Fate/ Melty Tales   作:野澤瀬名

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迎撃_VS_Saber

 Interception_VS_Saber 16_December

 

 

 

 1.

 

 

 

 月明かりが照らす世界に紅銀の騎士が降り立つ。

 

 煌めく白金の様な髪に、凛々しい顔立ち。

 鍛え上げられ引き締まった肉体。そしてその上に纏う白銀と紅赤の鎧のコントラストは一種の芸術のように輝いて見える。

 手にした長物はこれまた赤く長い布で覆われ、刃の類は見えない。が、それに秘められた威力は敵対する剣士の短剣を遥かに上回るであろう気配を醸し出している。

 

「────っ、あ……」

 

 身体中の痛みも忘れただただ魅入る。

 騎士はその双眸で俺の怪我の具合を一瞥する。

 そして、敵へと視線を戻し。

 

「マスター。暫しの辛抱を。まずは敵を倒します」

 

 そう言って手に持つ獲物を構え直し、襲撃者へと────。

 

 ────まるでコマ落ちした映画を見たかのようだった。

 

 間合い十数メートル。

 その剣も槍も届かないロングレンジを、彼は刹那でゼロにし。

 

 黒衣の戦士と紅銀の騎士がぶつかり合った。

 

 

 

 手に持った長物を下段に構え、一息に距離を詰める。

 敵、の得物は短剣が一振。あれならば有利な間合いを保

 ち、────いや、拙い、と悟った騎士は突進を止める。

 

「────せあっ!」

「────ぬんッ!」

 

 刹那の駆け引き。

 先手をとったのは短剣使いだった。

 手に持つソレをあろう事か自らの拳で打ち出す。

 一つだけでは無い。

 腰に下げた四本全て。

 鋭く研がれたソレを音速を以て投射する。

 秘められた威力は戦車砲にも匹敵するだろう。

 当たれば致命傷、掠っても腕を軽く吹き飛ばすその連撃を、神速の技量で"ランサー"と名乗った騎士は叩き落とす。

 秒にも満たない僅かなその合間に、まるで飛来する刃が何処に来るか予知したが如く、不自然な程的確な迎撃。

 四本目のダガーを苦もなく上方に弾き飛ばし────。

 ────その弾かれた短剣を逆手に持つ者がいた。

 

「ハッ────!」

 

 最初の投擲は陽動。短剣の間合いに入るべく、そして注意を引き付け、確実に死角である真上から必殺の一撃を見舞おうとする。

 ポールウェポンの長所はその間合いの広さであり、逆に弱点でもある。攻撃レンジの大きさ故に取り回し、そして懐に入られた際の対応力に難を持つ。

 故に密接した状況では短剣に分がある。

 

「────し、────やあっ!」

 

 だが。

 ランサーは一瞬の内に、短く持ち替え、迫る刃に合わしてみせる。奇妙な、そして絶妙なタイミングでの迎撃。

 完全に攻撃をいなされた襲撃者はこのまま鍔迫り合っても不利と悟り、蹴りを入れて間合いをとる。

 騎士も追おうとはせず、主を守る位置から動かず、構えてみせる。

 

 互いに決定打を欠くまま再度睨み合いが続く。

 襲撃者は武器を失ったにも関わらず、悠然と、対峙してみせる。

 

 

「どうした、セイバー。貴様が来ないのならこちらから仕掛けるぞ。それとももう手の内を出し切ったか?」

 

 ランサーの挑発にセイバーと呼ばれた黒衣の男はフッと笑って返す。

 

「否定だ。この程度、前戯に過ぎん。貴殿も止まっていては槍兵の名が泣くぞ、ランサー?」

「挑発は無駄だ。こちらからは仕掛けんが、貴様から来るというのならその時は受けて立つ」

「────成程、ならば我が絶技を以てその矜恃を打ち砕くとしよう」

 

 

 

 ────一瞬の攻防だった。

 

 敵ながら感嘆に値するそれこそ全てが計算し尽くされ、合理的且つ必殺の攻撃を行った剣士、セイバーとその全てを舞うような華麗さと針の穴を通すような正確さで退けた騎士、ランサー。

 互いに力の半分も使ってはいないだろうが、それはまさしく英雄同士の決闘と言うに相応しい戦いだった。

 

 そして、助かるかもしれない────。

 

