「とても、興奮しますね」
一子はソーナに後ろから抱きしめられていた。
生徒会室には2人以外の誰もいない。
一子が呼び出されてやってきたら、これであった。
「いつからあなたは痴女になったのかしら?」
「痴女というのは誰彼構わないでしょうが、私は違います」
相手は選んでいるので、と続けるソーナに一子は肩を竦めてみせる。
とはいえ、一子が本気で抵抗すればソーナの拘束など簡単に解けるが、そうしていない。
つまるところ、一子としても全く問題がなく、この雰囲気を楽しんでいるのだ。
「幼馴染の親友、そして姉の大事な人をこうやって……しかも、学校で」
ソーナの拗らせた性癖の一つに寝取りという罪深いものがあった。
かけがえのない人の大事な人を自分が横取りする、その背徳感が堪らないのだ。
これまでは妄想の中に留まっていたが、今は違う。
堂々と寝取ることが――といっても、当然擬似的なもの――できるので、ソーナ的には万々歳だ。
何分、姉はお見合い連敗記録が四桁に迫り、親友は男に興味がないような素振り。
ソーナには大問題であったが、一子によりその問題は解決された。
姉も親友も公認で、寝取りプレイができるなんてソーナにとっては大満足だ。
勿論、彼女はコレ以外にも罪深い性癖をいくつも抱えている。
だが、素晴らしいことに一子はソーナの拗らせた性癖をも受け入れてしまう程のブラックホールだった。
ソーナから誘ってくるときは大抵、寝取りプレイから始まるので、一子としても慣れたものだ。
とはいえ、一子にとって気を遣う場面でもある。
振り回す側の一子であるが、こういう場面では相手側を気遣うことが良い関係を築くコツだと前世から思っていた。
要するにソーナを満足させるような、それっぽい振る舞いだ。
「私はリアスのことが……」
「ええ、知っていますよ? でも、私も、中々良いでしょう?」
そう言われると演技とかそういうの抜きで、一子としても言葉に詰まってしまう。
リアスとは違った良さがソーナにはあるのだ。
「一子さん、私は先輩ですから、後輩のあなたに色々と教えてあげます。リアスでは教えられないようなことも」
ソーナは一子の耳元でそうやって囁いて、そのまま彼女の耳を軽く噛んだ。
そのまま一子がソーナの勢いに流されるのは、いつも通りだった。
生徒会室での事後、一子はソーナに何故か書類仕事をさせられていた。
「ねぇ、ソーナ。何で?」
「あなたは優秀なので。それに今代の赤龍帝ですし」
「いや、だから、どうしてよ? 私、生徒会、関係ない」
「今代の赤龍帝なので」
何を言っても理由を言わないソーナに一子は頬を膨らませて、不満を示す。
「どうせリアスもいないですし、暇でしょう?」
「暇かどうかと言われると暇というわけでもないのよね。何でかというと眷属候補達の強化とか眷属探しとかしないといけないので」
「……眷属探し、ですか。どうせそこらへんからポロッと出てきますよ」
「そんな棚からボタ餅みたいなことが……」
あるわけない、と一子が言いかけたところで、彼女は探知した。
突如として現れた複数の招かれざる客の気配を。
「……お客さんみたいよ」
「はい?」
何を言っているんだ、という視線を向けるソーナに一子はジト目で返す。
「敵よ、敵」
「学校にテロリストが入り込んだら、と妄想してしまうタイプですか?」
「だから、本当なんだって」
しかし、ソーナには仕事から逃げようとしているようにしか思えない。
そもそも先の襲撃以来、駒王町は結界やら何やらで色々と強化されているのだ。
生半可な輩では入ってくることもできないだろう。
「ああもう! ソーナったら本当に鈍いんだから!」
仕方がないので一子は強硬手段に出る。
ソーナを抱きかかえて、そのまま窓から飛んだ。
「ものすごーく、気が乗りやせんが……これもお仕事でやんす」
ベンニーアは溜息を何度吐いたか、分からない。
ちらり、と彼女は傍らにいるちびっ子に視線を向ける。
見た目はただの、ちょっとぼんやりとした感じの女の子。
しかし、その実態はあのオーフィスだ。
今回の仕事は言葉にすれば簡単だ。
赤龍帝にオーフィスをぶつけて、赤龍帝を倒せ。
