やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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吸血鬼煽り

 

 会談場所はいつもと変わらない駒王学園、オカルト研究部の部室。

 一子にしては新鮮味の欠片もないと思いきや、見慣れない顔があった。

 

「グリゼルダっていうのね。美しい名前だわ」

「あら、一子さんはお上手ね」

 

 天界側の代表として、派遣されてきたシスター・グリゼルダだった。

 リアスと彼女が挨拶と自己紹介を交わし、それが終わったところで一子は口説きに掛かった。

 

「一子ちゃん?」

「一子?」

 

 セラフォルーとリアスがにっこりと笑みを浮かべた。

 レイヴェルが横で溜息を吐いている。

 

「一子ちゃんは相変わらず、女の尻を追いかけているねぇ」

 

 そう言いながら、リゼヴィムがせんべいをバリバリと食べていた。

 その隣ではカテレアとロスヴァイセがいつものことと割り切って、資料を整理している。

 一子の眷属候補として出席しているのは彼らだ。

 

「ところで、ゼノヴィアはご迷惑をおかけしていませんか?」

「大丈夫よ」

「それなら良かったです。実は彼女とは同じ施設の出身で、妹みたいなものでして……色々とあって悪魔になってしまったことには驚きましたが……」

 

 和やかに会話を進める一子とグリゼルダ。

 ゼノヴィアがイリナの後ろに隠れて小さくなっているが、そんなものは無意味だろう。

 ちらちらとグリゼルダがゼノヴィアへと視線を向けているが為に。

 

 悪魔側の出席者はセラフォルーとリアス、そしてグレモリー眷属、さらにソーナとその女王である椿姫ともっとも人数が多い。

 

 天界側はグリゼルダ1人で、堕天使側もアザゼルだけであった。

 雁首揃えている悪魔側の気合の入れ方が明らかにおかしい。

 

 そもそも、本来ならリアスの眷属である一子はリアスの後ろあたりに立っている筈であるのだが、堂々と椅子に座っている。

 今回は一子の試験のようなものであるから、当然といえば当然だったが、ともあれ、普通ならありえないことだ。

 逆に言えば、そんなことをこの場でやる悪魔側は、吸血鬼陣営など歯牙にも掛けていないように見えるが、本当にそうであるのなら、ここにセラフォルーがいるわけがない。

 

 つまり、一子がどの程度、こういう場で立ち回ることができるかを見る為の試験であり、同時に一子が悪魔社会で確固とした地位を築くための点数稼ぎだ。

 もし一子がやらかしても、すかさずセラフォルーがフォローに入ることになっている。

 

 

 

 一方、アザゼルは内心、溜息を吐いた。

 どうにも悪魔側のメンツを見れば殺る気満々であることが嫌でも分かってしまう。

 こいつら、特使の首を落として送り返すとかやるんじゃねぇだろうな、と彼は不安であった。

 

 何しろ一子、セラフォルー、リゼヴィムが揃っている時点でもうヤバイ。

 その中で比較してセラフォルーが一番穏健派というのだから、どれだけ異常かよく分かる。

 

 もしかして、万が一のときは俺が止めるの?

 こいつらを?

 勘弁してくれ――

 

 セラフォルーから今回は一子の能力を試すと言われており、基本的には彼は口を挟まない。

 それはグリゼルダも同じく伝えられている。

 

 一子の力が強いことは十分に分かっている。

 では、頭の方はどうだろうか、とそれを知りたいという考えは共通していた。

 

 無論、彼らが口を挟まないというのは一子にも伝えられており、また同時にそれにより天使と堕天使が不利益を被るようなことはしないように、とセラフォルーから言われている。

 

 だからこそ、一子の勝利条件は吸血鬼側から三大陣営全てが利益となるようなものを引き出すことだ。

 

 ただ、プライドの塊である吸血鬼がやらかさないわけがない。

 

 早くもアザゼルは頭が痛くなってくる。

 彼が堕天使の総督、やめよっかなーと考え始めたときだった。

 

 それまでになかった気配が現れた。

 その気配は凍りついたように静かなものだ。

 

「先制核攻撃というのはどうだろうか? 素敵だと思わない?」

「おもしろーい。一子ちゃん、おじさん、花火が見たいなー」

 

