やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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深刻な人手不足

 

 

「この子は私とソーたんの旦那様、よろしくね」

 

 セラフォルーによる挨拶に一子とソーナは深く溜息を吐いた。

 きゃぴきゃぴの魔法少女のノリをこういうところでも貫き通すのはある意味尊敬できるかもしれなかった。

 

 3人の前に座る壮年の男は深く溜息を吐いた。

 

「……悪魔ってのは自由なもんだな」

「もー! 当たり前だよ! そんなに褒めないで!」

 

 いやいや褒めてない、と一子とソーナは心の中でツッコミを入れた。

 これ、苦労しているんだろうな、と一子は男――麻薬カルテルのボスに同情した。

 

「それで、そちらの旦那様は……まあ、おそらく悪魔だろうが、我々に利益をもたらしてくれるのか?」

「また随分と直球ね」

「欲深い人間だからな」

 

 そう言って笑う男に一子もまた微笑んで見せる。

 

「1分でこの世からアンクルサムを消し飛ばせるって言ったら、どうする?」

「歩く核兵器ってわけか……」

 

 使えねぇな、と言いたげな男。

 核兵器なら売ることができるが、意思のある人型核兵器は売るにも売れない。

 もし自分がそんな力を手にしたなら、面白おかしく過ごすだろうと彼は考えたからだ。

 自分に逆らうやつは皆殺しにできるだろうから、売買される商品になるなんぞ真っ平御免だ。

 

 そんな彼に一子は普段は見せたことがない、歪んだ笑みをみせる。

 

「それだけとは言っていない。早とちりをする輩は早死にするわよ?」

 

 一子はそう言って、金塊を作り出した。

 男は目を見開く。

 その反応に気を良くして、彼女は広い部屋の空いているスペースにどんどん金塊を作り出しては置いていく。

 

 10分も経たないうちに、部屋は黄金の輝きに包まれた。

 

「とまぁ、こういうわけよ。金以外にも銀や銅、その他諸々を作り出せるわよ。お近づきの印に金塊は置いていくから、本物かどうか、好きなだけ調べなさい」

「いや、これは驚いた。我々にとっては、こっちのほうが好みだ」

 

 くつくつと男は笑う。

 

「何でも言ってくれ。力になろう」

「それは頼もしいわ。近いうちに商売を始めようと思っているから、その時にお願いするかも。報酬は金のピラミッドでどうかしら?」

 

 一子の言葉に男は盛大に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「結構回ったわね……」

 

 そう言いながら、一子はブリトーを貪り食う。

 

「うんうん、基本的に皆、好意的だから良かったよ」

「ええ、とても簡単に済んでいますから」

 

 一子が空腹を訴えた為に休憩となり、メキシカンレストランに一同は入った。

 とはいえ、そもそも彼女は維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)をつけているので生命維持としての飲食自体が不要である。

 要するに一子は空腹などではなく、単純に本場のメキシコ料理を食べたいというだけの話だった。

 

「大きいところから小さいところまで、アメリカから南米、そしてメキシコ」

「うんうん。これで一子ちゃんのことは裏側には伝わったから、被害が増える心配はないね」

 

 セラフォルーの言う、被害とはマフィアやギャングの被害だ。

 一子にちょっかいを掛けた瞬間、兆倍の反撃がなされるだろうことは想像に難くない。

 

 兆倍の反撃とはすなわち、全世界からそういう連中を消し飛ばしてやろうとそういうことだ。

 それこそ便所の中に隠れようが、肥溜めの中に沈んでいようが、アマゾンの奥地だろうが、地球上のどこにいても一子は絶対に探し出して身の毛もよだつようなことを仕出かすだろう。

 

 そうなってはセラフォルーが取り仕切る悪魔のビジネスに多大な損害を被ることになる。

 

「ところで何でアメリカ、メキシコ、南米というルートではなかったの?」

「過激なところは最後に回したほうがいいかなって」

「なるほどね」

 

 一子が納得したところで、セラフォルーが話題を変える。

 

「ねぇねぇ、一子ちゃん。ソーナちゃんの具合はどうだった?」

「最高に良かったわ。でも、あんな変態だなんて」

「失礼ですね。私は性愛に素直なだけです」

 