 今の攻防を見る限り、ランサーは不意の奇襲や死角からの攻撃にすら対処して見せた。恐らく防衛戦であればあの守りを崩す敵はまずいないだろう。

 このままセイバーが諦めてくれれば、切り抜けられる、と淡い期待を抱いたその瞬間────。

 

 

 

 空気が凍り付いた。

 

 

 

「────っ、あ────」

 

 既に寒さすら感じ無くなっていたにも関わらず、放たれた極寒の冷気は、俺の期待を凍らせそのまま砕いた。

 

 駄目だ、死ぬ。

 何もしなければランサーが死ぬ。

 

 学校で見た不可視の流体が可愛く見える程、剣士の周囲には何かがさながら津波のような規模で渦を巻いている。

 

 脳裏に浮かんだのは。

 あらゆる万象を食らいつくす悪竜。

 

「────宝具を使う気か?」

「左様。貴殿は当方の全力を振るうに相応しい戦士だ。故に────その命、絶たせてもらう」

 

 逃げろ。

 アレを受ければ、俺を守ってくれた青年が死んでしまう。

 もう俺に構わず逃げてくれ。

 

 叫ぼうとしても喉は恐怖で凍りつき、掠れ声すら出せない。

 剣士に纏う気配がカタチをなそうとして。

 

「────。む、引けというか、泉」

 

 構えを解き、殺気が嘘のように消えた。

 渦が霧散し、元の冬の空気へと戻る。

 ランサーは身構えたまま敵の突然の戦意の消滅に驚く。

 

「どうした、まだ決着はついていないぞ」

「状況が変わった。当方はサーヴァント、主命に従うのが在り方だ。それに────」

 

 男はこちらに一瞥をくれる。

 

「貴殿のマスターも万全で無かろう。傷を癒し、再度の戦いで雌雄を決するとしよう。それまでに万全を期しておけ」

 

 セイバーは来た時と同じように、一瞬で塀を飛び越えて消えた。

 破壊の後が残る庭に残ったのは痛めつけられた俺とランサーと呼ばれた青年だけだった。

 

「────無事かい、マスター?」

「……え、俺の、ことか……?」

 

 武器を何処かへやったランサーは振り返る。

 改めて見てみると、洋画の中でしか見ないような流麗で日本人離れした顔立ちをしていた。

 と、ここで、助けてもらったお礼すら出来てないことに気づき、慌てて立とうとして。

 

「……っ、あ、れ────?」

「マスター!?」

 

 視界がブレる。

 やけにさっきから赤色が減った、いやモノクロ写真をみているように世界から色彩が落ちている。成程、人間血を失い過ぎるとこうなるのか。

 手足から力が抜け、倒れる身体をランサーが抱える。そのお陰で地面にぶつかることは避けられたが、それ以上に自身の身体の感触が、あんなに熱かった身体の熱が消えて感じなくて────。

 

 ────ああ、そうか。意識が落ちかけているのだ。

 

「! 駄目だマスター。しっかりする……んだ! 今、意識を……っては、────!」

 

 狭まる視界。

 遠ざかる音。

 情けない。助けてもらった命なのに、あっけなく死んでしまう自分を恥じた。

 そして、一つ息を吐いて。

 

 意識が暗転した。

 

 

 

 2.

 

 

 

「マスター、帰還を報告する」

 

 私が屋敷のソファーに倒れるように突っ伏していたところ、セイバーは戻ってきた。

 相変わらずの四角四面の物言いで、私は落ちかけてた意識を再起動させて彼を睨む。

 

「そう睨むな、マスター。当方は目標を追った先でサーヴァントと遭遇し、コレと戦った迄だ。非は無いはずだが」

「何が非が無い、よ……。こっちはまだ魔力のバランス狂ってるんだから。気持ち悪い事この上ないわ……」

 

 私は魔力の上限は一般の魔術師と比べても遥かに多いのだが、その反面、消費と供給のバランスが一定量崩れると、不調が発生する体質を持つ。

 混血の家系由来のもので、それこそ普通の魔術を行使する程度なら問題ないが、サーヴァントの召喚ともなると、そしてさらにそこから敵サーヴァントと遭遇戦を演じるとなると話は別だ。結果、魔術回路の一部が暴走。口腔からの出血は少なかったもののまだ血の味が色濃く残る。

 

