幽霊を笑顔に!!   作:GTP

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お待たせしました。

今回、アンケートを設けました。答えてくださると嬉しいです。

3話続いたシリアスもここで一区切りです。では、どうぞ。


暗闇を越えて

雄也視点

 

 

「この間よりずっと酷くなってる……」

 

真っ赤な顔に、苦しそうな呼吸。以前見たときよりも悪化している自分の体を前にして思わず息を飲む。

 

本音を言うと恐いし不安だ……でも、やるって決めたんだ。苦しくたって、辛くたって……もう僕は一人じゃないんだから───

 

覚悟を決めて、胸の上に手をかざす。

 

「これでも大丈夫って言われたけど……ってあれ……うわぁ!!」

 

触れた瞬間、手を動かせなくなり、そのまま強い力で一気に引きずり込まれた。

 

そして────

 

「……こ、ここは……?」

 

気がつくと僕はまた暗闇の中にいた。

 

辺りを見回してみても何もない。だけど、さっきの夢とは違って意識がはっきりしているし、自分の体だけはくっきりとみえていた。

 

「ここって……もしかしてあの世!?そんな!どうしよう!まだみんなに謝れてないのに!!」

 

訳が解らない状況に混乱が止まらなかったけど、いくら時間が経ってもなにも起きなかった。

 

「と、とりあえず出口を探してみよう。死んでるかどうかまだ決まった訳じゃないし……早く皆の所に戻らないと……」

 

ようやく焦りも落ち着き、しばらく手探りで周りを探索していると───

 

「ずいぶんおそかったわね。」

 

「!!」

 

この背筋をなぜるような気だるげな声……まさか!

 

「か、母さん……」

 

振り返った先にいたのは今僕が一番会いたくない人だった。外で遊んでいたのだろうか、着飾った服を身に付け、派手な化粧をしている。でも、僕はそれが気持ち悪いとしか思えなかった。

 

「ずっとどこほっつき歩いてたの。」

 

「い、言わなきゃ駄目?馬鹿馬鹿しくて聞いてられないと思うんだけど……」

 

相手の表情に若干驚きが見えた。反抗されるとは思ってなかったらしい。

 

もちろん色々思い出して足がすくみそうなのだが、幽体離脱する数ヶ月前からはずっと家にいなかったので嫌悪感の方が勝っていたのだ。

 

「言えよ。突き落としたのに半年もこっちに来なかった理由はなんなの。」

 

「……は?」

 

今、この人何て?突き落とした……もしかして!

 

「解らない?私があんたを歩道橋から突き落としたの。その後私も別のところで自殺したんだけど。全然来ないからずーっと待ちぼうけよ。いいご身分になったんだねお前は。」

 

ほら。と顎を軽く持ち上げると、首にはっきりと縄の痕が残っていた。

 

「じ、じゃあ、僕が幽体離脱したのって母さんのせいってこと!?一体なんで!?」

 

「疲れたのよ。仕事クビになるし、慰め(好い人)金蔓(良い人)も見つからない。けど、私が死んでもお前だけ残るのがなんか癪だった。それだけ。

っていうか幽体離脱ってふざけてんの?しぶといことしてないでさっさと死ねよ……」

 

なんで私ばかりこうなるんだろなぁ……と、何事もないようにしれっと言ってのける。

 

「う、嘘でしょ……」

 

本当になんなんだこの人……どこまで自分勝手で……ん?でもこれ、母さんからしたら結構皮肉な結果になってない?幽体離脱したから僕は弦巻さんや皆と知り合えた訳なんだし。いや感謝なんか絶対するわけないけどさ。

 

「何よその顔。言いたいことあんの?」

 

「そんなのどうでもいいじゃん……

それよりさ、ここからどうやったら帰れるか知らない?皆待たせてるから……」

 

「皆……?じゃあ何、お前母さんの気持ちも知らないで色々ほっつき歩いて友達ごっこしてたの?いいご身分じゃない堕せないだけで産まれてきた死に損ないが……」

 

さっきまでのいい加減な物言いが、怒りと怨みでじわじわと重くなっていく。

 

「頭来た。絶対あの世に連れていってやる。」

 

「い、嫌だ……!!」

 

つかみかかろうとする母さんをなんとか避けるが、すんなり諦めてくれるわけなかった。

 

「逃げんじゃないよ。面倒くさい……」

 

「冗談じゃないよ!絶対帰るってみんなと約束してるんだから!!」

 

「お前に約束なんてする資格なんてないんだよ。どうせつるんでいるような連中もろくなもんじゃないんでしょ?