 顔色一つ変えることなく、ソーナはそのように反論する。

 

「うんうん、私も負けていられないね。で、ソーナちゃん。匙ちゃん達はどう?」

「仲良くやっていますよ。最初だけ戸惑いはあったようですが、今ではよく私を抱いています」

「良かったねぇ。で、それを見て、ソーナちゃんは悦に浸ると。趣味悪いー」

「弟分が変な女に引っかからないようにしているだけです。けれど、弟みたいな彼があんなに私を女として求めていたなんて、少し興奮してしまいます」

 

 少しどころではなさそうな表情であったが、ここにそれを気にする輩は存在しない。

 

「まあ、そんな匙に嫉妬して、仁村と花戎も……」

「それって仲良くしているの?」

 

 一子の言葉にソーナは勿論と頷く。

 

「殺し殺されにまでは発展しませんし、匙も覚悟を決めて、全員と籍を入れるでしょう。可愛い取り合いですよ」

「なるほどね……で、この後はどうするの?」

「今日はここまで! だから、どう?」

「姉も交えて、というのは流石にちょっと……」

「ソーナちゃんの可愛いところ、見てみたいな」

「私はあんまり見せたくないです」

 

 妙なところで恥ずかしさを覚えているらしいソーナに一子は自分にも弟や妹がいたら、セラフォルーみたいになるんだろうか、と何となく考えた。

 10年くらい前、実は母が不妊であったことを一子は両親との雑談していたときに聞いている。

 

 一子は今でも鮮明に覚えており、夕食時にテレビのニュースでちょうど不妊治療の話題を扱ったときだった。

 何度か流産もしているが、一子が生まれてくれたと言って、綻んだ笑顔を見せてくれた2人の顔は忘れもしない。

 一子はお返しに、とその後すぐに、ウィッシュ・アポン・ア・スターを使った。

 そして、それっぽく、星に願いを託したから、2人目が産まれるかもね、と言ってみたりもしたが、弟や妹の話は全く聞かない。

 

 両親ともに一子がいるから十分と思っているのかもしれない。

 

 そんなことを思いつつ、セラフォルーとソーナの会話がちょうど途切れた。

 

「とりあえず、帰りましょうか」

 

 一子の言葉にソーナもセラフォルーも異論はなかった。

 

 

 

 

 

 帰宅してすぐにソーナとセラフォルーと一戦どころか数戦はベッドの上で交えた後、解散となった。

 夜ではあったが、まだまだ早い時間であった為、黒歌と一子は遊ぶことにしたのだが――

 

 

「黒歌と遊ぶのも久しぶりねぇ」

 

 猫形態となった黒歌を抱き上げて、頬ずりをする一子。

 

「何でわざわざこっちにゃ?」

「こっちはこっちで癒やしの要素があるので。色気と癒やしを併せ持つなんて、凄いわ」

 

 そう褒められると黒歌としても悪い気はしない。

 

「ところで一子。知っていると思うけどにゃ」

「何々?」

「僧侶の駒を2つ消費して眷属になった後にぶっ殺したにゃ。つまりこれ以上は駒を使えないということにゃ」

「あらやだ、駒を節約できたわね」

「そういうこと。それで他のはどうするの? 眷属候補って言っても穴ばっかりあるじゃない」

 

 黒歌の問いに、一子は指折り数えてみる。

 カテレア、ロスヴァイセ、アーシア、ゼノヴィア、イリナ――

 

 黒歌を加えてもたった6人だった。

 駒は全部で15個。

 9個も空きがあり、黒歌を除外すれば10個も空いてしまう。

 これは拙い、と一子は直感する。

 

 

「私、スカウトの旅に出る」

「朝までには帰ってくるようににゃ」

「え? 来てくれないの?」

「面倒なことは嫌いにゃ。あと私が一緒だと怖がって近寄ってこないんじゃない?」

 

 サーゼクス達の尽力で黒歌は手配を解かれ、一子による保護観察ということになっている。

 そのことに対してサーゼクスらに文句を言ってくる連中はいたが、それ以外はない。

 一子としては手を出してきてくれた方が色々とサーゼクス達に恩を売れるのだが、手を出してきてくれないなら仕方がない。

 彼女は穏健派を心の中で自称しているので、自ら探し出して始末するような面倒なことはしないのだ。

 

