やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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悪魔的な解決方法

 

 

「うるさいぞ!」

「ひっ……」

 

 怒れる父親に少女は何もできない。

 躾と称しての顔以外の場所を殴る蹴るなどは日常茶飯事だ。

 

 しかし、それは明らかに躾の度合いを超えたもの。

 母親も止めることはせず、ただ見て、そして顔はやめなよ、と告げるだけ。

 

 こんな状態で学校に相談しようものなら、どのような父親からの躾が待っているか、恐怖でできない。

 

 何度も胸や腹を蹴られ、ぐったりと床に倒れ伏した彼女、その視界の端に1枚の紙が目に入った。

 

 たすけ を よびますか? 

 

 ひらがなでそんなことが書かれたその紙には、それ以外には奇妙な紋様と英語のような文字しか描かれていなかった。

 

 少女は無意識に、その紙に手を伸ばした。

 そして、それを掴んで、願った。

 

 

 たすけて――

 

 

 願いは叶えられる。

 眩い光が溢れかえり、しかし、それはすぐに収まった。

 

 少女は目を見開いた。

 

「な、なんだお前は……?」

 

 父親の困惑した声が聞こえる。

 しかし、その現れた人物はそれを無視して、少女の前に屈んで、にこりと微笑む。

 

 見たこともないほどに美しい人物が微笑みかけ、少女は見惚れてしまう。

 

「よく頑張ったわね。あとは任せて。助けるわ」

 

 その声と共に少女の体は柔らかな光に包まれる。

 痛みがすーっと引いていくのを少女は感じた。

 

「お姉さんは……誰?」

「それは5分くらい待ってくれないかしら。少しお話をする必要があるから」

 

 そう言って、彼女――兵藤一子は立ち上がり、父親と対峙する。

 

「虐待はいけないわよ?」

「虐待じゃない! 躾だ! 勉強もできないし、うるさくするから当然のことだ!」

「ふーん。そうなの」

 

 一子はとても興味なさそうに答えた。

 よくニュースなどで虐待事件の親が言うのと全く同じ言葉だったからだ。

 ついでに言うと、似たような言葉はここ最近、耳にタコができる程に聞いた。

 

「じゃあ、いらないなら、私が貰うわ」

「何だと!? うちの娘だぞ! お前は何なんだ!」

「悪魔よ。だから、悪魔らしいやり方でお話をさせてもらう。この子が味わった痛み、苦しみ。同じように味わってみなさい」

 

 一子はそう告げて、そのまま父親の腹を殴りつけた。

 痛みにうずくまり、うめき声を上げるが一子は容赦しない。

 

「顔はマズイから、顔以外の見えない場所をやるわね。あなたがこの子にしたことと同じことをやっているだけだから、これも躾。親に躾をするなんて、情けない限りだわ」

 

 今度は蹴りを入れた。

 母親が慌ててスマホを取り出して警察に連絡を入れようとするのを一子は、時間停止(タイムストップ)を使って、母親の目の前にいった。

 そして、時間が動き出すのと同時にそのスマホを取り上げた。

 

「何をするの!」

「この子は警察に連絡を入れることができなかったのよ。だから、あなたが警察に連絡を入れるのはフェアじゃない。そう思わないかしら?」

 

 一子はそのスマホを力任せに捩じ切った。

 ばん、と小さな爆発が起きるが、その程度でダメージなんぞ負わない。

 

 そのまま残骸を適当な魔法でもって燃やし尽くした。

 そこで後ろから叫び声が聞こえてくる。

 

 見れば父親が包丁を持ち出して斬りかかってきていた。

 一子はそれをそのまま受け入れる。

 包丁の切っ先が一子の首に突き刺さる――なんてことにはならず、その皮膚で止まってしまう。

 

「な、何だ!? 化け物め!」

「私からすれば、自分の子供をこんなになるまで、躾なんていう都合の良い言葉で殴ったり蹴ったりするあなた達の方がよっぽど化け物だと思うんだけど」

「う、うるさい!」

 

 包丁でめった刺しにしようと何度も刃を振るうも、一子の皮膚は愚か、その衣類を切り裂くことすらできない。

 

