やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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シトリーの決断

 

 

「というわけで、リアス。事業計画書その他諸々を作成してきたから、見て頂戴」

 

 放課後、オカルト研究部の部室にて一子は書類の束をリアスの机の上にどかっと置いた。

 見るのも嫌になるくらいの量であったが、リアスとしては何がというわけか、分からない。

 傍にいる朱乃は「あらあら」とその量に驚いているように見える。

 

「一子、何がというわけなのよ?」

「数日前にセラから色々とシトリーのこととか教えてもらって」

 

 それでリアスは察した。

 彼女は素早く、部室内にいる面々を確認するも、幸いなことに朱乃だけだった。

 

「シトリーのことは人間から成った子には話していないのよ。衝撃が大きいから」

「朱乃はいいの?」

「朱乃は大丈夫よ。昔に教えてあるから」

「そうなんだ、という程度にしか感想がありませんでしたけれど」

 

 人間を食い物にする人外もいれば、人間と子を成す人外もいる、世の中色々だなぁ、と一子としても朱乃を見ると思ってしまう。

 

 ともあれ、一子は告げる。

 

「話していないという程度で、誤魔化せるものなの?」

「基本的に不干渉だからね。ソーナ本人がペラペラ喋ることもないし、そもそもソーナも眷属には教えていないんじゃないの? あるいは、教えていたとしても、眷属側が受け入れているだろうし」

「匙とかいう男子が、そういう秘密を守れそうな感じではなかったんだけど」

 

 ソーナの美貌に惚れて、勢いで悪魔になっちゃったのでは、というのが一子の見立て。

 とはいえ彼女も打算的な考えで悪魔になったので、人のことは言えない。

 

「ソーナが何とかするでしょう。それはさておき、何でまた急に事業計画を?」

「冥界は荒らすと怒られそうなので、人間界で大富豪にでもなろうかと」

 

 一子の言葉を聞きながら、リアスはパラパラと計画書を捲っていく。

 

「言うまでもないけど、アレを使うこと前提なのね」

「ええ。アレは便利なので」

 

 事業計画の第一段階から既に、ウィッシュ・アポン・ア・スターを使って購入した世界各地の土地で原油を噴出させるとか金脈を形成とかそういうことが書かれていた。

 

「ま、いいでしょう。元手となる資金は?」

「リアスが追加で金塊を買い取ってくれればすぐにでも」

「400万ドル程度ならすぐに出せるから。金塊は今この時点での相場で買い取るわ」

「ついでにリアス、手間賃は支払うから、色々と手回ししてくれないかしら?」

「構わないわ。事業は多角的に展開していくのね」

 

 計画書を更に読み進め、そう言葉を投げかけるリアス。

 

「ええ。最初のきっかけは手っ取り早く天然資源というだけよ」

「最終的な目標は?」

「世界一の大富豪ってところかしらね」

「いつでもなろうと思えばなれるじゃないのよ」

 

 リアスの言葉に一子は首を傾げる。

 

「私の魔法とか?」

「いいえ、そういうのは抜きにして冥界でのこと。魔王になれるかはともかく、超越者なのだから、富も人材も集まってくるわよ」

「正式発表は何百年後かしらね?」

「わりとすぐじゃない? 近いうちに上級悪魔への昇格試験を受けさせられるだろうし」

「あんまり期待しないでおくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、生徒会室ではソーナの下へセラフォルーが訪れていた。

 姉が急にやってくることは既にソーナにとって慣れたものだ。

 

「お姉様、どうしたのですか?」

「どうしたって、ソーナちゃん、一子ちゃんに恩返しした?」

「……いえ、していませんね。しようとは思っているのですが……」

「ダメだよー、返しておかなきゃ!」

 

 セラフォルーの言葉にそれもそうだ、とソーナも納得する。

 文字通りに死の淵から救ってもらったのだから、相応のお礼はしなくてはならない。

 

