幽霊を笑顔に!!   作:GTP

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注意!

こちらは前々回『暗闇を越えて』でアンケートを取ったとあるオリキャラの断罪回となっていますので、そちらのお話をご覧の上で読むことをおすすめします。

また、このお話は上で取りあげた人物が激しく痛め付けられる内容となっており、今までとは少々異なっております。

それでもよければ、れい姉の本気をご覧下さい。


番外編2 怨霊の末路

美麗視点

 

「はぁ……」

 

講義が既にだれも居ない教室に1人で考え事をしていると、色々な悪感情がため息になってこぼれ落ちた。

 

原因は講義とかレポートとかそういうことではない。さっきあった弦巻家の黒服さんからの連絡だ。

 

最初は雄也が目を覚ましたことを教えられた。お医者さん曰く、健康面の問題はないので、検査とリハビリが終わればそのまま退院できるらしい。

 

だけど、吉報に胸を撫で下ろしたのもつかの間、続く報告で私の体に緊張が走った。

 

「気づいたら真っ暗な場所にいて、叔母さんに会って幽体離脱した原因だって言われて、恨み節をたくさんぶつけられて、逆にこっちが怒鳴り付けたら化け物みたいに姿が変わって追いかけてきた……か。」

 

目を覚ましてすぐに、雄也はこころちゃんに泣きながらそんなことを言ってたらしい。相当怖かったのだろう。

 

「悪霊じゃなくて……怨霊かな?今回の場合だと。」

 

いずれにせよ雄也のことを相当恨んでいるのは明白だ。必ずあいつを追いかけてこっちに戻って来るだろう。いや、もう既に戻って来てるかも。

 

基本、この手の相手は深追いしないのだが、このままにしておくとあいつが危ない。

 

「というか、聞いてるこっちまで頭おかしくなりそうなんだけど……」

 

叔父さんが苦しんでいても、雄也が1人になっても関係ないと遊び呆けてばかり。それで仕事がなくなれば、何でお前は生きてるんだと自分の息子を道連れに……

 

そんな理解できない。したくもない話の数々がぐるぐる回り続け、悪霊、怨霊絡みで冷えていた頭が次第に温まっていく。

 

色々な霊や人を見てきたけれどここまで色々と酷い、というより下らないのは久しぶりだ。しかも身内に……気づけなかったのがとても悔しいし腹立たしい。

 

「……ってダメだこんなんじゃ。今回は荒事になりそうなんだし、尚更慎重にいかないと。」

 

ふつふつ沸き上がる怒りをなんとか脇に置き、準備ができてるかを一旦確認する。

 

お灸を据えたくて仕方ないけど、もし相手が私の手に負えない規模なら住職さんを頼らないといけないし、下手をして逃げられでもしたら目も当てられない。熱くなって突っ走るのはとても危険だ。

 

「明日の天気はオッケー。御札とお清めの塩は……うん、こっちも大丈夫。

今すぐ行っても問題なさそうかな?」

 

そこからはあっという間だった。

 

叔母さんの怨霊が寄り付きそうな場所ということで最初に雄也の家に行ってみたのだけど、外からうっすら嫌な気配がしたのだ。

 

とりあえず周囲に御札やらお清めの塩やらをたっぷりと仕込み、嫌な気配の動きを封じておく。向こう1週間は雨が降らないみたいなので御札も塩も大丈夫だ。

 

その後も雄也が突き落とされた歩道橋やアヤ校周辺も探ってみたけれど、とくに怪しい感じはなかった。

 

 

 

 

 

 

そして翌日の早朝、病院から預かっていた雄也の鍵を使い、家に乗り込むと……

 

「出られない……出られない……だれだ、だれがこんなこと……」

 

あいつの部屋の前から恨みまがしく歪んだ、でもどこかで聞いたような声がする。どうやら一発で上手くいったようだ。

 

(いざというときの準備もオッケー……)

 

最後の確認をして、意を決してドアノブに手をかけると───

 

「だれだ……」

 

「おはよう。久しぶりだね……叔母さん。」

 

病的な程白い肌に、濁りきった目。一瞬誰だか判断出来ないくらいに叔母さんの姿は変わり果てていた。顔くらいしか長所ないのにね。

 

「お前か……私をここから出せなくしたのは……」

 

「え、まぁそうだけど……」

 

開口一番に恨み節をぶつけられちょっとだけ面食らった。

 

「あのさ、私のこと覚えてない?親戚なんだけど?」

 

「出せ……私をいますぐここから出せ……」

 

(忘れられてる……まあ最後にあったの十年は前だしそんなもんか。)

 

奇跡的に会話がいい方向に向かうかもしれないと、念のためで残しておいた情を溝に捨てる。こっちの話を聞いてもらえるように無理矢理でも仕向けないとどうしようもなさそうだ。

 

「出したらどうせ雄也とこころちゃんを呪いにいくんでしょ?」

 