みんなうまく生きて行けなくって表では傷の嘗めあい、けど裏ではその人への不満を愚痴る。そんな形だけの奴らなんでしょ?よかったねぇそんな素敵な友達できて。

そうだ、あんたをあの世に連れてったらその人達の顔も拝みにいってやろうかしら。意外とせいせいしたーみたいな顔してたりして。」

 

怨みと怒りで重い口調に嘲りが加わって、また形が変わった気がする。

 

「───」

 

でも、気持ちが変わったのはこっちもだった。焦りと恐怖がぴたりと凪いだ僕は、何も言わずつかつかと母さんに近づき───

 

 

バチンッ!!

 

 

虚を突かれたあいつの頬を思いっきり張り飛ばした。

 

「もうなんなんだよ……いい加減にしてくれよ!!どこまで自分勝手なんだあんたは!!

自分の息子も父さんもほっぽって、仕事の後は毎晩毎晩男漁り……いい歳して恥ずかしくないの!?父さんなんかいつも

「ごめんな雄也……お父さんがちゃんとしてないせいで……悲しい思いさせて本当にごめんな……もう少しだから……」

って僕に隠れて泣いてたんだよ!?ろくでもないのはそっちだよ!!

それにまだ僕はいいよ!気弱だし、なよなよしてるし。だけど、見てもいない僕の大切な人達まで解ったように貶してんじゃないよ!!

あんたみたいなあばずれより弦巻さん達の方が百万倍良いよ!!この……くそばばあっ!!!」

 

貯まりに貯まっていた怨みに火が点き、感情が一気に燃えあがる。一気にしゃべったせいで息は切れるし、母さんの顔が怒りを受け入れられずにひくついている。それでも言いたいことは全然尽きない。

 

「それに……皮肉だよ!僕がそんな人達に出会えたのは幽体離脱してからなんだから!優しくて、元気いっぱいで、全力で誰かを笑顔にしようとするような……そんな皆と過ごせた一月半はすっごく充実してて……もう可哀想だよ!そんな悲しい見方しかできない母さんは……」

 

そこから先は言えなかった。

 

「殺してやる……」

 

さっきまでとは違い、言葉からも、表情からも感情が掴めない。セットしていたはずの髪が不気味にうねり始め、どろどろと化粧の流れ落ちた肌は生気が感じられない位に白く、濁った目からは血の涙が流れ、口が裂けるようにぱっくりと広がって───

 

マズい!逃げないと!!

 

恐怖ですくみそうな気持ちを突き動かし、なんとか駆け出した。

 

「待て!待て!!待てぇぇぇぇぇぇ!!殺してやる!!絶対連れていってやる!!捕まえて永遠にいたぶってやる!!半年待ったんだ!!それなのに母親馬鹿にして、私より先に女作って、ただで済むと思うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

絶え間なく響く割れ鐘のような声が後ろから離れない。

 

後ろを向くと目を剥いて、ありとあらゆる悪感情を混ぜたかのような形相で僕に追いすがってくる母さんの姿が。もう同じ人間としてすら見えない───!

 

 

 

こんな状況、一刻も早くどうにかしたかった。けれど、いくら走っても振り切れないし、隠れる場所も見当たらない。

 

「はぁ……はぁ……一体……どこに行けばいいの……?」

 

いったいどれだけ逃げ続けたのだろう?元々自信がない体力が切れ、膝に両手を当て荒くなった息を整える。

 

(体が重い……嘘でしょ?終わっちゃうの?やっぱり僕は……ダメ、だったの……?)