 ましてや、シトリーの次期当主であるならば尚更だ。

 ソーナ自身は無論、家の沽券にも関わる。

 

「で、どうかな? ソーナちゃん、一子ちゃんに美味しい話とかない?」

「美味しい話……家業ですか?」

「うんうん。ドラッグの利権とまではいかないけど、コネクションを作るような感じで」

「ふむ……」

 

 ソーナは思考する。

 

 カルテル連中も、一子とコネを作るのは利益になるだろう。

 何分、裏側の世界は人外に限らず人間であっても力があるということは尊重される上、一子の力はあまりにも人間にとって魅力的過ぎた。

 純粋な力は勿論だが、それ以外の――例えば金塊を作り出す能力だ。

 

「ええ、構いません……どうせお姉様も来るのでしょう?」

「当たり前だよ。だって私の旦那様だし。ちゃんと紹介しとかないと」

 

 ソーナはドラッグの大本であったが、セラフォルーは裏のビジネス全般の元締めだ。

 立場としてはセラフォルーが上になる。

 

「ところでソーナちゃん。最近眷属になった子達には家業について話したの?」

「1名を除いて話してあります」

「匙ちゃんだね。彼は責任感が強いから」

「分かってくれる、とは思っていませんよ。弟のような彼に嫌悪されるのはキツイですけれど」

「あ、嫌悪されるのが前提なんだ」

 

 セラフォルーの言葉にソーナは頷く。

 

 レーティングゲームの学校を作る、身分や階級に関係なく子供達が学べる場所を、というのがソーナの夢。

 まさかそんな自分が家業として大勢の人間を不幸に追いやっているなど、匙が知れば嫌悪するだろう、と。

 とはいえ、ソーナ自身には別に人間という種族に対する思い入れとかそういうのはあまりない。

 ましてや、顔も知らないどこかの誰かがドラッグで不幸になったとしても、何とも思わなかった。

 彼女もまたリアスと同じくらいには情が深い性格であったが、当然ながらそれにも範囲というものがある。

 

 もっとも、匙以外の面々にも嫌悪される、とソーナとしては予想していたのだが、意外にもそういうことはなかった。

 基本的に転生悪魔となる前から裏側を知っていたり、あるいはシトリー家と古くから付き合いがあったりした面々は、そういうものだ、と納得した。

 

 しかし、たまたま悪魔であることを知って勢いで眷属になったにも関わらず、悪魔って人間を堕落させるって漫画にあったというノリで納得した予想外なのもいたが。

 

「匙ちゃんはねぇ、いい子なんだけど、ソーナちゃんの旦那には不釣りあいかな」

「いえ、何でそうなるんですか?」

「え? 匙ちゃん、ソーナちゃんにゾッコンだよ? 眷属と主とかじゃなくて、男女のそれで」

「……それは困ります」

 

 ソーナは困惑した。

 彼女としては匙に恋愛的な意味での感情は、ほとんどない。

 むしろ家族愛的なもののほうが大きい。

 

「ソーナちゃん、鈍ちんだなぁ」

「まあ、眷属が主とそういう関係になった例は身近にありますが……匙にそういう素振りはありませんでしたし、鈍いとは言えないのでは?」

 

 リアスと一子などはまさに主と眷属を超えた関係の典型であるが、アレはかなり特殊な例だろう。

 

 ソーナはこれまでの匙の行動や言動を思い出しても、それらしいものは見当たらなかった。

 