「当たり前だ……あのクズ、散々待ってる間に、女作って、バカにして、みつけたらただじゃおかない……」

 

「良い歳して僻んでるだけとか……馬鹿みたい。」

 

というか、その言葉だけには反応するのね。

 

「あんたみたいなガキに私の何がわかるんだ……」

 

目を剥いて睨まれるけど全然怖くない。うすうすそんな気はしてたけど怨霊としては全然ね。それでも油断はしないが。

 

「確かにわからないわね…可哀想なくそばばあってことくらいしか。」

 

「お前……!お前も!!お前もあいつと同じことをぉぉぉぉぉ!!!」

 

私の煽りにぶちギレ、獣みたいに汚い叫び声をあげながら突っ込んでくるが

 

「それっ!」

 

「ぐうっ……」

 

その顔に御札がたっぷり入ったハンドバッグが叩き付けられた。

 

「お前……お前ぇぇぇぇぇぇ……」

 

「どう、少しは応えた?」

 

顔を抑えたまま後ずさりして、野良犬みたいな唸り声をあげる叔母さん。

 

「私がいる限り、雄也にもハロハピの皆にも指一本だって触れさせやしない。

だからさっさと諦めて成仏してくれない?こっちも疲れるし。」

 

これで聞き入れてくれるならいいのだけれど。

 

「殺してやる……殺してやる……!!お前も、弦巻とか言うガキも!そいつの仲間も!あの死に損ないと一緒に向こうでいたぶってやるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「……あんま驚かないか。」

 

反撃されたせいで逃げ腰になる輩は結構多いのだが、今回は怯む感じが全くない。ちょっと怒らせすぎたかな?

 

(まあいいや。また突っ込んで来るし、今度は完全に動きを止めてしまおう。)

 

ハンドバッグをそのまま手放す。相手を見据え、掴みかかろうとしてくる手をかわして……

 

「フッ!」

 

「ヴッ……」

 

握りしめた数珠をカウンターでお腹に叩き込んだ。

 

 

「グッ!ガフッ……」

 

そのまま肩を抱えて同じ場所を膝で2、3発。痛みで下がってきた背中に拳を降り下ろす。

 

そして、膝を付かせた叔母さんの頭を両手で掴み───

 

「ングッ!?」

 

軽く振り上げて自分の右膝に顎を叩きつけた。

 

「ッ!……ン゛ッ!」

 

詰まったような悲鳴と微かに聴こえる鈍い音に構わず顎を蹴り続けると、脳震盪で力が抜けたのか頭がずっしり重くなった。

 

「膝にも御札仕込んでて良かった。さてと……」

 

抱えた顔を覗くと、虚ろな目から血の涙を流し、叔母さんが微かに呻く。

 

「わかったでしょ?私もすんなりやられるつもりは無いって。

だからこれ以上痛い思いする前に雄也とハロハピの皆のことを諦めて欲しいんだけど……」

 

完全にこちらがマウントをとった状態での最終勧告。『ゆるしてくれ』とか『私が悪かった』とか。そういう類いの言葉が聞けるならこれ以上蹴りを入れる理由もないのだけれど……

 

「みんな、のろ、ってやる……いま、すぐ……」

 

私の言葉は最後まで届くことはなかった。現実を受け入れられない叔母さんは虚ろなエゴに大人げなくすがり付き、形のない恨み節を垂れ流している。

 

 

「そう。」

 

 

本当に、本当にどうしようもない大人だ。けれど──

 

 

 

 

 

「ありがと。()()()()()()()私も憂さが晴らせるわ。」

 

 

 

 

 

そう言ってくれると思ってたよ。叔母さん。

 

 

「───!」

 

焦点の合ってなかった相手の目に光が戻り、初めて恐怖で見開かれる。

 

それを合図代わりに、抵抗するより先に思いっきり頭を振り上げて───

 

「ア゛ッ!!……ギャッ!!」

 

だらだら流れる鼻血を厭わず、鼻がひしゃげるまで蹴り付け

 

「アガ……ガ……」

 

両方の眼窩が真っ赤に膨れあがるまで膝を打ち込み

 

「フー……ヒュー……」

 

「そろそろ限界かな?」

 

前歯をへし折りながら次狙う所を考えていると、御札の力と衝撃に耐えきれず、みるみる体が薄れてきた。

 

病的に白かった肌は既に血に染まり、最初から生前の面影のなかった顔は更にボコボコに腫れ上がって、最早人ではなく赤い岩肌といった方が近い見てくれになっていた。

 

「おやすみなさい。もう二度と戻って来ないでねっ!」

 

頭を手離し、力無く項垂れた顔をサッカーボールみたいに蹴り飛ばす。

 

軽く宙を舞った後どさりと床に叩きつけられた叔母さんは、ぴくりともせず虚空へと消えていった。

 

 

 

「……終わったかな?」

 

