『いいのか? バラしちまって』
『いいのよ、いずれ分かることだし。あと反応が面白かった』
『そりゃそうだろうよ』
一子は自宅へと戻っていた。
アーシアはとりあえずレイナーレ達に預けてある。
神器を抜くなんてことはもうしない、とレイナーレと約束した為に。
契約を結んでいる為、それは拘束力のあるものであったが、レイナーレにその意思がないのは本当だった。
ドライグと先ほどのことを会話しながら、一子は悪魔召喚のチラシを手に持った。
『やるのか?』
『やるさ』
『どこまで?』
『言い値で買うっていう程度にまで吹っかけるわ……ああ、ちょっとその前に準備を』
『ウィッシュ・アポン・ア・スターか、あれ本当に便利だよなぁ。本来なら悪魔の駒は主よりも強い者は眷属にできないが、それなら問題も起きないだろう』
ドライグの声を聞きながら、一子は流れ星の指輪をはめる。
「私のステータスや魔法、スキルや種族特性などを完全に引き継いだ上で、一切の不具合や不調などが永遠に出ることのないように、問題なく悪魔になれるようにして」
ウィッシュ・アポン・ア・スターと唱えれば、一子の体は青い光に包まれた。
そして、やがて光は消え去った。
無効のエフェクトが出ることがなかった為、成功だ。
そして、一子はチラシを使ってリアスを呼び出す。
魔法陣が描かれ、赤い光と共にリアスが現れた。
「こんばんは、一子。眷属の件、受けてくれるの?」
「ええ、受けるわ。ただし、その前にあなたに私の神器を示したい」
一子の言葉にリアスは笑みを浮かべる。
「神器持ちっていうのは予想外だったけど、いいわ。見せて」
たちまちのうちに一子は変化する。
全身を覆う真紅のプレートメイル姿に。
リアスを驚かせるには十分過ぎた。
彼女は目を見開いて、固まった。
理解が追いつかなかった。
「リアス・グレモリー、私を眷属にしたいとあなたは言った。私は今代の赤龍帝であり、禁手化に至っている。あなたはどれだけの対価を私に支払えるかしら?」
『えげつねぇ』
ドライグのツッコミを華麗にスルーして、一子はリアスを見つめる。
リアスはようやく理解したのか、くすくすと笑う。
「この私の寵愛というのはどうかしら?」
「私はとてもワガママよ? あなたは私のワガママを聞いてくれるかしら?」
「ええ、構わないわ。可愛い眷属の為ですもの」
「契約成立」
一子の言葉にリアスは頷き、懐からチェスの駒を取り出した。
「これは悪魔の駒と言って、これを使うことであなたを転生悪魔とするの」
リアスは説明しながら、駒を選んで――
騎士も僧侶も戦車も1個では足りなかった。
ならばと彼女は兵士の駒を選ぶ。
すると、1個や2個では足りず、8個全てを使わなければならないということに気がつく。
「兵士8個分の駒を使う必要があるみたい。流石だわ」
「当然よ」
一子の言葉にリアスは満足げに頷きながら、魔法陣を構築し、儀式を行う。
儀式は5分と掛からず、問題なく終わった。
「……あんまり変化した感じはしないわね」
「今は夜だから。昼間になると辛いわよ。他にも色々と注意事項があるの。説明するわ」
リアスによる悪魔の説明を聞いて、一子は特に心惹かれたのはやはり将来的に眷属を持てるというところだ。
「戦闘に関して、期待してもいいかしら?」
「期待してくれていいわよ。ああ、それと実は既に使い魔というか眷属というか、そういうのがいてね。堕天使と悪魔と人間なんだけど」
一子の言葉にリアスは目を丸くした。
「そんなに? いったいどういう知り合い方をしたの?」
「なんか色々あったのだけど、まあ、話すと長くなるので、要約すると事件に巻き込まれて、色々あって私が解決した結果かしら……」
「ま、まあ、いいわ。これからはちゃんと私に相談してくれれば。今度、会わせてね」
「眷属にはできないけど、将来の眷属候補として確保しておくことはいい?」
「それくらいならいいけど……」
リアスの返事に一子は小さくガッツポーズ。
「さて、それじゃ、私はそろそろ帰るわ。また明日、部室に来て頂戴」
「分かったわ」
リアスは機嫌良さそうに笑顔で魔法陣で転移していった。
それを見送り、一子は部屋を出る。
目指すは1階のリビングだ。
一子はリビングのドアを開けて、両親に告げる。
「パパー、ママー、私、悪魔になったー」
「おー、そうか、悪魔かー」
「ドライグさんの次は悪魔って、本当にこの子は変わっているわねー」
兵藤夫妻は慣れっこだった。
