今回も最後までドラッグしながらお楽しみください。
では、どうぞ
雄也視点
「───だってさ。雄也。」
藤堂豆腐店に出た男の子の幽霊。その子から事情を聞き終えると、れい姉はこっちに話を振った。
説明によると、男の子は5歳の一人っ子で死霊…つまり、僕とは違ってもう戻る体のない魂とのことだった。
亡くなったのは比較的最近で、死因は不明…というより、質問しなかった。*1あと、ここには何回か来たことがあるけど、たまたま全部花園さんのいないタイミングだったみたい。
そして───
「…つまり…僕にリクエスト…じゃなくて、演奏をしてほしいのね。
ちなみにこのお歌、出来たのがれいね…そこのお姉さんが生まれるより前のだけど…お父さんかお母さんが好きだったの?」
「ちがうよ。おとうさんとおかあさんとぼくがすきなの。」
「家族3人好きだから違うって。」
「そうなんだ…」
…きっと今でも、ご両親はこの子のことを想っているのが伝わってきた。
「よかったね。雄也。」
「う、うーん…」
花園さんにはそう言われたけど内心複雑だ。
そりゃ…不思議な形ではあるけど初めてのリクエスト。僕がやったほうが良さげな曲だし、そこまで難しくもないし、他人事とは思えないし…僕自身に断る理由はないんだけど…
(これ通したら…本末転倒になんねーか…?)
(うん…)
そう言いたげな市ヶ谷さんに小さく頷き返す。
そもそも、アレンさんが路上ライブをする人を募集したのは幽霊対策な訳だからね…本人も頑張って白目剥くのこらえてるけど、殆ど何もしゃべってないし…あと心なしか、震えも大きく…
「ユー…!」
「は、はい…」
僕の両肩に両手がずしり、と乗っかる。ちょっとだけ腰が引けそうだったけど…
「
あの時とは違い、残り少ないエネルギーを絞り出すようなエールだった。
「え、でも…」
「
「良いって言ってるんだしやってみたら?まず悪いことにはならないだろうし。
それに───」
アレンさんが戻って視界が開けると、れい姉がふふっ、と笑っている。
「放っておけないんでしょ?幽霊やってた身としては。」
「…」
やっぱり全部見透かされていたみたいだ…
「っても、ご両親来てなきゃじゃね?」
「何回かやってればいつか来るんじゃない?」
「まぁ確かに…狙ってやるのもアレか…」
「ときどきこっちでもおでかけしてるよ!」
「なら大丈夫か…?」
「その間、キミはお留守番だったの?」
「うん!ぼくおるすばんすき!けどおそともすき!」
「えらい!有咲も見習わないと。」
「人を引きこもりみたいに言うな!外なら今まさに出てんだろ…ってごめん。つい…」
市ヶ谷さん花園さんは男の子と話している。今のところ逃げられたり…とかは大丈夫かな?
「────やっても…いいんですよね…」
二人が頷く。れい姉は優しく笑って、アレンさんは余裕なさげに…
それを確認してから、大きく息を吸って…吐いて…
「市ヶ谷さん、花園さん。その子と向き合って話したいんだけど…協力お願いしてもいい?」
「お、おう…」
「うん。」
男の子のいる場所と、目線の高さをおしえてもらい、見えないなりに膝立ちで向き合って…そして───
「お歌のお願い、確かに受け取りました。できるようになるまで少しだけ待っててね。」
「わぁ…!うんっ!まってる!いいこでまってるっ!」
周りの反応をみる限り。思いはちゃんと伝えられたみたいだ。
他人事とは思えなかった反面、幽体離脱と死霊だし「気持ちが分かるよ」なんて軽々しく言いたくもない。きっと最期は…僕なんか比じゃないくらいに苦しかったのかもしれない。
けれど、そこはあまり関係なかった。練習したい。込めれる限りの思いを込めて本番で演奏したい。そんな気持がじわじわ広がって、気づけば、他の曲も頑張りたいと思えて────
「話はついたみたいだねぇ。」
「うわ!?さらさん!?店番は大丈夫なんですか!?」
「ちょっとくらいなら大丈夫さね。それよりも…」
手首を二本指でトントンしている。
「あ…!」
「あ。」
「やっべ…!」
背中がすーっと冷えていく…
「路上ライブって、いつやるんだい?」
「わーっ!話しすぎたーっ!!」
…結局、事前の練習は全くできなかったし、ドタバタやってたせいでライブの内容も歴代2番目に酷かった…
そして、リクエストされた曲をライブで演奏してから2日後…
「───あれ…?なんで僕、藤堂豆腐店にいるの?」
家事を済ませて練習もして、ちゃんとベッドに入った記憶もあるし…もしかして…これが明晰夢…?
『──ちゃん───おにいちゃん──』
「こ、声!?一体どこから…」
周りを見ても誰もいない…スピーカーじゃなさそうだし…
「えっとその、お兄ちゃんって…僕のこと?」
『そうだよ!おうたのおにいちゃん!』
歌の…!?じゃあもしかしてこの子がリクエストを…!?
「え、えっと…きみが僕をここに呼んだの?」
こっちはいるって全然わからなかったのに、どうやって…
『よくわかんない!』
「そ、そう…ごめん…」
…そうだよね、説明求めてもだよね…いいよって?よかった…
『あのね、おにいちゃんのおうたきいたあとね、おかあさんが「またあいたいね」っておうちでいってたの。』
「う、うん…」
リクエスト曲の演奏中、泣いてた男女2人が脳裏に浮かぶ。…思った以上に若い夫婦だった…
『それでね「ぼくもー!」っておおきなこえでいったらね。こうやっておかあさんとたくさんおはなしできたの!おとうさんともおなじくらいおはなしできたんだよ!とってもとってもうれしかった!』
「そんなことが…」
どうやったのかはわからないけど、あの子の願いは叶ったみたいだ。それも直接話す形で…本当によかった…
「…ってあれ?なんか辺りが暗く…」
『おはなしさせてくれてありがとう!おにいちゃんのえんそうも、とってもかっこよかったよ!』
「あ…え、えっと…!こちらこそ…」
言い切る前に、当たり一面が真っ暗になった。
「─────ん…あ、朝…?」
視界の先には見慣れた本棚、やっぱり寝ていたみたいだ…
「夢…だけど、ただの夢じゃない…よね…」
ベッドから起き上がって目を擦る。夢は寝ている間に考えたこと…なんて言うけど、それで終わらせるのはちょっと嫌だった。あの子が見せてくれた…そう思いたかった。
だって、あんな気持ちにさせてもらえたの、本当に久しぶりだったから───
「よし、今日も頑張ろう…!」
「がんばれー!」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
雄也が男の子と夢で話せた理由ですが、寝ている間に取り憑かれたから。という感じにしました。
それと今後の展開で補足ですが、この後、雄也の元には普通のものはもちろん、エヴァース経由で幽霊からのリクエストもぽつぽつ来るようになります。アレンさんは「こういうの受け付けるの、悪霊怨霊対策ならありかもよ?需要もなくはないだろうしね。」とさらさんに言われ、白目剥きそうになりながらオッケー出しました。ちょっとした守護霊みたいなイメージです。
ようやく次回でこころを出せる…