一応他の霊が居ないか確認して、(ルールなので)祓った相手に手を合わせると、熱くなっていた気持ちが落ち着いてくる。ここまでやったのは久しぶりだ。

 

ブーッ、ブーッ───

 

そのままお暇しようとしたら、ポケットに入れていたスマホが振動した。

 

「も、もしもし…」

 

「もしもし雄也?起きたんだ。」

 

かかってきたのは公衆電話からだけどすぐに気づけた。

 

「うん……連絡遅れてごめん。実は目を覚ましたのは昨日だったんだけど……ってあれ?そんな驚いてない?」

 

「まあ、昨日黒服さんから電話があったからね。あんたが目を覚ましたって。」

 

「そうだったんだ……じゃあ名前の事も聞かれて……ってそうじゃない!黒服さんと電話した時に僕の母さんのことは聞かなかった?

僕がその、こころちゃんの前で泣いちゃって……勢いで色々話して……」

 

電話の向こうの声はしどろもどろだけど、抑えきれない不安が滲んでいた。

 

「それも話はきいたけど、心配しなくて大丈夫。ああいう場所から戻って来た霊はみたことないし。」

 

「本当に戻ってこないの?すっごい執念だったけど……」

 

「うん。お盆になると成仏した霊がもどってきたりするけど、聞いた感じの悪霊とか怨霊は見たことないんだよね。」

 

「そ、そうなんだ……意外……」

 

まだ半信半疑な感じだけど、一応納得してくれたみたいだ。

 

私は今回やったことを誰にも言うつもりはない。自分で退治した悪霊や怨霊の事は全部お墓まで持っていくって決めているのだ。

 

「それよりもほら、雄也はこれから沢山やることがあるんだから。一緒に頑張ろ?」

 

「そ、そうだった、追試対策と転校の手続きとかしないと……!

れい姉、勉強でわからないとこあったら教えてくれない?」

 

「もちろん。でもそれだけでいいの?もっと大事なことがあるんじゃない?」

 

「え、もっと大事なこと……?なんだろ……」

 

「こころちゃんとのデートとか。」

 

「デートって……れい姉ぇ!!!

 

「っ!うるさいなぁ……大声ださないでよ……」

 

「じゃあからかわないでよ!」

 

喧嘩して、仲直りして、笑い合って……肩の荷が降りたせいもあって、他愛のない会話が時間を忘れたくなるくらいに懐かしかった。

 

 

 

 

 

 

「───ってダメだ。そろそろ準備して大学行かないと……」

 

「え、もう?講義にはまだ早くない?」

 

「ちょっとした用事があるの忘れてた。ごめんね。」

 

「それは大丈夫だけど……あ、待ってれい姉。最後に一つだけいい?」

 

「ん?どしたの?」

 

「えっと……色々ありがとうね。れい姉や皆がいなかったら僕、こうやって戻れなかったから……」

 

 

 

「どういたしまして。今日の講義終わったら私もお見舞い行くから。それまで待っててね。」

 




ここまで読んで下さってありがとうございます。

以下は裏話と私のこういう部分で苦労したーという内容が長々書かれています。読み飛ばしても大丈夫です。



今回、バイオレンスな描写はすぐに出来上がった代わりにれい姉の心理描写にかなり悩まされました。

パッとあげるだけでも

・相手が死ぬまで暴力を振るうれい姉の気持ちはどうなのか。

・止めを指すまでの経緯はどうするか。

・全てが終わった後に彼女がそのことを引きずるかどうか。

・外部の人にみられてもいいのか。

等々

雄也の母を問答無用で潰すのは簡単ですが、それだと私の中の彼女のイメージと違う気がする・・・

そう悩んだ結果、一から話を見直すことになってボツシーンがたくさんでました。

それに平行する形でれい姉の性格なんかも自分なりに色々と見直し

『怨霊や悪霊相手でも暴行は自衛やクールダウン狙いの最低限で留め、それでも反省の様子が無いようなら力業で止めを刺しにいく。』

『まれに自分から霊感のことを言うことはあるが、今回のようなケースは人殺し同然と考えており住職さん以外への口外は厳禁としている。』


最終的にそんな感じのスタンスが生まれました。最後は私怨を込めましたが…

ちなみに本編の補足ですが、殴り込みの際にれい姉は万が一に備えてスマホのロックを外し、すぐ自分の居場所を住職さんのチャットに送れるようにしていました。そのため家から出られなくなった地点で雄也の母親はほとんど詰みの状態だったりします。

大変ではありましたが、ゆくゆくはれい姉を主役にした外伝を作る予定なのでこういった形で自分のキャラクターと向き合うことができたのは大きな収穫だと思います。

その時はこういった過激な部分ではなく、バンドリメンバーと幽霊の仲介役みたいな感じでれい姉を書いていきたいなと思っています。

投稿するのは本編終了後となりますのでもうしばらくお待ちください。

そして、アンケートに回答してくださった皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。色々考える機会をくださって本当にありがとうございました。

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