シュバルトside
その後、ディアベルが自身の指揮能力でチーム分けと役割分担を平行して行い、結果
ディア「君たちは遊撃部隊で狩り漏らしのコボルドを頼む」
シュバ「了解した」
まあ、個人的な集まりで装備品もばらけてるからね。遊撃部隊は妥当だね。
アスナ「いいの、ボスにほとんど攻撃出来ないじゃない」
テリー「別に問題はないだろ。それだけあいつに自信があるんだろう」
フィリア「これからどうする?」
シュバ「この六人で軽くスイッチとPOTローテの練習をしよう」
アスナ「スイッチ?……ポット?」
すると少し離れた位置にいるアスナが訝しそうに呟く。どうやらかなりの初心者のようだ。
後で説明することを伝えると、彼女はしばらく沈黙し、頷いたかもわからないくらい微細な動きで頷いた。
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次の日
昨日のボス攻略会議と同じ広場にはすでに人が集まっていた。
ディア「みんな今日は第一層のボスを討伐する!」
これから僕達はフロアボス『イルファング・ザ・コボルドロード』を討伐する。
レベルは十分、装備のメンテナンスもバッチリだ。
ただ不安要素としてはボスの予想外の行動である。
あの茅場がβテストと同じ設定にしている筈はないと思う。
「おい」
すると後ろから友好的とは言いがたい声が聞こえ、振り向く。
モヤットb……げふんげふんキバオウが立っていた。思わず驚いて声をあげそうになる。
僕はあまり彼と顔合わせはしたくはなかったのだが。
キバオウ「ええか、今日は後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、ほとんどサポするだけやからな」
キリト「…………」
キリトはあまり口上手ではないのか、無反応だ。
キバオウ「大人しく、狩漏れた雑魚コボルドの相手しとけや」
そのままキバオウは身を翻し自分のパーティーへ戻った。
アスナ「何あれ」
ユウキ「感じ悪ーい」
フィリア「あんな人とパーティーなんて組みたくないね」
テリー「βテスターは調子に乗るなってことか?」
シュバ「さぁてね。ねえキリト、キバオウと何かあった?」
キリト「実は俺のアニールブレードを買い取ろうとしてたんだよ」
シュバ「ボス戦前なのになんで?それと何コル?」
キリト「わからないな、およそ四万コル」
テリー「ならおかしいなそんだけの大金があるならあいつの装備が一新しないとおかしい。裏で誰かが買い取ろうとしているのを手伝ったのかもな」
テリーのその発言に僕は疑問が浮かぶ。
誰がキバオウに買い取りの依頼をする人物が誰なのかと何故買い取ろうとしたのかだ。
まずそれができる人なんて……いやいる、彼ならキバオウに買い取りの依頼をする可能性がある。
彼がその依頼をしたなら昨日の会議でキバオウが乱入して来ても動揺しなかったこともつじつまが合う。大分こじつけだけど。
そういえば昨日、キバオウを論破するためにアルゴかなりプレッシャーかけたと思うその発言で。ごめん、今度何か奢るから許して。
心の中でこの場にいない彼女に謝罪をする。
シュバ「ねえキリト本当にアニールブレードを買い取ろうとした人物だけど、多分ディアベルだと思う」
キリト「なんでだ?」
シュバ「昨日の会議でキバオウが乱入しても動揺しなかったでしょ、多分あれディアベルの中では確定事項だったんだよ。キバオウに買い取りの依頼する代わりに、テスターの恨みを言うっていうさ」
テリー「理由としては薄そうだが、可能性としてはありだな」
キリト「なるほどな、ディアベルの動向に気を付けて見るよ」
僕ら三人はディアベルの動きに注意することにした。
すると壇上に立つディアベルが声を再び上げる。
ディア「みんな、いきなりだけど──ありがとう!たった今、全パーティー四十六人が誰一人欠けることなく集まった」
とたんに大勢の歓声が広場の空気を揺らす。次いで滝のような拍手。まるで勇者とその大勢の仲間達のようだ。
一同を笑顔でぐるりと見渡してから、騎士はぐっと右拳を突きだし、さらに叫ぶ。
ディア「今だから言うけど、オレ実は一人でも欠けたら攻略を中止しようと思ってた!……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレスゲー嬉しい……こんな最高のレイドを組むことが出来て!」
笑い声、口笛が聞こえたり同じように右手を突き出す者がいる。
しかしこれは少し盛り上げ過ぎではないかと思わずにはいられない。緊張し過ぎれば恐怖になり楽観は油断を生む。β時代なら油断しても問題はないが、今は違う、死ねば本当に死ぬ。そんな状況だ、気を引き締めすぎることがちょうどよい。
集団を見渡すとエギル率いるB隊は、厳しい表情をしていた。いざとなったら彼らを頼ることとしよう。
E隊のキバオウは、こちらに背を向けたままで表情が見えない。
ディア「みんな……オレから言うことは一つだけだ!」
右手を腰に当て、銀色の長剣を天高く上げ
ディア「勝とうぜ!」
