やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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混ぜるな危険

 

 

「……誰これ?」

 

 一子は困惑した。

 領地内で発見された、その人物に。

 記録によると森の中で、切り株に腰掛けて、ぐったりしていたところを巡回中のメイド部隊が発見したらしい。

 まるで反応がなく、生ける屍状態であった為にメイド達がここまで連れてきたというわけだった。 

 

 すると、彼の両目が動いて、視線が一子へと向けられた。

 そして、その態度は一変した。

 

「うっひゃー、すげぇなぁ……」

 

 銀髪の中年男性はジロジロと一子を見ている。

 ついさっきまではぐったりと、それはもう生ける屍という表現がぴったりであったのに、一子を見るなり、こうなったのだ。

 

 何が何だか分からない。

 

「で、あんた誰よ?」

「俺? 俺はアレだ、謎の通りすがりの旧魔王ルシファーの実子なんだ」

「そうね、最初は自分から名乗らないといけないわね」

 

 どうしてそれで会話が成り立つんだ、とツッコミを入れる者は残念ながらいなかった。

 ここには一子が作り出した者達しか存在していなかったが為に。

 

「私、今代の赤龍帝で兵藤一子っていうんだけど」

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファーってんだ。おじさん、ちょっとやる気が出てきちゃった。一子ちゃんのこと、聞かせて頂戴?」

「うわ、ナンパ?」

「ナンパじゃないよ、ホントだよ? おじさんと一子ちゃんだと年の差が凄いことになっているからね。どっちかというと、孫とかそういう? あ、そういや孫もいたけどどっか行っちまった」

 

 笑うリゼヴィムにもしやと一子は問いかける。

 

「ヴァーリ・ルシファーってご存知?」

「それそれ、そいつ。おじさんの孫。白龍皇なんだって? おじさんの予想だけど、一子ちゃんの方が圧倒的だねぇ」

「あ、分かる?」

「分かる分かる。ビリビリ感じるもん。一子ちゃん、怒らせたらやべーって。でもおじさん、天の邪鬼だから一子ちゃん怒らせたくなっちゃう」

「私を怒らせたら、あなたの両親が蘇って1000万人くらいになって襲いかかってくるけど、それでもいい?」

 

 リゼヴィムは途端に沈黙した。

 彼は何か、深く考えているようであったが、傍から見れば不気味そのものだった。

 しかし、一子にそんなものは通用しない。

 彼女は何がリゼヴィムをそうさせたか、瞬時に予想する。

 両親を蘇るというところだろうと。

 

 一子としては単純に両親ならリゼヴィムよりも強いだろうという安易な考えであったりするが、予想外に効いたようだった。

 

「父? それとも母? あるいは両方?」

 

 ズバリと的確に問いかける一子にリゼヴィムは笑みを浮かべる。

 

「いや、本当に凄いな。おじさん、見直した」

 

 ふざけた口調ではなく、とても真面目な口調で彼はそう告げた。

 

「一子ちゃん、おじさんの本気のお願い、聞いてくれる?」

「内容にもよるし、対価にもよる」

「おじさんのママを治して欲しいんだ。対価はおじさんの全て。一子ちゃんに絶対の忠誠を誓うし、ほら、何だっけ、レーティングゲーム? あれに協力してあげるよ」

「対価はともかく、どうして私が治せるって思ったの?」

「蘇らせるよりも、治す方が労力は少ない。違うかな?」

 

 リゼヴィムの言葉に一子は笑みを浮かべてみせる。

 

「あなたは面白そうね。でも勝手に戦争を起こしたりしそう」

「あ? 分かる? おじさん、今の悪魔社会ってあんまり気に入らないって思いが燻っているんだよねぇ」

「つまり?」

「悪魔って悪であるべきだろう? 気に入らないねぇ……つまらねぇよ」

 

 なるほどね、と一子は大きく頷いた。

 その反応にリゼヴィムは興味津々といった視線を向けてくる。

 

