今回は宣言通り練習回です。
現時点で一番長い話になっていますが読んでいただけると嬉しいです。
雄也視点
瀬田先輩の練習講演が終わってから、事態が動くのはとても早かった。
まず、まりなさんというスタッフの人からは二つ返事でOKが出た。
どうやら奥沢さんと話す前に黒服さんが僕の事を含めた事情説明をしてくれていたようだ。
奥沢さん曰くまりなさんは
「まあ確かに色々とびっくりしたけど。動物を連れて来たいとか、演劇風のライブをしたいとかよりはね~……」
といってたそうだ。色々ツッコミたかったけど楽譜は上手く隠してくれるそうなので暗譜をしないで済むのはホントに助かる。ちなみに、黒服さんから話を聞いたお陰かまりなさんも僕がみえるようになった。
その奥沢さんが瀬田先輩のサポートに回ってくれた事でキーボードパートの追加も急ピッチで進んでいった。
その結果、今僕はCIRCLEでハロハピの放課後練習に参加している。作戦会議から1週間弱、練習講演が終わってわずか数日でこの進みようだ。こうなってしまった以上はもう腹をくくって自動キーボードとしての役割を全うしないと……
そう思っていたのだけれど……
「雄也、大丈夫かい?」
「ゆーくん大丈夫?」
(できなくなっていってる……なんで……?)
「雄也……君?」
(瀬田先輩のあの発言からどんどん遠ざかってる。まだ長時間の演奏は厳しいから悪化だけは避けたいのに……おまけにこの体じゃお手伝いもろくにできないからみんなに迷惑かけっぱなしだ……やっぱり自分じゃ無理だって今からでも言った方が……)
周りの声が聞こえないままうなだれていたら───
「ゆうやー?」
「うわあ!!?」
目の前が弦巻さんの顔面アップになり、びっくりして尻もちをついてしまった。
「ど、どうしたの弦巻さん……?」
心臓止まるかと思った……
「さっきから返事しないで下を向いてたけれど、もしかしてお腹が痛いのかしら?」
「あ……ごめん、ちょっと反省してて……お腹は大丈夫」
「反省なんかしなくても、ちゃんと弾けてると思うわ」
確かにブランクの割にはできていると思うけど……
「でも、ミスばっかりじゃん……自動キーボードなのに」
「本番までまだ時間はあるんだし、練習だって始めたばっかりじゃない。きっと大丈夫よ」
そうかなぁ……
「それに、じどうキーボード?だって失敗すること位あると思うわ!」
「いやそれはないと思うよ……」
そういうのってプログラム通り機械が弾くんじゃないの?
「こころ、とりあえず一回休憩しない?駒沢君も疲れてるみたいだし」
ミッシェルが提案してきた。確かに練習開始からもう二時間。これ以上はしんどい……
すると弦巻さんは少し何か考えるようなそぶりをして……
「そうだわ!休憩中にみんなであれを見ましょ!」
と言うといきなり部屋を飛び出していった。そして数分後、彼女はプロジェクターとノートパソコンを、続いて黒服さんが2人がかりでスクリーンを運んできた。黒服さん、あんな短時間でどうやって合流したんだろう?
「弦巻さん、これから何を観るの?」
「それは観てからのお楽しみよ」
「もしかして、こないだの試合かな?はぐみが大活躍したやつ!」
「いいや、私の舞台かもしれないよ」
「そ、そうなのかな……?」
ミッシェルが「ちょっと着替えてきます……」という謎の一言を残して退室しまったので、松原先輩が控えめに突っ込もうとしていた。
そして、ミッシェルと入れ替わるかのように奥沢さんが戻ってきたところで上映が始まった。
「これって……ハロハピのライブ?」
映ったのはステージの上で演奏する弦巻さん達だった。
「そうよ!これは初めてライブをしたときの映像ね」
確かに、松原先輩と北沢さんの表情が固い気がする。だけど……
「まさかこころが客席にダイブした上にあたしを押し倒してくるとはね……」
そういうパフォーマンスがあるのは知ってるけどホントにやる人がいるとは……あれ?押し倒されてるのは奥沢さんじゃなくてミッシェルだよね?どういうことだろ……
「はぐみもダイブやりたかったなぁ……」
北沢さん、ダイブはやっちゃダメだって映像のお客さんが言ってるよ。
そこからシーンが切り替わり、今度は路上ライブの様子が写し出された。でも何故かミッシェルと松原先輩がいない。
「これはみんなで水族館に行った時の路上ライブね」
水族館に行くのにライブ?どういうことだろう?
