「端的に言えば、化け物だ」
「知っている」
「知っているよ」
アジュカの言葉にサーゼクスとセラフォルーは肯定した。
そうだろうな、と彼は頷いた。
「だが、無理を言って調べさせて貰ったんだ。報告をする」
「中級悪魔試験に健康診断があるとは聞いていなかった、と一子さんから言われたぞ」
サーゼクスの言葉をアジュカは聞かなかったことにして、話を続ける。
「彼女に使われた兵士の駒、8個は全て変異の駒と化している。それも彼女に使われた瞬間に」
「そうか……」
「そっかー」
反応が薄かった。
アジュカとしても、予想されたことなので特に驚きはない。
「ただ驚くべきことに、彼女は一度もプロモーションを行っていない」
「それもそうだろうな」
「うん。だって、一子ちゃんは素の状態で強いから」
ちょっとだけ驚いて欲しかったアジュカとしては内心項垂れるも、言葉を続ける。
「つまり、まだ彼女の伸び代は極めて大きいということが分かった」
サーゼクスもセラフォルーも驚きはない。
「報告はそれだけか?」
「それだけだ。どうするんだ? 修行禁止とかそういうのでも言うか? ヤツは毎日ドライグと夢の中で戦って経験を積んでいるそうじゃないか」
この分だと手も足も出なくなる、と暗に指摘するアジュカにサーゼクスとセラフォルーは肩を竦めてみせる。
「もう今更じゃないか?」
「そうそう、今更だよ。だって、一子ちゃんがその気になれば100万人のグレイフィアちゃんとサーゼクスちゃんが出てくるんだよ?」
アジュカは遠い目になる。
色んな常識をぶち壊されたのは記憶に新しい。
そんなときだった。
魔法陣が展開される。
その魔法陣はとても見慣れたものだった。
「あ、私だ。やっほー」
「やっほー、私」
2人目のセラフォルーが現れた。
彼女は最近ではもっぱら、一子の領地となる土地の視察や既にやらかしたらしいことへの対処などなど、妹と一緒に精力的に動き回っている。
ただ、さすがに姿は変えているらしい。
「で、今日は一子ちゃんからの催促を持ってきたよ。早く正式に発表しろ、だって」
「それは無理だよぉ。色々と手順を踏まないとダメだって」
「だよねー、まあ、それは一子ちゃんも分かっているから、言ってみただけみたいな感じ」
サーゼクスとアジュカは頭が痛くなってきた。
セラフォルーとセラフォルーがお互いに会話をしている。
当の本人達は全く気にしていないというのが何とも言えない。
「んでね、こっちが本題なんだけど、冥界に人間界の色々なものを輸入したいから、許可とか色々くれだって。既存の法律だと対応してないから、早く整備して欲しいって」
「分かった。対応する」
「あと、冥界の紫の空は子供達の教育に悪いから、悪魔とかに影響が出ないようにするので太陽と青空を作りたいって」
「……それは発表のときまで待って欲しい。まだ……やっていないよな?」
「まあ、もう大気は弄っちゃってるから。人間にも基本は無害な感じに」
サーゼクスは溜息を吐いた。
「他にも色々と、一子ちゃんからリストで貰ってきたから。検討しといて」
セラフォルーはセラフォルーへそのリスト――というよりか書類の束を渡した。
受け取った彼女はちらり、とリストを一瞥すると、何やら色々と書かれていた。
「あ、そうそう、一子ちゃんから。もうちょっと土地をくれ、開発してやるから……だって」
「ユーラシア大陸と同等の広さであるのに、まだ欲しがるのか……いやまあ、構わないが」
そんなに広い土地――それもその大半が全くの手付かずであり、町どころか村もなく、ほぼ無人だ。
とんでも魔法やらその他色々があるとしても、統治し切れるのだろうか、という不安がサーゼクスにはあった。
「んー、一子ちゃんのことだし。ま、なんかやるんじゃないの? 他の魔王とか悪魔よりも、もっと欲望に突っ走りそうだけど」
作られた方のセラフォルーの言葉に何となくだが、それは有り得そうな話だと一同は納得した。
「悪魔らしい、そして、ドラゴンらしいが……そもそも、最初は熾天使だった筈だよな」
