「で、どう? ぶっちゃけこんな単純な手に引っかかるわけがないと思うんだけど」
一子の言葉にセラフォルーは悪戯っぽく笑ってみせる。
「ところがどっこい、ばっちり引っかかているみたいだよ」
「嘘だ!」
「本当なのよ」
「嘘やろ……」
「なぜ関西弁に?」
「たこ焼きと串カツを食べたいと思ったので」
意味不明な答えであったが、一子との問答ではよくあることだ。
欲望ダダ漏れの悪魔らしい悪魔なのでセラフォルーとしても感心してしまう。
「関係ないんだけど、邪龍に勝ったら八坂も振り向いてくれるかな?」
「一子ちゃん、京都の言葉が色んな意味で通じなさそう」
「失礼な。ぶぶ漬けが出されたら、わんこそばみたいにおかわりしないといけないくらい知っているわよ」
「居座る赤龍帝とか控えめに言って最悪だと思う」
「出されたメシは食うのが私のポリシーよ。でも、それを私がメシと認識した場合に限る」
話が異次元へと飛んでいったが、ともあれセラフォルーは元の話題へと戻す。
「いや本当に冥府の連中が引っかかったよ。あと邪魔くさい連中と手を組んでくれたから、お掃除が楽になりそう」
「ハーデスとか力ある神なのに……」
「見た目は骸骨だけどね」
もしもモモンガだったりしたら、飛び蹴りかましてやろうと一子は決意する。
「タイミングはイベント直前に?」
「そうなるかな。それまでにもっと兵隊をたくさん作ってね」
「侵攻軍のトップとして、3人目のセラフォルーとかいう便利な存在を作ろうと思うんだけど、どう?」
「サーゼクスちゃんとかアジュカちゃんでもいいよ?」
「男はちょっと宗教的な理由で……ミリキャスだったらセーフなんだけども」
「スケベー」
セラフォルーが一子の頬をつんつんと突く。
「ま、いいよ。私も3人いたほうが便利だし……仕事を分散できる」
「押し付けあって結局オリジナルがやる羽目になりそう」
「そういうこと言わないのー」
むにむにとセラフォルーは一子の頬を両手で弄り回す。
ある程度弄り回したところで手を離して問いかける。
「で、今どのくらいの人数がいるの?」
「冥府を問題なく占拠できる程度」
「万が一を考えたら足りないかも」
「全員魔王級だけど、やっぱり足りないかー……埋め尽くす程度にまで増やしとく」
「そうしといて。ね、一子ちゃん。私、子供が欲しいなー?」
「脈絡なさすぎでは?」
「と言いつつも、一子ちゃんの手が私のお尻を撫で回しているんだけど……このスケベー」
そんな感じで一子はセラフォルーと濃厚な一時を過ごすことになった。
一方、アザゼルはサーゼクスに呼び出され、相談相手になっていた。
悪魔が堕天使に相談するなんぞ、世の中変わったものだとアザゼルは思うが、相談内容は一子のことであるので彼も無関係ではない。
「なあ、アザゼル。どうすればいい?」
「俺に聞くな。基本的にはお前らの問題だろう」
サーゼクスの問いにアザゼルはそう答えた。
セラフォルー経由での一子の提案、その準備は驚くほどに順調だ。
いつもなら文句を言ってくる老人達も協力的で、その理由も簡単に予想がついている。
仕掛けてくるという確信がサーゼクスら現政府の面々にはあった。
そんな状況でありながら、サーゼクスは困っていた。
冥府の連中やご老人達の処理は一子とその兵隊だけで事足りるどころか、お釣りがくる。
問題は、尋常ではない程に肥大化した兵力は一子の命令しか聞かないということだ。
しかも、その兵達は例外なく魔王に匹敵する力を保有している。
今更といえば今更でしかないが、それでもやっぱり色々と問題であるのは間違いない。
「ご機嫌を取るしかないんじゃないか? いつものように」
「いつものようにか……タチの悪いことに残っていた旧魔王派も一子さんと繋がりを持っているらしい」