「黒歌より私のほうが怖いと思うけど」

「……そこはほら、頑張るにゃ」

 

 ダメだこれは、と一子は匙を投げたくなった。

 

 

 困りに困った一子は仕方がないので、リアスに相談することにした。

 彼女の部屋を尋ねてみれば、メガネを掛けて何やら冥界の通販カタログを見ている最中であったが、一子は遠慮せずに問いかけた。

 

「眷属の集め方? 私はほら、なんかこう、巡り合わせがいいみたいだから……」

「これだから運の良い奴は……」

 

 一子は激怒――はしなかったが、拗ねた。

 きっとリアスはゲームのガチャをやらせれば大したカネを使うことなく、欲しいものを手に入れるタイプだと思った為に。

 

「もう、そんなに拗ねないで」

 

 リアスは一子の顔を胸に埋めさせ、その頭を優しく撫でる。

 大抵はこれで機嫌が直るので、一子も結構チョロいといえるかもしれない。

 

「よし、決めた。もう私の考えた理想の眷属ってことで作り出す。魔王級をポンポン作ってやるから覚悟しろよ、冥界」

「それはやめなさい」

 

 ただでさえやらかしているので今更では、と思うも、それでもリアスは止めなければならなかった。

 わりと本当にリアスに冥界というか、世界の命運が掛かっている。

 彼女が一子の暴走を止められなかったら、世界は一子の好き放題にされてしまう。

 今以上に。

 

 

「で、それ以外に何かやらかしたりとかしたの? 最近は大人しかったわよね?」

 

 自分の領地へ人材を作っては送り込むくらいしか、リアスは目撃していない。

 今日も含め、ここ数日はソーナとセラフォルーと一緒に裏側の人間達に挨拶回りに行ったのは、やらかしではないだろう。

 

 問いかけに一子はおずおずと答えた。

 

「実は領内警備という名目で、グレイフィアをベースにして、こう色々とね? メイド隊を作ったりとか……」

 

 ギリギリセーフだろう。

 おそらく不法侵入した瞬間に魔王級の力を持つメイド達に取り囲まれるという洒落にならない事態だろうが、彼女らを使って苛烈な統治をするよりもまだマシかもしれない、とそこでリアスは気がついた。

 そもそも統治をするにも一子の領地にあるのは手付かずの大自然なのだ。

 人跡未踏なその地で、何を統治するというのか。

 

 これはいけない、もうやらかしているかもしれない、と。

 

「ねぇ、一子……領民を作ったりとかはしていないわよね?」

「え、実はもう色々と……」

「何を作ったの? 怒らないから」

「エルフとダークエルフと擬人化しているオークとかオーガとかアマゾネスとか……色々と作っているわ。領民としてではなく、官僚としてだけど」

 

 リアスは溜息を吐いた。

 何だその欲望丸出しの種族達は、と。

 リアスは実際に見たことがないが、一子が作ろうとしている種族達は実在していると聞いたことがある。

 擬人化したオークやオーガというのはちょっとよく分からないが、一子の所有するエロ本に出てくるような存在なのだろう、と予想する。

 

「……もうやってしまったのね」

「うん」

「まあ、やっちゃったなら仕方ないわ。ちょっと待っていなさいね」

 

 リアスは確信する。

 ちゃんとマトモな統治の仕方を教えるべきだと。

 

 サーゼクスへと連絡を入れる。

 リアスからということで、彼はすぐに出た。

 

『やぁ、リアス。どうしたんだい?』

「お兄様、一子が冥界にいない種族を作っています。現状は官僚として作っているようですが……」

 

 リアスの言葉に彼はすぐに察した。

 何を言いたいのかを。

 

『よし、分かった。統治が行き届いていないところを適当にくっつける。冥界にいないとはいえ……一子さんの領地内なら何とかなる。もうそこは彼女に任せよう』

「お願いします。このままだとマトモな統治者になれませんから……」

『うむ。一子さんは将来的には冥界を引っ張る立場になる可能性も高い。そのときに色々と拙いからな……』

 

 リアスとしても、サーゼクスの言いたいことが分かった。

 将来は魔王にするつもりだ、と。

 

「……筒抜けなんだけど」

 