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ボス戦が始まってからどれくらい経っただろうか、僕らは取り巻きのルインコボルド・センチネルの相手をしている。前に隠しボスと戦う前にモブとして湧いていたルインコボルド・トルーパーとは比べ物にならないほど強い筈だがこのゲームではほとんど初心者の女性陣は的確に攻撃を弾き、隙をついて喉元の弱点を攻撃する。
シュバ「ナイス」
ユウキ「この調子で行こう」
王様コボルドのゲージの一本目がなくなる。最前列でディアベルが「二本目行くぞ!」と叫ぶ。
すると追加のセンチネルが飛び降りてくる。
遊撃部隊だというのに近くにいる一匹を切る。
アスナ「スイッチ!」
アスナがそう叫びキリトと交代する。いままでほとんど無口だった彼女が叫ぶところは初めて見た。
テンションが上がってきたのだろう。
そしてコボルドの王様とその衛兵対フルレイドのプレイヤーの戦いは、怖いほど順調に進んでいる。
ボスを見るとすでに二本目のゲージがなくなり、三本目のゲージを半減させていた。
すると背後からダミ声が聞こえた。
キバオウ「アテが外れたやろ。ええ気味や」
シュバ「どういうことだい?」
キバオウ「ヘタな芝居すなや、こっちは知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」
こちらを睨み付けながら吐き捨てる。
キリト「動機……だと?ボスを倒す以外に何があるって言うんだ」
キバオウ「何や、開き直りかい。まさにそれを狙っとったやろが!わいは知っとんのや。チャン聞かされたで……あんたらが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとたことをな!」
僕らはキバオウの言葉に絶句せずにはいられなかった。
何故ニュービーの彼がその情報を知っているのか、誰から聞いたのか。
シュバ「おい、それを誰から聞いた。そしてその情報をどうやって入手した……」
僕は少し脅し気味に問い詰める。するとキバオウはあっさりと吐いた。
キバオウ「ディアベルはんや、えろう大金積んで《鼠》からベータ時代のネタを買ったんや」
ここで一つあり得ないことがある。アルゴは例え自分のステータスを売っても、ベータテスト関連の情報は絶対に売ることはない。
つまりディアベルがベータの情報を知っているということは、彼自身がベータテスターというわけだ。
シュバ「ダウト。アルゴはそんなこと絶対に売らない」
キバオウ「はん!そんなこと言ってゴマカソウなんて百点早いわ」
彼のその言葉に僕は冷たくに吐き捨てる。
シュバ「あっそ……」
僕は目の前のセンチネルに止めを刺し、ボスを見ると所持していた骨斧と皮盾を同時に投げ捨て、後ろ腰へ右手を持っていく。
そこで僕は嫌な予感と一つ疑問を抱く。
何故隠しボスが湾刀を使っていたのか。隠しボスなら謎の武器を使っててもいい筈だ。隠しボスが違うなら……
不味い……ボスの武器は攻略本と違う……おそらく曲刀の派生武器である
僕はみんなに指示を出す。
シュバ「ユウキ、フィリア、アスナ!センチネルは任せた!テリー、キリト!僕達はボスに全力でソードスキルを放ちにいくぞ!」
キリト「お、おいどうした?」
テリー「まさかボスの情報が違うことに気づいたのか?」
シュバ「ああ!ボスの武器は湾刀じゃない、野太刀だ!」
僕達は武器を構えてボスへ突撃する準備をする。そしてボスが囲まれ状態を認識すると刀専用ソードスキル旋車の発動体制に入ろうとする。それに気づかないディアベルはソードスキルを放つ。
キリト「だ……ダメだ!下がれ!!全力で後ろに飛べー!」
キリトの必死な叫びもボスが始動させたソードスキルのサウンドエフェクトにかき消される。
僕はテリーと同時にホリゾンタルで相殺しようと試みる。
シュバ「ぅおおお!」
テリー「はあああ!」
その試みが成功し、ソードスキルを無事に阻止することに成功する。
そしてその隙にディアベルのソードスキルも発動し命中する。
ディア「あれ?君たちはセンチネルの担当の……「いいから一旦下がれ!」わ、わかった……」
攻撃部隊はディアベルの指示でコボルド王から離れる。
離れたところで僕はディアベルに耳打ちをする。
シュバ「ディアベルあれは攻略本とは違う武器だ下手すれば殺される」
ディア「……知っているのか君は」
シュバ「ああ、あれは十層の敵が使う武器の刀だ。ソードスキルの種類もある程度は覚えてる。あなたにそれを伝える」
僕は彼に十層の敵が使っていたソードスキルの種類を話す。あまり時間がないので手短に。
ディア「わかった。それとさっきは助かった、君たちが相殺してくれなかったら殺られていただろう」
シュバ「お礼は後だ指示を頼むよリーダー」
ディア「それなんだけど、君がしてくれないか。話を聞く限り君は敵のソードスキルについて詳しい、だから的確な指示が出来るのではないかな」
少し悩んだ。僕は野良プレイヤーだ。そんな奴の指示を誰が聞くのだろうか。
するとディアベルが周りに向かって声を上げる。
ディア「みんな聞いてくれ!ボスの武器が情報と違う!だけど、そのことを対処できる人がいる!指揮はその人に任せるからきちんと指示通り戦ってくれ!」
ディアベルの指示に周りのプレイヤー達は叫び声で応じる。
もうこうなったらやるしかない!
