 人生において、楽しいとか面白いというのは重要よ。あなたはロキで合っているかしら?」

「いかにも」

「あなたなら、理解できるでしょう? 何事にも楽しみというのは重要よ」

 

 だから、と一子は言葉を続ける。

 

「いかにあなた達が精強であろうと、ここにいる全ての者達を同時に相手にしては永遠に私を討つことなど不可能。よって、褒美は私が1人であなた達全員と戦うということにしよう」

「戯言を。驕りが過ぎるぞ、赤龍帝」

 

 ロキの言葉に一子は装備を整える。

 一瞬にして纏われるその神々の武具に匹敵する数々にロキは無論、シャルバ達もまた目を見開く。

 

 そして、最後に一子は太陽のように輝く黄金の首飾りをこれ見よがしに掲げ、ゆっくりとそれを身につけた。

 

「馬鹿な! なぜ、なぜそれを貴様が持っている!?」

 

 見た目こそ違うが、ロキはその首飾りに覚えがあった。

 

「ブリーシンガメンを、何故持っている! 答えろ! 赤龍帝!」

 

 ロキの叫びに全ての者からの視線が一子に集中する。

 彼女は優雅に微笑み、告げる。

 

「フレイヤと1対1で戦って勝ったからに決まっているじゃないの。もっとも、向こうにその記憶はないでしょうけれど。始めましょうか」

 

 一子はそう言い、無限倉庫内にある全ての神器級の武器を展開する。

 ステータスやスキルなどによる命中補正は受けないが、それでも無限倉庫から直接、アイテムや武器を射出することはできた。

 プレイヤーは勿論、高レベルのモンスターには当たらず、あんまり意味のないものだが、見た目としては評価が高かった。

 

 それが現実化するとどうなるか?

 

 一子の背後にある空間が水面のように揺らいで、夥しい数の武器が顔を出した。

 現実化した今、それらは全てフレーバーテキストが反映されている。

 故に、それらは全てが神話に出てくるような武器であり、それに相応しい輝きや闇を纏い、また魔力を秘めていた。

 

「馬鹿な……」

 

 ロキは目を見開いて、ただそう呟くしかできない。

 それほどまでに目の前の光景はあまりにも非常識で、現実離れしていた。

 

「私からのささやかな贈り物よ。ありがたく受け取って頂戴」

 

 一子は片手を振り上げ、一気に振り下ろした。

 一斉に射出される膨大な武器の数々。

 

 慌てて空へと退避したロキやシャルバ、クルゼレイ達。

 しかし、彼らに従って逃れることができた者達は悲しいほどに少なかった。

 

 空へ逃げた者達は見た。

 1本の剣が掠っただけで消滅した悪魔を。

 1本の槍が刺さっただけで、のたうち回り、悶え苦しむ量産型とはいえミドガルズオルムを。

 

 フェンリルはその身を呈して子供達を守る。

 しかし、その巨体に突き立てられる武器の数々の威力に苦痛の叫びを上げる。

 

「余所見をしていて、良いのかしら?」

 

 その声に空へと逃れた者達は見た。

 そこにあったのは10を超える眩い太陽であった。

 

「さぁ、次よ。太陽に押し潰されたことはある? それが終わったら隕石と月よ。どこまで生き残れるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は今ほど、自分の判断を良かったと思ったことはない」

 

 曹操は一子による一方的な大虐殺を目の当たりにしながら、そう呟いた。

 もはや、アレは人間がどうこうできる領域を完全に超えている。

 言葉で示されるよりも、万倍も、嫌でも理解してしまった。

 

 空から絶え間なく降り注ぐ太陽――おそらく偽物であるが――捌ききれるか、と言われると曹操は否と答える。

 まずその熱量からして人間どころか、生物が耐えられるものではないのだ。

 そして、先程のあの恐るべき魔法。

 おそらくは何でも願いを叶える類であろうと容易に想像がついた。

 

 わざと一子が外しているのか、シャルバ、クルゼレイ、ロキには当たっておらず、それ以外の者達に直撃したりしているが、そもそもロキとその手勢を除けば全員が悪魔である。

 ただでさえ弱点であるのに、その直撃を受けて耐えられるわけがなかった。

 

「まあ、まだアレでも全力……いや、本気ではないのか? どの程度か、分からんが、封印を解除してはいない」

「そも、太陽やら隕石やら月やらを降らせるのは……魔王や神であってもできるのか?」

「……やってやれないことはないだろうが、実戦レベルにまで昇華するのは無理だな」

 

 曹操とアザゼルがそんな会話をしている中、リアスと朱乃は念の為にアーシアによる治癒を受けていた。

 見た目は全く無傷であり、ただ気絶しているだけのように見える。

 

 その甲斐あってか、リアスと朱乃は、程なくその目を開けた。

 

「リアスお姉様! 朱乃さん!」

 

