幽霊を笑顔に!!   作:GTP

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大変長らくお待たせしました。

ライブ回が終わって一安心かと思いきや、今回更に大きい問題にぶち当たって大苦戦してしまいました。

色々と思うことはありますが、他の案よりよかったと感じた以上腹をくくって投稿します。


5/10 雄也の言い方をマイルドにしました

あと、前回のあとがきでも触れましたが今回から3話程シリアスな展開が続きます。ご注意下さい。


一難去ってまた一難

雄也視点

 

 

「終わっちゃったなぁ……」

 

僕のいるCIRCLEのカフェも既に日が落ち、飾り付けられたカボチャのランタンぼんやり浮かんでいる。ちなみに今はベンチに座って弦巻さんと待ち合わせ中。僕に仮装を見せたいみたいだ。

 

「本当にここで演奏したんだよね……」

 

もちろんハロウィンライブは大成功。あっという間に過ぎてしまった時間だが、余韻は全然消えない。

 

でも、楽しいのはきっとこれから。体に戻れば一気にやれることが増えて……増えて……

 

「いやちょっと待って。体に戻ったら自動キーボード出来なくない?」

 

ハロハピは元々ガールズバンド。それでも僕が皆とライブすることに抵抗を感じなかったのは基本周りから見えないからで……

 

ど、どうしよう……いままで幽霊生活が当たり前だったせいで完全に頭から抜け落ちてた……

 

さっきまで浸っていた余韻はどこへやら。大きい悩みにぶち当たってうんうん唸っていると───

 

「ライブお疲れさま……って、なんでまた浮かない顔してんのあんた。」

 

「あ、れい姉……」

 

れい姉が心配半分呆れ半分といった感じでこっちをみていた。

 

「さっきまですごく楽しそうに演奏してたじゃん、なのに今度は何で悩んでんの?」

 

「それが……」

 

 

 

 

 

 

「───なるほど、そういうことだったのね。」

 

「う、うん……」

 

晴れきらない気持ちに驚きが混ざる。れい姉は全然整理できてない僕の気持ちをあっという間にまとめてしまったのだ。今まで沢山の相談をうけていた経験は伊達じゃない。

 

「えっと、それで僕はどうすれば良いんだろう……」

 

「どうするも何も……雄也の中でもう答えはでているんじゃない?」

 

「答えが?……ってそれだと!」

 

整理してもらった気持ちを拾っていくと確かに自分のやりたいこと、言いたいことが見えてきた。けれどそれは……

 

「こころちゃん達に言いづらい?」

 

「うん……かなり……」

 

できることなら言わないですませたい。けれど───

 

「確かに言わなければみんなは解らないかもしれないけど、このことは早いうちに話した方が良いと私は思うな。

あんたは隠し事が苦手な質なんだし。抱えっぱなしにしててたらどんどん辛くなると思うから。」

 

「でも、こんな事言ってもいいのかな?それに、うまく言えるかな……」

 

「雄也がうやむやにしないで真剣に考えたから出た結論でしょ?それなら大切にしてあげなよ。

それに私だっているんだからさ、万が一雄也がうまく説明できなくても、すれ違いやぶつかり合いなんかには絶対させないって。」

 

そう言って胸を張るれい姉。元々僕より高い背がますます大きくみえた。

 

自分の気持ちを大切に……それなら、やっぱり僕は……

 

「お待たせ!雄也!」

 

自分の気持ちを見直してしたら弦巻さんの声がした。丁度よかったような……もう少し悩みたかったような……

 

「じゃあ私は先に帰ってるから……ほら自信持って。今の雄也ならきっと大丈夫。」

 

「うん……ありがとね。れい姉。」

 

れい姉は席を立ち弦巻さんと軽く話して家に帰っていった。

 

 

 

 

「弦巻さん。着替え終わったんだ。」

 

「ええ!この格好似合ってるかしら?」

 

「えっと、似合ってる……と思うよ。」

 

ライブの時と同じ魔法使いの仮装だけど。黒のローブだと雰囲気ががらっと変わって見える。ライブのMCではお客さんにお菓子をあげていたけど、この格好だとお菓子をあげないと魔法でくすぐられそうだ。

 

「その、今日はありがとうね……ライブに誘ってくれて本当に楽しかったから……」

 

弦巻さんに見つかってから一月と半分。最初は追いかけ回されて怒鳴ってしまったり、遊園地で散々な目に遭ったりした。

 

でも、落ち込んだ時は励ましてくれたて、周りから見えない僕をお出かけに誘ってくれて、独特な発想にはいつも驚かされて……

 

