学園祭の当日。
一子は時間ができたので生徒会室を訪れていた。
彼女らの出し物を見てやろうと思って、ふんぞり返っていたのだが、その態度はすぐに崩されてしまった。
「ふふふ、一子さん。どうやら負けのようですね」
ソーナはメガネを光らせ、ドヤ顔で告げた。
一子はぐぬぬぬ、と悔しげな顔だ。
学園祭の出し物の一貫として、生徒会が企画したものはソーナによるチェス対決。
ソーナに勝利すれば景品が出る、というものだが、ここまで誰も勝利した者はいない。
あまりにもソーナは強かったのだ。
「レーティングゲームで勝負しましょう! アレもチェスよ!」
「ダメです」
一子の提案を一刀のもとに斬り捨てるソーナの顔はかつてない程に晴れやかだ。
ようやく兵藤一子に勝利した、とそれだけで満ち足りていた。
「ほらほら、どうしました? 赤龍帝の名が泣きますよ」
「ぐぬぬ……10分待っていなさい! 助っ人を連れてくるから!」
「どうぞ、ご勝手に。姉でも私には勝てませんので」
ソーナの言葉に一子は「今回はここまでにしておいてやる、首を洗って待っていろ」と言いながら生徒会室を後にした。
「よろしいのですか? 会長。捨て台詞の見本みたいなことを言っていきましたが」
「ええ、大丈夫です。可能性としては姉か、リアスか、そのあたりですが、姉もリアスも敵ではありません」
自信満々に言い放つソーナ。
一子には自身や眷属の命を救ってもらったという多大な恩があるが、勝負は別。
椿姫にそう答えたソーナはゆっくりと一子が戻ってくるのを待ち――きっかり10分後、一子は再度やってきた。
助っ人を連れて。
「待たせたわね!」
「ええ、構いませんよ。少なくとも今の時点ではあなたは私に勝てませんから」
「そう言っていられるのも今のうちよ。さぁ、入ってきなさい」
一子の言葉に助っ人とやらは誰だろうか、とソーナは思いつつも悠然と構え――入ってきたその人物に目を丸くした。
「一子さんがどうしても、と言うので……申し訳ありません、私」
現れた助っ人はソーナだった。
オリジナルのソーナは叫んだ。
「2人目の私は見られたらマズイからダメだって事前に言ってあったでしょう!?」
「大丈夫、転移魔法を使った。あとここら一帯に結界を張った」
「そこまでして私を負かしたいんですか!?」
「当たり前よ。ソーナの涙目になる顔が見たいので。ちなみに可愛かったので、やっぱりソーナちゃん可愛いは真理」
「すみません、私。一子さんに色々されてしまって……」
「ちょっと私! どこまでいったのよ!? 確かに私は性愛に素直だけど!」
「その……色々と……」
混沌極まりなかった。
そして、すったもんだの末、対局が行われたが引き分けに終わり、ソーナ同士はとても面白く、楽しいものだったと非常に満足した。
一子としては涙目なソーナが見られなかったが、笑顔のソーナを見ることができたので、記念写真と称してソーナとソーナが並んでいる写真をスマホで撮って、2人のセラフォルーに送信した。
その後、それを見た2人のセラフォルーがやってきて、大変なことになるのは言うまでもなかった。
「兵藤一子のパンチラを……!」
「絶対不可侵領域を……!」
メイド喫茶では松田と元浜が一子のパンチラを拝もうと必死に頑張っていた。
ソーナのところから戻ってきたら、リアス直々に命令が下った。
メイド喫茶のメイドをやれ、と。
そして、あの兵藤一子がメイド喫茶のメイドを始めたという情報はメイド喫茶で色々注文をして堪能をしていた男子生徒達により、3分くらいで全校生徒に広まった。
スマホというのは非常に便利なものだった。
男子生徒が殺到する中、一方で女子生徒達も集まってきていた。
「はいはい、馬鹿2人は引っ込んでいてね」
「おのれ、桐生!」
「千載一遇の好機を……!」
「黙れ変態!」
「一子さんは絶対死守するんだから!」
狼藉者を引っ捕らえる桐生や村瀬、片山をはじめ女子生徒達。
男の影が全くない一子は1年生の時から実はそっちの趣味では、と女子生徒達の間ではまことしやかに囁かれており、それでも一子さんならそうでもいいかも……ということになる女子達が多くいた。
元々駒王学園は女子校であったということもあり、女子生徒の方が男子生徒よりも圧倒的に多い。
そういう趣味に目覚める者もいたのだ。
狼藉者達を排除した後、桐生をはじめとした女子生徒達は客として店内に入った。
そこでは由緒正しいメイド服に身を包んだ一子が微笑を浮かべて、出迎えた。
「ご主人様、何になさいますか?」
桐生達は、その攻撃の威力に精神が飛びかけた。
美貌という点においては学園一と言っても過言ではないあの兵藤一子がそんな風に出迎えたのだ。
「か、一子さん……私、お、お姉様と呼んでも!?」
「傷は致命傷よ、大丈夫!」
「兵藤……やべぇ」
死屍累々の状況に一子は同じく店員のイリナに視線を向けた。
今回は本当に私は何もやっていない、というアピールをするが、イリナは肩を竦めてみせた。