 

そんな僕に激を飛ばしたのは、聞こえる筈がない、大事な人の声だった。

 

『雄也……雄也!!』

 

「その声……父さん!?なんで?」

 

『今はいいから走れ!出口はもうすぐだ!!』

 

顔を上げ、声のする方を見ると微に光が見える。

 

「あれが……出口?」

 

『早く!!もう来てるぞ!!』

 

「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「え、うわぁ!!」

 

母さんの声がかなり近づいていたが、ギリギリで逃げることができた。

 

父さんの声と見え始めた出口に引っ張られてなんとか再び走れたけれど、胸と喉が苦しい通り越して痛い。足がもつれて何度も転びそうになる。それでも、そんな体に鞭を打って進むにつれて見える光もどんどん大きくなって……

 

『皆と仲良くな。雄也が頑張ってるの、ずっとこっちで見てるから───』

 

光に包まれ、眩しすぎて目を閉じると、父さんがちょっと笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「───はっ」

 

気がつくと、目に入ったのは真っ白な天井だった。

 

「ここは……病院?僕、帰って来れた……?」

 

「雄也!」

 

「つ、弦巻さん……?来てたんだ……」

 

なんとかベッドから体を持ちあげ、向き直る。半年眠りっぱなしということもあって、その動作すら結構辛い。

 

「ようやく目を覚ましたわね!あの後3日間、雄也はずーっと眠っていたのよ。」

 

「み、3日も……?」

 

あ、花咲の制服……あの日は確か日曜日だから今は……平日か。

 

「そうよ!ハロハピの皆は放課後用事があるって言ったけれど、連絡すれば必ず……雄也?」

 

「……あ、あれ?おかしいな……僕なんで泣いてるんだろ……」

 

目の前にいる弦巻さんがどんどん滲んでいく。どうして?嬉しいはずなのに、喜ぶべきなのに、何故か涙が止まらない。

 

「……我慢はよくないわ。何があったかはわからないけれど、目を覚ます前の雄也はとっても苦しそうにしてたもの。」

 

「……」

 

声が詰まって返事ができない。首を横に振って拒否を伝えるのがやっと。

 

「大丈夫。あたしはどこにも行かないわ。あなたが笑顔になるまでずーっと一緒にいてあげる。だから──」

 

いつもとは違う柔らかい声。それに聞き入るまもなく布団の上に置いであるはずの手がふわりと暖かくなる。

 

「うっ… ひっく………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

弦巻さんが僕の手を包んでくれている。そう気づいた瞬間に心の中の何かが外れ、すすりあげながら崩れ落ちていった。

 

 

 

 

 

あんな母親の元に生まれた事が辛かった。皆を侮辱されて心の底から腹が立った。醜い姿になってどこまでもすがり付いてくる姿は他に比べる物が無いくらい恐ろしかった。

 

 

 

 

でもそれ以上に弦巻さんにまた出会えた事が嬉しくて、ほっとして、握ってくれた手が温かくて、心の底から安心できたから────




ここまで読んでくださってありがとうございます。

一点補足ですが、雄也の母親はああ見えて外面だけは結構いい設定です。雄也の父も働いていたので彼女の本性に気づくのが遅れてしまいました。

さて、冒頭にて触れたアンケートの内容ですが

「雄也の母親の末路を投稿を希望するか。希望する場合どちらに投稿するか。」

をこのお話を読んだ方に聞こうと思います。

あそこまでやった雄也の母親をお咎めなしにするのもどうかな?と思う反面

末路回はバンドリキャラを出さない+暴力的な描写に加え、今作のある登場人物が大暴れするという内容になるので人を選ぶかもしれない

という懸念がありましたのでこのような形をとりました。

もし本編と活動報告への投票数が並んだ場合は活動報告に投稿します。もちろん、見たくないが一番多い場合は投稿はしません。

最後になりますが次回かその次は短編集か、オリキャラ二名を追加した新しいストーリーになります。

雄也とこころがどうなっていくか。これからも応援していただけると嬉しいです。

5/7 アンケートを締め切りました。断罪回は2話後に投稿しました

雄也母の断罪回。投稿するなら?

  • 「幽霊を笑顔に!!」本編
  • GTPの活動報告
  • そもそも見たくない

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