「一子ちゃんは転生悪魔だろうけど、今の悪魔は気に入らないクチ?」

「私は昔のことを記録でしか知らないけど、平和っていうのはいいもんだと思うわよ」

 

 言葉通りに受け取れば、リゼヴィムとは真っ向からぶつかる意見。

 しかし、彼はそこに含まれた正確な意味を読み取った。

 

「そうかそうかー、やっぱりそうだよね、平和が一番だよね」

 

 リゼヴィムは一転して、意見を翻したかのようにそう告げて、何度も頷いた。

 それに対して一子は更に言葉を紡ぐ。

 

「ええ。そうよ。闇っていうのは光が強ければ強い程、濃くなるから」

「全く、一子ちゃんは物騒だなぁ。おじさんよりもヤバそう」

「そんなことはないわ。ただ、面白いっていうのは人生で重要だから。平和も戦争もどちらも楽しまないといけないと思うの」

「その通り。おじさんが間違っていたよ。面白いっていうのは人生においてもっとも重要だ」

 

 和やかな雰囲気と言葉、しかし、そこで一子は歪んだ笑みを浮かべた。

 同時に絶望のオーラを解放する。

 あたりに撒き散らされるそのオーラをモロにリゼヴィムは浴び、体を震わせる。

 

「私は自分の手のひらの上にない戦争は嫌いよ。我慢できるかしら?」

「おっほ、こわ。破るとどうなる?」

「死はこれ以上苦痛を与えられない安息であると魂に理解させてあげる。私は優しいので、物分りの悪いおじさんにもちゃんと丁寧に何度でも教えるわ」

 

 その言葉に対し、リゼヴィムもまた邪悪な笑みを浮かべた。

 

「おじさん、悪魔らしい悪魔である一子ちゃんには満足したから、勝手に戦争や紛争はやらないよ」

「それならいいわ。先程の内容、叶えてあげる。勿論、あなたが自ら語った対価を条件に」

「ありがたいね。で、一子ちゃん、魔王にならない? おじさん、全力で支援するから」

「ま、考えておくわ」

「よし、じゃあ、早速、おじさんの秘密の隠れ家に案内するから。ママを治して頂戴」

「ところでママの再婚相手なら私、立候補するわ」

「え、マジで?」

「私、両性具有になれるので」

「……一子ちゃん、何でもありだなぁ。とはいえ、一子ちゃんが義理のママってことになるのか……それも面白そうかな」

 

 うんうんと頷くリゼヴィム。

 彼に一子は最大の疑問を投げかける。

 

「で、どうして私の領地に不法侵入していたの?」

「実はおじさんもよく分からない。1ヶ月くらい前は家にいたんだけど……なんかこう、ふらふらっと」

「悪魔もボケるのかしら……」

「ボケ老人呼ばわりは勘弁。おじさん、まだそこまで古くないから」

「本当のところは?」

「なんかもう、だるいなーって思いながら散歩してたら、赤龍帝がやべーって話を聞いて、面白そうだったから会いに来たんだけど、領地に入った瞬間に転移魔法陣は無効化されるわ、アンデッドみたいなドラゴンが多数襲いかかってくるわ、魔王みたいなおっかないメイド達がウロウロしていて、おじさん、死に物狂いだったけど、途中で面倒になってこうなった」

 

 なるほど、と一子は頷いた。

 転移魔法陣の無効化は一子が設置したユグドラシル産のちょっとしたアイテム。

 アンデッドみたいなドラゴンは一子が放し飼いにしたユグドラシルのヤツ。

 魔王みたいなおっかないメイド達は領内の警備隊だ。

 

 要するに全部一子の仕業であった。

 それらを聞いた上で、彼女はリゼヴィムの話をまとめる。

 

「要するに暇だったから、最近噂の私に会いに来たってこと?」

「そーゆーこと。おじさんも結構ミーハーだから」

「その割に内戦のときですら動かなかったんでしょう? 何で?」

 

 一子が冥界の歴史を習っているときに抱いた素直な疑問だった。

 リゼヴィムは全く表に出てこないのだ。

 問いかけに彼は溜息混じりに答える。

 

