「忙しいんだけど」
一子は忙しかった。
今日も今日とて領地の為にどんどん人材を大量生産している。
「……あの一子さん、忙しいのは分かるのですが、何をされているのですか?」
現実逃避から戻ってきてルフェイ・ペンドラゴンは問いかけた。
彼女は先日、一子が中級悪魔昇格試験に合格し、魔法使いの契約リストに載ったことから、意気揚々とやってきたのだ。
幸か不幸か、他の魔法使い達はいない。
ルフェイが仕入れた情報によると戦闘面では高く評価されているが、それ以外はダメという感じなのだ。
全く、分かっていないと彼女が憤慨したのも記憶に新しい。
とはいえ、戦闘以外に何ができるか、ということに関してはサーゼクス達が徹底的に情報を隠蔽しているので、魔法使い達にとっては知る由もない。
そして、現在の光景を目の当たりにし、意識が飛びかけたというわけだった。
「領地の開発とかに億単位で人手が必要なので、作っている。現在90分で316万人を達成しているわね」
「5秒に2000人を作っているんですか!?」
「そういうことになる」
「なんか、冥界には存在しない種族もちらほら混じっているんですが……エルフとかダークエルフとか」
「作り出せるので。ちなみにグレイフィア」
一子の呼びかけにすぐさま傍に控えていたグレイフィアが前へと出る。
ルフェイはぎょっとする。
「……どうしてグレイフィア・ルキフグスが?」
「オリジナルではないわ。けれど、オリジナルと同等の力を持っているのよ」
「ちなみに何人程……?」
「今は1000人くらい」
ルフェイは確信する。
戦闘面以外の情報が出てこないのは悪魔の偉い人達が情報を隠蔽しているからだ、と。
こうして会話している間にも一子は作業の手は止めない。
視線は何かを確認しているようで手元に何度もいっている。
どんどん2000人ずつ、生み出されていく。
それらはまるで工場の生産ラインであるかのように、列をなして、続々と指定された転移魔法陣へと進んでいく。
それを眺めていたルフェイは我に返り、一子へと声を掛ける。
「一子さん一子さん、魔法使い専用の契約悪魔候補リストがありまして。これ、自動更新される優れもののスクロールなんですけど」
「うん、それで?」
「魔法使い達による口コミとか評価とかもあるんですよ」
「ほうほう?」
「一子さんのこと、戦闘は凄そうだけどそれ以外だとダメっていうものなんですけど!?」
「まあ、そりゃそうよね」
一子はけらけら笑う。
流石にそこらは情報を遮断しているだろうと彼女としても予想がついていた。
「魔法使い達が知れば契約が殺到しますよ?」
「実はもう会談の後あたりからはぐれの子達とたくさん契約をしているのよ」
「流石にはぐれ魔法使い達の事情は分かりませんね……」
「ニルレムとかいう相互互助の緩い繋がりがどうたららしい」
「禍の団の一派ですね。最近、めっきり話題に上がっていませんでしたが……」
一子さんが抑えていたんですね、とルフェイは尊敬の眼差しを送ってくる。
とはいえ、一子のやっていることは召喚されて、エッチして戻ってくるというくらいだった。
もっとも領地を得てからは秘密裏に都市を建設し、そこに全員を移住させて、世界の滅亡や既存秩序転覆をしないというたった2つの条件以外は好き勝手に研究させている。
閉鎖都市として、都市全体が強固な結界で覆われ、入るにも出るにも様々な手続きが必要という、隔離領域と化しているが、魔法使い達にとっては天国な環境だった。
己の研究を邪魔する者はおらず、一子からもたらされる数多の異世界のアイテムや素材、更には不老不死にまでしてもらっているという状況で、不満など出る筈もない。
「それで、一子さんは何ができるんですか?」
「見ての通りに色々と人を作ったり、あと不老不死の薬とか若返り薬とか性転換薬とかも作れるわね。他にも色んな金属とかを作り出したり……あとはまあ、魔法使いの契約でやることはないと思うけど……何でも願いを叶える魔法も使えたり」
ルフェイは再度、現実逃避をしかかったが、どうにか踏ん張った。
「何ですか、その造物主みたいな単語の数々……何でもできてしまうが故に、戦闘以外の情報は出ないようになっているんですね」
