駒王学園のオカルト研究部の部室が今回のレーティングゲームの集合場所だった。
一子が一番最後で、彼女が到着したときには全員が揃っていた。
「お待たせしたわね。少し、英気を養ってきた」
「あらあら、石鹸の良い匂いがしますね」
朱乃の言葉にお風呂に入ってきたの、と返す一子。
しかし、その言葉通りに受け取るようなリアスと朱乃ではなかった。
小猫も何やら感じ取ったのか、スケベです、と小さく呟き、木場は肩を竦めてみせた。
そんなとき、魔法陣と共にグレイフィアが現れた。
「皆様、あと5分程でお時間です。時間になりましたら、こちらの魔法陣へ」
彼女の言葉と同時にまた別の魔法陣が展開される。
「なお、今回のゲームはご両家の皆様に中継され、魔王ルシファー様もご覧になります」
グレイフィアの説明を受けながら、一子は全力で行くことを決意する。
『おいおい、少し本気を出す程度ではなかったのか? 朝令暮改っぷりが凄まじいんだが?』
『いや、何か、雰囲気的に全力でやりたい気分なので……装備は出さないから』
『ああ、そうかい。それは安心だ』
そんなやり取りをしていると、グレイフィアが告げる。
「お時間です」
グレイフィアの声にリアスは眷属達を見回す。
彼女が何か言うよりも早く、一子は告げる。
「リアス、連中はどうやらもう勝った気でいるみたいよ?」
その言葉にリアスは不敵な笑みを浮かべて、告げる。
「では教育してやりましょう」
転移した先は変わらずオカルト研究部の部室だった。
しかし、そこに放送が入る。
今回は駒王学園を再現した異空間であること、制限時間は人間界の夜明けまでなどなどの説明だ。
「さて、まずは……」
リアスがそう言ったとき、一子が手を挙げる。
「はい、一子」
「私としては先に広い空間を抑えたい。狭い場所でもいいんだけど、周囲の被害が洒落にならないと思うの」
「ええと、一子。あなたの攻撃手段は?」
基本的に何を聞いても今代の赤龍帝なので、としか一子は言わない。
リアスとしては禁手化が鎧姿であったことから、殴ったり蹴ったりと肉弾戦が得意なのだろう、と予想はしていた。
「オールラウンダーってところかしらね。便利よ?」
答えているようで答えていない。
リアスは自分がまだ認められていないのでは、と思いつつ、しっかりしないといけないと奮起する。
「一子先輩、答えているようで答えていないです」
「驚く姿が見たいので」
小猫の言葉に対する一子の返答にリアスはがくっと体が崩れそうになった。
「一子、攻撃手段は?」
改めて、リアスは尋ねた。
一子はくすり、と笑って告げる。
「近距離から超遠距離まで。武芸百般だけど、得意なのは剣かしらね。勿論、無手でも戦える。あと魔法を少々」
「部長、一子さんには遊撃として自由に動いてもらったほうが良いかと」
朱乃の言葉にリアスは頷きつつ、告げる。
「一子、それじゃ真っ直ぐに敵の本陣へ向かって」
「了解したわ」
一子は旧校舎からまっすぐに運動場へと出る。
それはもう堂々と歩いており、傍目には奇襲してくれと言っているようなものだった。
「……強いことは知っていますが、本当に良かったのでしょうか?」
「言わないで、朱乃。私もちょっと後悔しているの」
そんな堂々とした一子を旧校舎から眺めて、朱乃の問いかけにリアスは軽く溜息を吐いた。
規格外であるというのは理解している。
だが、実際にどの程度か、というのは分からないというのがリアスの本音だ。
彼女の予想では朱乃よりは強い、というもの。
「部長、僕が援護に回りましょうか?」
木場の問いかけにリアスはしばし考える。
「いいえ、こちらはこちらで動きましょう」
リアスはホワイトボードに貼り付けた地図に視線を向け、自身が考えた作戦を手早く説明し始めた。
『なあ、相棒。これ、ふざけているのか、と言われるぞ』
『酷いわね、私は大真面目よ』
運動場を新校舎へと真っ直ぐに歩く一子。
背後の旧校舎からリアスを除いた面々が飛び出していく気配を察知しながら、ただ歩いていた。
『ドライグ、あなたが私に奇襲を掛けるなら?』
『超遠距離からブレスを食らわせるに限る。お前を知っていれば、近寄るのは危険だ』
この世界で誰よりも実力を知るからこそ、ドライグは一子の狙いが手に取るように分かる。
あからさまな誘いだ。
『リアスは私が赤龍帝であることを自分の眷属以外の誰にも告げていない。私は眷属になって日が浅い、修行をしたとしても付け焼き刃』
『だろうな。向こうはお前をド素人だと思っているだろうよ』
そのときだった。
新校舎からライザーの眷属達が疾走し、自分を取り囲むのが見えた。
彼女達からすれば一子が捉えられない速度でやってきたつもりなんだろうが、あいにくと一子からすると非常に遅かった。
そんな中に混じって、1人、変わったのがいた。
「何か1人、数合わせみたいなのがいるわね……」
「ちょっと聞こえているわよ!」
当人にもその自覚はあるらしかった。
一子の言葉に言い返したのは典型的なお嬢様であった。
「えーと、1人、2人、3人……8人か」
一子は指折り、自分の周囲にいる人数を数えた。
「この間のようにはいかない」
拳闘士が闘志を漲らせて、拳を構えた。
「ちなみに、あの方はレイヴェル・フェニックス様でライザー様の実妹だ」
「あ、そうなんだ。あの男にこんなに綺麗な妹がいるなんて、遺伝子って不思議よね」
