やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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彼女は悪魔である

「会長、何の御用ですか?」

 

 匙はソーナの呼び出しに不思議に思いつつ、用件を尋ねた。

 いつも通りのことだ。

 ソーナの傍には椿姫が立っているのもまた、いつもと同じ。

 

「ええ。匙、ウチの家業については知っていますか?」

「家業、ですか?」

 

 家業と言われても、匙は思い当たらない。

 

「病院とかですか?」

「いいえ」

 

 ソーナの答えに匙は首を傾げ、降参する。

 

「すいません、分かりません」

 

 匙の答えにソーナは軽く頷いて、静かに告げる。

 

「単刀直入に言いますが、人間であった、あなたにはかなり衝撃的なことです」

 

 ソーナの言葉に匙は知らず知らずのうちに身構えた。

 あの会長がそこまで言う、ということは相当だと。

 

「シトリーは性愛を生業とする家系です。私が生まれる前の話ですが、召喚された場合は召喚者が望む男や女の精神や感情を操作し、色々とやりました」

「はぁ……」

 

 匙はピンとこない。

 ソーナも含めて今はそんなことはやっていないのだ。

 

「悪魔も人間社会と共に変化しています。今、シトリーはコレをやっています」

 

 そう告げて、ソーナは引き出しから透明な袋に入った白い粉を取り出し、机の上に置いた。

 匙はそれを見て、何度か瞬きした。

 鳩が豆鉄砲を食らったような、そんな顔だった。

 

「えーと、これは……何ですか?」

「ヘロインです。これだけでそれなりの価格になりますね」

 

 匙は袋を見て、そして椿姫を見て、最後にソーナを見た。

 信じられない、嘘だと言って欲しいというような表情へと変化していた。

 

「人間にとっては極めて有害ですが、悪魔にとっては単なる気分を高める為の薬でしかありません。冥界では田舎の薬局でも安価で高純度のものが買えますし、生ける屍となった転生悪魔などが気つけに使ったり、鬱気味な患者に対して使用されます」

「ちょ、ちょっと待ってください。つまり、どういう事なんですか?」

 

 匙の言葉にソーナは率直に告げる。

 

「人間界における裏のドラッグビジネス、その大本が私で、裏のビジネス全般の元締めは姉のセラフォルーです。私はドラッグだけですが、姉は全てを担当しています」

 

 匙は思わず唾を飲み込んだ。

 緊張と驚きのあまりに、彼の喉はカラカラに乾いていた。

 

「匙、私は生まれた時から悪魔です。神々の敵対者であり、同時に人類を唆す元凶です。人類に対する愛とかそういうのは持ち合わせていません。無益な殺生はしませんが、必要ならやりますよ」

 

 ソーナの言葉に、匙は深呼吸を数回、行った。

 理解が追いつかなかった。

 

 そんな彼の反応であったが、ソーナは何も言わず、ただ彼をじっと見つめる。

 

「……他の皆は……知っているんですか?」

「1人ずつ、伝えていきました。元々裏を知っていたり、ウチと付き合いがあったりしたので……あなたのような生真面目で、人間らしい転生悪魔にとっては辛い事実でしょう」

 

 ですが、とソーナは続ける。

 

「事実は事実です。更に言えば、私は少なくとも、あなたが考えている程に初心ではありませんよ。ドラッグセックスなど、商品の打ち合わせに行けばよく見かけるものですので」

 

 匙は再度、唾を飲み込んだ。

 あのソーナの口から、そんな言葉が出てくるなんて、という彼は妙な興奮に包まれた。

 明かされた真実はとんでもないものであったが、それでも反応してしまう、悲しい男の性だった。

 

 それを察せないソーナではない。

 故に彼女はちょっとだけ遊び心を出してしまう。

 

「匙、私が大切にする範囲は家族や領民などを勿論、眷属であるあなた達です。故に、主としてあなたに最高の利益を与えるのは当然と考えています」

「つまり……?」

「あなた、私とセックスをしたいですか?」

 

 匙はよろめいた。

 凄まじい攻撃だった。

 さすがはシトリー、やべぇぜと思いつつも、どうにか態勢を立て直す。

 そして、今しかないと彼は確信する。

 

 彼の予想はこうだ。

 ドラッグビジネスの大本ということに衝撃を受けている自分、しかしここで敢えて受け入れる覚悟を示すことで、会長は自分に対して評価を良い方向へ改めてくれる、と。

 

 匙としては確かに衝撃を受けたが、彼からすれば顔も知らないどこかの誰かが不幸になろうとも他人事であった。

 