 物騒な言葉が聞こえてきた。

 

「おい、やめろ。まずは話を聞け」

「まったく一子ったら……裕斗、悪いけど一子が攻撃をする前に迎えに行ってくれないかしら?」

「分かりました」

 

 木場は苦笑しながら、部屋から出ていこうとするとき、一子が彼にあるものを投げ渡した。

 

 それは腕輪だった。

 

「ちょっとした挨拶をするから。はい、皆にも」

 

 そう言いながら、一子は部屋にいる面々に腕輪を渡していく。

 

「つけておかないと……大変なことになるので」

「……一子、何をするつもりなの?」

 

 リアスはジト目で問いかけた。

 

「リアス、こんなに気配を撒き散らして、我こそは吸血鬼だぞ、強いぞ凄いぞかっこいいぞって感じで堂々と来るのよ?」

「それで?」

「格の違いを教えてあげようと思って。ま、ともあれ、出鼻を挫くのは大事よ」

 

 溜息を吐きながらも、リアスはその腕輪をつけた。

 それに倣って、他の面々も腕輪をつけていく。

 

 そして、木場は部屋から出て下へと降りていき、旧校舎へと吸血鬼の特使を招き入れる。

 それから数分程して、部室のドアがノックされた。

 

「お客様をお連れしました」

 

 木場がそう述べ、扉をゆっくりと開くと同時に一子は絶望のオーラを解放した。

 吸血鬼がどの程度か、分からない為にとりあえずレベル1で。

 

 現れたのはまるで人形のように生気を感じられない金髪の少女だった――が、彼女は震えていた。

 彼女の後ろにいる従者達もまた同じように。

 

 おっとこれは予想外だと一子は内心驚いた。

 彼女の想定ではセラフォルーのような、強い奴が来ると思っていたのだ。

 裏側における外交官とは頭の良さもさることながら、舐められないようにする為に力の強さも重視される為、そのように一子は想定していたが……どうやら外れたらしかった。

 

 ともあれ、やることに変わりはない。

 

「あら、失礼。吸血鬼の皆様方はこの挨拶がお気に召さなかったようね」

 

 にこやかに笑いながら、そう告げて、絶望のオーラを切った。

 

「さぁ、お掛けください。麗しき吸血鬼の方々。遠きルーマニアより、ようこそ日本へ」

 

 悪意など一切ない、善意の笑みを浮かべて、そう告げる一子に特使はキッと睨みつけるものの、それだけだ。

 怖かった、などとは口が裂けても言えないだろう。

 そうすれば舐められることになる為に。

 

 気を取り直し、少女は告げる。

 

「ごきげんよう、三大勢力の皆様。特にレヴィアタン様とアザゼル様、さらには魔王様の妹君のお二人とお会いできるなど、光栄の至りです」

 

 敢えて一子を無視したような言い方だが、そのくらいでは彼女は全く意に介さない。

 

「おや、どうやら視覚に問題があるようですね。これは大変失礼しました。何分、急な訪問とのことでしたので、そこまで用意が……メガネなどは御入り用ですか?」

 

 善意を押し出して、にこやかに問いかける一子に少女は表情は一切変えない。

 だが、一子は確信する。

 吸血鬼の、それも純血であるならば、ここまで言われて腸が煮えくり返らないわけがない、と。

 

「……あなたはリアス・グレモリー様の下僕である赤龍帝ですわね? 特使である私に話しかける権利があるのですか? いくら赤龍帝でも権利を持っていない、ただの従僕であるなら、私に話しかける資格はないでしょう?」

「ふむ、確かに。ただの従僕であるなら、そうでしょうね。セラフォルー? 今、私はどういう立場でここにいるのかしら?」

 

 一子の問いに、セラフォルーはにっこりと笑みを浮かべる。

 

「悪魔側の今回の会談における全権委任大使だよ。これが政府発行の委任状」

 

 すっと懐から出し、委任状を広げてみせるセラフォルー。

 ぐぬぬぬぬ、と思いっきり悔しげに少女の顔が歪んだ。

 

 一子は勝ちを確信する。

 相手は崩れた。

 受け流せば良かったのに、そうはできなかったのだ。

 

