やべー奴が赤龍帝になりました。   作:やがみ0821

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闘争者達

 冥界最大のスタジアムは観客達でいっぱいであり、また各神話の神々も用意されたVIPルームに勢揃いしていた。

 レーティングゲームのトップランカー同士の試合でもここまで観客は来ないだろう、と関係者達に思わせる程に。

 

 座席は勿論、通路にも立ち見の観客で溢れかえっていた。

 

 邪龍達と赤龍帝の戦いが決定してから僅か2週間で開催を迎えることになったのは、関係各所の努力は勿論、単純に戦いを見てみたいという思いの強さによるものだろう。

 

 邪龍を蘇らせたこと自体が大問題であるのだが、三大勢力の中では天使陣営の一部が問題視した程度だ。

 他神話の神々――特に帝釈天をはじめとした武神達からは大絶賛された。

 基本的に神々というのは娯楽に飢えており、また無理難題な試練に挑み、それを突破する者が大好物だ。

 

 邪龍6体を敵に回して、たった1人で戦うというのは神々にとってはまさに最高の娯楽であり、それが成し遂げられたならば竜殺しの英雄の誕生だ。

 

 またその邪龍6体のうち2体、アジ・ダハーカとアポプスだ。

 クロウ・クルワッハとこの2体は邪龍の筆頭格に挙げられる存在であり、他の邪龍達よりも強大だ。

 

 しかしながら、この2週間で一子はイチャイチャしながらも、邪龍について調べ尽くしていた。

 

 アジ・ダハーカ、アポプス、グレンデル、八岐大蛇、ニーズヘッグ、ラードゥン――

 

 名だたる邪龍達であるからこそ、その記録も詳細かつ大量に残っている。

 情報は山程あったが、それでも一筋縄ではいかないと一子は予想していた。

 

 だからこそ、彼女はいつものような余裕のある振る舞いをやめる。

 率直に言えば――戦闘直前に禁手化し、全てのバフや強化系スキル――種族固有のものも含む――を掛け終え、ガチの装備を纏った状態で望むことにした。

 

 ルール無用の殺し合いであるから、一子は遠慮なくエリクサーやら何やらのユグドラシルのアイテム類を使用するつもりだ。

 

 

 まだ実況や解説はない。

 異空間に転移した後に実況と解説を始めるということになっている。

 プライドが高い邪龍達が実況や解説によって、へそを曲げないようにする為の措置だ。

 

 彼らがスタジアムのコートから異空間に転移することを承諾しただけで、奇跡みたいなものだろう。

 また邪龍達が勝手に暴れないよう、クロウ・クルワッハが睨みを利かせてくれていることも大きな要因だ。

 彼は意外にも今回のことには協力的で、戦いまでの間、邪龍達の監視を一子が頼んだらあっさりと承諾してくれた。

 

 彼も一子がどこまで戦えるか、見たいのかもしれない。 

 

 

『相棒、いよいよ晴れ舞台だな』

 

 ドライグの声に一子は小さく頷くに留める。

 柄にもなく緊張しているらしい彼女にドライグは驚いてしまう。

 既に禁手化しており、更にバフも強化スキルも装備も万全だ。

 

『お前も緊張するんだな……』

『当たり前じゃないの。大仕事よ』

『まあ、勝てばお前は間違いなく誰にでもデカイ顔ができる。こんなことをした奴なんて、どの神話にもいないからな……むしろお前が神話になればいいんじゃないか?』

『神話という柄じゃない。精々中学生が書いた黒歴史ノートレベル』

 

 一子の言葉にドライグは大爆笑する。

 その笑い声を聞きながら、彼女は深呼吸した。

 

 戦いの前に別れを済ませるとかそういうことはやっていない。

 前世のリアルでも、大きな仕事の前は常にいつも通りに過ごすことでリラックスをして、成功してきた。

 その経験を踏まえ、変なことやいつもとは違うことはしない方が良いと考え、それをリアス達にも事前に言ってある。

 

 アーシアは性格的に色々と言いたそうな顔であったが、それでも彼女は普段通りに祈りを捧げ、いってらっしゃいと言うだけに留めた。

 

『……しかし、呆れたものだ。ちらっと見る限りでは観客に偽装したお前のメイド達がかなりいる』

『万が一よ、万が一。私が狙いだろうけど、民間人に死傷者が出るとマスコミと人権団体がうるさいから。まあ、彼らとも私らしく(・・・・)お話すればいいんだけど』

『万が一で魔王級の力があるメイドとかいうふざけた存在を数百人も警備に配置するのか?』

『スタジアムの内外をはじめ、私が襲撃側だったら絶対ここを攻撃するっていうところにたくさん配置してあるのよ。昔取った杵柄というやつね。それに勿論、それだけじゃない(・・・・・・・・)