 まあ、不機嫌、絶不調な理由がそれなら良いのだが。

 じっ、と私は目の前のじゃじゃ馬サーヴァントを見据えて告げる。

 

「セイバー。これから戻れって言ったらすぐ戻りなさい。勝手な戦闘は無し。それとランサーは私たちで確実に殺すから」

「……了解したマスター。当方はこれより休息をとろう。貴殿も明日に備えてくれ」

 

 ありがとう、と答えて部屋を立ち去ろうとする。

 

「泉。もし、貴殿が復讐を望んでいるのなら、それには義がなくてはならん。もし、感情からランサーたちを殺そうとするのなら」

「……そう。ならそれは貴方の見当違いよ。私はセカンドオーナーとして彼を殺さなきゃいけない」

 

 そうか、と、セイバーは霊体化する直前。

 

「泉。当方は貴殿に介入する事は無い。だが、それが情から発生した復讐ならば、当方は拒絶し、貴殿を止めよう」

 

 セイバーが消えて、部屋には私一人が残された。

 

「……私は冷静よ、セイバー」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 

 長い夜は始まったばかり。

 聖杯を求める者たちの殺し合いはこうして幕を開けた。

 

 

 

 3.

 

 

 

 意識が暗闇に漂う。

 音が、光が、感触が、匂いが、熱が。

 あらゆる感覚を失い、闇を意識一つで漂流する。

 

 

 

「────っ、は────」

 

 

 

 ヒトはそんなに強くない。

 魂だけで生きていける程、強くできちゃいない。

 だから肉体という殻を纏って、自己を認識している。

 それが無い今、俺の意識は何のフィルターも介すことなく、純粋な闇の中を漂った。

 

 ────死ぬのか、俺は? 

 

 助かりはしないだろう。

 あれだけ痛めつけられ、血を流せば、人間生きてなんていられない。寧ろ痛みでトンでそのまま自分が霧散していてもおかしくなかった。

 いや、その方が良かったかもしれない。

 だって此処はこんなに暗くて、怖くて、何も無いのだから。

 

 これは執行猶予。

 黄泉に落ちるまで続く地獄を、魂一つで経験する。

 

 

 

「────────────!」

 

 

 

 だから、その色を見た瞬間。

 ドクン、と、小さな、そして確かな拍動を感じた。

 

 その色彩が意識に触れる度に、拍動が力強さを少しずつ取り戻す。

 熱を徐々に帯びていく。

 

 ポタリ、ポタリ、と雫と触れる度に、神代湊人という意識が、殻が、カタチを成していく。

 

「────────あ、……」

 

 そこで健全な疲れを自覚し、ようやく命の危機から脱した事を、知覚する。

 

「……そうか、なら────」

 

 身体の悲鳴に応えるように、意識を眠らせる。

 意識が浮上していき。

 

 ────前にも、一度、こんな事があった…………? 

 

 

 

 

 ────意識が眠りについた。

 

 

 

 Interlude_神王、神秘殺し、殺人鬼

 

 

 

 ────同じ空の下で、あと二つばかりの運命の夜があった。

 

 

 

 一つは中区の郊外との境に位置する外郭放水路の内部。

 

 現代のコンクリート製の神殿に集ったのは時計塔から弾き出された魔術師たち。

 彼らは一流の才を持ちながら、ある者は非道を成し、ある者は協定を犯した────つまりは王道から外れた者たちが集い、聖杯を求めようとしたのだった。

 

「ふん、小癪な……」

 

 権謀術数を張り巡らさせていた者共の成れの果てを見ずに、独り言るのは騎兵のクラスのサーヴァントであった。

 

 彼らが触媒に用いたのはとある王妃の首飾り。

 唯一この神代の英霊に呼び掛けることの出来る触媒であり、同時に彼が激怒する、竜の鬚を撫で虎の尾を踏む行為であったことが彼らの命運を決めた。

 結果、召喚された彼は彼らの内一人が有していた令呪をその手首ごと切断し手中に納め、残る有象無象は逃げる者も許しを乞う者も構わず、自身の宝具で焼き払ってみせた。だが、それだけで怒りは収まらず、片っ端から彼らの持ち物を消却すべく動く。

 

 自身の消滅も厭わず、魔力の半分を消費し、地下空間の粗方を灰燼に帰した。

 

 最後に残ったのは緊急時用の直接制御を行う制御室のみ。扉を開けることも煩わしく思い、宝具で溶解させて道を穿った。

 

