メインヒロインのこころ回です。
では、どうぞ
雄也視点
「おぉ……」
雲一つない満点の星空に思わず声が漏れる。月も満月で、絶好の天体観測日和だ。
「ね!とっても素敵な場所でしょ!!」
「うん……想像以上だった。」
学校の屋上って街灯とそんなに変わらないかな?とは思ったけど……周りに遮るものがないし、街灯より高い場所にあるから見え方が全然違った。
「さあ、天文部の活動を始めましょ!」
何故か星座早見表がなかったので、目立つ星を繋ぎ、見覚えのある形を探していくことにした。
すると────
「あれ?オリオンがない。」
目立つ星座だから見落としたりすることはないし……まだ季節的に早かったかな?
「オニオン?それは何かしら?」
隣にいた弦巻さんが訊いてきた。聞き間違えて玉ねぎになっちゃってるけど……
「オリオン座だよ……ギリシャ神話の英雄で、冬に見れるなんかこう…砂時計みたいな形の……」
指で空に形を書いて弦巻さんに教えると、どうやら伝わったらしくて。
「あの星座はオリオンっていうのね!あたし、ずっとちょうちょだと思っていたわ!」
ちょうちょ……ギリシャの英雄がちょうちょ……
部室に星座早見表どころかそういう本もなかったから嫌な予感はしていたけど……いくらなんでも自由すぎでしょ。
「雄也って星座に詳しいのね!」
「いや、それほどでも……」
実際、教科書レベルというか……そこまで詳しい訳じゃないんだよね。
「ねえねえ雄也、あの星は何かしら?」
目立つ星を指差す弦巻さん。その星の周りを線で繋いでみると十字型が出来上がった。ということは……
「あれは……デネブだ。白鳥座だね。」
夏の代表的な星座だけど、まだ見れるんだ。
「白鳥?」
「うん、それであれが鷲座のアルタイル、そしてあのこと座のベガを結んだのが夏の大三角だよ。」
「もう季節は秋なのに、星さん達はのんびり屋なのね。」
「あはは……」
そういう訳じゃないんだけど……あ、そうだこの星座といえば。
「ちなみに、鷲座は七夕伝説の彦星、こと座は織姫だったりもするんだけど……」
「そうなの!?初めて知ったわ!」
目を丸くする弦巻さん。ここまで反応が良いと教える方も楽しいかも。
そして、その後も────
「弦巻さんは今まで星をみて何を考えていたの?」
「あたし、人が住めそうな星を探しているの!もうそろそろ見つかりそうな気がするのだけど……」
「えぇ……」
と、弦巻さんのトンデモな目標が発覚したり
「雄也、あのふらふら動いている光は何かしら?」
「いやあんなの今まで見たことないんだけど……もしかしてUFO!?」
「すごいわ!!あの中に宇宙人が乗っているのね!」
「普通喜ぶ!?」
「宇宙人さーん!おーい!!」
「そこで手を振る!?」
未知との遭遇をしてしまったりして、彼女との会話が途切れることがなかった。ちなみにUFO?はすぐに消えてしまった。
そうしているうちにあっという間に時間は過ぎていき、帰る時間が近づいてきた。
(ちょっと惜しいな。もっとここに居れればいいんだけど……)
とは思ったが。そもそも僕不法侵入しているんだった……
「弦巻さん、もう少しで帰る時間だよ。」
気を取り直して、弦巻さんに時間がないことを伝えると。
「あら、もうなの?もっとここに居たいのだけど……楽しい時間はあっという間ね。」
「え…………」
思わず顔を見たまま固まってしまった。
「あら?どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない……」
首を傾げる彼女からあわてて顔を反らす。まさか同じことを考えていたとは……
でもこのまま黙ってるのはいけない気がするし何か話さないと……
「その、星だけじゃなくて、月も綺麗だね……」
慌てた結果、僕は見事にやらかした。
(いや……いやちょっと待って何やってんの何言ってるの!?話反らそうとしてうっかり……うっかり告白するなんて……ホント何やってんの!!?)