シャルバやクルゼレイといった一子の逆鱗に触れた者達ではなく、冥界の辺境で大人しくしていた連中だ。
カテレアが橋渡しをしたらしく、関係は良好だとセラフォルーから報告がサーゼクスのもとにきていた。
また、月に数回程、カテレアの領地で彼らも出席する大規模なパーティーが開かれるのだが、一子はそっちにも顔を出しているとのことだ。
カテレアが旧魔王派に属する女達を一子に献上しているのは間違いないというのがセラフォルーの予想であり、サーゼクスらもそうだと確認している。
「……まあ、仕方がないんじゃないか?」
うちも堕天使の女の子、追加で送り込んで関係を強化しておくか、とアザゼルは考えながらそう答える。
「ところで邪龍達をそのまま一子さんが滅ぼすと思うか?」
「思わねぇな。アイツは絶対、邪龍達をペットにするとか考えているぞ。邪龍達も自分を倒した相手になら従うだろうしな……しかも一子の性格的に奴らとウマが合うだろう」
アザゼルはそう言いながら、顎に手を当てる。
悪魔陣営は三つ巴だ。
サーゼクスら現政府、昔ながらのご老人方、そして一子。
一代で大勢力を築き上げた上、どこも対抗できない一子が色んな意味でヤバいのは言うまでもない。
造物主みたいなことをぽんぽんやらかして、今回邪龍達を従えてしまったら、誰も勝てなくなるだろう。
おまけに今回の戦い後には、クロウ・クルワッハも一子と決闘を望むだろうから、それで一子が勝ってしまえば配下とまではいかないまでも、彼が食客以上の関係になることは間違いない。
ちょっとあの勢力、潰してきてとか言って邪龍達を一子が雑に解き放ったら目も当てられないことになる。
基本的に邪龍達は好戦的なので、嬉々としてその指示に従うだろう。
「そもそもの話、一子は勝てるのか? 6体同時だぞ?」
「セラフォルーが聞き取り調査をしたところ、覇龍を完全に扱えているそうだ。そこに色んな力が加われば……勝てるんじゃないか?」
「異空間じゃなければ世界が何十回も滅びそうだ。本当にとんでもねぇのを抱え込んだな、お前ら」
一子が所属していることに対する羨望と嫉妬、その反面で彼女関連の問題を抱え込まなかった安堵を込めてアザゼルは告げる。
サーゼクスは肩を竦めてみせると、そこへ天界からの専用通信が入った。
ミカエルとのホットラインで、これで連絡が来るということは重大かつ緊急事態である。
「俺は席を外そうか?」
「……何となく嫌な予感がする。ちょっと待ってくれ」
サーゼクスはアザゼルを引き留めて、通信に出た。
『ああ、ちょうど良いところに……』
アザゼルの顔を見たミカエルの第一声がそれであり、これは三大勢力を巻き込んだ案件だとサーゼクスとアザゼルは悟った。
「で、何だミカエル? あんまりよろしくない連絡のようだが」
「イベント関連で何か問題が?」
アザゼルとサーゼクスの問いにミカエルは笑ってみせる。
朗らかなものだ。
『トライヘキサってご存知ですか? 主が大昔にこっそりと世界の果てに封印した
アザゼルとサーゼクスはミカエルの笑み、その意味を悟った。
もう笑うしかない、そんな状況なのだと。
「おい待て、何でこのタイミングで連絡してくるんだ!」
アザゼルは不吉なものしか感じていない。
サーゼクスは深く溜息を吐き、諦めたかのように首を左右に振った。
『あ、大丈夫です。まだ存在を確認しただけで、トライヘキサ自体は幾千の封印により眠りについていますから。もしも一子さんが察知してしまった場合、大変よろしくないことになるのではないか、と思いまして……』
ミカエルの言葉の意味を2人は察した。
ただでさえ、滅びた邪龍達を蘇らせて戦ってペットにしようとかおそらく思っているだろう一子である。