「そうらしいわね」
契約殺到どころの話ではない。
もし、これらが表に出れば一子と契約するのが魔法使いにとって大前提になってしまうだろう。
一子と契約すれば、それで事足りるが故に。
「えっと、一子さん。改めて……私と契約をして頂けませんか?」
「いいわよ。私は基本、女の子とは永久契約だけど、それでいいなら」
「嬉しいのですが、何だか素直に喜べません……エッチなこと、要求しますよね?」
「ドラゴンの精は凄いらしいから仕方ないわね」
「確かにそうですが……ま、まあいいでしょう! あ、でも無理矢理はやめてください」
「そこは安心して。そういうことはしないから」
そして、ルフェイは契約の為に儀式を始めるが、その間も一子は作業の手を止めない。
「ところで、どのくらい作るつもりですか?」
「最低でも累計10億人は作らないといけないので……今日までの累計人数と今のこのペースならたぶん1ヶ月以内には余裕で達成できるはず」
「……頑張ってください」
桁が違ったが、ルフェイはもう深く考えるのはやめにした。
「もう! 一子様! また勝手に魔法使いと契約を結んで!」
レイヴェルは怒っていた。
最近、人手不足もようやく解消傾向であり、彼女をはじめ、カテレアや曹操など多くの面々が地獄から解放されていた。
故に、レイヴェルは一子のマネージャー的なポジションを獲得しようと、リアスと一子の女王候補であるカテレアから許可を得た上で、これまでのことを調査し――そのやらかし具合に頭が痛くなったが、それでも頑張った。
結果、自分が現状できることは無制限に女の魔法使いと契約しまくることを、ちゃんとした実力と家柄のある輩と契約をするように矯正することだと考えた。
普通は書類選考で、面接という過程なのだが、一子は性別と顔と研究内容しか見ていなかった。
家柄も実力も考慮せず、書類が通った段階でほぼ合格であったのだ。
これはダメだ、早く何とかしないと考えたのだが――実際にできるかどうかというとかなり難しかった。
「ルフェイのこと?」
「ルフェイさんはセーフですね。ちょっと引っかかることがありますが、理想的です。問題はその次の方です。実力も家柄も最低なのに、どうして?」
「エロかったから。見た目も性格も。媚薬の研究をしているって言ってた」
「ダメです!」
「レイヴェル、実力も家柄もないからといって、機会を与えないというのは如何なものか?」
「マトモなことを真面目な顔をして言っても、ダメですから」
レイヴェルは溜息を吐いた。
「……一子様は私のこと、嫌いですか?」
「嫌いなわけないじゃないのよ。ちょっとデート、しましょうか?」
そういう言い方をされるとずるい、と一子は思うものの、そういうのもまた女の子の特権だ。
もっとも、レイヴェルからすればまさに棚からぼた餅、色々と無制限な契約に関して言いたいことはあるものの、それはとりあえず後回しだ。
「仕方ないですわね、付き合って差し上げますわ。ただし、1時間程、準備の為に時間をください」
ツンツンとした態度と表情であったが、レイヴェルは嬉しさを隠しきれていなかった。
そして一子はレイヴェルを連れて人間界を回る。
世界各地の様々な世界遺産を見て回り、人間界に対する認識をレイヴェルに改めさせるには十分だった。
とはいえ、レイヴェルにとって何よりも大事なのは一子と一緒ということであった。
そして、夜となり、2人は一子が手配したホテルのロイヤルスイートルームで寛いでいた。
とはいえ、その過ごし方はもはや恋人そのものだ。
だが、まだ肝心な言葉をレイヴェルは聞いていなかった。
一子様がこの期に及んでヘタレるとは思いませんけど――
そう思いつつも、実際にそういう言葉を聞くまでは安心できない乙女心。
レイヴェルがヤキモキしていると、一子がにこりと微笑んだ。
「レイヴェル、私と永遠に過ごさない?」
何気ない言葉にレイヴェルは目をパチクリとさせ、やがて意味を理解し、口元を両手で抑えながら、ゆっくりと頷いた。
それを見て、一子はレイヴェルを優しく抱きしめた。
夜はまだまだ長く、そしてレイヴェルにとっては最高の夜になりそうであった。