「か、会長、お、俺……会長のことが大好きです! できちゃった結婚をしたいです!」

 

 一世一代の大勝負とばかりに匙は宣言し、頭を下げた。

 

 くすり、とソーナは笑う。

 

「匙、申し訳ありませんが、あなたのことは弟のようにしか思えませんので」

 

 答えに匙は先程に家業を明かされたときよりも、遥かに大きい衝撃を受け、同時に落胆した。

 

「何よりも、姉の試練を乗り越えられますか?」

 

 ハッとして、匙は顔を上げた。

 そうなのだ、あのソーナのことが大好きな姉、セラフォルーに認められなければならない。

 

「ただ、それはあくまで夫となる場合です。知っていますか? 悪魔はアクセサリー感覚で男や女を囲ったりもします」

 

 ソーナはそう言って立ち上がり、匙の傍まで歩み寄り、彼の頬を優しく撫でる。

 

「あなたは、よく頑張っていますね。私と結婚は無理ですが、私に囲われることはできます」

 

 匙は心臓の鼓動がこれまでにない程、速くなっているのを感じた。

 

「あなたが私のことを好きだとか愛していると言うのは構いません。しかし、私はあなたのその思いに応えることはありません。けれど、弟に対するものとして愛していますということはありますよ」

「つ、つまり……?」

「私は諸々なことを考えた結果、一子さんと籍を入れることにします。ですので、あなたの立ち位置は眷属であり、同時に私の男妾ということになりますね」

 

 とはいえ、とソーナは続ける。

 

「一子さんは独占欲が強いですからね。ドラゴンですから、余計に」

 

 匙は首を傾げる。

 彼女が何を言いたいのか、よく分からないのだ。

 

「簡単なことですよ、匙。とはいえ、その前にあなたは自分に対する好意に気づかねばなりません」

「え?」

「さぁ、新たな一歩を踏み出しましょう。というわけで部屋から出てください。あなたのことを男として見てくれている子達がいますので」

 

 ソーナはそう告げて、匙を部屋から退室させた。

 あとは2人がうまくやるだろう。

 事前に、いくところまでいってしまえ、と2人には発破をかけてある。

 

「大丈夫でしょうか? 匙は会長一筋のような感じもしますが」

「大丈夫ですよ。どんな男もセックスの誘惑には余程でなければ勝てませんから。彼のように若ければ尚更です」

「……それで会長。匙には何をするつもりですか?」

 

 椿姫の問いかけにソーナは笑う。

 

「簡単ですよ。一子さんにお願いして3人目の私を作ってもらうだけです。匙専用として。そうすれば彼も満足でしょう」

「会長も結構、考えがぶっ飛んでいますよね」

「一子さんが非常識なことができるので、こういったちゃぶ台返しの手を使えるだけです」

 

 椿姫は溜息を吐いた。

 それだけではないことに。

 

「会長、性癖をしっかりと匙に伝えては?」

「失礼ですね、椿姫。私もお姉様も、ただ性愛に素直なだけですよ」

 

 再度、椿姫は溜息を吐く。

 性愛――性的な欲求を伴う愛であるが、それにも色々な形や種類がある。

 

 率直に言って、ソーナの性癖はかなりディープなものであった。

 

 かつて、姉のセラフォルーは自分からエグいプレイを一子に望んだ。

 姉がそうであるのに、妹がそうではないという保証はどこにもなかった。

 ましてや、シトリー家の次期当主として幼い頃からしっかりと教育を施されているならば尚更だ。

 

 できちゃった結婚程度を目標としてしまう匙では残念ながら、ソーナは満足できなかった。

 

「お姉様によれば一子さんは性癖のブラックホール、楽しみですね。色々と振り回された分、そして恩返しも兼ねていますので、何も問題はないですし」

 

 目を輝かせているソーナに椿姫は三度目の溜息を吐くのだった。

 

「早速、行きましょうか。椿姫、あなたもシェアしますか? 手頃な超優良物件ですよ」

「……考えておきます」

 

 椿姫の好みからは外れているが、それを補って余りあるくらいには超優良物件だった。

 

 

 

 

 

「というわけで、一子さん。あなたは私に何を提供できますか?」

「というわけも何も、いきなり人の部屋にやってきて、何なのよ」

 

 一子が珍しく1人、部屋で漫画を読んでいると急に魔法陣が現れたと思ったら、ソーナが現れた。

 それも一子が作ったほうではなく、オリジナルの方だ。

 

「色々とこちらにも事情がありまして」

「こっちのことはお構いなしなのね」

「召喚者とかそういうのなら尊重しますが、そうではないので。それで?」

「いやいや、流石に話が見えないから説明して頂戴」

「鈍いですね」

 