「実は水族館に向かう途中で迷子になってたペンギンの赤ちゃんに出会ってね」
「あの子は道行く人々の心を悉く射止めてしまう私みたいなペンギンだったのさ。だから、家に送り届ける為に私達の演奏でみんなの注意を引いたんだよ」
先輩二人が説明してくれた。だから3人とも私服なんだ。しかし弦巻さん、アスファルトの上でためらいなくバク宙してるんだけど……一歩間違えたら大けがだよそれ。
「最後はこれね!」
「え!?ここって……」
間違いない。この間行った遊園地だ。何かイベント中みたいだけど。
「これ、まさか皆でやったの?」
「そうよ!」
言葉が出なかった。高校生のバンドが遊園地を借りてここまで大きい催し物をやるなんて……
「驚くのはまだ早いよ。本番はこれからだからね」
本番?まだ何かあるんですか?
するとシーンが切り替わって夜になり、イルミネーションで彩られた大きな乗り物の上で演奏するハロハピメンバーが映しだされる。もう完全にテーマパークのパレードだ。
「色々あったけど……うまくいってよかったよね」
「そーだ!今度ゆーくんも一緒にパレードやろうよ!」
「名案ねはぐみ!それなら早速……」
「……え、ま、待って!!?」
なんか僕があっけにとられてるうちにとんでもない話になってない!?
「いやそんなすぐにやれる規模じゃないから!……まあ、機会があればまたやりたいけどさ」
奥沢さんが止めてくれて助かったよ……
他にも色々見せられたけど、どれもこれもとんでもないパフォーマンスばっかりで開いた口が塞がらなかった。まりなさんや奥沢さんが頭を抱える訳だよ……
でも、どのライブのお客さんも、弦巻さん達もとても楽しそうだった。ハロハピの皆は世界を笑顔にするという途方もない目標に向かって全力で、自分たちも楽しみながら進んでいきたいという気持ちがスクリーン越しからこれでもかと伝わってくる。
そんな皆の姿に見入っていくうちに自分が悩んでることがなんだか小さいことのように思えてきた。あの時の瀬田先輩と今回の弦巻さんがそれぞれ僕に何を伝えたかったのかがなんとなくだけどわかったかもしれない。
「なんか…ありがとね……」
「お礼なんていいわ!だって…」
だって?
「雄也がちょっと笑顔になってくれたもの!あたしのほうがお礼を言いたい位だわ!!」
え?今僕笑ってた?本当ならずいぶん久しぶりかも……
「ええ、こうやって笑えるのだもの。絶対あなたも誰かを笑顔にできるわ!だから───」
「あたしたちと一緒にライブを盛り上げましょう!!」
おそらく、僕以上の満面の笑みでそういう彼女は、とても眩しかった。
「うん……改めて、よろしくね」
どこか肩の力が抜けた気がする。ミスをしないことや役割を全うすることはもちろん重要だけど、それ以上に大切なものを教えてもらえた気がした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ということで、今回のゲストはまりなさん……でいいのかなこれ?回想で少し出ただけですけど……
次回はほかのメンバーにスポットを当てるかもしれません。まだ形ができていないので時間がかかると思いますが待っていただけると幸いです。