「し、しかし、いくら何でも主であるリアス様を差し置いて……」

「論理で崩せないならば、感情論かしら?」

 

 そう言い、一子はくすくすと笑ってみせる。

 

「違います! 下僕ならば下僕らしく、分を弁えるのは当然では!?」

 

 その叫びに一子は、不敵な表情でもって、まっすぐに少女の紅い瞳をその黄金の瞳で見つめる。

 そして、告げる。

 

「力こそ正義だ。どれだけ吠えようと、力がなければ意味などない。私がこうしているのはそれだけの力があるからだ」

 

 一子はそう告げ、一呼吸の間をおいて、再度言葉を紡ぐ。

 

「さて、それを踏まえた上で問おう。我々に何をお望みか? 何でも叶えよう。無論、対価は頂く。他の連中は知らないが、我々は等価交換で動く存在であるが故」

「ぎゃ、ギャスパー・ヴラディの力を借り……」

「その前に、名乗ったらどうかしら? 吸血鬼というのは礼儀を知らないようね。まずは自分から名乗るものよ」

 

 少女の顔が怒りで真っ赤に染まる。

 その間に一子は情報を素早く整理し、何があったのかを予想する。

 

 内乱か、それに類するものが起きた、それもツェペシュ派とカーミラ派の間で。

 

 レイヴェル達が纏めた資料から、いわゆる男尊主義と女尊主義という思想的な対立が長いこと――軽く数百年くらいは――続いている。

 どうやらそれで小競り合いなども近年、発生しており、何かを切欠に本格的になってしまったのだろう。

 

 どっちかの派閥が、本格的に戦おうと決意させるモノ。

 一番手っ取り早いものは神滅具だろう。

 

 カマを掛けてみるか、と一子は即決する。

 

「大変失礼しました。エルメンヒルデ・カルンスタインと申します」

「赤龍帝の兵藤一子よ。私は預言者だから、あなた方の望みを当ててあげましょう」

 

 一子は微笑み、告げる。

 

「カーミラ派が劣勢、ツェペシュ派に神滅具持ちが現れた為に。だからこそ、ハーフであり、使い捨てても後腐れがないツェペシュ派のギャスパーをぶつける。あわよくば相打ち、負けたとしてもカーミラ派の戦力に消耗はない。おそらく、持ってきた手土産は和平についてかしらね?」

 

 少女――エルメンヒルデの顔が驚愕に染まった。

 

「どうして……」

「簡単な話よ。内乱の火種は数百年前からあった。何かを切欠に火種が燃え上がったとなれば、一番ありえるのは神滅具。どっちかの派閥からその持ち主が出れば、察知される前に速攻を掛けて潰す。時間を掛ければ掛ける程に察知されやすく、また対策も取られやすい」

 

 けれど、と一子は続ける。

 

「ツェペシュ派は失敗したのね。速攻ができなければ、あとに待っているのは泥沼の消耗戦。だけど、こうしてカーミラ派が吸血鬼の誇りを捻じ曲げてでも、他勢力に話を持ってきたことから、あなた方は劣勢なんでしょう。あなた方も知っての通り、我々は弱っている勢力を美味しく頂くのはわけないもの」

 

 そして、と一子は続ける。

 

「神滅具で所有者が判明していないのは2つ。しかし、究極の羯磨(テロス・カルマ)はその性質上、こんなに悠長に特使を派遣できる余裕なんてない。アレは書き換えるものだから。とすると、残りは一つ」

 

 そこで一度、言葉を切り、一子は確信をもって告げる。

 

「ツェペシュ派の所持している神滅具は幽世の聖杯(セフィロト・グラール)、やろうとしているのは不死身の肉体でも手に入れようって感じかしら? どう? 美しい特使さん?」

 

 エルメンヒルデは言葉が出なかった。

 まさしく、彼女が持ってきた案件はそれであり、現在の吸血鬼陣営がどうなっているかを正確に言い当てられてしまった。

 

 同時に彼女は納得してしまう。

 

 ああ、確かに、力こそ正義――

 ここまでできるのならば、下剋上をしていても当然だと――

 

 エルメンヒルデは怒りが消え去り、素直に感心してしまう。

 