 良かった、とアーシアは2人に抱きついた。

 そんな彼女をそれぞれ抱きしめつつも、2人は体を起こす。

 

「ええっと、確か、旧魔王派とロキが襲撃を仕掛けてきて……?」

「負けてしまった筈ですが、どうやら何か、とんでもないことが起きたようですわね」

 

 2人の言葉と同時にこれまでにない程の轟音が響き渡る。

 2人とアーシアがそちらを見れば、不気味な程に青い空を切り裂くように巨大なドラゴンにも見える白い雷撃が10個程、駆けていた。

 

 

 それを呑気に眺めているイリナとゼノヴィア、ロスヴァイセ。

 アザゼルと見知らぬ青年が何やら話をし、彼ら以外にも見慣れない大勢の人々がいる。

 

「……えっと、どういう状況?」

「あ、その、リアスお姉様! 朱乃さん! 一子さんを止めてください! 一子さんが旧魔王派の方たちとかと戦って……いえ、いじめています!」

「はぁ!?」

 

 何がなんだか分からないが、とりあえず一子がやらかしたことだけはリアスには理解できた。

 あらあら、と朱乃は笑う。

 

「リアス、どうやら一子さんに助けられたみたいね」

「ええ、朱乃。で、あそこで追いかけ回されているのがロキと旧魔王派ってわけね……」

 

 空を見てから、地上を見た。

 そこは凄惨な状況だった。

 

 見るからにヤバそうな剣やら槍やらその他色んな種類の武器が数多の亡骸に突き刺さっている。

 苦戦した量産型ミドガルズオルムやフェンリルも例外ではない。

 もはや動くことのないフェンリルの顔を舐めている2匹の子狼達が悲惨さをより際立たせている。

 

「お、目が覚めたか。見れば分かると思うが、お前達を攫った連中に一子がブチ切れて、こうなった」

 

 アザゼルが呑気に声を掛けてきた。

 

「嬉しいんだけど……嬉しいんだけど、何だか素直に喜べないわ」

「確かにこれは、ちょっと困りましたね」

 

 リアスと朱乃の言葉にうんうん、とアザゼルは頷く。

 

「というわけだ、曹操。うまくストッパーが掛かるようになっているんだ。世界ってのはうまくできているよな」

「ああ、みたいだな。確かにこの所業はらしいといえばらしいが、もはや相手に戦意はない。これ以上はやりすぎだろう」

 

 納得する曹操にリアスは問いかける。

 

「というか、あなたは誰よ?」

「元禍の団英雄派のリーダー、曹操というものだ。京都でやらかそうとしていたテロリストと言えば分かりやすいかな」

「……何となく予想がついたのだけど、一応聞くわ。一子とはどういう関係?」

「挑んだが、足元にも及ばなかった。故に、配下となった。我ら全員な。安心してくれ、レヴィアタンとの戦いは既に視聴して、どうにか受け入れている」

 

 リアスは頭を抱えた。

 

「ま、仲間が増えるっていうのはいいことだ。そら、怒れるドラゴンを鎮めるのは姫様達の仕事だ」

 

 あとは頼んだぞ、とこっちに押し付ける気満々のアザゼルにリアスは思いっきりぶん殴りたくなったが、ぐっと我慢した。

 朱乃も同じ気持ちだったが、どうにか我慢したようだ。

 手のひらに雷光が迸っているように見えるが我慢できたので大丈夫だった。

 

 リアスと朱乃は魔法を使って一子へと呼びかける。

 

「一子! もういいから! やめてあげなさい! 可哀想よ!」

「一子さん! 大丈夫ですから! 嬉しいですけど!」

 

 2人の声を聞き、一子は追撃をやめる代わりに最後までわざと追いかけ回していたシャルバとクルゼレイ、ロキを適当な魔法とマジックアイテムで捕まえて、そのままリアスと朱乃の前にやってきた。

 

「もう本当に心配したんだから。やっぱりもっと強くなってもらわないとダメね」

「それに関しては何も言えないわ。私達の力不足よ」

「ええ。もっと強くなります」

「……ところでカテレアと黒歌、レイナーレ達はどうなった?」

 

 実のところ、リアス達やソーナ達はまだまだ発展途上で仕方がないと一子としては思っていた。

 しかし、カテレアと黒歌は別。

 ましてやレイナーレ達は使い魔を自負するなら、これくらいは切り抜けてもらいたいものだった。

 

「大量のミドガルズオルムに押しつぶされていました。死んではいないと思いますけど……」

「一子、さすがにあの物量では普通はちょっと無理よ」

 

 朱乃が説明し、リアスがフォローする。

 

「まあ、いいわ。これを機に、もっと強くなってくれるでしょうから」

 

 一子はそう言いつつ、シャルバとクルゼレイへと視線を向けた。

 