トライヘキサをペットにしようとか言い出しかねず、面白いことが三度のメシより大好きなリゼヴィムも存在を知れば積極的に後押しするだろうし、彼が熱心かつ勤勉に寝食を忘れて封印解除の為に働く可能性すらあった。
『念の為に危険なものは事前に探して保管しておこう、と以前より活動していまして……まさかとは思ったのですが、本当に存在するとは思っていませんでした』
「率直に言うが、そちらから適当な人材を抑えとして送り込んで欲しい」
サーゼクスはミカエルに告げると、彼は深く頷いた。
『眷属にはしないという条件を一子さんに提示して、それを受けて頂けるならば天界との連絡役という名目でガブリエルを送り込みます』
大物の登場にアザゼルとサーゼクスは驚くが、それくらいの者でなければ一子の抑えにはならないのも確かだ。
「特大の爆弾を抱え込んでいるみたいなもんだが……」
そう言いながらアザゼルはちらりとサーゼクスを見る。
彼はコメカミを抑えていたが、手放すつもりはなさそうだ。
一子を悪魔陣営が手放したら、アザゼルは勧誘するつもりだ。
色んな問題とかやらかしとかそういうのを差し置いても、やっぱり魅力的なものは魅力的だ。
ミカエルもまたそうであろうし、他の神話体系もそうだろう。
特に帝釈天は一子をえらく気に入っているという。
彼の出身であるインド神話なら一子が混じってもあんまり違和感がない為、ある意味では適切かもしれない。
「詳しい日程を聞かせて欲しい。あとミカエル、一子さんのことで相談にのってほしい」
『悪魔が天使にそう言うなんて、随分と世の中が変わったものです』
「一子さんの影響だ」
三大勢力トップによる一子への悩みは非常に深く、話し合いは数時間にも及んだ。
セラフォルーとの一時を堪能した一子であったが、セラフォルーが仕事に行くとのことで見送った後、寝室から出た。
部屋から出てすぐのところには待機していたのかカテレアがいた。
リゼヴィムを一子が眷属候補としたあたりから崇拝のレベルが酷いことになり、一時は頭を下げるどころか廊下だろうが平伏していたくらいだが、最近はかなりマシになった。
「一子様、次のパーティーは邪龍との戦闘後になります。盛大にやりたいと思いますので……」
「ええ、よろしく頼むわ」
旧魔王派――今では有力な者がカテレアしか残っていない為、彼女が名実共に指導者となっている。
カテレアの忠誠に対し、一子は報いていた。
その最たるものは残存している旧魔王派は勿論、旧魔王派であることを表明していないが裏で支持はしている者達は全て一子の庇護下においていることだ。
この影響により、先の内戦以降、行方知れずとなっていたり、断絶したと思われていた家系の者達も少しずつだが一子の下に集まり始めている。
現魔王達のような若造には従いたくないが、造物主の如き力を持っている一子なら話は別というのが彼らの本音だ。
無論、現政府の面々にこういう動きがバレていることは承知の上だ。
セラフォルーとは深い関係だが、サーゼクスらに遠慮なく情報を流すと一子は初めから想定していた。
こと裏切りや内通に関しては一子は嗅覚がよく優れている。
むしろ、優れていなければ生き残れなかったのが前世のリアルでのお仕事だ。
とはいえ、彼らがどうすることもできないことも一子は知っており、むしろセラフォルー経由で情報がサーゼクスらに早く伝わる分、彼女をスポークスパーソン代わりにしていた。
「一子様、私もあなた様の子を……」
潤んだ目でそう懇願してくるカテレアに一子の返事は決まっている。
「勿論よ。さっきまでセラフォルーがいた寝室で抱いてあげる」
セラフォルーに匹敵する程の実力をカテレアは一子とのこれまでの修行により身につけていたが、対抗心は忘れていない。
こう言っておくとカテレアの乱れっぷりが凄まじいことになるのを、一子はこれまでの経験から知っていたのだった。