勿論、オーフィスだけでなく、ベンニーアをはじめとした多数の死神も参戦する。
だが、彼女は初めから乗り気ではなかった。
戦争の引き金になりかねない、ということは当然で、彼女のボスであるハーデスの考えについていけないということもあった。
また彼女の父親は穏健派の中心的な死神であったが、あまりにも慎重過ぎて結局、今回の件とルーマニアの件を止められなかった。
そんな父を持つベンニーアが駒王町への襲撃部隊、それもその部隊長に命じられたのは単純に実力があった為だ。
彼女以外にも300を軽く超える死神が参加しているが、プルートやタナトスといった側近クラスは参加していない。
だが、どれもこれもプルートやタナトスほどではないが、強大な力を持つ死神だ。
町一つを廃墟どころかこの世から消し飛ばすにはお釣りがくるほどの戦力であり、ここにオーフィスが加わるのだから負けようもない。
更には駒王町に張られていた結界やその他多くの冥界や天界への通信手段は無効化されている。
グレモリー側はルーマニアと分断されており、駒王町にはシトリーとグレモリーの残りしか存在しえない孤立無援の状況だ。
ここまで準備が整えられて、赤龍帝を倒せない筈がない。
あのオーフィスがよくもこっち側についたものだ、とベンニーアは感心と呆れが入り混じった感情を抱いているが、父から聞いた話によればオーフィスはグレートレッドを倒す為に赤龍帝を勧誘したいとか何とか。
とりあえず戦ってその後に勧誘でもするのだろう、とベンニーアは考えていた。
「そろそろ、作戦開始の時間でやんすか……」
気配を消し、駒王学園を取り囲むよう、数分前に配置が完了している。
人間に対して被害を出すのは心苦しいが、今回は赤龍帝の動きを鈍らす為にあえて、結界などを張らずに行動するように、と厳命されている。
現地の他の神話勢力との関係とかそういうことをハーデスは考慮に入れていない。
なぜなら彼は他神話との協調路線には大反対であり、必要ならば戦争になっても構わないと考えているからだ。
とはいえ、言い訳もある。
駒王町は悪魔の管理地であるので、これは悪魔陣営とギリシャ、より正確には冥府の軋轢だ、と。
ベンニーアは指示を出す。
「作戦を――」
開始する、と言おうとした瞬間だった。
窓ガラスが割れる音、同時に校舎から空に何かが飛び出した。
一瞬、ベンニーアはそちらへと視線を向け、作戦開始の指示が遅れてしまう。
オーフィスや、ベンニーアが直接率いている死神達もそちらへと視線が向いてしまう。
それが致命的だった。
複数の不可視の何かが空からベンニーア達目掛けて飛んできたのを感知した。
ベンニーアは叫んだ。
「散開!」
叫ぶと同時にオーフィスの手を引っ張って、ベンニーアもまた回避する。
見えない何かがコンクリートの地面に複数の巨大で、かつ、深い穴を穿つ。
まるで巨人が剣で斬りつけたかのようなものだ。
そして、2人は降り立った。
「ほら! ほらほら!」
「本当ですね……しかも、通信が無効化されています」
あ、やっべ――
ベンニーアの頭にはそれしかなかった。
野生の赤龍帝とソーナ・シトリーが現れた、とベンニーアは何となく思ってしまうが、そんなことをやっている場合ではない。
「で、どちら様?」
「見たところ、死神のようですね。おそらく冥府のハーデス神の配下でしょう」
「バレてしまっちゃ、仕方がないでやんす。赤龍帝、あっしらは冥府の管理人、あなたの力は世界の均衡を崩すものでやんす」
柄じゃないなぁ、とベンニーアは思いつつも、ハーデスから言われた通りに赤龍帝の罪状を述べる。
あれほどに規格外の赤龍帝の力ならば、生死の境を超えるくらいは簡単にできてしまうのではないか、というのがハーデスの見解らしいが、ベンニーアにはどうでもいい。
死神にあるまじきことだが、過去にも死者が甦った例はわりとあるので別にちょっとくらいならいいんじゃないか、というのがベンニーアの個人的な見解だ。
大抵、死者蘇生は神話に語られる人物達がやらかしたことであるのは言うまでもない。
「ふーん。で?」
「で、って言われても、あっしらはあなたを倒す為に来たでやんす。そのためなら多少の犠牲や被害も構わないので」