 おそらく、全て彼女の手のひらの上だったのではないか、とエルメンヒルデは考える。

 恐怖させ出鼻を挫き、今度は怒らせ、思考を乱すことで、こちらに主導権を全く握らせなかった。

 

 後先考えず、その場の感情で発言することは、こういう場では致命的だ。

 

 怒らせた方が悪い、という見方はできない。

 向こう側もあらゆる手を使って、自分達の利益を得ようとするが為に。

 だからこそ、怒らせるのが悪いではなく、怒ったら負けなのだ。

 

 

 特使としては大失敗だ、とエルメンヒルデは内心では落胆する。

 そんな彼女の気持ちを察したかどうかは分からないが、一子はにっこりと笑って告げる。

 

「さて、悪魔側としては、申し訳ないけど、あなたの提案にひとまずはNOと言わせてもらうわ」

「ヴァレリー・ツェペシュが聖杯の所有者だとしても、ですか?」

 

 エルメンヒルデの問いかけ、彼女は視線だけ動かし、ギャスパーの反応を見る。

 彼は動揺しているように思えた。

 しかし、一子は小揺るぎもしなかった。

 

「ええ、そうよ。正直に言えば、ヴァレリーだけ救出して、吸血鬼は仲良く争って滅んでくれても構わないもの。我々がギャスパーを援軍として送り込むことで得られる利益は単なる和平だけなのでしょう? それだけじゃ、我々の仲間である彼を差し出すなんて、到底釣り合わないわ」

 

 エルメンヒルデは言葉に詰まる。

 だが、それでも反論せずにはいられない。

 何かないかと思考を巡らせ、彼女は告げる。

 

「各陣営と和議を申し込んでいるにも関わらず、相手によって対応を変えるのかと他勢力に思われてしまうのでは? 望んだ平和が消えてしまいますよ?」

「平和とは次の戦争の為の準備期間よ。いつかは消えてなくなってしまうもの。それがいつになるか、というだけの話でしかない」

 

 ああ言えばこう言う、性悪ドラゴンめ、とエルメンヒルデは内心で悪態をつく。

 怒りが再燃してくるものの、それをどうにか抑え込む。

 

「で、吸血鬼側は最終的にどう決着をつけたいの?」

 

 問いにエルメンヒルデは少しの間をおいて、告げる。

 

「ツェペシュ派を皆殺し、とまではいきません。考えの相違はあれど、彼らも同胞であるので」

「なるほどね。首謀者と側近を始末して終わりたい、けれど戦力が足りない、と」

 

 一子の言葉にエルメンヒルデは頷いた。

 それを見て、更に一子は言葉を続ける。

 

「他勢力の力は借りたくないが、ハーフであっても吸血鬼なら許容できるというもの?」

「ええ、そうです。我々のことは我々の中で」

「話にならないわね。駒として使いたかったなら、飴を与えれば良かっただけなのに。それだけでギャスパーはここにはいなかった」

 

 お前達、先見の明が無さすぎじゃないか、と一子の言葉に込められた意味に気づいたエルメンヒルデは何も言えない。

 とはいえ、それでは話が前に進まない。

 

「では逆に尋ねますが、どの程度のものを出せば彼をお借りできますか?」

「どの程度、というのは難しいわね。何しろ、悪魔は自分の欲求に素直でね。丸ごと全て差し出せと答えるしかないわ」

「欲に目が眩むと碌なことになりませんよ?」

「それもまた悪魔らしくて良い。とはいえ、話を前に進めましょうか」

 

 一子はそう告げ、ずいっと前へと身を乗り出す。

 

「悪魔も含めた三大陣営との和平に加えて、三大陣営との恒久的な連絡手段の確保及び友好的な通商条約の締結はどうかしら?」

「我々と貿易をしたい、と?」

「ええ。閉鎖主義のあなた方であるからこそ、独自の文化や技術はあるでしょう? そういうのが欲しいわ。美術品とか工芸品とか何でもいいので」

 

 ふむ、とエルメンヒルデは腕を組んだ。

 