「助けて! 化け物が!」

 

 母親が叫びながら玄関へと向かい、扉を開けようとするが、その扉はまるで石にでもなったかのように全く動かない。

 

「この子はここから逃げることも、助けを外に求めることもできなかったのよ。本当にフェアじゃないわね。とんだ卑怯者だわ」

「お、お前はいいのか!? 人様の家に勝手に入り込んで、娘を連れていくなんて……!」

 

 そう叫ぶ父親に一子は向き直って告げる。

 

「悪魔なので。もっと言うと、私がやるのはいいけど、それ以外の奴らがやるのはダメだし、許さない」

 

 素晴らしいまでに自己中な発言であったが、あいにくとツッコミ役はいない。

 

「あと、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 よいしょ、と一子は父親が持っている包丁の刃を掴んで、それを簡単にポキっと折った。

 折れてしまった包丁を呆然と見つめる父親に告げる。

 

「最後の審判よ」

 

 一子はそう宣言して、状況を見守っている少女の前に屈んで問いかける。

 

「あなたには2つの選択肢があるの。このままここで両親と暮らすか、それとも私と一緒に行くか。勿論、両親と暮らすにしても二度と酷いことはできないように私がするわ。どちらでも構わない」

 

 一子の問いに少女は父親と母親の方へ視線をやる。

 楽しかった記憶や嬉しかった記憶は――浮かんでこなかった。

 浮かんでくるのは痛くて、苦しくて、辛い記憶ばかり。

 

 少女の答えはすぐに決まった。

 

「……嫌だ。ここにはいたくない。お姉さんと行く」

「うん、じゃあ、これからよろしくね。あなたには幸せになる義務がある。だから、私が目一杯幸せに、笑顔にしてあげる」

 

 にこりと微笑みながら一子は告げて、更に問いかける。

 

「彼らはどうする?」

 

 少女は直感的に悟る。

 殺すつもりだ、と。

 きっと彼女はそれを躊躇することなく、やるだろうと感じた。

 

 殺してはダメ――と少女は思わなかった。

 

 痛かった、苦しかった、辛かった――そして、死んでいくような感覚を味わった。 

 覚えている限り、親が自分に笑顔を向けてくれたことはなかった。

 

 だから、少女の答えは唯一つ。

 

「二度と会いたくない。何で殴るの? 何で蹴るの? 何で怒るの? 私が悪いから? 私が勉強できないから? 私がうるさいから? だから私を殺そうとしたの? それなら生まれたくなかった」

 

 完全な拒絶の言葉に父親と母親は激昂する――ということはなく、打ちひしがれた。

 一子は少女を優しく抱きしめる。

 

「大丈夫よ。少なくとも、私はあなたに会えたのだから。誰も祝福しないのなら、私がそうしましょう。生まれてきてくれて、ありがとう。これからいっぱい楽しいこと、面白いことを、あなたに」

 

 少女は一子の腕の中で小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 その日の夕刊でとあるマンションの一室で火事が起こり、3人が死亡という記事が載った。

 死亡事故であったが、特に事件性もなく、少女が通っていた学校で集会が開かれるなどがしたものの、親しかった友達を除けばすぐにその事故は風化してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに疲れた無理しんどい」

 

 一子はリアスではなく朱乃の胸に顔を埋めて、ぐったりとしていた。

 24時間ひっきりなしに召喚され、行った先で虐待をしている親を子供達にしたのと同じ目に遭わせて、子供達に選択を迫り、連れてくる――というのを繰り返す毎日が計画を実行に移してから続いていた。

 リアスもここまで酷いのか、と驚いたが、ともあれ手を回し、一子を公休扱いにして対処した。

 

 ようやく最近、落ち着いており、2時間に1回程度の頻度にまで減っている。

 

 日本に限ってもこれなのだから、もし全世界に広げていたら一子は精神的な疲労でストライキを敢行していただろう。 

 今後はマニュアルを作成し、適当な人材に丸投げすることを一子は既に決めていた。

 程なく、それは実行されるだろう。 

 

 