弦巻さんは空虚で何もない僕の時間を変えてくれた恩人だ。

 

「どういたしまして!雄也の笑顔がたくさん見れて、あたしも嬉しいわ!!」

 

やっぱりあなたの笑顔、とーっても素敵ね!と、真っ直ぐ言われて体温が上がる。その言い方はずるいよ……

 

「でも、今の雄也はまた考え事をしてるみたいね。美麗と何か話してたみたいだし。」

 

「う……」

 

見られてたんだ……逃げるつもりはないけど、やっぱり言いづらいなぁ……

 

「実はそうなんだ……実は僕、弦巻さんに言わないといけないことがあって。」

 

深呼吸してから弦巻さんを見据え、自分の思いを話し始める。

 

「これから僕、体に戻るために色々やってみるんだけどさ。」

 

 

 

 

「そうなったら……皆と演奏出来なくなるんじゃないかって思ったんだ。」

 

 

 

 

「あら?それはどうして?」

 

いつもとは変わらない口調が逆に罪悪感を駆り立てる。けれど、もう引き返すことはできない。

 

「ハロハピはガールズバンドで、僕は男だから……体に戻ったら自動キーボードをできなくなるし……」

 

皆と楽しく練習して、出来ないところがあったら励まし合って、達成できれば自分の事のように喜んでくれる。そして本番でお客さんも巻き込んで全力でステージを盛り上げる……そんな毎日が充実してない訳はない。出来るなら、何度だって一緒にライブがしたい。

 

「ハロハピがガールズバンドの形を変えれば問題ないとは思うんだけど……これからそうなるのはなんか違うというか、どうしてもよくない気がして……」

 

そういう部分で甘えてしまったら体に戻れ無くなりそう……みたいな気持ちもあるけど。やっぱりハロハピはガールズバンドとして、色々な人や他のバンドと関わって欲しかった。

 

こんなのは自分勝手かもしれない。だけど、それが僕の本当の思いだった。

 

「わがまま言ってごめん……でも僕、ライブができなくても弦巻さんやハロハピの皆とこの体じゃ出来ないことを沢山やりたいなって!

そんな風に思えたのは一緒にライブを出来たからで……それに!皆にお礼や恩返しをしないとだし、僕だって役に立ちたいから!まだ何ができるか解らないけど……」

 

あーもう言葉がまとまらない!!ちゃんと伝えなきゃいけないのになんで僕はいっつもこうなの!?

 

ぐちゃぐちゃのまま頭を抱えて下を向いていると───

 

「顔を上げてちょうだい!雄也の気持ちはちゃーんと伝わったわ!」

 

弦巻さんの声が僕を現実へと引き戻した。

 

「つ、伝わったって……いいの!?だって───」

 

「確かに最初はびっくりしたわ。だけど、その気持ちが生まれたのは雄也があたし達の事を思ってくれているからでしょ?あたしはそれを大切にしたいわ。」

 

肩に入った力がすーっと抜けていく。すれ違いにならなかった安堵に、どうしても消しきれなかった残念な思いが混ざり合って複雑な気持ちだ。

 

「だけど……やっぱりこのままはもったいないわね。雄也の気持ちを大切にしたまま一緒に演奏できる方法、何かないかしら?」

 

「気になってたんだけど……僕のキーボードってそんなにいいかな?そこまで上手くはないと思うんだけど……」

 

今日演奏したバンドの中で一番凄かったのはやっぱりRoseliaの……りんこさんだっけ?あの人と比べたら僕なんて表現力も技術も全然で……

 

「そんなことないわよ。ハロウィンライブに向けて雄也は誰よりも練習してたじゃない。」

 

まあ、自習と自主練意外やれることはあまりなかったからね……

 

「雄也の演奏って、ちょっと控えめだけどがんばり屋さんなところとか、周りをちゃんと見ているところとか、そういうあなたらしさがたーっさんつまってて、聴く度にどんどん素敵な演奏になっていくの!

あたし、それが楽しみでいつも練習時間が待ち遠しかったわ!」

 

「あ、ありがと……すごく嬉しい……です。」

 

元に戻りかけた体温が再び「ぐん!」と上がる。自分の演奏をほめられるのは何年ぶりだろう……

 

「ええ!だからまた一緒に演奏したいのだけど─────そうだわ!」

 

「い、今!?今度は何を思い付いたの!?」

 

いくらなんでも早すぎない!?