「まあ、匙ちゃんは初心だから、私やソーナちゃんが思っているような感じで口説いてはこないだろうねぇ」

「匙も好意があるなら、情熱的に口説いてくれればいいものを……」

「それこそ、こう、ぐっと抱き寄せて、耳元で愛してるって囁かれたら、ソーナちゃんもやぶさかではない感じだよね」

「ええ、全くそうです。とはいえ、良くない兆候ですね。匙に好意を向けている子達は既にいるので」

「叶わぬ恋を追い求めて、傍にある好意に気づかないのは愚の骨頂だよね。お姉ちゃんも協力するよ」

「お願いします。家業を明かしつつ、匙の心のケアを行い、更には好意を向けている子に目を向けさせる……それなりに難しい課題ですね」

「そうかな? シンプルだと思うよ? 家業を知って傷心している匙ちゃん、そこへその子達を投入すればOKだよ」

「そんなものですか?」

「そんなものだよ。一子ちゃんみたいなぶっ飛んだ精神をしていれば別だけど」

 

 セラフォルーの言葉に匙の立場に一子を投入して、ソーナは考える。

 そもそも一子なら最初からソーナを情熱的に口説いてくるパターンしかないが、ともあれ無理矢理に。

 

 結果、そのままキスして押し倒されて、危険な女は好きとか囁かれる未来が見えた。

 

 ソーナは深く溜息を吐いた。

 

「ソーナちゃん、想像できた?」

「ええ。もし私が一子さんを眷属にしていたら……莫大な力や利益と引き換えに、胃痛と戦う日々でしょうね」

「素敵な魔法で胃痛がしないようにしてくれるよ」

「勘弁してください」

 

 ソーナの言葉にセラフォルーはけらけらと笑う。

 

「で、ソーナちゃん。こっからが本題だけど、一子ちゃん、シェアしない?」

「最初からそれが狙いですか?」

 

 セラフォルーの言葉にソーナはすかさず問いかけた。

 何となく、話は見えていた。

 婚約者もいたが、過去にチェスで叩きのめして婚約を解消している。

 

 セラフォルーの相手が決まったことから、親からもちょくちょくとソーナは言われていた。

 早く相手を見つけろ、と。

 

「ソーナちゃんの婿は私の花婿修行を乗り越えた、サーゼクスちゃん以上の実力者……何だけど、これに当てはまるのって一子ちゃんしかいないので」

「花婿修行なんてやったんですか?」

「ううん。でもまぁ、一子ちゃんならいいかなって。私が全力で戦っても、戦いにすらならなかったから」

「それは初耳なんですが……」

「あ、一応機密だからね」

「さらりと情報漏洩はやめてください」

 

 流れるような会話は流石に姉妹であった。

 とはいえ、ソーナとしてもお相手が不在というのは、よろしくない。

 

 姉のように、お見合いの連敗記録を三桁にまで届かせるわけにはいかないのだ。

 

「ま、ソーナちゃん次第だよ。まだ見ぬ男を追い求めるか、それとも手頃な超優良物件で妥協するか、そのどっちか。結婚相手としてはね」

 

 セラフォルーの念押しのような結婚相手としては、という言葉の意味をソーナは正確に読み取りつつも、問いかける。

 

「手頃な超優良物件って何ですか?」

「だって、一子ちゃん、オリジナルのソーナちゃんが自分のものになるっていったら、そりゃもうデレデレになるよ? ぶっちゃけ、二度とない程に超優良物件だよ? カネも力もあるし」

 

 ソーナは確かにと頷いた。

 

 密かに彼女は2人目の自分と連絡を取っているが、大変扱き使われているらしかった。

 最近では匙以外の眷属――椿姫達も作られたらしく、全員でヒイヒイ言っているとか何とか。

 

 ともあれ、一子と籍を入れれば、これ以上ないほどに両親は納得するし、多くの連中にも睨みを効かせられる。

 特に、学校の建設を笑った老害共に対して。

 いくら連中とて、手を出したらマズイことは理解できているだろう。

 

 何よりも、姉妹揃って一子と籍を入れたならば対外的にシトリーは一子を強力に後押しするというこれ以上ない程に明確なサインを示すことになる。

 そして、当然、一子もそのように対応し、利益を与えてくれるだろう。

 