「それは大変ねぇ」
ベンニーアはがくっと体の力が抜けそうになった。
物凄く他人事なのだ、赤龍帝が。
「とはいえ、いいの?」
「何がでやんすか?」
「人数」
人数と言われて、人数の差がありすぎることか、とベンニーアは考えた。
そうしているうちに、シトリーが何やら携帯電話で指示を出しているのが見えたが、物の数ではない。
こっちは300人を超え、更には包囲している。
対する敵は20人もいない。
こちらにオーフィスがいることも考えれば、問題はない筈だ。
「申し訳ないでやんすが、フルボッコにするつもりでやんす」
ベンニーアの言葉に赤龍帝は不思議そうな顔で首を傾げる。
「何を言っているの? たった300人でいいのかと聞いているのよ」
ベンニーアは呆気に取られた。
オーフィスは興味津々な表情でありながらも、一歩後ろへと引いた。
「我、観戦。お手並拝見」
「え?」
マジで、とベンニーアはオーフィスを見たが、笑顔を返された。
「それに、申し訳ないけど、そろそろ私の眷属達にも働いてもらおうかなと思っていてね。まあ、眷属じゃないのも交じっているけど、そこは許して頂戴」
「援軍を呼ぼうとしても無駄でやんす! 冥界や天界とは通信も転移魔法も無効化を……」
すると、赤龍帝の周囲に幾つもの見たこともない紋様の魔法陣が描かれて、そこから次々と援軍が現れた。
ベンニーアは目を見開いた。
「私の使う魔法とあなた方の使う魔法、形式が違うので」
「聞いてないでやんすよぉ!」
ベンニーアの嘆き、しかし、赤龍帝である兵藤一子は容赦しない。
「というわけで、やっちゃって頂戴。あ、転移魔法は封じたので」
まさか、と思いつつ、ベンニーアが転移魔法陣を起動しようとしてみるが、起動途中で霧散してしまう。
ベンニーアの顔色は青くなった。
「一子様、あなたに勝利を」
カテレアは魔力を滾らせながら、ベンニーアと一子の前に立ちはだかった。
これまでの一子との修行の数々、ようやくこういった直接的な場面で役に立てることから、カテレアは非常に張り切っていた。
一子が転移させてきた輩は多い。
カテレアをはじめ、リアスと共に赴いているイリナやゼノヴィアを除いた眷属候補の面々。
そして、それだけに留まらなかった。
「やれやれ、ようやく戦闘ができる。ゲオルグ、結界だ」
「ああ」
曹操とゲオルグ、彼らを筆頭に元英雄派の面々が現れた。
瞬時に展開された結界により、暴れても何も問題が無くなってしまった。
各所にいる死神達とシトリー眷属、グレモリー眷属のみを取り込んだ、ゲオルグの技量と神器にベンニーアは脱帽するしかない。
これ、普通にこちらがフルボッコにされるのでは、とベンニーアは冷や汗をかき始めた。
「面白そうな場面だね、一子ちゃん。おじさん、張り切っちゃうよぉ!」
ベンニーアは少し遅れて転移魔法陣から現れた銀髪のおっさんに見覚えがあった。
本で見たことがあった。
旧魔王のルシファーの実子のリゼヴィムだ。
ベンニーアは背後に控えている死神達へと視線を向ける。
皆、青い顔をしていた。
今にも死にそうな顔だった。
オーフィスは参戦せず、300人と少しの死神で、赤龍帝と旧魔王の実子やその血統、その他諸々と戦って勝てというのはどう考えても無理だった。
一子が言った意味をベンニーアは痛感した。
たった300人でいいのか、と。
ベンニーアの気持ちを正確に予想したリゼヴィムは面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりに告げる。
「ねーねー、一子ちゃん。一子ちゃんだけで死神達全員と戦って勝てる?」
「まあ、普通に勝てるわね。それも面白くないし、私が何でもかんでも解決するのは良くないらしいので、眷属に仕事を振るわけよ」
「あ、すっごーい。さすがは一子ちゃん。おじさん、敵に同情しちゃうなー」
リゼヴィムはそう言いながら、ベンニーア達へと視線を向ける。
「というわけでさ、申し訳ないけど、おじさん達にぶっ殺されてくんない? 一子ちゃんにぶっ殺されるよりはマシだと思うよ?」
事務仕事ばっかりで鬱憤が溜まっているカテレアや曹操達。