「んー、ぶっちゃけるとどうでも良かったからかな。オヤジもいないし、ママも重体。そんなんじゃ、やる気なんて出ないし」

「あー、要するに楽しくも面白くもなかったのね」

「そういうこと。それに、今までの体制が変わってどうなるか、ちょっと見たかったっていうのもあったり? まあ、全然ダメでつまらないことになったけど」

「ふーん、そうなんだ」

「ところで一子ちゃん、おじさんの態度、かなりアレだけど? 自分で言うのも何だけど、中二病を拗らせた精神年齢お子様なおじさんなんだけど?」

「安心しなさい。あなたよりももっと、濃いのを知っているから」

 

 そういやあいつの名前もるし★ふぁーだったな、と一子は思いつつ、彼女は言葉を続ける。

 

「少なくとも、あなたは面白半分に貴重なアイテムを使って、何の役にも立たないガラクタを作ったりはしないでしょう?」

「……さすがのおじさんも、そこまではしないかな」

「でしょうね。ならセーフ」

「おじさんより上がいたのか……そこに驚き」

「悪意とかそういうのって底なしだからねぇ……ちなみになんだけど、私って何でもできるから何もしない。この意味、分かるかしら?」

 

 リゼヴィムはわざとらしく、首を左右に振ってみせる。

 

「5秒でいくらでも、魔王級の悪魔を私は魔力消費のみで作り出せる。ぶっちゃけると、リゼヴィムだって量産できるわよ?」

「あー、マジかよ。なーなー、一子ちゃん。おじさんってグレートレッドを超えた先に何があるか、前から気になってるんだけど、一緒に手を組んで異世界とかそういうの、行ったりしない?」

「異世界に行くより、まずは宇宙に行こう。リゼヴィム、あなたはブラックホールの中を担当で」

「死んじゃう死んじゃう、おじさんでも死んじゃう」

「それも面白いんじゃない? ルシファーの息子、ブラックホールにダイブって。世界中の話題を独り占めできる。死ぬけど」

「やだやだー、おじさん死にたくないー!」

「ブラックホール程度で死ぬなんて、脆すぎない?」

「逆に一子ちゃんがヤバすぎる。え、何なの? もしかして異世界の存在?」

 

 問いかけに一子は微笑みを浮かべてみせる。

 答えるか、答えないか、一子は己に問いかける。

 

 教えたほうが面白そう、とすぐに答えが出た。

 そのときだった、ドライグが話しかけてきたのは。

 

『あのリゼヴィムを手玉に取るなんて、相棒くらいなもんだぞ……』

『あら、出てくるのは久しぶりね』

『お前、最近はヤッているか、量産しているかのどっちかだろう。だから俺は基本、寝ているんだぞ』

『それは失礼。じゃあ、ドライグ。どっちが面白い?』

『そりゃ勿論、教えた方が面白いに決まっているだろう』

 

 ニヤリ、と一子は笑みを深めた。

 

「リゼヴィム、実は私、異世界からこっちに転生してきた」

 

 リゼヴィムの目が思いっきり見開かれた。

 そして、彼は興奮気味に一子へと詰め寄り、問いかける。

 

「ど、どんな世界!? 教えて! おじさん何でもするから!」

「ん? 今、何でもって言ったわよね?」

「言った! 何でもする!」

「んーとね、北欧神話をベースに色んな神話のごちゃ混ぜ。1週間に1回くらいの頻度で世界の危機がやってきてた。あと、名前を言うだけでヤバイ外宇宙の神々とか種族とかもいた」

「……なぁ、一子ちゃん。おじさんの考えていた異世界より、ハードでヤバそうなんだけど」

「まあ、私よりも優れた戦士と魔法使いなら、その世界には結構いたからね。総合力では私が一番だけど」

「ってことは、おじさんがそっちに行くと、相対的にそこらの下級悪魔みたいなレベルでしかないってこともありえるよね?」

「リゼヴィムがどのくらいできるかは分からないけど、まあ、太陽とか月とか隕石を魔力の続く限り降らせたり、それらを体力の続く限りぶった斬ることができたりすれば大丈夫」

