今回ははぐみ回なんですが、彼女以外のキャラもかなり目立っています。
相も変わらず苦戦して作ったものですがよければご覧下さい。
1/11:前話ではぐみの動機を変更したため、それに合わせて話を修正しました。
雄也視点
「───ということで明日、こころんが作ったチームとソフトボールの試合をすることになったんだ!」
「雄也にも是非観に来て欲しいわ!」
「え、え?」
昨日の天文観測の熱が冷めきらないまま練習に向かった僕を待っていたのは、それを吹き飛ばすほどの急展開だった。
「いやいや、メンバーはどうするの!?」
なんとか我に帰り、質問をする。北沢さんが抜けたハロハピは僕を入れても6人だけど、ミッシェルは練習の時しか見たことないし、僕もこの体じゃとてもスポーツなんかできない。だから実質4人なんだけど。
「だいじょーぶ!ポピパの皆が協力してくれたんだ!」
「ぽ、ポピパ?」
「
奥沢さんが説明してくれた。確かに5人なら僕とミッシェルが参加出来なくても大丈夫だけど……
「それって、協力じゃなくて巻き込んだだけじゃ……」
「まあ、正しく言うならそうなるかな……でも、そのバンドにも戸山さんっていうこころみたいな人がいるから……」
どうやらその人がノリノリだったせいで奥沢さんでも止められなかったらしい。
「みてみて!黒服の人がユニフォームも作ってくれたの!!」
弦巻さんがユニフォームを広げて見せてくる。白い生地に、赤、黄色、水色、紫、ピンクの小さいマーブル模様があしらわれており、正面には『Poppin‘Party×Hello!happy world』と二つのバンドの名前が入っていた。黒服さん達の本気具合がうかがえる。
やっぱり、こうなった弦巻さんは基本止められないみたいだ。スポーツは詳しくないけど、試合が行われるのは町内の運動場なので迷ったりすることはないし、ここまでやられて断れる訳ないので行くことにした。
幸い、翌日は快晴だったので試合中止にはならなかった。
「ねえねえ、みんなで円陣組もー!!」
試合開始の挨拶が終わると、茶髪の女の子に引っ張られてバンドチームが輪を作っていく。もしかして彼女が戸山さん?あの元気ぶりは確かに弦巻さんに似てるかも……
「いっくよー!!
ハピパ!ラポパ!スマイルピポイェーイ!!」
「掛け声位決めておこうよ……」
互いのバンドの個性がぶつかり、のっけからカオスな状態で試合が始まった。
「ストライク!!バッターアウト!!」
北沢さんの矢のような投球がバットをすり抜けてキャッチャーミットを鳴らす。
「ぃやったぁー!!」
「はぐみ、今日は気合い入ってるねー。」
三振を取られたポニーテールの人だったけど、悔しさよりも楽しさの方が勝ってる感じだ。
先発投手で四番を任されている北沢さんは早々に失点こそしたが絶好調で、投げれば三振、打てば結構な確率で外野までボールを持っていく大活躍ぶりだった。
投げるときに腕を一回転させ勢いをつけるので想像以上に球が速い。そのため松原先輩やポピパのメンバーの何人かはきりきり舞いになっていた。
あと、ポニテの人の言うようになんか今日の北沢さんはより一層元気に気合いが入っている気がするけど。一体何があったんだろう?
でも、バンドチームも負けてはいない───
「それっ!」
先発投手の奥沢さんの投球を相手選手が捉え、三遊間を貫こうとするが……
「させないよ。」
サードを守る瀬田先輩がジャンプして捉え、綺麗に着地する。これでスリーアウトだ。
「「「「キャー!!薫さーん!!」」」」
沸き立つ応援席に手を振って応える先輩。ファンサービスもバッチリだ。
「たくさんの子猫ちゃん達の声援、実に儚い…」
「薫さん。助かりました。」
「大したことではないよ。私は美咲の頑張りに応えたかっただけさ。」
「いえいえ、あたし失点しちゃってますから。」
謙遜する奥沢さん。確かに投球を何回か外野まで運ばれているけど、要所をちゃんと締めてるから失点少ないんだよね。
それに瀬田先輩は守備が上手くて綺麗なので打球が飛ぶ度に三塁側は大盛り上がりだ。結構ファインプレーを見せているのにユニフォームが殆ど汚れていないのもすごい。
更にポピパからも───
「やったぁ!見てた有咲!?おたえの言うとおり「えいっ」ってやったら当たったよー!!」
「いーからさっさと走れぇ!」
レフトを守る戸山さんと、花咲で僕に話しかけてきた黒髪の人が所々でミラクルプレーを見せていた。
最初、黒髪の人と目があった時はひやっとしたけど、あまり僕のことを気にしている感じがない。もしかして、僕が幽霊だって解ってないのかな?