 

 一子の言葉をドライグは正確に理解する。

 警備という体裁であるが、それは攻撃に転用できる兵力だ。

 

 一子は民間人云々というのは建前で、女の子が傷つけば悲しむくらいはするが、それだけだ。

 老若男女の区別も例外もなく、目的のために犠牲にできる。

 100万単位で死んだところで何とも思いはしないだろう。

 いや、むしろ葬儀屋が儲かるから株でも買っておけばよかったくらいは言いそうだ。

 

 生まれたときから死ぬときまで己の思うがままに振る舞い続けるのだろう。

 それでこそドラゴンらしい生き方だ。

 

 ドライグはそんなことを考えながら告げる。

 

『歴代の赤龍帝には色々いたが、お前みたいな奴は本当に初めてだ』

『今更気がついたの? やはり所詮はトカゲね。あと私が最後の赤龍帝よ。死ぬつもりはないので』

 

 一子の言葉にドライグは笑ってしまう。

 今まさに自らが望んだこととはいえ、命の危機が迫っているのにこの言い草だ。

 先程の考えをドライグは訂正する。

 

 一子は地べたを這いつくばってでも生きることにしがみつきそうだし、どんなに無様なことになろうとも決して諦めないだろう。

 

 永遠の強者など存在しないことはドライグが何よりも分かっている。

 一子とていつか弱者となるときがくる。

 だが、彼女はその立場であることが我慢ならない筈で、意地でも這い上がるだろう。

 

 それこそがドラゴンと一子の決定的な違いだ。

  

『ああ、そうだな。お前は殺しても死にそうにはないし、世界が終わるなら別の世界にいきそうだ』

『そういうことよ。さて、じゃあそろそろ始めましょうか。向こうも出てきたことだし』

 

 スタジアムが大歓声に包まれる。

 向かい側から巨体が6つ、ゆっくりと出てきた。

 微妙にあちこちを破壊しているのはご愛嬌だ。

 

 付き添いであるクロウの姿も見えた。

 

『ドライグ、色々と考えたけど、とりあえず私の剣や持っている武器は通用するってことでいいかしら?』

『むしろ、通用しないほうがおかしい』

 

 ドライグの言葉に一子は不敵な笑みを浮かべた。

 

 そして、彼女の足元に転移魔法陣が浮かび、異空間へと転移する。

 

 

 

 

 

 

 異空間はどこまでも続く草原だ。

 すぐに一子から目と鼻の先に邪龍達が転移してくるが、律儀に連中の口上を聞いてやる必要などない。

 クロウも間近で観戦したいのか、あるいは途中から参戦するのか一緒についてきたが、そこも一子の想定内だ。 

 

 そして彼女は斬りかかった。

 最初に倒す相手を事前に選んであった為、その行動に一切の躊躇はない。

 

 物凄い速さで一子が向かってきた巨大な木の形をした邪龍――ラードゥンは仰天した。

 

 慌てて障壁を構築するが、間に合わない。

 ラードゥンは生身の防御もグレンデル程ではないが硬い。

 しかし、一子が持っている剣――ガラスのような刀身であり、脆そうな印象を受ける――は本能で脅威を感じた。

 

 直後、ラードゥンはこれまで味わったことがない痛みに叫びながらのたうち回る。

 レーヴァテインはラードゥンの頭に深く突き刺さったのだ。

 

 

「最高に痛いのを頭に叩き込んでやる! 科学を舐めんなよファンタジー!」

『お前が誰よりもファンタジーの極みだろうに』

 

 思いの外、初撃がうまく決まったので一子が軽口を叩くとドライグがツッコミを入れる。

 これもまたいつも通りだ。

 

 そして、一子はレーヴァテインを振り抜いて、ラードゥンの頭を半ばから切断する。

 重力に従って切断された部分が地面に落下していくが、そんなものには見向きもせず、胴体と繋がっている残った頭部、その切断面に手を当てる。

 

 彼女は唱えた。

 

核爆発(ニュークリアブラスト)

 

 核爆発が巻き起こり、ラードゥンは頭部の切断面を中心に核の炎に包まれる。

 一子も核爆発に巻き込まれるが、彼女の耐性は引き起こされる全てのデバフやノックバックを無視できた。

 

 しかし、彼女には油断も慢心もない。

 他の5体はまだ動けていないうちに、ラードゥンを殺して――はペットにできないので、封じる必要がある。

 