 少なくとも、後から一子へ肩入れする連中よりも優先してくれるのは間違いない。

 

 グレモリーは別格だとしても、今ならば2番手につける位置だ。

 先の冥界全土へのその実力を示したことから、現時点では下級悪魔だからと手を出さずにいる他の貴族達も一子が上級悪魔へと昇格したら、すぐさま手を出してくるに間違いない。

 自分のところの娘を喜んで差し出し、その恩恵を得ようとするだろう。

 一子がやってくる女の子達を拒めるか、というとまだラクダが針の穴を通る方が可能性がある。

 ハニートラップだろうが何だろうが、罠ごと美味しく頂いてしまうのが一子なのだ。

 

「一子ちゃんが言うには、自分が同じ立場なら、全財産を賭けるって」

 

 まるでソーナが答えに辿り着いたのを待っていたかのように、セラフォルーが告げた。

 

「勝てる賭け、というわけですね?」

 

 問いに、セラフォルーはにっこりと笑みを浮かべて、頷いた。

 そして、言葉を紡ぐ。

 

「ねぇねぇ、ソーナちゃん。私としては悪魔の勢力をなるべく早く回復させたいの。断絶した家とかも復興させたいし」

「戦争でもするつもりですか?」

「ううん。こっちからはしないよ? でもね、戦いに備える期間だから、平和って」

 

 何かある、とソーナは訝しげな視線を送る。

 するとセラフォルーは歪んだ笑みをみせた。

 

「ちょっと下の方で悪巧みをしているのがいてさ。全く、バカみたいだよね。こっちは皆で仲良くしようとしているのに、何で空気読まないかなぁ」

 

 変貌したようなセラフォルーであったが、ソーナは驚くことはない。

 こういうことは以前からちょくちょくあった為に。

 

「来るべき戦いというわけですか?」

「そういうこと。だから、一子ちゃんは絶対に悪魔陣営の味方であり続けてもらわないと。彼女がいれば勝てる。だけど、私達が目指すのはパーフェクトゲームだよ。戦って勝ちました、だけど、こっちも被害甚大で他勢力に頭が上がりません、なんてダメ」

「戦後処理はイヤですね……」

「うん、ぶっちゃけ戦っているときのほうが気楽でいいよ。終わらせ方と終わった後が大事」

 

 ソーナは同意しつつ、セラフォルーに尋ねる。

 

「それが魔王としての考えですか?」

「そうだよ」

「女としては?」

「一子ってめちゃくちゃ強くて、私のことを受け入れてくれたから、ずっと尽くしたい」

「ですよね」

「そういうことだよ。で、話は変わるっていうか、ちょっと戻るよ。匙ちゃんのこと」

「随分戻りましたね」

「うん。でね、2人目とはいえ、ソーナちゃんはソーナちゃんだよね。匙ちゃんは作らないでくれって頼んだんだよ」

「あ、そうだったのですか……理由は何となく、分かりますね」

 

 匙は1人でいい、でなければ余計な苦労まで背負い込んでしまうから、というのが2人目のソーナが作らないでくれ、と頼んだ理由であり、それはまたオリジナルのソーナも察した。

 

 きっと家族のことで色々と悩んでしまうだろうから。

 

 もうちょっと軽い性格であったなら、俺とお前で2馬力で働ければ妹と弟にもっと良い暮らしをさせてやれる、と開き直っただろうに。

 

「で、どうする? ソーナちゃん」

「少し、考えます。なるべく早く結論を出しますね」

 

 ソーナの言葉にセラフォルーは満面の笑みを浮かべた。

 姉妹だからこそ、彼女の言葉は実質的な肯定であると分かったのだ。

 

 気持ちの整理と純粋なメリット、デメリット。

 それらの為に、ソーナが出した言葉だった。

 

 

 そして、彼女は宣言通りに夜のうちに結論を出し、セラフォルーへと連絡した。

 

 

 

 

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