サーゼクスの言葉にアジュカが口を開く。
「もっとも神聖であったからこそ、堕ちた時はもっとも邪悪になるんだろう。おそらく」
「アザゼルちゃんとか、まさしくそうだよね。マッドな意味合いで」
アジュカの言葉にオリジナルのセラフォルーが補足し、サーゼクスは納得した。
「で、サーゼクスちゃん、どうする? 一子ちゃんの嫁や妾は、きっと色んなのが集まるよ?」
オリジナルのセラフォルーの言葉にサーゼクスとしても、その意味を正確に読み取る。
つまるところ、領地は力の象徴も兼ねている。
一子が舐められないようにする為には他に類を見ない程の広大な領地を持っている必要がある。
舐められたら、そうした相手が危ないのだ。
一子のブチギレスイッチは、どうやら侮られたり舐められたりすることだと先のセラフォルーが見せた映像から予想がついていた為に。
「どうせ土地は余っている。2倍にしてやればいいだろう」
「そうだな。まあ、それでもまだまだ余っているし……」
「決まりだね。というわけで、私。ユーラシア大陸を2倍だよ」
オリジナルのセラフォルーの言葉にセラフォルーが満面の笑みで頷いた。
「あ、なんか今、物凄い誤解をされている気がする……」
信じて送り出した2人目のセラフォルーが、とか何とか一子が思っていると、イリナがぷくーっと頬を膨らませる。
「イリナのほっぺ、可愛いわね。お餅みたい」
つんつんと一子はそれを見て、つっついた。
すると餅のように萎んでいった。
「もう! 一子ちゃん、せっかくの2人だけの時間なんだから、集中してよ!」
「ごめんなさい」
全面的に一子が悪かったので謝った。
「仕方がないなぁ」
そう言いながら口を突き出してくるイリナに一子はそれに応じる。
触れ合うだけのキスであったが、イリナはそれで満足したらしく、はにかんだ笑みを浮かべる。
「イリナの明るさ、素敵だと思う」
「そ、そうかな?」
「うん。他にはいないタイプで、私は好きよ」
んふふふ、と怪しく笑うイリナ。
「婚姻届はいつでも持っているからね、一子ちゃん。他の人達の手前、私からは言い出せないけれど」
「何か協定とか結んでいるの?」
「一子ちゃんの方からはOKだけど、こっちからは順番を守りましょうって感じかな。あんまりガチガチのじゃないけど、ちゃんと決めておかないと大変だから」
「色々、迷惑を掛けるわね」
「一子ちゃんが手を出すのをやめれば全部解決するんだけど?」
「それはちょっと無理なので」
「女誑しー、すけべー」
「何とでも言うがいいわ。自分の胸より他人の胸よ」
一子はそう言って、イリナの胸に顔を埋めた。
そんな一子を「仕方がないな」と言いつつも、頭を優しく撫でるイリナ。
「リアスから聞いた? 入籍に関して」
「聞いてるよ。私達とは籍を入れるけれど、基本は妾なんだってね」
「まあ、妾の中でも特に良い感じの子がいたら籍を入れるかもだけどね」
「だろうね。部長もそう言ってた。何で一子ちゃんはそんなに性欲が強いの?」
いざそう問いかけられると、一子としても理由は分からない。
ただ、何となく予想はできる。
前世のリアルでは、それなりに派手に女遊びはしていたが、ここまでではなかった。
ということは、メリエルのフレーバーテキストが影響しているとしか思えない。
『お前の設定と、あとドラゴンだからな』
『やはりお前のせいか、赤トカゲめ』
ドライグの言葉にそう言い返す一子であったが、彼は全く意に介さない。
『9割くらいはお前の設定だろう』
『そういう気がしなくもない。欲望に素直って書いちゃったし……というか、ヴァーリは何であんなに戦闘狂なの?』
『それもドラゴンだからだ。あっちは闘争本能が大きく現れたタイプだろう』
『ということはドライグも相当、性欲を持て余していたの?』
『どうなるかは個人による。俺は違う。あとお前の設定が原因だ』
一子は微妙に疑いを向けながらも、イリナに告げる。
「ドラゴンだからじゃないの?」
「便利な言葉だよね」
「……そういうこと言わないでよ」
今度は一子がむくれる番だった。