「連絡手段の確保と仰っしゃりましたが、具体的には?」

「大使館の設置みたいな形かしらね。あなた達だって、好んで戦争がしたいわけじゃないでしょう?」

「ええ。我々は人間を糧にして生きる闇の住民。闘争を何よりも好む、戦闘狂のあなたとは違うので」

「そうね、違いがあるからこそ、互いを尊重するのは大事よ。あなた方にはそれが欠けているようだけど」

 

 にこにこ笑顔で返されて、エルメンヒルデは性悪め、と心の中で再度悪態をつく。

 

「それらの条件を飲めば、ギャスパー・ヴラディをお貸し頂けるということですか?」

「ええ。ついでに、サポート役として各陣営から何名かがついていくわ。万が一、彼が危険になったなら、悪魔側としては吸血鬼側による宣戦布告とみなし、総力を上げてどちらの派閥も潰す」

 

 笑みを浮かべながら、そう宣言する一子。

 エルメンヒルデはそれほどまでか、と驚くと同時にそこまでの能力がギャスパーにはあり、悪魔が高く評価しているのだ、と確信する。

 

「とはいえ、我々としても無益な殺生は好まないわ。だからこそ、サポート役を派遣する」

 

 サポート役を強調する一子にエルメンヒルデは意図を察する。

 なし崩し的にサポート役も巻き込まれてしまった場合は仕方がない、と。

 要するに吸血鬼側に対する救済の手だ。

 

 戦力が足りないが、吸血鬼としてのプライドから、ギャスパー以外の手は借りたくない。

 だが、それでは明らかに彼に危険が及ぶ。

 しかし、そこへ彼のサポート役という名目で事態を解決できるメンバーを三大陣営から送り込む。

 吸血鬼のプライドがどうこうと言ったところで、いざ現場で巻き込まれてしまっては仕方がなく、自衛のために動く。

 結果として、それによりカーミラ派が助けられることになったとしても、あくまで自衛であり、巻き込まれたに過ぎないから吸血鬼としてのプライド――他勢力から手を借りたくはない――というものは保たれるという寸法だった。

 

 エルメンヒルデは一子のことを少し見直しながら、告げる。

 

「分かりました。サポート役の方々の人選はお任せします。ただ、カーミラ様に連絡を取らねばなりません。明後日の夜にまたお会いすることはできますか?」

「ええ、構わないわ。良い返事を期待しているから」

 

 そうして、会談は終わった。

 エルメンヒルデ達が退室し、部屋の空気が弛緩する。

 

「あー、その、何だ……」

 

 アザゼルは頭を掻いた。

 予想していたよりも、遥かに良い結果となった。

 最悪、一子がここからルーマニアを消し飛ばすとか言い始めるんじゃないかと予想していただけに。

 

「一子ちゃん! 満点! もう満点だよ!」

 

 セラフォルーが一子に抱きついて、頬ずりする。

 

「あれくらいしか引き出せそうになかったわ」

「ううん、もう最高! キスしちゃう!」

 

 人目を憚ることなく、セラフォルーによるキスの雨に見舞われる一子にリアスは素直に感心していた。

 

「ただの脳筋エロドラゴンじゃなかったのね……」

「リアス、ちょっと酷くない?」

「これまでの振る舞いを思い出してみればいいんじゃないの」

 

 一子は抗議したが、リアスに見事なカウンターで返されて、不満げに頬を膨らませたが、すかさずセラフォルーによりそれは指で突かれた。

 

「一子様、完璧ですわ」

「さすがは一子様です」

 

 レイヴェルとカテレアの称賛に一子は鼻高々。

 しかし、リゼヴィムとしては不満であった。

 

「一子ちゃん、何か面白くしてよー、おじさん、つまらないよー」

「ギャスパーのサポート役は私が行くので」

「あっ、それ面白くなりそう」

 

 2秒くらいで手のひらを返したリゼヴィムにロスヴァイセは横で溜息を吐きながら告げる。

 

「一子様、お疲れ様でした。とても素晴らしかったと思います」

「ふふふ、ありがとう」

 

 微笑み、そう告げる一子。

 そして、彼女はリゼヴィムに告げる。

 

「カーミラ派の連中の目の前で、連中のプライドを木っ端微塵にするのって最高に素敵だと思うの」

「おじさんもついて行っていい?」

「いいよ」

 