面白そうなので全力を出すつもりのリゼヴィム。
死神に特に恨みはないが、一子に対する点数稼ぎをしようと考えてやる気を出しているカスピエルとレイナーレ達。
そんな彼らを見て、命は助けるようにとお願いするべきか悩み、オロオロするアーシア。
味方が強すぎて楽勝ムードなのでサボる気満々の黒歌。
ロスヴァイセとレイヴェルはベンニーア達を見て冥府に対して、そして悪魔政府に対して、良い取引カードを手に入れたとほくそ笑む。
「こ、降伏するでやんす!」
ベンニーアは武器を地面に置いて、両手を挙げた。
リゼヴィムだけでもいっぱいいっぱいなのに、そこに加えて色んなのが参戦する。
ベンニーアの決断に迷いはなかった。
彼女が直接率いている死神達からも反論の声は全くなく、ベンニーアと同じように武器を地面に置いて、両手を挙げた。
ベンニーアは降伏しつつも、今のうちに冥府の内情を悪魔側――というよりか赤龍帝にリークすることで、その取引として赤龍帝の庇護に入ってしまえば色々と楽なのではという考えが湧いてきた。
赤龍帝個人はかなり懐が深いらしく、基本的に何でもかんでも受け入れてしまうらしい。
「……え? 戦わないの? 死神としてのプライドとか色々とないの?」
一子はとても残念そうな顔で尋ねた。
その顔を見て、ベンニーアは自分の判断が正しかったことを確信する。
「どう見ても負け戦でやんす! 他の連中がやらかす前に早く降伏したことを伝えに行くでやんすよ!」
幸いにも結界内に取り込まれたということで、警戒し、他の部隊は動いていないようだ。
今ならば余計な犠牲を出すことなく、降伏できるのは確かだった。
一子は溜息を吐きつつも、告げる。
「無益な殺生はしない。私は穏健派なので」
「え、一子さんが穏健派ですって?」
指示を出し終えて、事態の推移を見守っていたソーナは耳を疑った。
「穏健派なのか?」
「過激派の言い間違いだろう」
曹操とゲオルグがぼそぼそと小声で会話。
「一子さんは穏健派だと思います! 穏やかで優しいですし……」
「アーシア、合っているけどたぶん間違っているにゃ」
アーシアのフォローを黒歌が訂正する。
そんな反応に一子はむくれるが、レイヴェルが溜息交じりに問いかけた。
「一子様、どうされますか?」
「そうね、レイヴェル。とりあえず冥界に連行。あ、でも、優しくね? 比喩じゃなくて、優しく、丁重に」
「畏まりましたわ」
「カテレア、というわけであなたに任せたから。レイヴェルと協力してうまくやって頂戴。いわゆるひとつの、良きに計らえ」
「畏まりました」
そして、一子はドヤ顔で告げる。
「これにて一件落着!」
「……一子さん、最近時代劇にハマっていませんか?」
「ええ、ソーナ。夕方にやっているので」
「そうですか……それと、終わってませんよ」
どう見ても死神ではないちびっ子――オーフィスに一同の視線が集まった。
「我、オーフィス。赤龍帝、我、完全なる静寂が欲しい」
無限の龍神様の要望であったが、一子は怯まなかった。
完全なる静寂、それを彼女はつい最近、ニュースで見たのだ。
「それ、実現できる場所があるから、連れて行ってあげる」
オーフィスは嬉しそうな顔となり、それがあまりにも可愛かったので一子は無限倉庫から飴を出してそれを渡して、さらに頭を撫でる。
「一子さん、またそんな安請け合いをして……」
ソーナは呆れ顔であったが、一子は自信があった。
「というわけで早速行きましょう。あ、ソーナ。セラに連絡して。無響室をどこでもいいから借りたいって」
「……いや、そんなので大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。完全なる静寂ってやつを体現できる筈」
一子は胸を張った。
「……静かだけど、何か違う……」
オーフィスはそう宣った。
無響室はその名の通り音の反響をゼロに限りなく近づけることができる特殊な部屋だ。
冥界の施設にある無響室を借りて、一子がオーフィスを連れてきた。
明かりを消し、声も発さずにじっとしていれば完全なる静寂を達成できると一子は考えた。
しかし、オーフィスはそれを体験した上で、上記の言葉を一子にぶつけた。