「────そこで何故泣いている、女?」

 

 中では、幾つかの死体とその亡骸に囲まれた少女が一人、静かに泣いていた。

 何らかの魔術の影響か少女や亡骸の身体には魔術回路が焼き付いた際に出来るであろう傷が残っている。

 大方既に消し炭にした凡骨共が謂わば生贄として魔力供給用に捧げたのだろう。そしてその負荷に耐えきれなかった者はこうして屍を晒している、と言ったところか。

 身体中を痛めつけられ、激痛を伴っているであろう少女は、しかし清楚さと可憐さを喪うことなく涙を流している。痛みからではない、悼む為の雫である。

 その姿にライダーは一瞬ではあるが、破壊の手を止めることにした。

 

 ────返答次第ではここで殺す。

 

 少女は双眸に涙を溜めたまま、だが、背後の亡骸を守るようにライダーへと向き直る。

 

「どうなのだ、女? その背後の亡骸は貴様の知人なのか?」

 

 首を横に振る。

 

「ならば何故泣く? 先の騒ぎの隙に一人逃げ遂せることも出来たであろう」

 

 少女は傷だらけの身体で、ライダーの瞳を見据えてただ静かに告げた。

 

「祈っていたのです。この人たちの、安寧を」

「何……?」

 

 よく見れば、遺体の瞼は全て眠っているように、誰かが閉じた跡がある。

 つまりは目の前の少女が一人、彼らの冥福を祈っていたというのか。

 

「貴様、何故に祈っていた?」

「ただ、平穏でありますように、と。この世界の人たちは、こんな惨い死に方しちゃいけない……。なら、せめてあの世があるのなら、そこでだけでも平穏であってほしい。それが、私、……の望み、だ、か────っ……」

 

 肉体が限界を迎え、落ちるように倒れる少女をライダーは抱きとめた。

 

「────フフ、フハハハハハ! まさかな、当代にも斯様な心を持つ聖者が居ようとは! 」

 

 虚ろな、だが光を残した目で、少女はライダーを見上げる。

 

「貴様、名を何と申す?」

「────逆月、優美、です」

 

 本心からの笑みを浮かべ、神王は高らかに宣言する。

 

「ユミ、か。良い! 余のマスターとして並び立つ事を赦す。余は貴様を伴い、再びファラオとして我が支配地の遍く全てを救おうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 そしてもう一つは観那川市郊外に位置する山中。

 この地の龍脈の結束点の一つであり、その要石の役割を有するとある社の中。

 

「……………………っ!」

 

 神聖な聖域且つ一大工房としての機能を併せ持つそこはしかし。

 霧と共に訪れた暗殺者の侵入を許し、今まさに落城しようとしていた。

 

「なんだ、結構呆気ないな。マスター、工房っつーのはこんなにも紙同然な出来なのかい?」

 

 たった一騎のサーヴァントの襲撃によって、魔術師であった父や母は殺された。

 ナイフをくるくると弄ぶ殺人鬼の魔手から私は逃げて、宝物殿の戸棚の中に隠れ、息を潜めて凌ぐしか無かった。

 

「で、ターゲットの候補者は既に殺したんだが。あ、子供も? はあ、容赦ねえな気乗りしねえんだけど」

 

 誰かと話しているように、虚空へと話しかけるサーヴァント。

 それを閉まった扉の隙間から注意深く見る。

 

「マスター候補が死ぬと血縁者に優先的に令呪の兆しが現れる。罪だねえ、そんな理由で子供も手にかけなきゃならねえとは」

 

 お願い、こっちに来ないで。

 

 アサシンのサーヴァントはやれやれと振り向き、私が隠れる蔵へと足を向ける。

 

「俺の趣味じゃないんだけどもうちょっと穏便にできねえか? ……駄目? そっかー……」

 

 嫌がりながらも仕事と割り切り足を運ぶアサシン。

 

 木が軋む音と共に、殺人鬼は宝物殿の扉を開ける。

 

 ────死にたくない。

 

 殺人鬼の双眸が私を捉える。

 

 ────死にたくない。

 

「悪いな嬢ちゃん。コレも仕事でね」

 

 ────死にたくない。死にたくない。死にたくない! 

 

 ナイフの切っ先が向けられる。

 

 ────死にたく、ない! 