何分、幼いときから一子が自分には不思議な力があるとカミングアウトして、少しずつ年月を掛けて、実際に魔法を使ったりして教え込んだのだ。
そっちのほうが動きやすい、と一子が考えた為に。
結果として、不思議なことへの耐性がついてしまい、兵藤夫妻は大抵のことには驚かなくなっていた。
「人間やめちゃったんだけど、いい?」
「いいも何ももうやめちゃったんだろう? 一子はいつもそうだからな」
「いい加減、恋人の1人でも見つけてきてくれれば……もうこの際、同性でもいいから……」
そんな感じで親子の会話がなされる中、ドライグは溜息を吐く。
『リアス・グレモリー、これから苦労するぞ……』
ドライグの予想はすぐに的中することになった。
「ええっと……何なのこれ」
リアスは頭を抱えていた。
目の前には3人の堕天使と1人の悪魔と1人の人間の少女。
全員、一子の使い魔だったり眷属候補だったりするらしい。
赤龍帝だから、という一言で済ませられるものではない。
特に悪魔ははぐれ悪魔のバイサーであり、討伐依頼が来ていた。
「リアス・グレモリー、私達は一子と契約を交わしている。永遠に尽くすと」
「そうっすよ! まさか無理矢理引き離したりはしないっすよねぇ?」
「今の我らの力、智天使に匹敵するぞ」
睨みつけてくるレイナーレ達にリアスは再度、溜息を吐く。
まあ、まだ良かった。
人間だった頃にそうしたのだから。
眷属が堕天使を使い魔にしているというのは主人のリアスにとっても、箔がつく。
「一子、堕天使達はどういう知り合い方を?」
「色々あったんだけど、堕天使の処刑部隊から助けた。アーシアも同じ」
リアスは安堵の息を吐いた。
レイナーレ達は切り捨てられたのだから、堕天使側が何か言ってきても知らぬ存ぜぬを貫ける。
少女――アーシアも同じならば問題はない。
悪魔ですら治癒するという神器持ちだというのだから、なお良い。
彼女はリアスの眷属にしたいくらいだ。
問題は悪魔だった。
「バイサーってはぐれ悪魔なんだけど……」
「一子様に仕えるわ」
バイサーは即答した。
リアスは溜息を吐いた。
「一子、何をしたの?」
「15分くらい遊んであげただけよ。必死にじゃれついてきたから、つい」
「色々と面倒なことになるのだけど……」
「要するにバイサーが今の形でなくなればいいのよね?」
一子の言葉にリアスは少し考えるものの、頷いた。
「バイサーって魔獣? ハーフ? キメラ?」
「魔獣よ。見ての通り、ケンタウロス」
「じゃあ、これね」
何やら怪しげな肉を一子は虚空から取り出した。
リアスはぎょっとしたが、レイナーレ達に驚きはない。
「バイサー、食べて」
「分かった」
差し出された怪しげな肉をバイサーは一気に頬張り、咀嚼した。
黒い煙のようなものが彼女の体から発生し、彼女の体を包み込む。
しかし、それもすぐに収まった。
バイサーの体に見た目こそ変化はない。
だが、バイサー本人は気づいていた。
先程と比較にもならない程、自分の力が上がっていることに。
「擬態することもできるでしょう?」
一子の問いかけにバイサーはすぐさま変化した。
馬の下半身は消失し、人間と変わらぬ下半身に。
「一子様!」
そうなるや否や、バイサーは一子に飛びついてきた。
「ちょっと待って。説明を要求するわ。何なのあの肉」
「今代の赤龍帝なので」
「それじゃ説明がつかないわよ」
「簡単に言うと、魔獣としての格を上げるアイテムね」
「ケンタウロスの上位存在になったってこと?」
「その通り。高位の魔獣はデフォルトで擬態できるでしょ? ほら、解決した。バイサーに擬態能力なんてなかったわよね?」
「擬態能力は確かに確認されていなかったわ……」
リアスはそう返しながら、これならまあいいか、と思う。
そして、彼女はあることに気がついた。
「ねぇ、一子。もしかして、あなたって女の子が好き?」
「好きよ。恋愛対象という意味でも女の子」
なるほど、とリアスは頷いたときだった。
「リアス・グレモリー。一子はちょっとした魔法みたいなもので、両性具有になれるのよ。おそらく、女を孕ませられるわ」
レイナーレの言葉にリアスは一子へと視線を向けると、肯定するように一子は頷いた。
「つまり、まとめると一子は今代の赤龍帝で、女の子が好きで、両性具有にもなれると、そういうわけかしら?」
「そういうことらしいわね」
リアスの問いに一子が答えた。
「……私の眷属は結構濃い面子が揃っているけど、一子みたいに濃いのは初めてだわ」
呆れたようにリアスはそう言った。