「……そんな……」
ずーん、と傍目にも分かる程に落ち込む一子にオーフィスはその頭を撫でてやる。
幼女に慰められる高校生という、ちょっとよく分からない構図であるが、見ている分には面白い。
「残念だったね、一子ちゃん。しかしまあ、冥府の連中がオーフィスとなんて……」
呉越同舟も甚だしいとセラフォルーは呆れてしまう。
サーゼクス経由でリアスからの報告も聞いており、本当にハーデスは空気が読めないとセラフォルーは溜息しか出てこない。
時代は変わり、これからは協調路線が主流となっていくだろうに、と。
「ところでセラフォルー、ルーマニアはどうなっているの?」
「あー、ちょっと外交的なやつなの。だから、サーゼクスちゃんと協議中」
どうやら予想以上に面倒くさいことになっているらしい、と一子は察した。
定期的にリアスが電話による連絡に加えて寂しくないようにとえっちな自撮りを送ってくるが、それによれば会議ばかりという話を聞いている。
一子としてはなるべく会議なんてやりたくないので、あんまり突っ込んだことは聞いていない。
「ま、私が出るような事態になったら呼んでくれれば」
「うん、そのつもり。ただ、あんまり被害が大きすぎるのは勘弁だよ」
セラフォルーはそう言い、一子が首を突っ込んでくるのをどうにか阻止した。
下手なことを言えば、世界が終わる戦いが勃発しかねないので、彼女も慎重だ。
「あ、それと襲撃してきた死神達の隊長、ベンニーアちゃんだけど」
「うん」
「色んなことを教えてくれたの。で、その対価として、一子ちゃんの庇護下に入りたいってさ。保護観察ってことで頼める?」
「いいわよ」
「じゃ、手続きしとくね」
「オーフィスも可愛いので、私が引き取るって形でいい?」
「いいよ。ちゃんと手綱、握っといてね」
わーい、とメリエルはオーフィスを抱きかかえて、撫でる。
オーフィスも嫌な顔はしていない。
「じゃ、早速ベンニーアちゃんに会いに行こっか」
セラフォルーと共にオーフィスを連れてベンニーアのところへとやってきた一子。
彼女はベンニーアを見るなり、告げた。
「お迎えでごんす」
きょとんとするベンニーア。
しかし、一子はズイッと迫る。
「お迎えでごんす」
「お、お迎えでやんす……?」
重ねて言ってきた一子にベンニーアは思わずオウム返し。
すると、一子は何かに納得したように頷いた。
「お迎えでやんす、いいわね。あなた、今日から私のお迎え役ね」
「一子ちゃん、死神をお迎え役にするって色々とアレだね」
「お迎えごんすって言わせたかったけど、お迎えでやんすの方がしっくりくるから」
「最近、漫画、読んでない? 凄腕の医者のやつとか」
「読んでいるわね」
ベンニーアはさっぱり分からず、首を傾げる。
「で、ベンニーア。あなたはこれから保護観察っていう形になるから。変なことしたらブラックホールに投げ捨てるから、そのつもりで」
「罰が重すぎるでやんす!」
「悪魔なので」
にっこり笑顔で告げる一子にベンニーアは泣きたくなった。
「変なことをしなければ天国なんじゃないかなー」
セラフォルーの言葉にベンニーアは一子をまじまじと見つめる。
「まあ、あんまり仕事させるのもアレだし……ま、テキトーな感じで遊んで過ごしてくれれば」
ところで、と一子は話題を変える。
「ベンニーアってバンシーと関係あるの? 確か、おっぱいを吸うと、大抵の願い事を3つまでなら叶えてくれるって聞いたんだけど」
「一子ちゃん?」
セラフォルーがにっこり笑顔となった。
ベンニーアは目をパチクリとさせ、オーフィスはきょとんとしている。
「あっし、そっちのベンニーアとは関係ないでやんす」
「一子ちゃん、おっぱいならそんな死神の陰気臭いのじゃなくて、私のがあるでしょ」
「……変なところで対抗されても困るでやんすが」
セラフォルーに対抗されて、ベンニーアは溜息を吐いた。
「まあ、ベンニーアは可愛いので、将来的に愛でるとしましょうか」
「あっし、もしかして来るところを間違えたでやんすか?」
「赤龍帝からは逃れられないのよ、諦めなさいな」
一子がドヤ顔でそう言い放ち、ベンニーアはがっくりと項垂れた。