 

 

 

 私の願いに、聖杯は応えた。

 

 

 

 命を刈り取るはずの刃物は容易く折られ、返す刃は首を狙って振るわれる。

 

「────!? ちっ、ここで呼ぶかフツー!」

 

 紙一重で躱したアサシン。仕切り直すべく後ろへ跳ぶ。

 そこでアサシンは目が見開いた。

 敵対者が携えていたのは剣かそれに類する物。そう考えて間合いを取るべく、跳んだのだが、その手に握られていたのは六尺三寸の豪弓────! 

 

 

 

 アサシンが跳び退くのと矢が飛ぶのはほぼ同じ。

 その一瞬の後。

 貴重な物品を納めた蔵は内側から破れる風船のように崩壊した。

 

「────サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ参上しました。貴方が私のマスターでしょう、……?」

 

 主を襲った刃を退け、振り返ると、そこにはまだ年端もいかぬ少女が座っていた。

 瞳に涙を浮かべ、その顔には恐怖の色が濃く張り付いている。

 

「うう、あ、ああ…………!」

 

 溺れる者のようにひしっ、と掴む幼い手。

 いったい何が、と周囲を探れば、境内に男女二人の遺体を見つけ、察する。

 

 

 

「────よしよし。怖かったのでしょう。大丈夫です、母はここにいますから」

「…………お、かあさん?」

「────────はい。だから、気のすむまで泣きなさい。私は貴女を置いてどこにも行きません」

 

 召喚者であった少女が未熟であったからか、この少女との出会いが鮮烈だったからか。

 自分でも理解できるほどに、狂化の度合いが低く、そして全ての能力が抑えつけられていた。

 だが、同時にこの巡りあわせに深く感謝する。

 狂っていたなら、この子を守るためと称して、自身の力を周囲を傷つけることを気にも留めず振るっていたかもしれない。

 だが、この子の父母を、真にこの子へ愛情を与えるべき者たちを私は守れなかった。

 許されるならこのひと時、聖杯を巡る戦いが終わるまではこの子の刃として、盾として、あらゆる敵を退けようと。そして仮初めの母として出来るだけの愛を与えようと。

 

 

 

 

「ったく、ひでえ事するなあ、もう」

 

 左腕が千切れた。

 恐ろしい事に、矢自体は躱したのだが、矢が通り抜けて出来た風圧が刃のように肘から下を持っていったのだ。

 びちゃっ、と地面に落ちた自分の腕を拾い上げ、それでもアサシンは笑みを浮かべる。

 

「ははっ、面白くなってきた! さあて、セイバーだかアーチャーだか分かんねえけど、殺しがいがあるなら歓迎────。……てマスター、引けってか?」

 

 途端、アサシンの目から活気が抜け落ちた。

 だが、まあ、ここで奴と仕合うのは不利か。納得した様子で、アサシンは自身の腕をクルクルと弄びながらマスターに返答する。

 

「マスターの言う事なら仕方ねえ。それに楽しみは取っておくべきだ、なあ?」

 

 嗤いながらアサシンは霧の中へと消える。

 

 

 

 

 この日、全てのクラスは出揃った。

 7人のマスターと七騎のサーヴァント。

 選ばれるのはただ一人。

 奇跡を求めるもの達による殺し合いが幕を開ける。

 

 

 

 ──────Next Outbreak_Reprieve.




皆さん、バルバトス収穫祭は存分に愉しみましたか?

ども、野澤瀬名です。

ようやく戦闘シーンの描写に入りました。あと、ライダー、アサシン、バーサーカーとそのマスターたちの描写もちょこちょこ幕間としていれてみたり。
……まあ、グランドオーダーやってる人なら真名分かると思いますが、普通の聖杯戦争では真名判明は致命的な弱点の露出にも繋がるんですよね。
FGOの真名隠しシステムは良かったんだけど……ね。

やっぱり重傷を負った主人公、そしてそれを治癒する謎の力。赤い布を巻いた長物持ちランサーの正体、各陣営の動きなど色々伏線貼るのも回収するのも難しいけど、頑張って聖杯戦争二日目以降を現在執筆中でございます。
……次回投稿日? ごめんなさい、また未定です!

という事で今回はこの辺りで筆を置かせてもらいます。皆さん、読んでくださってありがとうございました。






事件簿イベ復刻すると合計1億200万本へし折られるバルバトス君に合掌……。

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