「た、助けてくれ……もう魔王の椅子なんていらない……」

「お願いだ……許してくれ……」

 

 涙ながらに懇願する2人に一子はにっこり笑顔で告げる。

 

「絶対に許さない。絶対にだ」

 

 この世の全てに絶望したかのような表情を披露する2人に一子は笑いつつ、ロキへと視線を向ける。

 

「おのれぇ……」

 

 こっちは心が折れていなかった。

 おもちゃを見つけたと言わんばかりに、一子はにんまりと笑う。

 

「ロキ? ちょっと1億回くらい私の憂さ晴らしに付き合ってくれないかしら?」

 

 そう言いながら、彼女はその足を彼の股間へと置く。

 何をされるか理解したロキは焦った顔で一子へと視線を向ける。

 

「お、おい、赤龍帝がそんなことをしていいのか!? お前、冥界で注目されているんだろう!?」

「ロキ、あなたが大人しくしていなかったから、悪いのよ? だから、玉を潰せば少しは大人しくなるんじゃないかと思って」

「やめろ!」

「やめろ?」

「や、やめてください!」

「やめてください、だけ? 何なら、まずその喉から潰してもいいのだけど。拷問のやり方、その体に教えてあげようか? あ、死んでも蘇らせるから」

 

 このように、と一子は一番目立ちそうなフェンリルに対して、デスペナルティを防ぐアイテムを幾つか使用した上で、蘇生魔法を使用する。

 

 たちまちのうちにフェンリルは瞼を開けて、ゆっくりとその巨体が起き上がったのが見えた。

 ロキは自分の未来が容易に想像できてしまった。

 玉を潰され、ショック死しても、蘇生され、また潰される。

 これまで感じたことのない恐怖に彼は身を震わせた。

 

「……やめてください、お願いします」

 

 驚くほど素直にロキはそう告げた。

 

「私と張り合おうってのが無謀だって分かったでしょ?」

「……はい」

「ちなみにあそこにグレイフィアが9人いるわよね?」

「……はい」

「彼女達、私が5秒に1人の割合で、魔力消費のみで作り出したから。グレイフィア、曹操の時と同じようにやって頂戴」

 

 8人のグレイフィアが結界を展開し、シャルバ、クルゼレイ、ロキを隔離する。

 その上でグレイフィアが1人、全力でその魔力を解放する。

 それだけで3人は理解した。

 

「さっきの言葉、どういう意味か理解できたかしら?」

 

 一子の問いかけに3人は何度も頷いた。

 ロキもまた顔色が悪い。

 

 魔王級の悪魔を5秒に1人の割合で、魔力消費のみで作り出せる。

 その意味が理解できない程に彼らが愚かであるわけがなかった。

 

「これにて一件落着ね……あら、アザゼルに曹操。顔色が悪いけど、大丈夫?」

 

 アザゼルと曹操、その他英雄派の男性達は全員、顔を青くしているのを見て、一子はそう声を掛けながら、けらけら笑ったのだった。

 

 ともあれ、これでようやく一段落がつくと思い、一子が戦域を解除すると盛大に彼女のスマホが鳴り響いた。

 

「……おい、お前も人のこと言えねぇだろ」

「うん、申し訳ない」

 

 さすがの一子もこれにはアザゼルに謝るしかなく、そのまま電話に出た。

 相手はセラフォルーだった。

 

『今すぐ、駒王町に戻ってこい! 今すぐだ!』

 

 素の口調で一方的にそう言われて、電話は切れた。

 声色からすると、相当に怒っているようだ。

 

「……ちょっと聞きたいんだけど……何をやってきた? セラフォルーが怒っているんだけど」

 

 一子の問いにシャルバとクルゼレイはロキへと視線を向けた。

 

「……殺してはいない」

 

 ロキの言葉に察しがついてしまった一子はリアスへと視線を向ける。

 

「ソーナは?」

「分からないわ」

「とりあえず一足先に戻るわ。セラがヤバイ」

「私も行くわ」

 

 リアスの言葉に一子は首を横に振って告げる。

 

「もれなく、ブチ切れ状態のセラフォルー・レヴィアタンと鉢合わせするけど、それでもいい?」

「……ちょっと勘弁して欲しいわね」

「とりあえず私が先に行って、落ち着いたらすぐに連絡を入れるから。それまでこっちの後始末をしておいて」

「分かったわ」

 

 

 

 

 京都をリアスに任せ、一子が駒王町で転移によって戻ると――そこはさながら戦場のような様相というわけではなかった。

 

 さすがに結界で隔離して戦うくらいの分別はシャルバ達やロキにもあったらしく、表側には特に被害は出ていないようだ。

 

 一子はセラフォルーへと伝言(メッセージ)を行い、居場所を確認すると冥界のシトリー領にある病院という答えとともにそこの座標を教えられた。

 

