「はぁ!?」
リアスは思いっきり声を上げた。
朱乃は声にもならないようで、口をパクパクと閉じたり開いたりしている。
アーシアはしげしげと見つめている。
イリナ、ゼノヴィアは唖然としていた。
木場は苦笑し、ギャスパーは怖いとダンボールに隠れた。
「うんうん、中々面白い反応だ。おじさん、嬉しいね」
「というわけで、私の眷属候補のリゼヴィム・リヴァン・ルシファーよ。経歴としては前魔王ルシファーの実子で……」
一子が経歴を述べようとするのをリアスがちょっと待った、と遮った。
「か、一子! どういう経緯でそうなったのよ!?」
「この間、暇だったから私に会いに来て、ちょっと話したら、何かウマが合って」
「そーそー。君がリアスちゃんだね? 一子ちゃんとラブラブな! 羨ましいねぇ!」
「ちょっと一子、この方……」
リアスの言いたいことを一子はすぐに察知する。
「ふざけている態度が素なので、諦めて」
「おじさん、中二病を拗らせた精神お子様な感じなので」
「尚更悪いわ! もっとこう、威厳があると思っていたのに!」
「はっはっは、リアスちゃん。世の中、そううまくはいかないものさ」
顔合わせ、ということで兵藤邸にリゼヴィムを一子は連れてきた。
既に両親との顔合わせは済ませてあり、子供の心を忘れていない大人という感じで認識されてしまっている。
「ねぇ、一子……あなたって本当にやらかしてくれるわね……」
「嫌い?」
「嫌いじゃないけど……その、個人としてはそういうことをする一子ってやっぱり凄くてかっこいいんだけど、主として考えると頭が痛いの」
そこですかさずリゼヴィムが叫ぶ。
「一子ちゃんがリアスちゃんを泣かした! 先生に言ってやろう!」
「私は悪くないからセーフ。あと泣いてないから」
そんなやり取りにリアスは溜息を吐いた。
そこへ朱乃が口を開く。
「ええっと、つまりですけど、一子さんは部長の眷属で、一子さんの眷属としてリゼヴィム様ですから……」
「わぉ! おじさんはリアスちゃんの眷属の眷属ってことになる! 少女に顎で使われるのかー! おじさん悲しいよ! これでもルシファーの実子なんだぜ!」
「眷属とそのまた眷属が主よりも遥かに強いってどうなんでしょうね……」
朱乃の言葉に一子とリゼヴィム以外がうんうんと頷いた。
「というか、一子。私は詳しく知らないが……普通、主より強いモノは眷属にできないのでは?」
「あ、それは私も気になってた。前から一子ちゃんってリアス部長よりも強かったんでしょ? 何でなの?」
ゼノヴィアとイリナの言葉に一子へと視線が集中する。
「だって、私、悪魔になる前にいつものアレを使って、問題なく悪魔になれるようにってしてあるので。たぶんそれ」
いつものアレか、と一同は納得する。
納得したところで、一子は更に言葉を続ける。
「カテレア達とも顔合わせは済ませてきたけど、特にカテレアの私を見る目に尊敬とか崇拝とか色んなものがマシマシで込められていた」
「そりゃ、そうでしょうね……いくら旧魔王とはいえ、私でも一定の敬意を払わないとって思うんだから、レヴィアタンの血族なら尚更、で、そんなリゼヴィム様を配下にした一子はもう……」
再度、リアスは溜息を吐いた。
そんな中、小猫が告げる。
「……ところで、一子先輩がやらかしたおかげで、将来における世界の危機が回避された気がします」
「小猫ちゃん、どういうこと?」
ダンボールからようやく出てきたギャスパーが問いかけた。
「ギャー君、何かそんな気がした」
「まあ、リゼヴィム様って何かやらかしそうではあるよね」
ギャスパーの言葉にリゼヴィムは泣いた振りをしながら言う。
「酷いなー、俺は品行方正、健康優良の絵に描いたような良い悪魔だぞ」
「悪魔として品行方正で健康優良って意味なのよねぇ」
一子がすかさずツッコミを入れる。
その言葉にリゼヴィムはにんまりと笑みを浮かべた。
「大・正・解! さすが一子様! もうおじさん、ママって呼んでいい?」
「死ね」
「辛辣! 女神みたいな笑顔で死ねって言われた! 酷い!」
「というか、テンション高くない?」
「何かそういう気分なので」
「それなら仕方ない」
いやいやそこで納得するのか、と一子に一同はツッコミを入れたかったが、一子なので言っても無駄だと諦めた。
そのとき、リアスへと連絡が入った。
相手はサーゼクスからだ。
『あー、リアス。リゼヴィムはそっちにいるかい?』
「ええ。お兄様……やらかしですか?」