のほほんとそんなことを言われ、レイヴェルは困惑する。
何なんだこいつ、自分の状況が分かっているのか、と。
「イザベラ、さっさと勝負をつけるがいい。口だけのド素人だろう」
騎士っぽい格好の輩がそう告げるとイザベラは当然とばかりに頷き、殴りかかってきた。
それを一子は素早く避け、思いっきり鳩尾に正拳突きを放った。
轟音と同時に建物が崩れる音。
新校舎の一部が崩壊していくのが一子の目に見えた。
イザベラが一子のカウンターで思いっきり殴り飛ばされ、新校舎に突っ込んだ、ということを即座に認識できた者は敵側には誰もいなかった。
「え?」
騎士が間の抜けた声を出した。
同時に撃破のアナウンスが流れる。
無論、それはライザー側だ。
「うーん、たった8人……ああもう7人か。それしか釣れなかったけど、まあいいや」
一子は獰猛な笑みを浮かべた。
「貴様っ!」
騎士――カーラマインが剣を抜いて斬りかかった。
避けようもない速さと距離、彼女は袈裟懸けに一子を切り裂いた――ように見えた。
瞬間、カーラマインは剣ごと真横に体を両断された。
すぐさま彼女は医療施設へと転送された。
同時にカーラマインの撃破のアナウンスが流れた。
いつの間にか、一子は剣を持っていた。
ガラスのような刀身の剣だ。
「つい、うっかり剣で返してしまったけど、飴細工の剣で十分だったかしら」
そう言いながら、一子は微笑んだ。
まるで女神のような美しい微笑み。
しかし、レイヴェル達からすれば、それはまさに死神の微笑みだ。
知らず知らずのうちに、彼女達は後ろへと一歩、下がってしまう。
「あら? 悪魔が怖がっているの? 情けないわね。それじゃ、もっと怖がらせてあげましょうか」
『お、ようやくか?』
『ええ、ようやくよ』
ドライグにそう返し、一子は告げる。
「
一瞬にして、一子に鎧が装着される。
それはリアスに見せたのとは別の、一子が全力で戦う時の形態だ。
全身鎧は攻撃力と防御力に優れるが速度が落ちる。
だからこそ、一子は全てをバランス良く、しかし、全てが高い次元であることを求めた。
いわゆる欲張りセットだが、神器というのは所有者の思いに応えるもの。
一子の胸や腕、足など体の一部のみが鎧に覆われたに過ぎない。
全身鎧は保つ為にも相応の魔力が必要だが、一子の思いにより、ある程度の防御力を残して、余分な魔力はその都度、彼女の意思一つで配分できるように変化したのだ。
「その姿……! まさか……! 」
レイヴェルが信じられないと言わんばかりに目を見開いている。
他の眷属達も、驚き、固まっていた。
「今代の赤龍帝よ。さぁ、戦いましょうか? 戦闘のド素人だと思っているのでしょう? ド素人にベテランの技をご教授願えないかしら?」
にこにこ笑顔で、煽る一子。
レイヴェル達は怒りよりもまず恐ろしさが先に立つ。
だが、レイヴェルは気丈に告げる。
「たとえ赤龍帝といえど、こちらはフェニックス! 不死身ですわ!」
「本当に?」
「ええ、本当ですとも! いくら赤龍帝でも死なない相手は倒せません!」
「あーあ、言っちまったな……」
そのとき、男の声が響いた。
レイヴェルは周囲を見回すが、声の主はいない。
まさか、と一子を見つめる。
「ドライグ、何が言っちまったのかしら?」
「当たり前だろうが」
レイヴェルの顔が引き攣った。
他の眷属達もまた、声の正体に思い至り、同じく顔が引き攣った。
「もしかして、ですけど、その……声の方は……?」
「ああ、ドライグよ。二天龍とかいう奴の赤い方」
「お前らがあまりにも不甲斐ない上に墓穴を掘っているから、見るに見かねた」
レイヴェルは絶望したが、まだ希望は残っていた。
ア・ドライグ・ゴッホがなんだ、こちとらフェニックスで不死身だと。
「なあ、フェニックスのお嬢ちゃんよ……一言、言っておく。今代の相棒はこれまでの主の中で、ぶっちぎりで最強だ。そして、強さに飢えている」
ドライグの言葉にレイヴェルは嫌な予感がした。
一子は満面の笑みで告げる。
「不死身ってことは色んな技が試せるってことよね? まさに私の為のサンドバッグ! 神様仏様魔王様その他諸々ありがとう! 最高に感謝するわ!」
「というわけだ。まあ、精々頑張れ」
目を輝かせる一子にレイヴェルは周囲の眷属達と視線を交わす。
彼女達の心は一つになっていた。
「降伏します!」
降伏宣言と同時にただちに彼女達は転送されていった。
「……これは私が悪いの?」
『お前が悪い』
「そんな……私はただ純粋に趣味で世界最強を目指しているだけなのに。とりあえず、ライザーを殴りに行こう」
可哀想に、とドライグは思った。
この後、本陣に乗り込んだ一子はライザーをフルボッコにした。
途中、異変に気づいた女王や他の駒達が駆けつけてきたが、そんなものは3秒くらいで一子は始末してしまった。
そして、彼はそれを見てもなお、虚勢を張っていたものの、復活しては殺され、また復活しては殺されというのを延々と繰り返されて、それこそただサンドバッグのように一切の反撃も許されなかった。
しまいには降伏を宣言しようとするライザーを宣言させないように一子が殴るという卑劣な行為が何度も繰り返された。
結果として、審判役のグレイフィアが見るに見かねて止めに入るまで、ライザーは数百回以上、死亡と復活を繰り返すことになった。