 やれやれと溜息を吐いてみせるソーナに一子はジト目となる。

 

「鈍いも何も、あなたこんな性格だったっけ? もっと厳格な感じな気がしたのだけど」

「仕事とプライベートは分けています。それでですが簡単に言いますと、私と籍を入れませんか?」

 

 一子は耳を疑った。

 同時にセラフォルーへと伝言(メッセージ)を繋げる。

 

『ちょっとセラ。おたくの妹がトチ狂ったことを言い始めたんだけど』

『大丈夫だよ、一子ちゃん。ソーナちゃんは正常だから』

 

 その口ぶりから、どうやらこれはセラフォルーも承知の上だと一子は悟る。

 

『一子ちゃんなら私は認めるから。姉妹丼だね』

『分かった、分かったわよ。そういうことなのね』

『そういうことだよ。ソーナちゃんも結構性癖を拗らせているから、よろしくね』

 

 一子は軽く溜息を吐きつつも、ソーナへと視線を向ける。

 

「籍、入れましょうか。で、何を提供できるっていうと……」

 

 一子はソーナへと手を伸ばし、その頬を撫でる。

 

「いっぱい楽しませてあげる。どんなことも私はOKよ」

 

 予想された答えにソーナは笑みを浮かべる。

 

「ついでに、あなたの夢だっけ? ほら、学校がどうたら。アレ、支援をしてあげる」

「ふふ、ありがとうございます。おかげで、私はあなたのことを好きになれそうです」

「打算的な考えね」

「そういう女は嫌いですか?」

 

 ソーナの問いかけに一子は彼女に微笑み、告げる。

 

「いいえ、あなただから大好きよ」

「ありがとうございます。ところで一子さんはリアスのワガママにも笑って答えるくらいの度量があると信じているのですが……」

 

 その言葉に一子ははて、と首を傾げる。

 

「ワガママなんて言われたことがないんだけど」

「……なるほど、ワガママとも認識できなかったと。衝動買いとかそういうのはありませんでしたか?」

「デートをしていると、よくあったわね」

「支払いは?」

「女に支払わせるなんて、ありえないわね。全部私が支払うに決まっているじゃないの」

 

 ソーナは更に突っ込んで尋ねてみた。

 

「ちなみにですが、一子さんの収入は?」

「金塊やその他諸々を毎月、オリジナルのグレイフィアに売却しているわ。手数料を引いたとしても、それなりにあるわよ」

 

 グレモリー家経由で、冥界に流通しているようだ、とソーナは考えつつも、彼女としては一子の基準でのそれなりというのは信用ができない。

 

 故に彼女は世間一般の基準で言うところの、とんでもない額だろうと予想する。

 

「リアスは短気でワガママで金遣いが荒くて喧嘩っ早いという性格なんですが」

「幼馴染の親友だからこそ、言えるってやつかしら?」

「ええ、まぁ……」

「そういうところも含めて、良いと思うわ」

 

 にこやかに微笑む一子にソーナは確信する。

 リアスがベタ惚れするわけだ、と。

 

 ソーナはプライベートなやり取りで、リアスから一子との馴れ初めは耳にタコができるほどに聞かされている。

 やれ自分を見てくれただの、駆け落ちはいつでもできると言ってくれただの、砂糖を吐けたなら商売をできる程の量になっただろう。

 

 それに加えて、自分の欠点すらも受け入れてくれる。

 これで落ちないわけがない。

 

「一子さん、あなたは他人の欠点を欠点と思わないタイプですね?」

「ええ、そうかもしれないわね。ただ言えることは完全無欠で完璧な存在なんて、つまらないわ」

「一子さんは完全無欠で完璧な存在では?」

「私の性格が完璧だなんて、世の中間違っているんじゃないの?」

「自覚はあったんですね」

「そりゃまぁね……ただ改めるつもりはない」

 

 なるほど、とソーナは頷く。

 

「私は欠点とは思いませんが、他者から見ると欠点にあたるものがあります。例えば、自分そっくりの女と眷属がヤッているのを眺めたい、という思いとか。どうやらシトリーの性愛は一般には受け入れられないものが多いらしくて」

「はいはい、3人目ね。相手は匙でいいかしら?」

「ええ、そうです。彼を男として愛しているという風にして頂ければ」

「なるほどね。ついでにソーナ自身、性癖の新規開拓は?」

「勿論、大歓迎です」

 

 一子は満足げに何度も頷いて、ソーナを抱き寄せた。

 やることは当然、決まっていた。

 

 

 

 

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