 一子は当然、2人の会話が聞こえている。

 ジト目でリアスを見ているが、彼女は気にしない。

 勿論、冥界にいるサーゼクスも。

 故に一子は自分から話に割って入ることにした。

 

「で、サーゼクス。今度はどこを押し付けようっていうの?」

『君の領地に隣接しているところで、領主不在の空白地帯がある。政府直轄ということになっているが、十分に管理されているとは言い難い』

「はいはい。で、広さは?」

『グレモリー領と同じくらいだ。もっとも、グレモリー領程に住民はいない。3分の2程度だ』

 

 一子は無言で、リアスへと視線を向ける。

 どのくらいだっけ、という問いかけだ。

 すると彼女はすぐに答えてくれる。

 

「日本の本州くらいの大きさね」

「はいはい、もう好きにして。ただし、眷属に関しては探しても見つからなかったら、私が作り出すようにさせてもらうから」

『……自重してくれると嬉しいんだが』

「ダメ。そんなことを言うなら、魔王の権限でも何でも使って、探して頂戴よ」

『それもそれで問題があるので……おっと、緊急の用事が。失礼する』

 

 通話が切れた。

 

「最後、すごく棒読みだったわよね? 絶対、アレ、面倒だから切ったわよね?」

 

 一子の問いかけにリアスは視線を逸らす。

 

「と、ともかく、一子。まずは色々と探してみなさいよ。新しい領地に関しては私からあなたが作ったほうのレヴィアタン様に連絡を入れておくから」

 

 下手に一子を絡めるとどんな指示が下るか、分からない。

 それこそセラフォルーの指揮の下、グレイフィア達を投入して、新たな領地に住む領民達に隈なく言うことを聞かせるようにという指示を出すかもしれなかった。

 

 それは流石に領民達が可哀想過ぎるので、セラフォルーに直接連絡を入れた方がうまくやってくれるだろう。

 

「魔法少女のノリを捨てることはできるかしら……」

「……ソーナにしておくわ」

 

 姿を変えているらしいが、あのノリは冥界広しといえど一発でバレる。

 それはそれで問題だ。

 

「ソーナよりもカテレアでいいんじゃない?」

「……そうね」

「生きていればの話だけど」

「何をしたの?」

「ちょっと私の考えた領地開発計画を渡しただけよ。魂が飛んできそうになってたから、捕まえて戻してあげた」

「無理難題を押し付けたの?」

「いいえ。ただちょっと、色々と派手というだけで」

 

 一子がカテレアに渡した領地開発計画は非常に壮大だ。

 領民がいない為、反乱を起こす者や不満を持つ者がそもそも存在しないという前提に立った開発計画は大胆かつ強引なものであった。

 

 環境によく配慮した持続可能な農林水産業の育成であったりとか、前世で得たものをこれでもかとぶち込んでいる。

 

 基本的に冥界の悪魔に対して商売をするだけでも売れれば莫大な利益が出る。

 それを各神話勢力に広げれば尚更で、堕天使や天使、果ては人間との交易すらも一子は視野に入れていた。

 

 まさに夢は無限大という感じであったが、それをやれと命じられる現場側は堪ったものではない。

 

「……あんまり無理をさせてはダメよ」

「大丈夫、その為に人材を送り込んでいるんだから」

 

 ウィンクする一子にリアスは不安しかなかった。

 故にリアスは告げる。

 

「……ねぇ、一子。2000人単位に増やせないかしら?」

「2000人って3時間も掛かるんだけど……私の遊ぶ時間……」

「そこを何とか……私も眷属探しに協力するから」

「それならまぁ……頑張るわ」

 

 一子の言葉にリアスは安堵の息を吐いた。

 ここ最近、カテレアどころかロスヴァイセすらも見ていない。

 彼女は副担任であったが、そこはリアスが手を回し、ちょっとした研修という形にしてあるので問題はない。 

 

 イリナとゼノヴィア、そしてアーシアはまだリアスの眷属であったり、人間であったりする為にこちらにいる。

 ちゃっかり黒歌はこっちにいるが、それ以外の、レイナーレ達も曹操達も、バイサーすらも冥界で働いている。

 

