「というわけで、暇なので、この間にアーシア強化計画を実施します」
「が、がんばります!」
ぐっと両手で握り拳を作ってみせるアーシア。
一子はそんな彼女にとても和んでしまうが、ともあれ修行の内容を説明する。
「アーシアは貧弱です。神器の治癒はあるけれど、ぶっちゃけ私のワンパンで終わります。あとヒーラーは最優先で狙われるので、ますます最初に殺される可能性が高いです」
「……一子様、それはそうですが、そもそも一子様が相手だと誰であっても同じでは?」
ツッコミ役兼ストッパー役ということで、見学しているロスヴァイセが早速ツッコミを入れた。
「ええ、そうよ。でもね、逆に考えれば防御を硬めて、そりゃもうカッチカチにして、敵の攻撃を一身に受けつつ、味方を回復させることができればこれ以上ないくらいにイヤラシイと思うわけよ」
コンセプトは非常にマトモであり、ロスヴァイセは感心してしまう。
「あ、あの、一子さん。確かにこれまでも色々とちょっとしたことは訓練してきましたが……」
アーシアはおずおずとそう告げる。
一子の眷属になると決めたときから、アーシアは体力作りを一子から指示され、ジョギングや筋トレなどをしてきてはいる。
しかし、それらはあくまで人間が普通にできるレベルの範疇にあった。
回数はそれなりに多くはあるが、それでもちょっと体力があれば日常的にできる量でしかない。
「ええ。でもまあ、そろそろ私も上級悪魔になるし? 眷属を正式に持てるようになるので、さっさとやってしまいたいと思って」
一子の言葉にロスヴァイセは何か、不穏なものを感じた。
彼女は知っている。
一子がリアス達、グレモリーチームに行っている非常識な修行を。
それは一般的に見たら修行とはとてもではないが思えない。
一子の非常識な魔法により、たとえ死んでも蘇生できるので、実戦そのものだ。
だが、実戦が最高の経験値となるのはロスヴァイセとしても頷ける。
何よりも、一子はたとえ恋人であるリアス相手でも修行となれば一切の容赦をしない。
簡単に彼女は絶望を突きつけるのだ。
その状況下で得られる経験は貴重で得難いものであるし、何よりメンタルが嫌でも鍛えられる。
どんな状況でも、決して諦めない精神を養うには最適であった。
「というわけで、アーシア。今から私は攻撃を仕掛けるから、当たったらすぐに治癒しなさい」
「は、はい!」
いきなり四肢を切り落とすとかするんじゃないだろうな、とロスヴァイセはそれでも心配だった。
まずは治癒能力の強化と発展とばかりに一子はアーシアに対して、状態異常を引き起こす魔法を幾つか掛けた。
「ほらほら、早く治癒しないと死んじゃうわよ?」
みるみる衰弱し、顔色が青くなっていくアーシア。
彼女は力を振り絞って神器を使って、自らを治癒する。
「さぁ、ここからは重ねがけのお時間です。どんどんやるから」
一子は笑いながら、更に魔法を掛けていく。
アーシアはそのまま治癒を続行する。
ロスヴァイセは理に適ったやり方だと素直にその光景を見て感心する。
というか、一子の魔法のバリエーションにロスヴァイセは驚きだ。
「というわけで、とりあえず数時間はこんな感じでやるから」
そのとき、一子はロスヴァイセに対してそう声を掛けてきた。
「分かりました。比較的マトモですね」
「まずは治癒のレベルを上げないとね。欲を言えば使った瞬間に木っ端微塵になろうと復元するようなレベルにまで持っていきたい」
「そんな事、できるんですかね……」
「世界の可能性はそんなに小さいものではないから、大丈夫。いけるいける」
アザゼルがいれば、無理だ、とツッコミを入れるのだが、彼は今、ルーマニアにいるのでツッコミを入れることはできない。
神器は想いの力に応えてくれるという点は合っているが、間違っている認識のまま、一子は突っ走る。
「アーシア、気合よ、気合。あなたの思いを私に見せて」
言っていることは良いことであるが、やっていることは傍から見れば延々と状態異常魔法を掛け続けるだけという、非常にアレな構図だった。
アーシアを鍛える一方で、一子はカテレアや黒歌、レイナーレ達を本格的に鍛え始める。
こちらはアーシアのように優しくする必要もないので、初手から一子との戦闘だ。
特にカテレアに関しては非常に厳しかった。
一子は自分の女王であるのだから、とにかく最強であってほしいという思いが強い。
また一子がレヴィアタンの血族が持つ特性、掉尾の海蛇龍というものがあると知っていたので尚更だ。
だからこそ、カテレアは――地獄を見た。
「154回」
一子は今日の修行で死亡した回数をカテレアに告げた。
カテレアは息も絶え絶え、しかし、その瞳はまだ闘志を漲らせている。
彼女はここまで一切の弱音も泣き言も吐いていない。
「まだまだ、いけるわよね? レヴィアタンの正統な血族、潜在能力はそこらの輩とは比べ物にならないんだから」
「当たり前です……!」
どうにか彼女は立ち上がった。
しかし、154回、カテレアが死亡するまでの間に一子に掠り傷すら負わせることができていない。
あまりにも、強すぎる――
カテレアは畏怖と、畏敬の念を一子に対して以前から抱いている。
それは実際にこうして戦ってみて、ますます強くなっている。
決してカテレアが弱いわけではない。
むしろ、以前よりも強くなっている。
魔力の使い方から戦闘における駆け引き、判断その他諸々、全ての面で成長している。
だが、それでは追いつかない程の差が一子との間にはあった。
何よりも、カテレアが驚愕したものは一子の引き出しの多さだ。
特に、その魔法。
この世界の魔法とは全く趣が違う、結果に至るまでの行程や発生する過程が一切省かれた、さながら結果のみが顕現したものだ。
それだけでも脅威であるのに、その魔法のバリエーションの豊富さ、そして一子の言うスキルと呼ばれる技の数々もまた同じく脅威であり、本人の単純な身体能力の高さと戦闘経験の豊富さもあり、全く歯が立たない。
絶望的な実力差であったが、それでもカテレアは決して諦めることはない。
誰もが就きたいと望む、赤龍帝の女王。
選ばれたのは自分なのだから、その思いに報いなければならない、とカテレアは奮起していた。
「さぁ、カテレア。155回目の死を、あなたに突きつけるわ」
「たとえ100万回死んだとしても、私は諦めません。あなたの女王になりたい……!」
「……熱血しているにゃ」
「はい、姉様」
そんな盛り上がっている2人を遠目に見ているのは黒歌と小猫だった。
「姉様は良いのですか?」
「私はもう今日の分は終わっているの。カテレアは補習授業にゃ」
「……努力はしたほうがいいです」
「お姉ちゃんは一子のペット枠も兼ねているにゃ。ペットなので、許されるのにゃ」
「そうですか……ところで、一子先輩の実力はどうですか?」
小猫の問いに黒歌は手を左右に振る。
「無理にゃ、勝てない。幻術とかその他色んなのは全部レジストされるにゃ。魔法とか魔力の撃ち合いでも、こっちが子供の遊びに思えるようなことをやってくるにゃ」
「太陽ですか? 隕石ですか? 月ですか?」
「巨大竜巻だったにゃ……天変地異を軽く引き起こしちゃうのはどうかと思ったにゃ……」
「一子先輩ですからね……」
「しかもそれが10個くらいに増えたにゃ……」
「非常識ドラゴンですから……」
好き放題言われっぱなしであったが、一子はカテレアを鍛えるのに夢中で気づかなかった。