そんな感じで2時間程メイドをやった後、今度は占いをやれというリアスからの指示。
まるでおつかいクエストだと一子は思いつつも、客側の反応が面白いから、ということで割り切ることにした。
「こ、今度は誰にも邪魔されまい……」
「お、おう……占いだからな……」
「……ここに来るより、病院に行った方がいいんじゃないの?」
殴られ引っかかれズタボロになった松田と元浜は占い館にやってきた。
勿論、狙いは一子だ。
占い師っぽい格好をしている一子としても、彼らのエロに対する気持ちは良く分かるので、それなりには同情的だ。
「くぅ……聞いたか、松田!」
「おう……やっぱり学園一の美少女は、心も優しいんだなって……」
感動して泣き始めた2人に一子は、やれやれと溜息を吐いてみせる。
「仕方がないわね……じゃあ、これ上げるわよ」
一子は2つの小瓶を取り出して、それを2人に渡した。
「何だこれ?」
「ジュースか何かか?」
「良い夢を見れる怪しい薬よ。それを飲んで寝ると……凄い」
「すごい!?」
「何が!?」
ずいっと身を乗り出す2人に一子は怪しく笑う。
「もう覗きをしようとは思わなくなるわ」
一子の言葉に2人は唾を飲み込んだ。
「兵藤……エロか?」
「エロね」
「どのくらい?」
「夢の中で体験できる」
何が、とは言わなかった。
松田も、元浜も理解したのだ。
2人は怪しく笑う。
「兵藤、お前、実はかなりのエロだな?」
「まさか同志だとは思わなかった……もしや、お前、自分の同人誌を……」
松田と元浜の言葉に一子は何も言わず、微笑む。
漫画研究部が作成した私のお姉様という題名の一子が主人公となって色んな女の子とアレコレするシリーズ物のヤバイ同人誌。
生徒会の目を掻い潜り、生徒間でこっそり流通しているが、プレミアがついている程の大人気だ。
「あなた達、性欲っていうのはね、普段は秘めやかに、そして、ここぞというときに表に出すものよ。大っぴらに出してはダメ」
自分のことを棚に上げつつも、一子は松田と元浜にそうアドバイスする。
「だ、だがな、兵藤。この迸るパトス、女子のお前には理解できまい……!」
「そ、そうだ……!」
「じゃあ、真面目にアドバイスするけど、セックスって結構疲れるから、体は鍛えておいたほうがいいわよ」
突然の生々しい発言に松田と元浜はぎょっとした。
そして、一子をマジマジと見つめる。
「お、お前……既に……!」
「嘘だろ……相手は、相手は誰だ!?」
「リアス」
松田と元浜は体中に電撃が走ったかのように感じた。
まさか、学園一の美少女が、学園の二大お姉様の1人と、そういう関係にあったなんて――
そんなことを思いながらも2人の脳内に展開されるエロい妄想。
ただ、何でかとてもしっくりくるような印象を受けた。
「別に誰かに言ってもいいけど、たぶん誰も信じちゃくれないわよ。あなた達のこれまでの行いから」
「……マジなのか?」
元浜の問いに一子は告げる。
「マジよ。向こうも私もお互いの体で知らないところはないもの。エグいプレイもしているし」
「マジなのか……」
元浜はそう言いながら、ちらりと松田を見る。
すると彼も同じことを思ったのか、その視線を受け、頷いた。
「兵藤、俺達はそのことは言わねぇ」
「ああ。いくら俺達でも、そのくらいの分別はある」
「それは良かったわ。あと覗きをやめれば、たぶん2人共、すぐに彼女、できるわよ。この学園、男子生徒なんて20人もいないし。これはガチのアドバイス。だから、さっき渡した薬を飲んで、溢れすぎている煩悩を抑えなさい」
「すまねぇ……」
「ああ……恩に着るぜ……」
2人はサムズアップして、爽やかな顔で占いの館から出ていった。
そして、彼らの後にやってきた女子生徒達の占いというよりか、お悩み相談が始まる。
そんなこんなで1時間くらいやった後、リアスからの指示があるとしたら、そろそろだと彼女は思い始める。
「今度はおばけ屋敷かしらね……」
占いの次に残るのはおばけ屋敷しかない。
そこの驚かせ役だろうから、腕が鳴る。
冥界にまで絶叫が響き渡るように、ガチにやってやる、と一子は怪しく笑う。
「一子? おばけ屋敷だと、あなたは絶対に全力で怖がらせに掛かるでしょうから、ダメよ」
颯爽と現れてリアスはそう告げた。
「バレてる。どうして!」
「あなたの考えていること、手に取るように分かるもの。次にあなたは私をデートに誘う」
「リアス、デートをしよう……って何故!」
ノリが良い一子にリアスは満面の笑みで頷いた。
「もう校舎内でこんなことしちゃって」
「リアスだって、やりたかった癖に」
一通りにあちこちを見回ったところで、人気のない一室を見つけ、リアスと一子はお互いに抱きしめていた。
窓の外から聞こえてくる喧騒が、ここは学校だと2人を強く認識させるが、それは最高のスパイスに他ならない。
「ねぇ、一子……して? 私があなたのもの、あなたの女であることを教えて」
「ええ、勿論よ」
そうして2人は互いに口づけを交わした。