今回は雄也の掘り下げとこころ回です
では、どうぞ
雄也視点
弦巻さんに見つかってから気づけばもう1ヶ月。以前までは1日が苦痛になるくらい長かったけど、今はそんな日々とは比べ物にならない位盛りだくさんであっという間のものだった。
それで、今日は来週に控えたハロウィンライブに向けてCircleで通しの練習が行われるのだが……
「う~……どうしよう。完全に目が冴えちゃった……」
それに備えて早寝したのが裏目に出てしまい、ものすごく早起きしてしまった。
「自習はれい姉の部屋に入らないと出来ないしなぁ……」
薄暗い中にぼんやり浮かぶ時計の針を見るとまだ5時半。廊下に座り込み、この有り余った時間をどう使えばいいのか考える。
(それなら、久しぶりに
目的地の病院までここから歩いて大体一時間位。それくらいならちょうどいい気分転換になるかも。
そして、病院に着いた頃には完全に辺りが明るくなっていた。
「し、失礼しまーす……あ、いたいた。」
「……。」
こっそりドアをすり抜けた先に自分と完全に同じ顔の人が寝ている。もちろん双子ではない。魂の抜けた僕の体だ。
「当たり前だけど全然起きそうにないや。いまの僕とは正反対でちょっと羨ましいかも。」
最後に見たのは幽体離脱したばかりだったのでかなり久しぶりだ。頭に巻かれた包帯もなくなり、それを巻くために剃られた髪の毛も元通りになっていた。
(よかった……傷痕もそんなに目立ってない。これなら隠せそう。)
ポルターガイストで髪の毛をめくりあげて傷のあった場所を見てみる。もし打ち所が悪ければ首を骨折しててもおかしくない。このくらいの傷で済んだのは本当にラッキーだった。
(それにしても……やっぱり僕って顔つきが幼い……背も全然伸びないし下手したら小学校の高学年って言っても割と通じちゃうんじゃ……いや!まだ成長期ではある訳だし体に戻った後からだって頑張れば多分、きっと……なんとか……
そういえば、弦巻さんってどういう人がタイプなんだろう?全然想像できないしやっぱりそれとなく聞いてみるべきなのかな……?)
鏡なしで自分の姿を客観的に見れるのは珍しいので、じっくり眺めながら色々考えているとあることに気がついた。
「……あれ?ちょっと顔が赤いような。もしかして風邪ひいちゃった?」
額に手を当てようとするのを慌てて引っ込める。もし触ったせいで体に戻ったりしたらライブに出れなくなってしまう。それに、周りの温度を感じないから触っても意味は無いんだった。
「えっと、もう少ししたら帰るから……お大事にね。」
聞こえる訳ではないけど自分の体に声をかけ、病院を後にした。
と、自分の体の様子を見てそのまま帰るつもりだったのだが、まだちょっと気持ちが落ち着かないのでCircleに寄り道してみることにした。
「あれ?そこにいるのって……」
まだ空いてもいないCircleカフェのベンチに見覚えのある人が座ってる。
「雄也!」
振り返ったのはやっぱり弦巻さんだった。寝ぼけた様子は一切なく元気一杯だ。
「お、おはよう弦巻さん……ずいぶん早いね……」
ど、どうしよう……なんか意識しちゃって視線が落ち着かない……変に思われてないかな……
「今日の練習が待ちきれなかったの!」
「そ、そうなんだ……」
幸い変には思われていないみたいだけど、まだ7時だよ?通し練習はお昼前なのに気が早すぎるって……
「雄也も待ちきれなかったの?」
「うーん、どっちかというと落ち着かないかな?今日は通しでやるわけだし……でも、すごいよね弦巻さん。全然緊張してないんだから。」
やっぱり彼女は大物だ。自分は肝が小さいので正直うらやましい。
「だって、ライブは皆もあたし達も笑顔になれる素敵なものじゃない。緊張なんかしてたらもったいないわ!」
「ま、眩しい……」
どうしたらこんなに前向きになれるんだろう?
「眩しい?太陽はあっち側よ?」
「あ、ううん。なんでもない!」
そのまましばらく何を話そう……ともじもじしていたら「ここに座って良いわよ。」と言われてしまった。
「そっ、その……弦巻さんってハロハピで演奏する前はどんなことをしていたの?」
ようやく聞きたいことができた……隣に座ったせいでますます緊張しちゃってるけど……
「色々な楽しいことを探してたわ!幼稚園であたしが好きな絵本の読み聞かせをしたり。」
「う、うんうん。」
弦巻さんは絵本が好きなんだ。想像したらちょっとほっこりする。
「黒服さん達と一緒に庭にお菓子の家を作ったり……」
「へ、へぇ……」
うわぁ、一気にスケールが大きく……材料を用意したであろう黒服さんもすごいなぁ……
「お父様があたしの誕生日に船を用意してくれてそこでパーティーをしたこともあったわ!」
「ふ、船って……どんなの?」
「あら?雄也もスクリーンで観たことあるじゃない。」
スクリーンで……?え、もしかして。
「まさか……この間の映像で観たあの大きい奴?」
「そうよ!」
え、う、うそ……
話の規模が凄まじすぎて一瞬のみ込めなかった。
その後も「お母様と満開のひまわり畑にいってたくさん記念写真を撮った」とか、「お父様が所有している山の中で動物達(クマ含む)と仲良しになった」とか、ほほえましい話とぶっとんだ話が緩急つけて出るわ出るわ……
「本当に色々なことをやってたんだね……じゃあさ、弦巻さんはいままでやってきたことの中何が一番楽しかった?」
「そうね……今かしら?」
「え?今?」
てっきり一番がないとかそんな返答が来ると思っていたのでちょっと意外だった。
「そうよ。だってあたしには皆がいるもの。」
「みんな……?」
話の意味がいまいち理解できず首を傾げる。
「ええ!ハロハピの皆とライブでどういうパフォーマンスをしたら来てくれた人が喜んでくれるか、笑顔になってくれるか。そういうことを考えているとわくわくが止まらなくなって、本番が待ち遠しくて仕方ないの!」
ライブで笑顔に出来たのはお客さんだけではない。ライブハウスのスタッフさん。一緒にライブを盛り上げてくれた他のバンドの人たち。そして、自分達も───
そんな風に笑顔が広がっていくのが楽しくて嬉しくて仕方ない。だからもっと楽しんでもらえる方法をみんなで一緒に考える。そうやって笑顔の輪はどんどんひろがっていくのだ。
「だからあたし、バンドでなら世界を笑顔にできると思ってるわ!!」
そう言って両手を思いっきり広げる弦巻さん。もう彼女の周りにまでキラキラしたものが見えそうだ。
(でも、こんな素敵な人と一緒に演奏ができるなんて……)
最初は呆気にとられていたけれど、充実感がじわじわ胸を満たしていく。こうやって色々話を聞いているうちにいつしか肩の力も抜けて自然と相づちを打てるように……
「そうだわ!あたし、今日の練習が終わったら雄也と行きたいところがあるの。」
「な……!」
一転、ガッチガチに強ばってしまった。
「だ、大丈夫大丈夫!時間なら空いてるし終わったら行こ!」
急なお誘いに完全にテンパった僕は場所も聞かずにオッケーを出してしまった。
そういえば僕、結構弦巻さんと色んなところにいってるような……
ここまで読んで下さってありがとうございます。
最近なかなか筆をとれず、気がついたらかなり時間がたってしまいました。
ゆっくりにはなると思いますが、失踪はせずに話を書いていけたらなと思います。
もちろん次回はこころ回です。お楽しみに。