「ふふふ、お疲れ様。一子」

 

 朱乃は朱乃でこの状況を楽しんでいた。

 彼女以外の全員が保護した子供達の為に色々と動いていた。

 

 一子の領地として内々に決定されている場所の都市作りや保護した子供達の心のケアの為に医師をはじめとした多職種との連携、単純に遊び相手となるなど、それはもう多岐に渡る仕事があった。

 

 将来の眷属候補となる面々や一子が作り出したグレイフィア達、ユーグリットだけでは当然人手が足りず、レイナーレ達は勿論、グレモリー眷属の面々、曹操達まで。

 途中、レイヴェルが何か手伝えることはないか、とわざわざやってきてくれた為に一子は仕事を割り振った。

 勿論、そういう思いがあるのだろう、と一子は予想していた為に、レイヴェルとデートするという報酬を提示して。

 レイヴェルは非常に張り切って仕事に取り組んでくれている。

 

 だが、それでも足りないので、結局一子は専門の人材を自前で作り出すことになった。

 

 朱乃が兵藤邸に残っているのは単純にリアスの代理として駒王町を任されているからだった。

 

 冥界での折衝やら何やらとリアスは大活躍だ。

 

 泥縄式ではあったが、一子としてはここまで短期間に保護する人数が多いのはいくら何でも想定外で、数年くらい掛けて四桁くらいかなぁ、と考えていた節がある。

 

 この時代の日本ヤバかった、むしろ虐待云々に関しては前世の方がマシだった可能性が――

 

 一子がそんなことを考えてしまう程にはこの時代の日本はヤバかった。

 前世において流石の一子も子供の虐待問題などまでは把握しておらず、彼女のいた時代において実際はどうだったか分からないが、ともあれ衝撃的であったのは確かだ。

 

「一子はどうしてまた始めたの?」

「せっかくこれだけの力があるからっていう……私の道楽よ。知っている? 魔王っていうのは1人で世界を征服できるけど、道楽で軍団を作り上げるものらしいわよ」

「それは知らなかったわ。でも、結果として良くなるのなら、問題ないと思うの」

 

 朱乃は一子の頭を撫でる。

 

「子供の死を偽装するなんて、一子にしかできないわ」

「人間と全く同じ構成の人形を作っているだけだからね。大したことじゃないわ」

「肉人形ね」

「……言っていることは間違っていないのだけど、何か変な風に聞こえるんだけど」

「そんなのいいじゃない。それよりも2人きりの時間を楽しみましょう」

 

 朱乃はニコニコとご機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れましたわ……」

 

 レイヴェルはぐったりとソファに倒れていた。

 その横ではリアスがあられもない姿で安楽椅子にぐったりとしている。

 

「お疲れ様……あなたがいてくれて、本当に、本当に良かったわ……」

 

 レイヴェルは優秀だった。

 だからこそ、その仕事はさながらプロジェクトマネージャー的なものとなってしまった。

 対外折衝をリアスと共にこなしながら、全体の進捗を管理し、遅れがある部分の現場に出向いて問題点を探し、改善策を考え、提示する。

 非常に激務であり、24時間ほとんど働きっぱなしだった。

 いくら悪魔が人間と比べて非常に頑丈であっても、しんどかった。 

 

「ど、泥縄にも程があります! 何ですか! 3000人以上の子供達を短期間で保護って! 一子様は頭にプリンでも詰まっているんですか!?」

「あの力を持っていて脳みそがプリンだと、世界はもう滅亡しているわよ……というか、一子も、そんなにいないだろうから、1年に数百人くらい、数年掛けて四桁いくかどうかって見積もりだったわ……私はもっと少ないって思ってた」

「人間界を甘く見すぎです! 水も空気も何もかもがダメなのですから、そこに住む輩の心も汚いに決まっています!」

「……その理屈でいうと、一子の心がアレなのも何か納得できてしまうわ」

「か、一子様はセーフです!」

「ぐだぐだな理論ね……」

 

 リアスとレイヴェルはそんなことを言いながら、メイドが持ってきたドリンクを飲む。

 

「で、レイヴェル。あなたは一子が好きなのね?」

 