 封じ方は物理的なものだ。

 一子がこれを提案したら、ドライグは呆れながら封じることができると断言した。

 

 そのやり方は簡単であるが、彼女にしかできない。

 

 一子は無限倉庫にある膨大な数のドラゴンに対する特攻付きの武器をラードゥンの巨体に射出する。

 

 数多の廃人達や準廃達が遺していった武器だ。

 現実化したそれらは、まさしく神話にあるような竜殺しの武器と化している。

 

 ラードゥンの巨体が瞬く間に数多の武器が突き刺さっていく。

 もはや叫ぶ力も残されていないのか、ラードゥンは巨体を痙攣させるだけだ。

 

 そこへ雄叫びを上げながらグレンデルが殴りかかってきたが、単純な軌道に一子はひらりと回避する。

 

「赤龍帝! お前はそれでもドラゴンか!? 竜殺しの武器をこんなに使いやがって!」

「うるさいわね、デンマーク産トカゲ。私がやる分にはいいのよ」

 

 真正面から一子はグレンデルの拳をレーヴァテインで受けた。

 そこでグレンデルは驚愕する。

 

 自らと力が拮抗していることに。

 

「忠告してやる、デンマーク産トカゲ。私の剣に触れていると、大変なことになるわよ?」

 

 その意味をグレンデルはすぐさま悟った。

 レーヴァテインの刀身に触れていた部分から一気に白い炎がついた。

 グレンデルですらも熱さと痛みを感じる程で、慌てて拳を離す。

 

「まったく、タブラ達に感謝しないとね」

 

 レーヴァテインの設定は詰め込みすぎではないかというくらいにアレコレ付け足されている。

 神殺しからはじまり、不死殺しや竜殺し、変わったところではスライム殺しなどなど、色んなものを殺したという設定だ。

 それこそ、この剣だけで神話の一つでも書けそうなくらいに。

 そして、その詰め込まれた設定の中にはありきたりなものもあった。

 

 レーヴァテインは一子――メリエルにのみ触れることを許しており、彼女以外の者が触れた瞬間に、どのような存在であろうと魂ごと焼き尽くす。

 剣などの武器や盾で防ぐ分には発動しない――もしも発動していたら曹操が渡月橋で消し炭になっている――が、グレンデルのように拳で殴りかかってくる相手には効果覿面だ。

 

 一子としては設定が現実化したことによるレーヴァテインの予想外の強化だ。

 元々の剣としての攻撃力や頑丈さに加え、生物相手ならレーヴァテインが自動で焼いてくれる上、数々の特攻が付与されている状態だ。

 

 しかし、グレンデルはこの程度で怯むわけがない。

 戦いこそ己の存在意義であるとしている存在だ。

 

「武器なぞ使ってんじゃねぇ!」

 

 防がれることを承知でグレンデルが殴りかかる。

 その拳を一子は剣で防ぐが、彼は蹴りを繰り出してきた。

 巨体からの一撃に対し、一子は唱える。

 

核爆発(ニュークリアブラスト)

 

 ダメージを与えられなくとも吹き飛ばすことはできる。

 さすがのグレンデルもよろけてしまい、そこへ一子は追撃を仕掛ける。

 

 最強化、三重化した現断(リアリティ・スラッシュ)が放たれた。

 グレンデルは回避できずに真っ向から受け、その足に引っかき傷がついた。

 

「いてぇじゃねぇかこの野郎!」

「いてぇで済ますなトカゲ野郎!」

「お前だってトカゲじゃねぇか!」

 

 グレンデルと一子の売り言葉に買い言葉。

 そこへアジ・ダハーカが魔法を放つ。

 空一面に展開された魔法陣は五桁を超える数だ。

 

 お遊びは一切ない、一子を強者と認めたからこそ放つ全力の魔法攻撃。

 当然グレンデルも巻き込まれるが、味方というわけではないので問題はない。

 チームプレイとかそういう単語は邪龍達には基本的に存在しないのだ。

 

「おい! 俺も巻き込むぞ!」

「知らない知らない」

「巻き込まれる方が悪い」

「そこにいると邪魔だ」

「うるせぇぞ! この三つ首!」

 

 漫才みたいなやり取りをしている中、一子はさっさと退避行動に移る。

 

自己時間加速(タイム・アクセラレーター)

 

 攻撃ができないというデメリットがあるものの、時間の流れを遅くできる魔法を彼女は使用する。

 マップ兵器みたいなことをしやがって、と一子は内心悪態をつきながらも、こういう理不尽な攻撃には慣れっこで対処法も心得ている。

 