 この間の子供達の保護から、ほぼずっと冥界で働きっぱなしの者も多数いる。

 待遇改善はもっと強く訴えるべきだとリアスは確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カテレア様、この書類に決済を。至急です」

 

 カテレアは書類の山に埋もれていた。

 しかし、その書類は減ることなく増える一方だ。

 カテレアから見ても有能な補佐官は既に20人。

 そこに事務スタッフやら何やらが加わり、総勢で100人を超えるスタッフでカテレアはサポートされていた。

 

 だが、書類は減らない。

 一部の決済権限を補佐官達に委任しているにも関わらず、減らない。

 

「一子様は……悪魔だ……」

 

 そして、うまく逃げた黒歌に対する憎しみと嫉妬その他諸々がカテレアを襲う。

 

 私、猫だから。にゃーん

 

 そんなことを宣った黒歌に――元々、事務仕事ができるとは思っていなかったがそれでも、腹が立った。

 

「か、カテレアさーん……こっち急いでー」

 

 ロスヴァイセがフラフラになりながら書類の山を抱えて入ってきた。

 彼女もここ最近はめっきり人間界に行くことがなくなり、こっちで仕事であった。

 

 行政組織をはじめとし、司法立法の各種機関。

 それぞれを一から立ち上げようというのだから、早くても数十年単位のプロジェクトだ。

 しかし、彼女達に許された時間はたった5年。

 5年で満足のいくものにしろ、というのが一子からのお達しだ。

 

 無理だと叫んだ、しかし、一子からの返事はこうだった。

 彼女はとても不思議そうな顔で尋ねたのだ。

 

 悪魔なんだから24時間働けるでしょう?

 

 冥界のどの悪魔よりも恐ろしい悪魔だった。

 勿論、一子は自分が24時間働けなんて言われたら、そう言ったヤツをすぐにぶち殺すことは想像に難くない。

 悪魔的な価値観でいうところの、自分のことは棚に上げてというやつだ。

 

 

 とはいえ、カテレアとしても一子に蘇らせてくれた恩もあるし、何よりその圧倒的な力に惚れた。

 まさに造物主。

 この方についていけば間違いない、と。

 

 だが、あまりにもこれはあんまりではないだろうか。

 

 せめて事務仕事の電子化を、と要望を送った。

 すぐに電子化された。

 冥界で使われている最新のシステムが導入され、そしてそれに対応した専門の者達が100人単位で送られてきた。

 

 こういうところはカテレアが一子のことを素直に尊敬できるポイントだ。

 フットワークが軽く、部下の要望に迅速に応えるのは中々できない。

 

 だが、減らなかった。

 冥界といえど一部の重要書類は紙なのだ。

 要するに今、カテレアの元にやってきているのは全部が全部、紙で保管しておかないといけない重要なものばかりであった。

 

「もう誰か助けて……」

「カテレアちゃーん、援軍だよ! カテレアちゃんのところに50人! もう仕事は割り振った!」

「セラフォルー……! あなたは優しい……!」

 

 2人目のセラフォルーの言葉にカテレアは歓喜した。

 

「ようやくカテレアちゃんと仲良くなれたかな。オリジナルの方とも仲良くしてあげてね」

「ええ、勿論です。私は誤解していました」

「そんなカテレアちゃんに朗報です。一子ちゃんが本気を出すみたいなので、これから送られてくる人員、増えるよ」

「休憩時間は取れるんですか!?」

「取れるよ! 何なら8時間労働にまで減らせるよ!」

 

 カテレアは歓喜の涙を流した。

 聞いていたロスヴァイセも涙した。

 

 しかし、そこで補佐官が一言。

 

「一子様の為に24時間働くことが幸せではないのですか?」

 

 基本的に一部の例外を除けば一子に作られた面々は、このような思考であった。

 

 一子様の為に働けることは何よりの喜び――

 

 カテレアとしてもこういう人員はかつて、夢想したことはあったが、いざ実際に目の当たりにすると――ふざけるなという思いでいっぱいだった。

 

「適切な労働! 適度の休憩! 現状の労働はもはや労働ではなく、苦役です! 私は休みたい! 一子様とイチャイチャしたい!」

「その意気だよカテレアちゃん! 私も一子ちゃんとイチャイチャしたい!」

 