 あっさりと了承する一子にリゼヴィムはにっこにこの笑顔となる。

 これはヤバイ、と察したアザゼル。

 一子とリゼヴィム、どちらも相性が良すぎて、混ぜるな危険どころの騒ぎではない。

 

 しかし、助け舟は予想外のところから出されることになった。

 

「ギャスパーさんはリアスさんの眷属ですから、まずはリアスさんが赴いた方がいいのでは?」

 

 グリゼルダの言葉にリアスは大きく頷いて、告げる。

 

「というわけで、悪魔陣営からは私とギャスパーと……」

 

 誰にしようか、とリアスが視線を巡らせる。

 一子はすかさず思いっきり手を挙げる。

 

「はいはい! 私、私! リアス、私!」

「裕斗とゼノヴィア、イリナで」

 

 見なかったことにして、リアスはそう宣言した。

 リゼヴィムは大爆笑。

 カテレアは溜息を吐き、レイヴェルは当然ですわ、と呟いた。

 ロスヴァイセは左右に首を振る。

 

「よし、木場にゼノヴィア、イリナ。ちょっとお話しましょうか? 3分くらいで終わるから」

 

 一子はにっこりと笑顔で、3人に向けてそう声を掛ける。

 その笑みは何だか不気味さを感じるものだった。

 

「……一子、何をするつもり?」

 

 リアスはジト目で問いかける。

 

「3人は不幸にも修行中に大怪我を負ってしまう予定なので」

「ダメ」

 

 リアスは思いっきり一子の頬を引っ張る。

 餅のように伸びる頬をむにむにと引っ張りつつ、リアスは告げる。

 

「すぐに解決してくるから、大人しくしていなさい。いいわね?」

「ふぁーい」

 

 それを見て、セラフォルーはうんうんと頷く。

 

「それじゃ一子ちゃんはさくっとその間に上級悪魔の試験、やっておこうか? 正直、上級悪魔になれる中級悪魔って今、一子ちゃんくらいしかいないんだよね」

「そうね。というわけで、リアス、さっさと帰ってこないとルーマニアにカチコミ掛けるから。私の軍勢を引き連れて。グレイフィアを100万人ぶつけるから」

「分かったわ。すぐ終わらせるから。朱乃、一子の見張り、よろしくね」

「ええ、任せてください」

 

 朱乃は一子を程よく独占できると喜んでいるのが目に見えて分かる程に上機嫌だ。

 

「……なぁ、堕天使ってやっぱり俺が行かないとダメか? シェムハザじゃダメか?」

「神滅具なんだから、いい感じに研究できるんじゃないの?」

「いや、そうなんだが……時間切れになるとお前が出張ってくるって考えると、やる気が果てしなく下がるんだが……後始末、お前、絶対俺に押し付けるだろ?」

「初手から全力でさっさと終わらせればいいじゃないの」

「……しょうがねぇな」

 

 アザゼルは溜息を吐くしかなかった。

 

「天界からはジョーカーを投入しましょう。ただ、合流が少し遅れますのでご了承の程を。それと一子さんの力についてはミカエル様から聞き及んでおりますので……」

 

 グリゼルダの言葉に一子はどういう風に伝達がされているのか、非常に気になった。

 

「ところで何と聞いているの?」

「本気を出させると宇宙が終わるから、出番をなくすように、と……」

「たかが熾天使風情が言ってくれるじゃないの……!」

 

 一子は怒りに燃えたが、そこでリアスがため息交じりに告げる。

 

「事実よね」

 

 一子はぐぅの音も出なかった。

 とはいえ、やられっぱなしは気に食わない。

 

「私が本気で祈りを捧げたら、ミカエルとか全員、ひれ伏させる自信があるわ」

「はいはい、そういうのはミカエル様の前でやって頂戴。ともかく、一子は大人しく上級悪魔になっておきなさい」

 

 リアスに言われ、一子は了承するしかなかった。

 

 

 

 

 

 そして2日後の夜、予定通りに再度エルメンヒルデとの会談の場が設けられ、そこで彼女から一子の提案を承諾する旨の回答がなされた。

 その翌日には早くもリアス達がルーマニアへと向かった。

 

 

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