 

「それは……内緒よ。雄也が体に戻ったら教えてあげるわ!」

 

口元に人差し指をあててウインクする弦巻さん。

 

楽しみにしててちょうだい!とも言われたけど、初めて見るそんな仕草にドキッとして返事ができなかった。

 

「そういえば、あたしも雄也に伝えたい事があるの!」

 

「弦巻さんから?僕に?」

 

「あたしね、この衣装の下にミイラの仮装もしているの!今から……」

 

「そっ、それは大丈夫!!いま夜だし多分寒いでしょ!?だから無理して着替えなくていいから!!!」

 

その気持ちだけでも充分嬉しいです!満足です!!だから……

 

だからここで脱ごうとしないでぇ!!!

 

「あら?雄也は見たいと思っていたのだけど。」

 

「いやそうだけどそうじゃなくて……ああいやえっと……!」

 

エッチで目のやり場に困るから……なんて言えるわけないじゃんっ!!

 

ホント弦巻さんってこういう部分は純粋というか危なかっかしいというか……こっちは色んな角度からのドキドキ責めでもう倒れそうなのに……

 

「どうしたの雄也?顔が赤いわよ?」

 

それはあなたのせい……いや元は僕と氷川先輩のせいか!?ああもうそんなことよりどう説明すればいいのさこれぇ!?

 

「あ、いた。こころー!」

 

よ、よかった!奥沢さんが来てくれた!

 

「あら、美咲!どうしたのかしら?」

 

「どうしたも何も……もう打ち上げの時間だよ?ミイラは今度にして早く行こ。」

 

話を聞いていたのかどこか呆れた様子の奥沢さん。いつもの服にピンと立った犬耳としっぽを着けてるけど狼男……いや、狼女かな?

 

「やっぱり雄也といると時間があっという間ね。雄也の気持ちをハロハピの皆に伝えるのは明日かしら?」

 

「そう……だね。明日は日曜日だし……」

 

今度はちゃんと言いたいことをまとめておかないと……うぅ、緊張するなぁ……

 

「それじゃあ雄也、また明日!」

 

「う、うん!また明日。奥沢さんもその、ありがと……」

 

「どういたしまして。あと……お疲れさま。」

 

CIRCLEに戻っていく二人、奥沢さんは僕の気持ちという部分で首を傾げていたけど、どうやらなんとなく察したように見えた。

 

 

 

「ふー……」

 

弦巻さんを見送った後。ちょっと疲れたのでカフェの座席に腰掛けて一息。

 

全力で楽しんで、自分の気持ちと向き合って、それを伝えて、最後に大慌ててして……今日はもう本当に感情面が忙しい……

 

「もうすぐ、この生活ともお別れか……」

 

これから体に戻れるか色々試してみるわけだけど、不思議と上手くいきそうというか、あまり失敗する図が想像できない。

 

「でも、ちょっと惜しいかな……?もう壁をすり抜けたり宙に浮いたりでき……なく……」

 

 

 

 

異変に気付いたのはそんな事を考えながら自分の手を眺めていた時だった。

 

 

 

 

「今、僕の体薄くなってたよね……」

 

今まで向こう側が見えなかった筈の手のひらから、カボチャのランタンの光が透けていく。

 

今までの思考が全て止まり、訳もわからず透けた光に釘付けになっていると───

 

「雄也っ!!いる!?」

 

「れ、れい姉!これ……!!」

 

息を弾ませ戻ってきたれい姉にはっとして、慌てて手を見せる。透けている僕にれい姉は一瞬目を見開いたけど、すぐに落ち着きを取り戻してみえた。

 

「雄也、落ち着いて聞いて。今病院から連絡あったんだけど、今雄也の体、風邪こじらせて危険な状態なんだって。」

 

「は……?」

 

近くにいるはずのれい姉の声がどこか遠くに離れていく。

 

『体が力尽きたら強い執念がない限り魂も消えてしまう。』

 

以前れい姉が教えてくれた事が頭の中でぐるぐる回り、不安と恐怖と後悔が寒気になってぶわっと胸の中で広がっていく。

 

「だけどまだ大丈夫なはず!早いうちに体に戻れば……って雄也待って!どこ行くの!?」

 

 

 

 

なんで……なんで今なの!?僕が何したの!?何がいけなかったの!?恩返しがしたいのに……やりたいことを探したいのに……

 

なのに……なのに!!僕はこうやってみんなを悲しませることしかできないの!?

 

苦しさが次第に昔の嫌な思い出へと形を変え、どんどん頭の中を塗りつぶしていく。

 

「───やっぱり、母さんや学校の皆が言うように僕はいちゃいけなかったのかな?疫病神……なのかな?」

 

れい姉の話を聞かずに飛び出した僕は、気づけばそんなことを呟いていた。


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