「おじさん、異世界は諦めるよ……」

 

 がっくりとリゼヴィムは項垂れた。

 そんな彼に一子はさらなる追い打ちを掛ける。

 

「私、その世界で1人で世界を敵に回して戦って引き分けたのよ」

「……もしかして一子ちゃん、この世界を侵略しにやってきたの?」

「いや、本当に偶然なのよ。色々あって、その世界は滅びたんだけど、終わったと思ったら、人間の子供になっていて」

「元は何だったの?」

「熾天使で、堕天使になって、そしたら光と闇が混じって混沌の天使」

「どういうことなの……?」

「要するにこういうこと」

 

 一子はその背中に4対8枚の天使の翼を顕現させる。

 神々しい純白の翼にリゼヴィムは目を丸くする。

 

「え、何で? どういうことなの?」

「まあ、よく見ていて」

 

 するとその翼は黒く染まり、再度、白くなり、やがて入り混じった。

 

「……なぁ、一子ちゃん。そこに悪魔とか、たぶんドラゴンとかの翼も出るんだろ?」

「そうね」

「化け物だなぁ。皆に嫌われちゃうんじゃない?」

「もうカミングアウトしているから。嫌われる前に頭を抱えて悩んでた」

 

 リゼヴィムは爆笑した。

 

「そりゃそうだ! おじさんでも頭抱えて悩むさ! こりゃもう訳がわかんないね! ぐっちゃぐちゃ! まさに混沌!」

「そういうこと。リゼヴィム、あなたは馬鹿でも愚かでもない。だから、分かるでしょう? 私と戦おうと思うことがそもそも間違いだって」

 

 一子の優しく諭すような言葉にリゼヴィムはしおらしい顔となった。

 

「うん。無理だわ。おじさんがいくらルシファーの息子で超強い力を持っていても、熾天使とかの力がある一子ちゃんはおじさんの天敵だ」

「搦め手でどうにかしようとしても無理だって分かるでしょう?」

「無理だ。毒とかが効くようには思えないし、かといって主とか恋人とかそういう親しい連中に殺させようとしても……そもそも死ぬの?」

「魔王クラスの全力の一撃を受けても即死はしない。即死しないと、どうなるか分かるでしょう?」

「報復でブチっと蟻みたいに潰されて終わり。無理じゃん。無理ゲーじゃん。どうすりゃ勝てるの?」

「私より強くなることかしらね……」

「そもそもそれが無理な件」

「無理というのは嘘つきの言葉。やればできる」

「やってもできないから」

 

 リゼヴィムは深く溜息を吐いた。

 だが、彼の気持ちは弾んでいた。

 

 このように長く会話をしたのはいつ以来だろうか、と。

 

「よし、一子ちゃん。おじさん、何でもするから。ママを治して」

「すっごい話題を逸らしてごめんなさいね」

「いーよいーよ、おじさんとしても一子ちゃんのことがよく分かったし。うん、おじさん、一子ちゃんについてく。面白そうだから。あ、裏切ったりはしないよ? 怖いから」

「玉をクルミのように潰された経験はある? それを何度も何度も、蘇生してでも繰り返してあげるから」

 

 リゼヴィムは本気で体を震わせた。

 そんな彼に一子はけらけら笑い、そうだと思いついた。

 

「サーゼクスに連絡を入れておこ。報連相は大事」

 

 やらかす前に連絡を、という心がけに一子は自画自賛をした。

 そして5分後、サーゼクスが眷属全員を引き連れてやってくるのだが、既に一子はリゼヴィムと一緒に彼の隠れ家に行った後だった。

 

 すぐさま冥界全土に――悪魔側だけでなく堕天使側にも情報が伝達され、アザゼルが即断即決し――戒厳令が敷かれるが、2人は当然、引っかかることはなかった。

 

 

 

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