 そして、全ての魔法陣からほぼ同時に多種多様な魔法が放たれた。

 安全な場所はどこにもなく、どこかで一箇所に留まって耐えるだろうとアジ・ダハーカは予想したのだが―― 

 

「おほっ!」

「すげぇ!」

「これは……初めてだ」

 

 アジ・ダハーカは驚愕する。

 一子は降り注ぐ数多の魔法を高速で空を飛びながら回避していた。

 さながら曲芸飛行のようで見ていて惚れ惚れするほどだ。

 

 しかも魔法に掠ることなく、僅かな隙間を縫うように彼女はうまく避けていく。

 まるでこういう攻撃を何度も受けたことがあるような、熟練した動きだ。

 

 アジ・ダハーカにとって己の魔法攻撃をこのように回避されたことは初めてだった。

 

 そこでアポプスが動く。

 彼は人型から変化し、その真の姿を露にする。

 それは銀色の三つ目を持つ、体長100m以上の大蛇だった。

 

 天空にある太陽を彼は自らが作り出した闇の球体で覆っていく。

 やがて完全に太陽が覆われ、アポプスの禁術が発動しようとしたそのとき、アジ・ダハーカの魔法攻撃が終わった、

 

 一子は次の一手をすぐさま打つ。

 

 

 

 ラードゥン以外の全ての邪龍達――クロウも含む――は目を見開き、天空に現れたそれを見上げる。

 

 元々あった太陽は闇の球体で完全に覆われたが、アポプスが構築しようとした暗黒の世界にはならなかった。

 

 空には新たな太陽が存在していた。

 しかも、それはどんどんと近づいてきて――早い話が落ちてきていた。

 

 

「太陽を落とすなんて洒落にならないぞ!」

 

 さすがのグレンデルもこれには度肝を抜かれた。

 

 すかさずアジ・ダハーカが全力でもって落ちてくる太陽に対して無数の障壁を展開する。

 幸いであったのは太陽が本物よりも遥かに小型であり、また落ちてきているの真正面からで、障壁をそちらへ全て集中させることができた。

 

 ラードゥンを最初に仕留めたのはこの為か、と邪龍達は理解する。

 ラードゥンが動けていたならば、アジ・ダハーカと協力して――そもそも邪龍同士が協力することが奇跡みたいなものだが――落ちてくる太陽を障壁や結界で容易に抑え込めただろう。

 

 しかし、ラードゥンは竜殺しの武器で串刺しにされて虫の息で魔法行使どころか、身動き一つとれない状態だ。

 

 アポプスは問いかける。 

 

「グレンデル、太陽を受け止めて投げ返すことは……」

「できるか! アポプス! お前がやれ!」

「あいにくと太陽は苦手でな」

 

 アポプスの答えにグレンデルはニーズヘッグへ問いかける。

 

「ニーズヘッグ! お前は?」

「お、俺ができると思うか?」

「じゃあ八本首!」

 

 八岐大蛇という名前を忘れたのか、それとも発音しにくかったのか、ともあれグレンデルは問いかけた。

 完全復活している為、意思疎通もしっかりとできるが故に――彼らは8本の首を左右に振った。

 リーダー格らしい1本の首が告げる。

 

「無理言うな」

 

 その言葉にグレンデルはやるしかねぇか、と気合を入れたところで――クロウが動いた。

 

 彼は人型から漆黒のドラゴンとなり、太陽を迎え撃つ体勢を取った。

 

「クロウの旦那!」

「俺が参戦しても別に構わないだろう」

 

 クロウとしては今戦うか、後に戦うかの違いでしかない。

 彼が望んでいた1対1の決闘ではないが、こんなにも激しい戦いを見せられて我慢できるわけがなかった。

 

 太陽がアジ・ダハーカの展開した数多の障壁と接触するが、止まらない。

 遥かに小型とはいえ、その質量・熱量ともに生半可なものではない。

 唯一の救いは落下速度がそれほど速くはないことだ。

 

 各々がブレスを放ち、また同時にその膨大なオーラを放出する。

 アジ・ダハーカも障壁に加え、様々なものを召喚し、あるいは魔法により攻撃を加え、更には滅多に使わないブレスまでも吐き出した。

 特にクロウの攻撃は強烈で、異空間そのものが壊れるのではないかと思うほどの威力だ。

 邪龍達の総攻撃により、太陽はあっという間に消し飛んだ。

 

 

 