 リアスのずばりという問いかけにレイヴェルは顔を真っ赤にして、頷いた。

 

「どこが好きなのよ? あなたとの接点なんて、ライザーとの戦いくらいでしょうに」

「その、強かったので……フェニックス家の女は代々、強い者に惹かれる性質があるので、仕方がないことですわ」

「そんなの聞いたことがないのだけど……まあ、ともあれ、一目惚れとかそういうの?」

「……そういうのです。出会った当初の試合では怖かったのですけど、その、何か気になってしまって……この間のエキシビジョンで……その、惚れました」

「ドラゴンだから、仕方ないわね。惹きつけるらしいから」

 

 リアスはそう言って、うんうんと頷きながら、告げる。

 

「私、正妻なのよ」

「それは……苦労されていますね」

「ふふ、そうでもないわ。比較的多く独占できるし、向こうも私を優先してくれるし……」

「リアス様の立場は無論、考慮します」

「ええ、ありがとう。基本はローテーション制だから。でも、最初は別。いつでも関係を持っていいから」

「何だか、手慣れていますね」

「……ええ、幸か不幸か、手慣れてしまったのよ。誰彼構わず、気がついたら女が増えているから……」

 

 レイヴェルは「むぅ」と唸る。

 

「リアス様から一言、ガツンと言えば済むことでは?」

「……それがね、1人や2人だと体が持たないのよ……気絶しても離してくれなくて」

「痛みとかは……?」

「全部気持ちいいの……囁いてくれる言葉も凄くて……嬉しくて……」

 

 レイヴェルは確信した。

 私、今、惚気けられていると。

 

「ねぇ、レイヴェル。聞いて。一子ったらね、私がそれこそスラム街とかの生まれで、力も何にもなくても、きっと出会っていたって言ってくれてね、今と同じ関係になるって……」

「これは重傷ですね……」

 

 レイヴェルは藪をつついて惚気けが出たと後悔した。

 

「レイヴェル、あなたも居候しに来なさいよ。そっちの方が色々早いから」

「そ、それもそうですけど……」

「あと、駒王学園に転校してきなさい。そうすれば色々と楽しいわよ?」

 

 願ってもない話だが、レイヴェルはすぐには飛びつかなかった。

 何か、裏があるのでは、と。

 疑いの視線をリアスへと向ける。

 その視線を受けて、彼女は告げる。

 

「フェニックス家とのパイプは確保しておきたい、ということよ。家の思惑もあるのでしょう?」

「ええ、ありますわ。あれほどに強大な血を得られれば、そして恩恵を受ければ、繁栄は約束されたも同然ですもの。私は個人的にも好いていますけど」

「でしょうね。うちも家の事情としては似たようなものよ。お互いに面倒なことが起きないようにしたいのよ」

 

 要は利益の共有だった。

 

「シトリーも一枚噛んでいるわ。既に」

「ソーナ様ですか?」

「いいえ、セラフォルー様よ。側室としてね」

「一子様は我々の家としての思惑には?」

 

 問いにリアスは悩ましげな顔になる。

 

「難しいところよね。気づいていないように見えるけれど……おそらく気づいているわね」

「それを知ってなお、受け入れている、と?」

「ええ。一子にとってそういうのは重要ではないみたいだし。煩わしくなったら、分かるでしょう? 大粛清よ」

 

 リアスの言葉にレイヴェルは否定できない。

 同時に、ある考えに辿り着いた。

 

「……なるほど、ストッパーも兼ねているのですね」

「ええ。そう言われたわけではないけれど、まあ、あの力を知っては、そうならざるを得ないもの」

「先程の惚気けなども、家の事情を?」

「あ、それは私個人の本心よ。だって、一子ったら永遠にずっと一緒だって言ってくれるんだもの。一子の為なら私は何だってしてあげたいもの」

「……ちょっと羨ましいです」

「あなたも、ちゃんと自分の気持ちをもう一回確認して、それで一子にそう打ち明ければ、そうなるわよ。あの子、来る者は拒まないから」

 

 そう言って、リアスはウィンクしてみせた。

 

 

 

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