『やらかしだ。だが、まあ、下手に暗躍されるよりも一子さんが手綱を握ってくれると助かるから……』
「はぁ……」
『それとは別に、超特大のやらかしがある。この後、冥界に来てくれ。随伴は朱乃さんのみだ』
「……まだ、あるんですか。分かりました」
通信が終わり、リアスは一子へと視線を向ける。
「……ねぇ、一子。リゼヴィム様よりも超特大のやらかしって今、お兄様から言われたんだけど、何をやったの?」
「俺のママを治してくれた……! 一子ちゃんは俺の心を救ってくれた……!」
リアスの言葉にリゼヴィムは両膝をつき、そして一子の服の裾を両手で掴んだ。
一子はとても嫌な顔をしたが、彼は気にしない。
「だから俺は……彼女を魔王にする……!」
「ごめん、誰か翻訳して」
リアスは匙を投げた。
勿論、リゼヴィムの言葉を翻訳しようとする者は誰もいなかった。
そして、リアスは朱乃と共に冥界、サーゼクスの居城へとやってきた。
もはや嫌な予感しかしなかったが、それでも主として、妻として、拒む訳にはいかない。
きっと頭を痛めることなんだろうな、絶対そうなんだろうな、とリアスは思いつつ、朱乃と共にサーゼクス自らの案内でその部屋へとやってきた。
そして、部屋にいたのは見慣れぬ銀髪の美女だった。
それだけならまだ良かった。
女が増えるのはいつものことだから。
しかし、彼女の名前とその経歴が大問題だった。
サーゼクスはその美女について説明をする最中、妹を不憫に思いつつも、悩めるリーアたんは可愛いなぁ、と心の中で思ってしまう。
彼も疲れているのだ。
全てを聞き終えたリアスと朱乃。
そのうち、リアスがまず口を開いた。
「……ねぇ、朱乃。もう帰りたい」
「ダメよ、リアス……気を強く持って」
リアスは涙目で朱乃に抱きついた。
朱乃は朱乃で、リアスを慰めながらも、ちょっと顔が引き攣っていた。
「あら、可愛い顔が台無しよ? あなたが一子の正妻なんでしょう? 私のこともしっかり、管理してね」
「何でリリス様が蘇っているのよぉ! 一子のバカぁ!」
リアスの絶叫が室内に木霊した。
冥界から戻ってきたリアス達は精神的にやられていた。
それを見た一子がすかさずフォローを、とまずはショックが大きかったリアスのところへと赴いていた。
朱乃からも、リアスを優先してほしい、と言われたので尚更だ。
「ごめんごめんって」
「もう知らないんだから」
ぷいっとそっぽを向くリアス。
リゼヴィムのことが小さく思えてしまう程にリリスが甦ったというのはリアスにとっては当たり前だが、衝撃的だった。
というか、公表なんてしたら、それこそ冥界がひっくり返るくらいに大騒ぎになるだろう。
「リアスー、許してー」
「ヤダ」
リアスの取り付く島もない態度に一子は肩を落とした。
その様子を見て、リアスは少しだけ態度を和らげる。
「もうしない?」
「独立するまではしない」
一子の言葉にリアスはちょっとだけ寂しいものを感じてしまう。
最初から圧倒的に強く、早いうちに独立してしまうだろうな、と薄々感じてはいたのだが、それはもう間近に迫っている。
超越者という認定を得た、領地も得た、中級悪魔となり、あとは上級悪魔昇格試験を受けて合格すればそれで終わりだ。
リアスの雰囲気の変化を感じ取ったのか、一子は問いかける。
「寂しいの?」
「うーん……ちょっとだけ。何なのかしらね、手のかかりすぎる子程、可愛く思えてしまうっていうのかしら……」
「恋人で、将来の妻なのに?」
「うん……何か不思議なのよね。独立したら今のような主と眷属という形ではなくなるから、あとはもう一子が何をやらかそうが、私は関係ない……関係ないわけないじゃないの!」
リアスは叫んだ。
そうなのだ、リアスは一子の正妻である。
主と眷属というよりも、もっと深い繋がりなのだ。
「一子! 私、イヤだからね! 一子のやらかしの後始末とかするの!」
誰だってイヤだろう、とここに第三者がいれば言うに違いないが、あいにくとここには2人以外は誰もいない。
一子は微笑み、リアスの両頬を両手で包む。
「大丈夫よ。何かやっても、これからは自分で始末するから」
「ホント?」
「ホント。リアスはこれから、ずーっと私と一緒に毎日を何の心配も不安もなく楽しく過ごせばいいのよ」
「約束よ?」
「約束ね」
そして、そのままリアスは一子に抱きついた。
「じゃあ、許す」
「それなら良かった」
「一子、仲直りに……しよ?」
リアスの誘いに一子が拒むわけがなかった。