僕は脳をフル回転させて情報を引っ張り出す。βで使われていた刀専用ソードスキルは四つ。最初に放った旋車、次に切り上げる浮舟、そして浮舟などからコンボで繋がる緋扇、そして居合系の辻風だ。他にもいろいろあるがこの四つだけは確実に使うと判断する。
スキルの硬直から脱してボスが再び暴れようとする。
シュバ「攻撃の種類は最低でも四つだ!一つはさっき使った範囲一回転する攻撃!次に切り上げるやつ!さらにコンボで繋がる三連撃!最後に居合切りだ!きっちりガードすれば大ダメージは受けない!まだあるかもしれないから深追いはしないように!」
「「「おう!」」」
そこからは堅実に攻撃を重ねていく。
浮舟などのソードスキルを僕とテリーとキリトや壁部隊が相殺し、その隙を攻撃するの繰り返しが続いた。
突然ディアベルが飛び出してきた。コボルド王は体制をすぐに建て直し、浮舟を発動する。それによってディアベルは上へ吹き飛ばされる。そしてコンボで緋扇が追撃でディアベルにクリティカルヒット、彼のHPが三回大きく削れる。
シュバ「ディアベルどうして!?」
キリト「何で深追いなんかしたんだ」
ディア「たはは、ちょ、調子に乗っちゃったみたいだな……でもシュバルトさん……キリトさん……二人ならわかるだろ」
それをディアベルは狙ったのだ。
ディア「後は……頼む……ボスを……倒して……くれ」
無機質な音とディアベルはポリゴンの残骸と音と共にポリゴンの残骸と化した。
「ディアベルさんが死んだ……」
「どうすればいいんだよ……」
ディアベルが死んだことで、レイドの士気がみるみる下がっていく。
ユウキ「ちょっとみんな!」
フィリア「落ち着いて!」
テリー「ひとまず下がれ!」
プレイヤー達は三人の声も届いていない。
シュバブツン
彼は……あいつは僕達にボスを倒せと言った。だから……
シュバ「お前らぁ!戦えるやつは立ち上がれ!これからディアベルの敵討ちだ!」
オレは声を上げ突撃する。攻撃をかわして反撃してかわして反撃してかわして反撃してかわして反撃してかわして反撃して。隣ではキリトやテリー達パートナーメンバーが攻撃してるのが見えた。
お前ら……オレにはもったいないくらい、いいやつらだな……
どのくらい経ったのだろうか、キリトがコボルド王のソードスキルを相殺しようとした途端刃がくるりと半円を描いて、真下に回りキリトを吹き飛ばす。
上下ランダムで発動する幻月だ。しかしキリトが追撃をくらう前にB隊のリーダー、エギルが両手斧のソードスキルワールウィンドで攻撃を弾く。そしてボスが大きくノックバックする。
エギル「大丈夫か!」
キリト「ああ、すまない助かった」
エギル「いいってことよ。ダメージディラーにタンクやられたら今回の俺の役目なくなちっちまうからな」
ボスゲージが残り僅かになり、後少しで倒せるといったところで一瞬気が緩んだのか一人が足をもつれさせた。しかし彼のいた場所が悪かった、ボスゲージ真後ろだったのだ。
それによりコボルド王は囲まれ状態を感知し垂直に飛び上がる、旋車を発動準備をする。
オレはおもいっきり跳躍する。するとテリーとキリトも同じように飛んでいた
オレ達はソニックリープでコボルド王を切りつける、そして地面に叩きつけられるような形でコボルド王は落下する。
シュバ「
いままでの鬱憤を晴らすように全力攻撃を叩き込む。
テリー「みんな最後だ行くぞ!」
「「「おう!」」」
オレ達はコボルド王にとどめを刺しにソードスキルを発動させる最初にユウキとフィリアのバーチカルとアーマー・ピアス、オレとテリーのスラントがヒットしてコボルド王は少し怯んだ。
キリト「アスナ、最後の一撃一緒に頼む!」
アスナ「了解!!」
そして二人のソードスキルがコボルド王のHPをすべて消した。
イルファング・ザ・コボルドロードはその体を幾千幾万のポリゴン片へ変えて爆散させた。