そして、バンドチームで1番凄かったのはやっぱりセンターの弦巻さんで……
「それーっ!」
と、試合開始早々北沢さんの投球をスタンドに叩き込んで皆を唖然とさせたり。
「こころ!バックホーム!」
「有咲に投げればいいのね!わかったわ!」
「え、ちょ、まじかよ!?」
ノーバウンドのバックホームでセカンドからホームインしようとしたランナーを刺してしまう等。北沢さん並みに大活躍していた。
───とまあ、ずっとこんな感じなら手に汗握る白熱の勝負なんだけど、あの弦巻さん達が試合をしている訳なので……
「ストライク!バッターアウト!」
「まだまだいくわよ!!」
「こらこら、次は私の番だよー。」
次の打席で三振になってしまった弦巻さんがまだバッターボックスに居ようとしたり
「ふぇぇ……」
「わー!!かのちゃん先輩のところに飛ばしちゃった!!みんなストップストップ!!」
「「え────っ!!?」」
ライトの松原先輩の所に打球が飛ぶと攻撃側が走塁づらくなってしまったり
「いっくよーこころん!それっ!」
「それならあたしも!えーいっ!」
「おい香澄!!弦巻さんとキャッチボールしてねぇでさっさと紗綾に投げろぉ!!」
みたいな感じでキャッチャーの人の怒号が飛んだりと、なんか脱力するというか……違う意味で目が離せないというか……そんな場面も多々あった。温度差が凄まじい。
結局、試合の方は3対2で北沢さんチームの勝ちになったのだがその原因も……
「かのーん、いくわよー!」
「え、ふぇぇぇぇぇ!?」
と、弦巻さんが急に松原先輩とキャッチボールしようとして思いっきり後逸させてしまい、北沢さんチームのランナーが気付かないままホームを踏んでしまったのだ。
若干ぎこちないながらも、サヨナラ勝ちに盛り上がる北沢さんチームに対し。
「結構頑張ったんだけどなぁ……まあ、楽しそうだしいっか。」
と、マウンドの上で苦笑いをする奥沢さんから、哀愁のようなものが漂っている気がした。
そして───
「僕も体に戻れれば、こういうこともできるのかな?」
いつの間にか、わいわいやってるみんなを観ているだけで輪に加われない自分がもどかしく感じていた。
「ゆーくんおまたせー!」
試合が終わり、何とも言えない気持ちを引きずりながら皆が着替え終わるのを待ってると、北沢さんの声がした。
「お疲れさま。あれ?みんなは?」
「こころんたちはまだ着替えてるよ。はぐみが一番乗りだね!」
弦巻さんより早く着替えてくるとは……
「ねえねえ、はぐみたちの試合。どうだった?」
「そりゃ……楽しかったよ?」
急に質問を振られて詰まってしまったが。なんだかんだで見入っていたのは本当だ。
「でも、なんで急に試合をみて欲しいなんて言ったの……?」
「それはね、お礼だよ!」
「お、お礼!?なんの!?」
思わずオウム返しをしてしまう。そんなすごいことした覚えなんかないんだけど……
「ゆーくんのお陰ではぐみ、宿題おくれないですんだんだよ!
それにね!ゆーくんと一緒にやったとこ、全部正解だったんだ!こんなの初めてだよ!!」
「あ、あの時の!?」
力になれて嬉しいけど……それにしたって釣り合いがとれてないような……
だけど、その疑問はすぐに晴れた。
「実はね、最初はゆーくんにうちのコロッケ食べてほしーなって店番しながら考えてたんだ。そしたらこころんが来てね。それならみんなでパーティーしようって。」
「うちのコロッケ?店番?北沢さんのご両親は何の仕事をしてるの?」
「お肉屋さんだよ!
お肉屋さんのコロッケ……なんかよく美味しいとは聞くけど。
「でも、みーくんが美麗さんに確認したらコロッケ食べれないって教えてもらってね、それではぐみ困ってたんだ。そしたらこころんがソフトボールやればいいんじゃないかって。」
気合いが入ってたのはそういうことだったんだ……
瀬田先輩の時と言い、弦巻さんって本当にやることが大きいよね……
(別に僕なんかにそこまでしなくても……)
頭の中でそんな言葉が出てきたが、それと同時に───
(このままいつもみたいに小さくなってしまっていいのだろうか?)
という思いが急に主張をしだした。少なくとも、僕がこんな状態だと楽しませようとした北沢さんや弦巻さんに申し訳ない気がする。
だから───
「もし……なんだけどさ。」
「?」
「僕が体に戻れたら、北沢さんちのコロッケ買いに行ってもいいかな?」
自分なんて……と縮こまったりせず、ちょっとだけ前を向いてみる。
「もちろん、いつでも待ってるよ!!」
顔を上げた先にいたのは弦巻さんに負けないくらい眩しい笑顔の北沢さんだった。
おまけ:バンドチームの打順
1 こころ(中)
2 紗綾 (二)
3 香澄 (左)
4 薫 (三)
5 たえ (遊)
6 美咲 (投)
7 りみ (一)
8 有咲 (捕)
9 花音 (右)
ここまで読んでくださってありがとうございます。
後半で変わりつつある雄也のシーンにはかなり悩まされました。複雑な気持ちを文章として形にするのはやっぱり難しいです。
今回、セリフがあったゲストは紗綾、香澄、有咲でした。次回からしばらくの間、ゲストはお休みです。
次回は美咲(ミッシェル)回の予定です。お楽しみに。