 駒王町じゃなかったのかよ、と一子はツッコミを入れたくなかったが、ソーナのことで気が動転しているのだ、と考えて、再度転移魔法でもって、今度は冥界、シトリー領へと転移した。

 

 

 

 そして、ようやくに一子がセラフォルーの下へ到着した。

 

 

 

 

「なるほど、そういうわけね」

 

 一子は集中治療室の外から窓越しに状態を見て、すぐに事態を察した。

 確かにこれは殺してはいないというのが正しい。

 

「ねぇ、一子。誰がこうしたのかな? ソーナちゃんと眷属の子達を」

 

 恐ろしい笑みを浮かべながら、セラフォルーはそう尋ねてきた。

 駒王町に残っていたのはソーナと椿姫、仁村の3人。

 その3人は見るも無残な姿であった。

 

 下半身を食いちぎられたのか、ソーナは上半身だけしか残っておらず、残る2人はソーナ程酷くはなかったが、それでも四肢のうち、どれかが欠けている。

 フェニックスの涙を使用しても、ここまで酷ければ流石に無理があった。

 

 一子は思う。

 これ、セラフォルーに犯人を話したら、ヤバイことになると。

 怒りに任せて殺されるのも面倒だ。

 

「セラ、とりあえず治すから。話はそれからよ」

「うん、お願いね……本当、一子ちゃんがいてくれて良かった」

 

 そんなこんなで瀕死であった3人は一子が治癒魔法と回復アイテムを使って、あっという間に治してしまった。

 一部始終を目撃してしまった医師達はやるせない気持ちになってしまうが、治癒したことは喜ばしいことだった。

 医師達はすぐさま精密検査をし、体力の回復の為に眠っているだけ、という診断を下した。

 セラフォルーはようやくいつもの調子を取り戻した。

 

 

 

「で、一子ちゃん。敵は?」

 

 病院にあるカフェに移動し、互いにドリンクを飲んだところでセラフォルーは問いかけた。

 

「実は敵は愚かにもリアスと朱乃を攫ってね。どうしたか、分かるでしょうけど」

「あ、例のアレだね。それで?」

「2人と駒王町を襲撃した者達を全員例外なく、私の目の前に召喚した」

「うんうん」

「フルボッコにしてやった。こんにちは、死ねって感じで」

「さっすが! で、生かしているの?」

「ええ。ただ、彼らの心を完全に折ってやったから」

 

 セラフォルーはズイ、と身を乗り出してきた。

 一子としてはちょっとだけ嘘を交えることにする。

 さすがに怒れるセラフォルーに引き渡すのは可哀想だった為に。

 

「何をやったの?」

「玉を潰して、殺して、蘇生して、また潰してっていうのをね。泣いて謝っても許してやらず、殺してくださいって懇願するまでやってやった」

「あはっ、えげつなーい! それじゃあ、私がやる必要はないねー」

「ええ。あ、そうそう、敵は旧魔王派と北欧のロキが結びついていたのよ。で、私はオーディンに貸しがあるので」

 

 一子は伝言(メッセージ)をオーディンへ繋げる。

 

『オーディン? 私だけど、おたくのロキ、何をやらかしたかご存知?』

『赤龍帝! この度の一件は誠に申し訳ない!』

 

 相手からすれば突如として一子の声が頭に響いたようなものだが、流石にオーディンは驚いたりもせず、謝罪の言葉を一番に述べた。

 一応、非公式な関係であるのだが、オーディンからすれば神も魔王も物ともしない赤龍帝が相手だ。

 しかも非はロキを止められなかった北欧側にある為、平身低頭するしかない。

 

 

「一子ちゃん、オーディンのおじいちゃん、何だって?」

「申し訳ないってさ。うまく収める形にする? それとも搾る?」

「んー、北欧の皆とはうまくやっていきたいかな」

 

 セラフォルーの言葉に一子は頷きながら、オーディンへ話しかける。

 

『申し訳ない、で済むなら警察はいらないわよ。私のリアスと朱乃は攫われて、レヴィアタンの実妹とその眷属が重体だったのだけど?』

『こちらとしても、できる限りのことはする』

『ええ。そうして頂戴。近いうちにレヴィアタンが行くと思うから。二度目はないわよ』

『肝に銘じておく。本当に申し訳なかった』

 

 そして、一子はセラフォルーにVサインを作ってみせる。

 

「というわけでビビりまくってるから、こっちの要求は飲んでくれると思うわ」

「うん、あとは任せて……ところで、一子ちゃんの傍に今回の犯人達を置いておく方が、罰になりそうなんだけど、どうかな?」

「男しかいなかったからヤダ。ま、詳しくは後始末をしてからにしましょうか」

 

 一子はそう言いながら、リアスへ連絡を入れるべく、伝言(メッセージ)を使った。

 

 

 

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