心臓の音が自分でも聞こえる
周りの温度を感じないはずの顔が熱い
恥ずかしさと、後悔みたいなのと、もうよくわからない感情が溢れて止まらず思考をかき回す
そして、それを聞いた弦巻さんは────
「ええ、とても綺麗なお月様ね!お餅をついているうさぎさんがはっきりと見えるわ!」
いつも通りだった。
(あ、あれ?通じてない?はぁ~よかった~……)
と思わず胸を撫で下ろすと……
「あら?どうしたの雄也?」
ため息が聞こえてしまったようで、弦巻さんがキョトンとした顔でこっちをみている。安心するのはまだ早かったみたいだ。
「な、何でもないよ……大丈夫……」
あなたの不思議そうな顔を見たらドキッとして……とは口が裂けても言えない。言える訳ない。
「でも、さっきからそっぽを向いて「なんでもない……」ばっかりじゃない。」
顔は見ていないけど少しむくれている口調だ。
「そ、それは……」
「もしかして……あたしになにか隠してるわね!」
責められるのかと思いきや、何故か声色が嬉しそうなものに変わった。
「それならあたし、雄也が何を隠しているか当ててみせるわ!」
そう言って、弦巻さんは僕の顔を見ようとぐいぐい近づいてきた。
「ちょ……やめ……」
彼女を押し退けられないから顔を背けて逃げることしかできない。
それでも近づこうとする相手を嫌でも意識して心臓が暴れ回る。
(勘弁して……もうお願いだから勘弁してぇ……)
頭の中まで真っ白になり、絶体絶命のピンチに陥っていると───
「そこに誰かいるんですか?」
突然凛とした声が屋上に響いた。
「あら、紗夜じゃない。こんばんは。」
屋上入り口をみると水色の髪を長く伸ばした女の人が立っていた。
「こんばんは弦巻さん。遅くまでの活動お疲れさまです。ですが、もう利用時間は過ぎていますよ。」
「そうなの?やっぱり楽しい時間はあっという間なのね。」
弦巻さんの知り合いみたいだ。さっきの人とは違って、僕のことは見えてないみたいだけど。
「それなら、三人で一緒に帰りましょ!」
「あ、ちょっと!!」
ホッとしたのも束の間。弦巻さんの思わぬ発言にさっきまでとは違う意味でドキッとした。あの人僕見えてないし、そもそも無断で学校に入っている人が一緒に帰ったりしたら事態がどう転んでもマズいよ!
「三人?誰かと待ち合わせをしているのですか?」
さっきの人とは違って明らかに疑問を浮かべている。こ、これは本当にヤバいかも……
「……せっかく誘ってもらったのに申し訳ありませんが、私はまだ見回わりが終わっていないんです。それに……これから日菜との約束もあるので……」
あ、大丈夫……かな?
「明日はお休みですが、ライブの練習もあると思いますし、早めに帰宅してくださいね。」
そう言い残し彼女は立ち去っていった。もう駄目かと思ったよ……
「それなら仕方ないわね。一緒に帰りましょ。雄也。」
「あ、うん……」
遊園地の時程ではないけど、色々なことが起きた、というか起こりすぎた一日だった……けど、その色々を差し引いてもやっぱりよかったかも。
(もっと星座の事を調べておこうかな……)
弦巻さんと別れた後の帰り道でそう考えていると、あの笑顔を思い出してまた顔が熱くなった。
ということで、メインヒロインのこころ回でした。いかがでしたか?
今回のゲストは紗夜さんに出てもらいました。これで全バンドからゲストが登場しましたね。
次回は他のハロハピメンバーとのやり取りになります。はぐみか、美咲か、花音か、はたまたこころ回のお替りか……
一応誰にするかは決まっているのでお楽しみに。