 一子とイチャイチャしたい、というのは補佐官達の素直な気持ちでもある。

 そう言われては何も言えない。

 

「というわけでセラフォルー、仕事に戻ります」

 

 カテレアはもう少し頑張れそうだった。

 

「5分でいいから寝かせてください……私はヴァルキリーで、まだ悪魔じゃないので……」

 

 ロスヴァイセはギブアップ寸前だった。

 

 

 

 

 

 

 

「私は何をやっているんだ……」

「曹操、手を動かせ。治世の能臣だろう?」

「ああ、うむ……そう言われてもなぁ……」

 

 毎日毎日書類仕事と会議の繰り返しだ。

 偶に休憩時間に鍛錬をする程度。

 

「ゲオルグ、私の判断は正しかったのか?」

「正しかったさ。それに曹操。これからの英雄は安全で静かで、物憂い事務室にいて、大勢の書記官達に取り囲まれて座るものだ」

「誰の言葉だ?」

「チャーチルだ」

「そうか。だが、私は政治家じゃない」

「曹操なのだから、政治家だ。英雄になっているぞ、紛れもなく」

「……頭のおかしい曹操と思い込んでいるテロリストと呼ばれるのと、どちらがマシか」

 

 曹操は溜息を吐いた。

 柄じゃなかった。

 だが、あいにくと彼は有能だった。

 先祖のように。

 

 曹操の責任と権限は右肩上がり、その一方で自由時間は右肩下がりだった。

 割り当てられた宿舎に帰ることすらままならない。

 

「今この時だけだ。形さえできてしまえば、皆、お役御免。赤龍帝に挑むなり、何なり、好きなことができるぞ」

「配下となる条件に戦闘以外のことはしないと付け加えればよかったな……」

 

 逃げることは考えられない。

 まずそもそも逃げ切れないだろうし、何だかんだで曹操にとって超えるべき目標は世界広しといえども一子しかいないからだ。

 

 面従腹背、隠忍自重、臥薪嘗胆――

 

 幾つかの言葉が曹操の頭に過ぎるが、どれも違うと彼は切って捨てた。

 別に一子に恨みがあるわけでもない。

 今のこの待遇であっても、裏側の常識で考えれば誰もが望むものなのだ。

 冷遇どころか、厚遇されており、また一子自身もフットワークが軽い為、要望にはすぐさま応じてくれる。

 

 ただ忙しいだけであった。

 

「とりあえず、もうちょっと自由な時間が欲しい。催促を出そう」

 

 

 既に万を超える人員が一子によって送り込まれていたのだが、ユーラシア大陸2個分の土地の開拓や各種機関の立ち上げと運営となれば、全く足りなかった。

 さらに新たに日本の本州程度の領地が――それも今度は悪魔が住む都市や街、村がある――のだから、より多くの人員供給が望まれた。

 

 

 

 

「人手が、足りないですわ……」

「ええ、足りないですね……」

 

 レイヴェルはソーナと打ち合わせをしていたが、やはりというかそういう結論に達した。

 

「一子様にお願いをするしかありません」

「はい。こればかりはどうにもなりません」

「というわけで、仕方がないですけれど、私がちょっと行って参りますので」

 

 くるっと背中を向けるレイヴェル。

 しかし、ソーナは彼女を阻むように回り込んだ。

 

「逃げるんですか?」

「あなたは一子様に作られたソーナ・シトリーでしょう? ならば、他の者達と同じように24時間働くことに喜びを……」

「あいにくですが、私と姉はオリジナルとほとんど変わらないので。逃がしませんよ?」

 

 レイヴェルは舌打ちをする。

 人手不足の催促ついでに、イチャイチャしてこようという思惑が彼女にはあったのだ。

 

「というか、もしかしてまだ処女ですか?」

「うるさいですわね! 何か文句がありまして!?」

 

 実はデートもまだだったりするので、レイヴェルとしてはヤキモキしている。

 今この瞬間にも、ライバルが現れているかもしれないのだ。

 

「まあ、いいでしょう。ただし、成果はキチンと上げてくださいね?」

「分かっていますわ!」

 

 ソーナの言葉にそう返して、レイヴェルは転移魔法陣を構築した。

 彼女は男に効くと母親から聞いていた必殺技を使うつもりだった。

 

 

 

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