 そのとき、どこからか拍手の音が響き渡る。

 同時に声が聞こえてきた。

 

『さすがは名だたる邪龍達。真正面から潰されるなんてね。だけど、おかわりはまだあるわよ?』

 

 次々と太陽が顕現した。

 その数はラードゥンを除いた邪龍達と同数の6個で、空中に静止している。

 いつでも落とせるぞ、という明確な意思表示だ。

 

『ラードゥンの分は減らしといたから。太陽を落とされるっていうのも中々できない体験だと思うので、よく味わって欲しい』

「お前、馬鹿だろ!?」

 

 グレンデルが叫んだ。

 その叫びにクロウ達も心の中で同意する。

 

 彼らはまだやる気だった。

 相手が強ければ強い程、燃えるのが邪龍――否、ドラゴンというものだ。

 しかし、そこでアジ・ダハーカが口を開いた。

 

 邪龍達の中でもっとも魔法に精通しているからこそ、彼は見抜いたのだ。

 一子が使っている魔法はこの世界の魔法ではない、と。

 

 魔法陣も出ず、唱えただけで効果が出る魔法。

 まるで過程を省略して結果だけが顕現した、規格外の代物だ。

 

 そんな魔法、アジ・ダハーカは知らなかった。

 彼はどこでその魔法を得たのか、聞きたいという思いの方が強い。

 

「俺としては色々と珍しいもんも見れて、いい感じに喧嘩もできたし、たぶんこのまま一方的に太陽を落とされ続けるだけだから、もういいんじゃねって思うんだけど……」

「だって一子だし! 絶対性格悪い!」

「そうそう! あいつは喧嘩じゃなくて戦争してる!」

 

 喧嘩ができて珍しいもんが見れればそれでいい、というのが彼のスタンスだ。

 彼は言葉を続ける。

 

「それに一子についていくと、面白い(・・・)ことになるだろうよ」

「歴代でもっとも異質な赤龍帝だよ!」

「お前達だって分かるだろう! 特にクロウ! それなりに長い付き合いなんだろ?」

 

 名を呼ばれたクロウは頷くことで肯定する。

 彼はルーマニアでのあの光景を思い出す。

 

 死者蘇生のやり方はあちこちの神話に色々あるが、それらは全て禁術扱いだ。

 生と死のバランスを崩す云々という理由もあるが、基本的に難易度が極めて高いこともある。

 

 しかし、一子は完全に死んでいたヴァレリーを蘇らせた。

 たった一言、唱えただけで。

 

「ああ、そうだな。だが、それでも挑まないわけにはいかない」

 

 闘争の果てに倒れる、それもまた良い――

 

 しかし、アジ・ダハーカの中央にある首が呆れたように告げる。

 

「いや、そもそも戦いになってねぇだろ。太陽、どうするんだよ?」

「空を飛べばいい」

「そりゃそうだけど、絶対に碌でもないことになるぞ?」

「話は終わりだ」

 

 クロウは先陣を切って、空へと飛び上がった。

 ああもう、とアジ・ダハーカも仕方なくそれに従う。

 

 実際のところ、ラードゥンを除けばあまり消耗していない状況だ。

 戦うには十分な余力が残っているのに、戦わないという選択肢はない。

 

 僅かに遅れて、次々と他の邪龍達も空へと飛び立つのだが――異質であったのは八岐大蛇だ。

 翼なんぞない為、ここでリタイアかと邪龍達は思ったのだが――翼もないのに空へと浮かび上がってきた。

 

 東洋の神秘というやつか、とクロウ達は思わず感心してしまう。

 

 そこへ一子からの攻撃が襲いかかる。

 それは斬撃であった。

 

 斬撃を飛ばすというのはよくある技術の一つだが、そこらのものとは威力が桁違いであった。

 強固な防御を誇るグレンデルといえど、真正面から受けては真っ二つに斬り裂かれてしまうだろうと思う程に。 

 

 だが、彼らの進撃をこの程度では止められない。

 

 

 

 闘志を剥き出しにして迫ってくる邪龍達に一子は溜息を吐いた。

 

「そろそろバフの効果時間が切れるんだけど……」

『やるしかないな』

「じゃ、あなたも出なさいな。バフの掛け直しと例のアレをするために時間稼ぎをして頂戴」

『ああ、分かった』

 

 赤龍帝の籠手、その宝玉が眩く光り輝き、彼は一子の前に顕現する。

 

 二天龍の片割れ、赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホは迫りくるクロウ達へ挨拶代わりに炎のブレスを吐き出したのだった。

 

 




たぶんあと5話以内で終わります。
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